「これは、ちょっと民間人のフリをしたまま入り込むのは無理ですね…」
「出直しじゃな…」
一行は来た順序を逆にたどるように帰ると、ロドリゲス&コーネル運送に戻ってきた。
そして、公国軍の服をかばんに詰めると、再度同じ順序で軍港へ向う。
「あれ?ロビンさん、カバンは?」
「私はコートの下に着てきました。靴だけ履きかえるけど。」
フォンブラウンは年間通して気温は一定だが、クリスマスシーズンになると冬服っぽいものを着る人間も多い。
タニアはロングコートの下に着込んできたのだ。
軍港の近くで車を停めると、ホジョウとゴンザレスは公国軍の戦闘服兼通常勤務服に着替えた。
「あれ?ロボ曹長、いつもと違う。」
ホジョウは見慣れた軍服姿になって、やっとタニアがきちんと化粧をしていることに気づいたようで、タニアは少し気分を害した。
「まあ…夫婦で街中を歩く設定だったので…」
ホジョウはこのミスは取り返せないタイプのミスだと瞬時に察した。
ゴンザレスは声を殺して笑っている。
「…行きましょう。」
ホジョウは自ら運転して比較的路上駐車が多い場所に駐車すると、軍需品倉庫の警備の薄いと思われるエリアに2人を案内した。
「良くしっとるのう?」
「ここに来るのは一応、2回目なので。前回は士官学校に通ってた頃です。」
候補生時代に社会科見学のような体で見に来たのだが、通り一遍見ただけで、本当に警備が薄いかどうかはあまり定かではない。
警戒しながら進むと、ホジョウの勘が当たって普通に歩いて敷地に入れる場所があった。
フェンスは何かの弾みで壊れたのだろう。
錆びて倒れている。
「問題は、ここから。敷地内は広いんでしょ?」
「その通りなんだよなあ。歩いて目的地まで行くにはちょっと厳しいんだけど、乗り物を奪うような派手なこともしたくないし…ムービングロード(動く歩道)を使うと人目が気になるし…」
「奪わなくてもちょっと借りるぐらいできんかの?」
ゴンザレスがさらっと難しいことを言う。
「うーん、それが出来れば世話は無いんですが…どっかにほとんど使わない、構内移動車があればいいんですが…」
3人はうだうだ言っていても仕方が無いので、歩いて目的地に向いながら考えることにした。
悪いことに、今、フォン・ブラウン市は半月続く昼の時期だ。
月面から見ると太陽は一ヶ月かけて昇って沈んで、また昇るを繰り返すため、地球のように夜の闇を待って行動が出来ない。
そうして歩いている間にホジョウは大変なしでかしに気づいた。
「しまった…」
「どうした?」
立ち止まるホジョウにゴンザレスが声をかけた。
「巨大な核パルスエンジン、加圧された倉庫に置くわけないですよね?運用も真空ですし…」
「あ!?」
コロニーが動くほどの巨大な物体を、空気を満たした倉庫で保管するはずがないのだ。
しかも宇宙空間で使う核パルスエンジンなので1気圧の大気中で補完する必要はさらに無い。
恐らく建造も真空中ならば、保管も真空中だ。
「迂闊じゃった…」
「帰りましょう。」
タニアは踵を返して元来た道を帰りはじめた。
ホジョウはやはり取り返せないタイプのミスだったとの思いをかみ締めた。