「聞きたい!」
「何で二回言ったんですかロボ曹長?」
ホジョウが思わず突っ込んだが誰も返答はしないようだ。
「ブリティッシュ作戦で落とされたサイド2、8バンチコロニーがシドニーを壊滅させ、オーストラリア大陸の16%を壊滅させたことは、当然知っているものと思う。」
ホジョウとタニアの二人は頷いた。
コーエンが説明を続ける。
「8バンチコロニーの破片は地球各地に甚大な被害をもたらした。しかし、それとは別に見えない被害ももたらしている。地球の公転軌道にわずかにズレが生じている。これは太陽系が持っている自己修復力によって安定し、さほど影響は与えないと考えられているが…」
「考えられているが、地球ではなく影響があるのは宇宙(そら)じゃ。我々の居住する宇宙じゃよ。」
コーエンの話をゴンザレスが引き継いだ。
「宇宙?」
ゴンザレスが頷いた。
「地球のわずかな変化に過敏に反応したのは地球の周りを漂うデブリ帯じゃった。デブリ帯として知られておった地球の重力圏には、宇宙世紀以前からのゴミが詰まっておるのは知っての通りじゃ。そのゴミが移動を始めておる。元々、宇宙世紀以前には宇宙で出たゴミは地球の大気圏に落として燃やすか、もっと高度の高い『墓場軌道』へ持ち上げるかどちらかの方法で処理されておった。しかし、現在『デブリ帯』として知られておる軌道は、有用だった衛星軌道でゴミが増えすぎたためにどうにもならなくなり、開発が放棄された軌道じゃ。歴史の教科書にも乗っておる例のケスラーシンドロームが起きたんじゃな。そのどうにもならない軌道の高密度のデブリが拡散しつつある。地球のわずかな挙動の変化に反応したんじゃ。」
ホジョウは色々考えをめぐらせながら、その話を聞いていた。
「地球では流星が観測される頻度が高くなっている。一般にはジオンと連邦の戦争で出た新たなデブリが地球の大気圏に落ちて燃え尽きているものだと認識されている。確かにそうした新たなデブリも多いが、拡散を始めたデブリ帯のゴミも重力に引っ張られて落ち始めているのだ。」
コーエンはそう語りながら夜空を見上げた。満天の星空に幾条もの流れては消える軌道が見える。
「ああやって、大気圏に落ちて燃え尽きる分には構わんが…今回、我々がシミュレートした結果、今回のブリティッシュ計画の余波で拡散したスペースデブリは再び集束して以前のデブリ帯とわずかに外れた軌道で安定する。…と私たちは考えている。」
「しかし、次、コロニー落しがあった折には、分からんぞ。」
ゴンザレスが珍しく険しい表情で言った。
コーエンが自分の端末を取り出して、動画を再生して二人に見せた。
「ブリティッシュ作戦は連邦の核弾頭が落下する8バンチコロニーを半壊させたことで完全な成功には至らなかったが、もし仮に成功していた場合の、地球の自転速度の変化、公転軌道の変化、さらにデブリ帯に与える影響のシミュレートを可視化した動画だ。」
二人はしばらく無言で動画に見入った。
「ウソでしょ!?」
「これ本当ですか!?」
デブリ帯は拡散した結果、長い時間をかけて拡散しながらも月面とサイド3、サイド5に達している。
「当然、スペースコロニーは接近してくる浮遊物をビーム照射で迎撃する機構を持っている。しかし、短期間に迎撃できる飛翔物の数は当然限られる。このデブリ帯の大移動はその迎撃できる許容量を超える。いわゆる天然の飽和攻撃だ。これによって、途中で破壊されたスペースコロニーの破片も含めたシミュレートも実行しようと考えたが、残念ながら今の我々が持ちうる電算設備ではそのシミュレートは不可能だった。ただ、間違いなく言えることは、元のシミュレートより『マシ』になることは無いだろう。」
コーエンはそう言いながら端末をしまった。
「信じるかどうかはキミ達次第だが、私たちはこのシミュレーションを色々な要素を足して何度も繰り返した。微妙な違いはあれど、大筋のところでマシな結果は出なかったよ。」
ホジョウはせわしなく手を開いたり閉じたりして、しばらくは何かを考えていた。
そして、口を開いた。
「博士達は何をしようと考えてらっっしゃるんですか?」
「次のコロニー落しを阻止するんだ。それ以外に何がある。」
コーエンは即答した。
「どうやって?」
タニアの質問にゴンザレスが答えた。
「それを可能にするのがゾックじゃ。ゾック・ゼロがそれを可能にするのじゃ。」