フォン・ブラウン市に移動して数日経つと生活に必要な物資やその他諸々を買い揃える余裕も出来てきた。
ホジョウは何度か市街地へ繰り出して身の回りの足りないものを買い出した。
「また、大荷物だね。タミヤくん。」
「ああ、コーネル社長おつかれさまです。」
二人はそう挨拶してから、周りに人がいないのを確認してから改めて会話を始めた。
「そろそろ、行方不明者から戦没者のリストに移されてないですかね?」
「まだ1週間そこらでは公国もそんな判断はすまいよ。」
ホジョウは軍事機密を持ってズム・シティに帰還する任務を放って、未だにフォンブラウンにいる。
コーエンもホジョウも別ルートでキャルフォルニアベースを脱出して公国の首都に辿り着くのが任務だったのだが、行方不明者と言うことになっているのだろうか。
はたまた、宇宙(そら)へ上がる方法が見つけられなくて地球に取り残されていると考えられているのだろうか。
どちらにせよ、まさかゾックで固体燃料ロケットを掴んで大気圏を脱出したなどとは、ジオンのお偉いさんは誰も考え付かないだろう。
12月も中ごろになって、ゴンザレスに難渋な表情が増えてきた。
ペトローニ女史も含めた5人が集められた。
「聞いて欲しいんじゃが、核パルスエンジンの足取りがつかめなくなった。」
ゴンザレスが説明するには、コロニー落としにはコロニーを地球への衝突軌道に移動させるための動力が必要で、現在、それを可能にする大動力は核パルスエンジンしかないらしい。
現在、核パルスエンジンは一部の特別な無人ロケットなどには使用されている。
なぜ無人ロケットかと言うと、核爆発で推進する危なっかしい機構なので、放射線量が大きすぎる。
要するに汚染を撒き散らすため、有人での運用は早い段階で見限られたブツなのだ。
同じ理由で居住区の近くでは運用が難しい。
「核パルスエンジンとなるとおいそれと流通している代物ではないからな。」
コーエンの呟きにゴンザレスが頷いた。
「その通りじゃ。このフォンブラウンには、遠方の宇宙探査のための無人機に乗せる予定だった未使用の核パルスエンジンが格納されていたんじゃが…」
「『予定だった』ということは計画は頓挫したの?」
タニアの質問にはコーエンが答えた。
「頓挫したな。事情は分からんが。我々の中には、コロニー落とし用に核パルスエンジンを製造する口実としてでっち上げられた計画だったと考える者もいる。」
ゴンザレスはコーエンの注釈が終わるのを待って、再び口を開いた。
「その足取りがつかめなくなってしもうた。組織も総力を挙げて調べておるが。今回ばかりはリスクを承知で自分達で調べなくてはいかんかもしれん。」
「格納されていた場所は分からないの?」
タニアの素朴な質問にはペトローニ女史が答えた。
「分かってるんだけど、そこを直接調べるのが一番リスクが高いってハナシ。」
「でしょうねえ。」
その危険はホジョウにも良く分かる。
「私はすまないがその調査は参加しない方向で頼む。」
眉間にしわを寄せてコーエンが辞退を申し出た。
「その雰囲気は何か別のことを考えておるな?」
コーエンは中途半端な素振りで否定も肯定もしなかった。
「何か引っかかるんだ。事実関係を洗いなおして見る。何か見落としていることが分かるかもしれない。」
そう言い残して、コーエンは部屋を出て行った。
社長室に残された4人も、調査方法について話し合った後に解散した。
そして、私服に着替えたゴンザレス、タニア、ホジョウの3人は、「ロドリゲス&コーネル運送」がある閑散とした倉庫エリアから、フォン・ブラウンの市街地へ出た。
戦時下なので戦意高揚のポスターも各所に貼られているが、街はクリスマスを目前に賑わっている。
街中を歩きながら、タニアがホジョウの袖を控えめに引っ張った。
「私たち、ちゃんと夫婦に見えますか?」
タニアが急に真面目くさった顔でホジョウに問いかけた。
「え?!それは…正直、分かりません。ゴ…ロドリゲス会長、われわ…僕たち夫婦に見えますか?どうでしょう?」
ゴンザレスが立ち止まって二人を観察する。
「もうそっと。もうそっとくっつかんか?手をつないでみるのもええぞ?」
そう言われてホジョウとタニアが街行く人々を見ると、確かに手をつないでいるカップルも、腕を組んで歩いているカップルも多い。
二人は意を決して手をつないで歩くことにした。
「うむ、なかなかええじゃないか。」
ゴンザレスに合格を貰うと少し二人の表情も明るくなった。
雑踏に紛れて市街を移動するとザイオンイヤーカンパニーの子会社でレンタカーを受け取る。
タニアに運転を任せて、調査先の情報を再確認することにした。
「この先は、話のとおり軍港に隣接した軍需品の倉庫が続きます。一応、運送会社の社員証と公国軍の身分証の両方を携帯しているかを各自で再確認してください。」
ホジョウは意識的にひげを伸ばし始めているが、この軍需品云々についてはホジョウの専門分野で、ホジョウの顔を知っている人間がいないとも限らない。
バレたら流石に公国軍の身分証を出すしかないだろう。
ホジョウたちはてっきり警備員の監視の目をかいくぐるような静かな任務になると思っていた。
「なんじゃありゃ?」
軍港は蜂の巣をつついたような慌しさだった。