ホスマン司令がハドマン大尉とその上官である連隊長のリー大佐を呼びつけていた。
「司令室にだんだん印刷物がたまっていくのを何とかせにゃならん。秘書が欲しいんだが、送ってくれんのだよ。」
二人は呼ばれた趣旨が分からずに直立している。
「二人を呼んだのは、まず、セクハラやった酔っ払いは、あいつは送還するで良いね?」
「ハッ!」
ハドマンは右腕を肩から三角巾で吊った状態だ。
「ハドマン大尉。もはやさんざん聞かれたろうから、あの時、後ろ手に何しようとしたかは訊かないよ。十分痛い目見てるし。それより、今何か反省してることがあったら言ってみて。」
ハドマンは戸惑った。
ホスマンは司令の椅子にゆったりと腰掛けて急かす気はないらしい。
「まあ、お二人さん座って。」
ホスマンは最初、この連隊が配属されると聞いた段階で貧乏くじを引いたと考えていた。
理由は階級は同じ少将でもザビ家であるという理由でホスマンが頭が上がらないキシリア・ザビのほぼ直轄のような連隊だったからだ。
キャルフォルニアベースに赴任してきたときもキシリア少将の威光を傘に不遜な態度が見られたが、不祥事を起こしかけた上にコテンパンにやられて、すっかり毒気が抜けた。
ぶっちゃけ、ホスマンはいつでもハドマンが武器を抜こうとしたのをこの眼で見たと証言できる。
そしてそれは恐らく事実なので、そうなった場合、これは大変な不祥事なのでザビ家の人間にやや強く出られるようになる。
それはホスマンにとって非常に心地よいことだった。
「相手を見ずに、あのようなことをしてしまい…」
ハドマンのその言葉を聴いて上役のリーが何か言いたそうにしているのをホスマンは見逃さなかった。
「大佐、思っていることは言って頂いて結構だよ。」
リーはホスマンに軽く頭を下げると、ハドマンに怒声を浴びせた。
「相手に関わらずダメだ!特に中尉が武道の達人だったから、お前が怪我しただけで済んだんだぞ!お前が一方的に怪我させてた方だったときのことを考えてみろ!」
ハドマンは青菜に塩をかけたようにしょんぼりしている。
ホスマンはその様子を見ながら内心ほくそ笑んだ。
キャルフォルニアベースの最高権力者は名実ともに自分だけでいいのだ。
ホスマンは自分がこう考えるのは正しいと確信があった。
ホスマンは自分自身に虚栄心を満たしたいという欲望が人一倍備わっていることは人生の途中で重々承知していた。
巨大なキャルフォルニアベースの司令としての地位に高揚感を覚えているのは確かだ。
ただ同時に冷静な軍人としての目を失ったわけではない。
ことわざの「船頭多くして船、山に登る」は笑い事ではないのだ。
ザビ家の息女、キシリアの直属であれば傍若無人に振舞えると思っているヤンキーどもの鼻っ柱は早めに折っておかないと、有事の際に指揮系統で混乱が生じる。
ホスマンから見てもホジョウはいい仕事をした。
一応、怪我人は出たので、ホジョウの処分が何も無いと、まずいのは明らかなので72時間の禁固という処置は取ったが、ホジョウがあっさりと受け入れてくれたおかげで「ハドマンを軍法会議に送り出さない」というカードを得た。
ーホジョウ中尉には何かプレゼントでも用意したほうが良いな…
そんなことを考えながら上の空でいると、リー大佐がハドマンの説教をはじめていた。
「お前は学べ!今回の一件を教訓にしろ!」
ホスマンが口を挟んだ。
「教訓なんてものは無いよ。戦争なんだ。教訓よりは死が先にやってくる。あとは運が良いか悪いかだけだ。」
ホスマンはハドマンではなくリーを見てそう言った。
運よく基地内で収めたというプレッシャーだ。
「ハドマン大尉。幸運だったな。その幸運が続くことを祈っているよ。」
そう言うと、用事が終わったことを伝えて、二人を退出させた。