流石に貨物を積んでいるだけあって、ローバー自体はふわつかないが、コンテナの中のダンボール箱はそうでもなかった。
ダンボールとは言いながらも、スペースノイドたちが使っているダンボールと呼ばれるものは、やはりシリコン樹脂製のものが大半なのだが、それがローバーが何かを踏んづけてゆれるたびに、結構な跳ね方をする。
ゴンザレスが頭突きしながら
「これは意外と厄介じゃぞ!」
と言ってきた。重量物が入ったダンボールが上から降りかかってこようとするからだ。
そのおかげで二人は退屈せずにコンテナ旅行の道のりを満喫することが出来た。
「そろそろですね。」
コンテナの中にいても月面ローバーが徐行を始めたのが分かる。
今、カメラの映像は隣に詰まれた別のコンテナを写しているので、あまり当てにはならないが、それでも、周囲の明るさが変わったことから、屋内に入ったであろうことが分かる。
何度かローバーが一旦停車したのは分かったが、ローバーのモーターの振動まで完全に消えた。
しばらくコンテナに座り込んだ尻にゴトゴトと振動を感じてはいたが、カメラの映像に変化があった。
隣のコンテナが吊られて宙へ消えていったのだ。
間もなく、ホジョウとゴンザレスの乗ったコンテナもクレーンで吊られて移動を始めた。
「ホジョウ君、これはどこに行くんだね?」
カメラには工場内を動く様子が映し出されている。
「恐らく、荷物の集積場に一度貯められます。すぐに開けられることは無いでしょう。」
このコンテナの輸送ラインはキャルフォルニアベースにもあったもので、一般的に知られているシステムだ。
案の定、コンテナが積みあがった集積場が見えてきた。
「ゴンザレス博士、隣に次のコンテナを置かれたら終わりです!コンテナが止まったらすぐに出るために、扉のほうへ移動しましょう!」
長時間座っていて立つのが辛そうなゴンザレスに手を貸すと、ホジョウはコンテナの扉側へと移動した。
カメラを確認すると置かれる場所は地上10mぐらいの高さがありそうだ。
コンテナの輸送システムは無人で、このテのシステムは、崩落事故に人間が巻き込まれる事故を防ぐために、稼働中に人間が近くにいないことが推奨されている。
そのため誰かに見られる可能性は低い。
ホジョウはゴンザレスのヘルメットを片手で引き寄せると指示を出した。
「ゴンザレス博士、恐らく10メートルほど飛び降りる必要がありますが、ここは月面なので、地球で言うところの1.7メートルほどです。」
「1.666…の循環小数じゃな。」
「そうです。ですが、低引力下では落下時の姿勢の制御が1G下よりも難しい。私が先に飛び降りて、博士をキャッチします!ビビらずに飛んでください!さもないと月面の倉庫のコンテナの中でミイラになりますよ!」
「う…うむ、分かった!」
衝撃とともにコンテナが停止した。
ホジョウはコンテナの扉を内側から開けると、自分で先ほど取り付けた監視カメラを引き剥がして、そのまま飛び降りた。
ホジョウが飛び降りた方法は軍隊式の前転気味に飛び降りる方法で、体のどこから接地しても、落下のエネルギーを前方向に逃がす飛び降り方だ。
地球で言うところのたった1.7メートルでも落ち方が悪ければ大怪我をする。
ホジョウも訓練したことはあったが、実際の月面の6分の1G下でやるのは初めてだった。
「成功だ!」
我ながらぶっつけ本番で上手く転がれたと軽くガッツポーズをしている。
そして、すぐに立ち上がると、振り返ってコンテナを見上げた。
実際にはコンテナは3段目で8mほどの高さだった。
これだったら足から普通に着地すればよかったと思ったのも束の間、ゴンザレスが飛び降りてきた。
ゴンザレスは思ったよりも低いので安堵した表情で飛び降りたが、その安堵の表情はすぐに引きつった。
足から着地するつもりが、ゆっくり落下しながらも体が前方に傾き、およそ斜め45度ぐらいで地面に顔から突っ込む体勢になりつつあったからだ。
ホジョウはその45度の状態のゴンザレスを空中でキャッチした。
そして、真っ直ぐ地面に立たせる。
ホジョウは次のコンテナがすぐには来ないことを確認して垂直にジャンプした。
ジャンプして叩くようにコンテナの扉を閉めると、ゴンザレスを見る。
ゴンザレスは先ほどの飛び降りの体験が強烈だったらしく、文字通り右手で胸をなでおろしていた。
ホジョウはゴンザレスにヘルメットで頭突きをすると
「行きましょう!ここまで順調です!」
と語りかけた。
「おお、よし!」
ゴンザレスも平静さを取り戻したようだ。
そうして、二人は倉庫内を走り出した。