ホスマンが司令室の窓から基地を見ている。
基地の途切れた端には海も見える。
呼び出されたホジョウにホスマンはしばらく口を開かなかった。
「ホジョウ大尉、責任は私が取る。HLVの打ち上げはしばらく控えたまえ。」
「どういうことですか?」
キャルフォルニアベースからは生産された物資がHLVというロケットで宇宙のコロニーに運び上げられている。
逆に物資はこちらに向って送り出されてもいる。
そのHLVを地球から宇宙へ返すなと言う話だ。
「発着システムの不具合だということにして、HLVを貯めておくんだ。」
ホジョウはホスマンがキャルフォルニアベースから撤退する準備をする話をしているんだと気づいた。
「オデッサでは脱出するHLVが多数落とされている。君も知ってのとおりオデッサ同様、キャルフォルニアベースにも半分民間人のような人間が多数勤務している。彼らを無事に宇宙(そら)へ返さねばならん。その際は、極力、彼らがしばらく路頭に迷わないだけの糧食と生活物資も携行させるのが望ましい。」
「分かりました。HLVの中に積んでおきます。」
ホジョウはそれだけ言うと敬礼して司令室を出ようとした。
「まてまて、まだある。」
「あ、失礼しました。」
ホスマンは真面目腐った顔で話を続けた。
「撤退のタイミングだが、本国からの撤退命令を待つ。」
「…当然そうでしょうね。」
ホスマンはギロリとホジョウを睨み付けた。
「撤退命令が出た1秒後に全HLV離陸完了ぐらいの気持ちでやりたい!」
「無茶ですよ!」
ホジョウは反射的にそう返答したが、ホスマンはまったく冗談気の無い真剣な顔をしている。
「私の勘を信じろ!不肖ホスマン!ダイクン派きっての小心者と呼ばれた臆病風は衰えておらんわ!」
「初めて聞きました。」
「過去にこのホスマンを腰抜け、臆病者、小心者と呼んだ連中は今やほとんど生きておらん。年齢的にも戦地に私が立つのはこれが最後になるだろう。だが、私の本領こそ負け戦!逃げ戦だ!その手腕だけでギリッギリ『将』に引っかかった、この私の!人生の締めくくり!一世一代の負け戦だ!」
ホジョウはずっとこのホスマンという軍人の人となりに違和感を感じていたが、違和感の正体が理解できた気がした。
確かに、ホスマン少将の今まで参加した戦いはことごとく負けるべくして負けている。
そのため、ホスマン自身が敗戦の責任を負わされるといった流れは、これまでなかったように記憶している。
「少将は撤退戦のエキスパートだったんですね…」
「知らなかったのか?記録を見れば分かるだろう?」
まさかホジョウも負け戦の被害で軍人の能力を測るなぞ考えたことも無かったので、そんなところに着眼して記録は見ていない。
「…不勉強でした。まったくの盲点でした。」
ホジョウは敬礼して司令室を出るとキャルフォルニアベースに詰めている全人員の人数を把握しないといけないなと思い巡らせた。
そう思って歩いていると正面から白衣の集団がやってきて、すれ違うと司令室に入っていった。
無論、コーエンも混じっている。
やはり研究者連中にも撤退の話をするのだろう。