「ゾックの配備初号機よりも前に作られたゾックだからゾック・ゼロと我々は呼んでいる。」
「なんかその名前、超カッコ良くないですか?」
タニアに褒められて、ゴンザレスは少し嬉しそうだ。
コーエンは少し得意そうだ。
「すいません、なぜ、ゾックがコロニー落しを阻止できるんですか?」
コーエンは小枝を拾うとバーベキューの火で照らされた砂地に図を描き始めた。
「それを理解するためには幾つかの説明が必要だ。まずコロニーの基本構造をおさらいしよう。シリンダー型コロニーは人口重力を生み出すために円筒形をしていて、ちょうどラップの芯のような形の内側に居住区がある。だから上を見上げると、別の居住区が天井に逆さに貼り付いている様に見える。これが我々スペースノイドにとっての原風景だ。このシリンダー型コロニーにこのように切れ目を入れられれば…」
コーエンは円筒を、ちょうどバナナの皮をむくように切れ目を入れた図を描いた。
「大気圏突入時に、空気抵抗でこのように開く。」
そう説明しながらコーエンは色紙で作った七夕飾りの要領で円筒を放射状に開いた図を描いていく。
「そして、この状態になると、コロニーは空気抵抗によって地球外へ弾き飛ばされる。」
その概念はホジョウも学んで知っている。
地球の大気圏は気難しく、迂闊な角度で侵入しようとすると抵抗が強すぎてはじき出されてしまうのだ。
ちょうど「水きり遊び」の平たい石のように。
「その切れ目をゾックが入れられる?…無茶じゃないですか?」
「出来る。ゾック・ゼロの8門のメガ粒子砲なら可能じゃ。そういう風に作った。」
ホジョウは食い下がろうとして、コーエンの持つ小枝を奪って、お絵かきに参加した。
「でもそんな円筒をキレイにタテに、放射状に割ろうと思ったら…こういう風に…」
ホジョウはそう言いながら、とうとう理解が追いつき始めていた。
「コロニーの落下する先端をぶち破って、コロニーの中を飛びながら…メガ粒子砲で内側から、コロニーを貫通するように…」
「理解できたようだな。私のお気に入りの小枝を返したまえ。」
コーエンは小枝を取り戻すと、足の裏で落書きを消して、再度円筒形を書いた。
「コロニーはある程度の角度をつけなければ、そのままでも大気圏にはじかれる。なので、シリンダー型の両端のいずれかから大気圏に突入する必要がある。その先端部分を、ぶち破って…」
コーエンが描いた図では地球に落ちる先端をぶち破ったゾックが円筒のど真ん中を飛翔しながら、反対側に貫通して抜ける様子が描かれている。
「これで、コロニーは大気圏で花のように開く。ブリティッシュ作戦でコロニーを迎撃した核ミサイルは、あくまでも爆発した中心から球状に広がっていく爆発しかしない。これはどんな弾頭でも同じことだ。中心から外へ爆発するのだ。それも、コロニーの硬い外壁を外から叩く。結果、8バンチコロニーは中ほどで折れたような形になり、先端部分は巨大な質量を保ったままシドニーへ突っ込み、大被害をもたらした。旧式の球状のコロニーならまだしも、円筒形のシリンダー型の破壊には爆発は向かないのだ。現に、これまで様々なコロニーが爆発の直撃を受けて破壊されているが、円筒形はほぼ保ったままだ。青竹をナタで割るように破壊するのがシリンダー型コロニーの完全破壊には望ましいのだよ。」
タニアはコーエンとホジョウの顔を見比べている。
「コーエン博士とゴンザレス博士は、そのためにゾックを作ったのですか。」
「無論そうだ。南極条約でジオンは大質量兵器の使用を制限されているが、オデッサでマ・クベ中将が核弾頭を発射したと報告がはいっている。また退却時にブルーピーコック核地雷を使用してオデッサ鉱山基地を破壊したそうだ。ジオンは…いや、スペースノイドは追い詰められればコロニーを落とすよ。何度でも。いくつでも。」
コーエンはじっくりとホジョウの目を覗き込んだ。
「だから、ワシらの事は見なかったことにして…海の真ん中で死んだことにして、見逃してくれんかのう?」
タニアはホジョウの表情を見ながら、何か訴える目をしている。
「…分かりました。」
バーベキューの火はもうだいぶ小さくなっていて、砂に書いた図はほとんど見えない。
スペースコロニーから見える星は瞬(またた)かない。
分厚い大気の層が起こす現象だからだ。
今、4人の上に覆いかぶさる夜空の星々は、まるで生きているかのように瞬(またた)いている。
その脈動の中を、また一条、流れ星が流れた。
「ホジョウ大尉、もうひとつお願いがある。」
コーエンがもう見えない砂の絵を足で踏み消しながら言った。
「我々と一緒に来ないか?」