「司令!雪降ってるので滑りますよ!」
駆け寄ったホスマンにホジョウが叫んだ。
「艦内放送、聞いたよ。ホジョウ大尉、独断で勝手なことをされては困るよ。作戦が成功した暁には褒賞がでるように言っておくから覚悟したまえ。」
「少将、お気持ちはありがたいのですが今はウィットはよしましょう。どうもHLVが足りないようです。」
「うむ、事情は分かっておる。」
そこへ医療班も駆けつけた。
「司令、大気圏脱出に耐えられない怪我人には我々が付き添って基地に残ります。」
「しかし…」
ホスマンは「しかし」と言って言葉を吞み込んだ。
「分かった、撤退命令を出した直後に連邦に投降者がいる旨を私から伝える。」
発着デッキにけたたましくサイレンが鳴った。
「ガウ来ます!」
風が強くなって横殴りになった雪の中、ガウが垂直に降りてきた。
「メインハッチはないのか!?」
ガウのご自慢の大型ハッチが消し飛んでいる。開けっ放しで南米から飛んできたのだ。
バッグと担架を小脇に抱えた医療班がガウの中に走りこんでいく。
「動けるものは、あちらで背嚢を受け取って!レーションが入れてある!ああ!クソ!!雪で見えない!!」
デッキはますます視界が悪くなってきた。
そこへ館内放送が鳴り響く。
「キャルフォルニアベース全職員に告ぐ。撤退命令が発令された。全員速やかに脱出すべし!くりかえす…」
珍しくホスマンが大声を出しているのも聞こえてきた。
「エイドリアン君!各HLVに乗員の修正リストは配り終えたかね!?」
「配り終わりました!」
「各HLVは新しいリストの乗員を収容次第、速やかに離陸しろォ!」
混乱する発着デッキに横殴りに雪が降る。
「生まれて初めて見る積雪がこのタイミングかよ!」
聞き覚えのある声だ。
「ハドマン!生きてたのか!」
ホジョウはそう言うとハドマンに脱出者用のバッグを渡して、離陸前のHLVを指差した。
「アイツだ!アレに乗って宇宙(そら)へ帰れ!」
「お…おう!」
ハドマンはぎこちなく敬礼すると指差されたHLVへ走っていった。
HLVが次々と轟音を上げて離陸する。
「ホジョウ大尉!ご武運を!」
「司令も!」
ホスマンも雪で真っ白くなった空へ消えていった。
これでキャルフォルニアベースのHLVは全て飛び立った。
残されたのは半壊したガウと、ホジョウを乗せて脱出するボートと、医療班と怪我人、そして白旗の上がったキャルフォルニアベースだ。
「医療班と怪我人だ!」
ホジョウも早く基地を離れないといけないのは分かっているが、流石に怪我人の様子ぐらいは見ておかないと寝覚めが悪い。
キャルフォルニアベースの医務室に駆け足で向う。
「脱出完了しました。」
医療班の人間も全員が居残ったわけではない。
大半は脱出している。
「ホスマン司令が脱出前に基地からの撤退と怪我人についてのハナシを連邦とつけてくれたよ。我々、医師と看護師も、憲章で保護されると確約が取れているらしい。」
ホジョウが見ると3名ほどの重傷者が酸素吸入器を着けられた状態で寝かされている。
確かにこの怪我で離陸には耐えられないだろう。
「ホジョウ中尉、お久しぶりです。」
声をかけてきたのは学生ボクシング出身者のタニア・ロボ曹長だった。
「良くぞご無事で…脱出は?」
「怪我人の介抱でバタバタしてたら乗りそこねました。」
まあ、無理もないだろう。
あの吹雪の中でミスなく仕事しろと言うのも酷な話だ。
「で、連れてきたとそういうわけか。」
「HLV以外にも脱出方法はありますので。」
「…まあ、この際仕方がない乗りたまえ。」
横風がやんで晴れ間が見える頃、コーエンの待つクルーザーにホジョウ大尉とロボ曹長はやっと乗り込んだ。
この時点で、捕虜7名、犠牲者0名、キャルフォルニアベースの無血陥落が確定した。
まさにホスマン少将、一世一代の負け戦だった。