「コーエン博士、開発許可おめでとうございます。」
「ああ、君か。」
一応、コーエンは中佐レベルの待遇を受けているのでホジョウに比べれば目上の人物で正しいのだが、そもそも、コーエンはあまり身分の違いを意識していない。
基本的に他人は見下している。
むしろ、コーエンが敬語を使う相手はコーエンの中では、下の下だ。
ということでコーエンはホスマン中将はかなり見下していた。
そして、ホジョウという若者もそこそこ見下していた。
ホジョウはそんなことは気づいてもいなかったが、ホスマン中将から開発の許可を勝ち取ったコーエンのことを尊敬していた。
「先日、お借りした論文、全て、読みました。本当に頂いて良かったのですか?」
「くどいな君も。ただの写しだ。やるよ。」
「ありがとうございます!」
コーエンはホジョウの仕事ぶりを見る限り、ホジョウという若者は合理主義者だと考えていたが、この会話の雰囲気は案外そうでもないなと、この若者に対する見方を修正することにした。
「昨日、少し見せていただいた水中ビーム…」
「フォノンメーザー。」
「はい!フォノンメーザーについてもう少し知りたくて!」
コーエンはため息を付いた。
「なぜ君が知りたがる?」
ホジョウはため息にも気づかなかった。
「知的好奇心です!」
コーエンは少しぎょっとした。
そうやって言われてみると自分が今の職業にいるのは、知的好奇心が原動力だった気がする。
遠い昔の話だ。
今では「目的の達成」のために、図を引き、計算する日々を送っているが、学生時代や駆け出しの頃は知的好奇心が原動力だった気がする。
しかしながら、コーエンはそれを口に出す機会はなかった。
「なぜ君が知りたがる」と尋ねられたこともなかったので、答えたこともなかった。
コーエンは「つくづく戦争に向いていない男だ」と思いながらも
「オフィスに来るかね?」
と言ってしまった。
「はい!」
ホショウはコーエンの予想通りの表情で返事をした。
それが面白くなくてコーエンは不機嫌そうな顔をしながら自分のオフィスに向かう。
もっと面白くないのは「オフィスに来るかね?」と言ってしまった自分だ。
自分自身の「オフィスに来るかね?」という言葉はしばらくコーエンの耳の中でこだまのように反復再生された。
コーエンはその音をかき消すように、工場内の圧延鉄板の通路をカンカンと鳴らして歩いたが、その後からついてくるホジョウの足音は、ホジョウの足が長いせいでかなんとも間抜けで、コーエンはさらに苛ついた。