「よろしくお願いいたします、ホジョウ中隊長殿。」
「やめてくださいよ博士。」
第2防衛中隊は結局、キャルフォルニアベースの製造部門の全員のことだ。
全員が週に2時間の訓練に参加する。
コーエンも当然その中に入っているので、ジャージーに着替えて参加することになる。
ホジョウは士官学校でやった訓練をだいぶ割り引いて、指導することになっている。
参加者は一応全員が最低限の訓練は受けていることになっているが、突撃銃を持つのは数年ぶりと言う人間が大半だ。
逆に毎日、突撃銃の検査やメンテナンスをしている人間もいるわけだが、担いで行軍はなかなか無い。
「皆さん水分補給してください!寒くても脱水になると倒れますよ!」
11月末の青空の下、1kmのウォーキングだが、運動不足は深刻だった。
ホジョウはオデッサの被害の詳細は分かっていないが、この様子を見ていると、確かに退却戦も容易ではないだろう。
「地球もそこそこ旗色が悪いんで、ここでしっかりやっておかないと元気にコロニーに帰れませんよ!」
ホジョウも参加者も退却の訓練はなかなか滑稽だなと思ってはいたが、オデッサのニュースを聞いて何もしないわけにもいかない。
「少し休憩したら今度は帰り道です!1km頑張って歩きますよー!」
ホジョウは一同にそう声をかけると、砂地の小高い丘から晴れやかな気持ちで基地と海を眺めた。
突撃銃こそ担いでいるが、ピクニックは気持ちいい。
「司令も誘えばよかったのに。」
誰かがそう言っている。
地球の風も悪くないものだ。
「あれ?通信?」
何人かの端末がメール通知で一斉に鳴った。
ホジョウにいたっては通話着信だ。
「はい、ホジョウ。…了解!」
ホジョウは跳ね上がる用に立つと号令をかけた。
「リー連隊に出撃要請です目標は南米大陸。各自、駆け足できる人は駆け足で基地へ帰還!帰還次第、出撃準備時の配備についてください!…ええと、ミナミさんは、ゆっくりでいいので、帰り道の置いてけぼりが出ないように目を配りながら帰ってきてください。」
「了解しました!」
ホジョウは砂煙を上げながら斜面を下ると端末で自分の部署につないだ。
「ホジョウだ!」
リー連隊はこの前やらかしたばかりだが、ここで自分達がやらかすわけには行かない。
みると、発着場にはガウが引き出されている。
「大尉!」
ホジョウは基地から駆けつけたバイクの後ろにしがみついた。
ホジョウがしがみついたせいで重心が後ろに偏ったため、発進時にややウイリーした。
一瞬コケるか?と思ったが運転者の技術が確かだったようだ。
バイクを出してくれたのは確か事務方の人間で、バイクも私物だったように思う。
人には隠れた才能があるものだ。
ピクニック先も基地の中なのだが、かっ飛ばすバイクによって見る見る基地の建物は近づいてきて、あまりのスピードに今度はぶつかるのではないかと不安になったが、バイクはホジョウを乗せたまま格納庫の出入り口をそのまま通過して、建物内を走り、ホジョウのいつもの持ち場前にぴたりと止まった。
「…ありがとうございます。」
短い距離でもやや酔いかけたホジョウだったが、こみ上げてくる気持ちを押し殺して、状況の確認を始めた。
「ホジョウ中尉…失礼しました大尉!エンジンボートが見当たりません!」
「階級なんてどうでもいいよ!エンジンボートは燃料タンクの補修班が持っていってエアー漏れの点検してくれてるはずだろ?」
「そうでした!失礼しました!」
「走れ!」
ホジョウは出撃命令の指令書に目を通して標的はジャブローだと確信していた。
恐らく連邦軍の本店ジャブロー基地の位置を特定したのだ。
「エイドリアン、ガウの積荷に余裕は出来そうか?」
「これぐらいなら。」
エイドリアンがガウ輸送爆撃機の倉庫内にモノをパンパンに詰め込む計画書を見せてきた。
「よし、余ってる有線魚雷と水中爆破装置を全部突っ込んどけ。」
そこへ連隊長のリーが小走りにやってきた。
「ホジョウ大尉、ランドムーバーに予備はあるか?」
「いくつですか?」
リーはメンテナンスが終わっていないランドムーバーは、可能ならキャルフォルニアベースの予備のモノと交換していきたいという。
「了解です。フリック、リー大佐にランドムーバーを出すんだ。」
ホジョウは鍵の保管ケースから保管庫の鍵を一本取り出すと、フリックと呼ばれた部下に投げてよこした。
ガウの出撃要請の準備をしながら時計を確認するともうすぐ15時だ。
ホジョウは自分のデスクの足元から段ボール箱を引きずり出すと、中からチューブのエナジージェリーを取り出した。
「全員、カロリーと水分を摂取してください!ミスが減ります!」
そういいながら箱を小脇に抱えると、小走りに配って回る。
ホジョウが柱の角に人影を見つけて立ち止まると、それは三角巾で腕を吊ったハドマンだった。
「これ、お持ちください。」
「…貰います。…あと、対物ライフルの弾丸を」
ホジョウは頷くと、奥のほうでウロウロしている下士官を指差した。
「あの、スキンヘッドに言えば揃います!」
立ち去るホジョウは背中に「すまない!」というハドマンの声を聞いた気がした。