翡翠の弾丸~ゾックはかく戦えり   作:スナ惡

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耳目

ホジョウとゴンザレスは下手に無線を使って傍受されるわけには行かないので、お互いの無線機は切ってあった。

ノーマルスーツを隔てた外の世界は、無音の真空の世界だ。

今は自分の呼吸の音と、走る服がこすれる音だけが聞こえる。

ホジョウが頻繁に後ろを振り返るとゴンザレスも懸命についてきていたが、博士はいい年齢(トシ)だ。

まずは休憩が必要だろう。

ホジョウは作業員達の死角になりそうな場所を見つけると、そこにゴンザレスを誘導した。

ゴンザレスを休ませながら、端末でダウンロードしておいた施設のマップを見る。

ここまで走ってみた景色から、大体の現在地のあたりをつける。

ホジョウはゴンザレスにヘルメットをつけて話しかける。

「博士!近いですよ!すぐ2件隣の建物が例の核パルスエンジンが格納されていたという倉庫です!」

「よーし、もうひとふんばりじゃな…」

ホジョウはゴンザレスと幾つかハンドサインを確認して、まずは自分達が今いる巨大な仮置き用の倉庫をどうやって出るか考えた。

この場所は、AI制御の天井クレーンが主に作業する場所で、半開放になっている。

特に細かい監視も無さそうなので、この中を移動するにはさほど難しくも無い。

どうせ、倉庫作業してる人間はジオンのノーマルスーツを着てヘルメットをかぶっているので、敷地内を動くにも問題はないだろう。

ただし、向う先の倉庫には監視がいるかもしれないし、何より、一つ一つの建物が馬鹿デカいので、移動するのが大変なのだ。

「あ。」

ホジョウが考え事をしている目の前にタイヤ付きの台車が置いてある。

手近な段ボール箱を見つけて、そこにゴンザレスを押し込むと、台車にのせて移動することにした。

「博士、ボクの端末を貸してあげますから、これで外の様子が見えるので。」

「なるほど。」

ホジョウは台車の適当なところにカメラを貼り付けると、箱の中のゴンザレスに外の様子が見えるようにした。

「これで走れる。」

ホジョウは台車を押して軽快に走り始めた。

ゴンザレスは今回の作戦で足手まといになるのは分かっていた。

しかし、ホジョウでは核パルスエンジンの格納施設を見ても有用な情報を拾うことは出来ない。

なので、ホジョウの今回のミッションはゴンザレス博士の目と耳をここに運び込むことが目的だといえる。

先ほど見た見取り図の通りだと、そろそろ、目的の倉庫にたどり着く。

そして、その倉庫には予想に反して警備もなにも立っていなかった。

ホジョウは台車を一度置くと、その核パルスエンジンが置いてあったといわれる倉庫に近づいて観察した。

やはり、警備されていない。

台車を物陰に運び込むと、ゴンザレスを出す。

「博士、倉庫に警備がついてないようです。」

「運び出したあとか…とにかく、中を確認せんといかん。」

一応周りを警戒しながら倉庫に入ると鍵もかかっていなかった。

入ってみると巨大な倉庫は天井ハッチが開いたままになっていた。

「これは!?」

そのゴンザレスの声はホジョウには届かないが、何かに驚いていることは分かる。

ゴンザレスがホジョウのヘルメットによってきた。

「ホジョウ大尉!核パルスエンジンは組みあがった状態で保管するためには常に通電して制御する必要があるんじゃが…ここにはその制御の装置が2セットある!」

言われてみると、駅前の自販機のようなものが二台置いてある。

「バックアップ用ではなく使用されていた痕跡が双方にあると言うことは、核パルスエンジンは2基あったんじゃ!」

「片方はブリティッシュ作戦時のものではないんですか?」

ゴンザレスは「なるほど!」と言って、巨大な倉庫の中を自販機モドキの片方めがけて走っていった。

そして、すぐにもう片方へ走り出した。

ホジョウはそれを追いかけた。

「ホジョウ大尉!どちらも数日前まで使われとった痕跡がある!やはり二台あったんじゃ!運び出されたのは二台じゃ!」

「運んだとすると天井ハッチからですね。このサイズのものを真上に運び出せる輸送機は限られます。」

ゴンザレスは床を這っている太いケーブルを追って走り始めた。

ホジョウもその後ろをついていく。

そして、ゴンザレスはケーブルの伸びている先の部屋に入っていった。

黄ばんだり色あせたりした旧式のコンピューターが並んでいる。

追って部屋に入ったホジョウにゴンザレスがヘルメットを寄せて話しかけた。

「ホジョウ大尉、これが核パルスエンジンの制御システムじゃ。核パルスエンジン自体はワシが生まれた頃にはすでにあった技術で、そこから進んではおらん。我々が掴んでいた核パルスエンジンの情報は『ここにある』ということじゃった。ハッキングで核パルスエンジンの制御が行われていることまではわかっておったようじゃが…2基とは盲点じゃった。何せ、休止信号を送るだけの単純な制御じゃから、機械が古すぎて何台あるかまでは分からんかったと言うことじゃろうな…」

その話を聞きながら、ホジョウは部屋の電源が切れた旧式のディスプレイに人影が映るのを見た。

少し迷ったが、自分が今入ってきた入り口に中段キックを放つ。

蹴り飛ばしてから振り向くと、案の定、銃を持っていた。

そのまま、通路に出ると、もう他には人はいないようだ。

蹴りはきれいにみぞおちに入った感触だったので、しばらく起き上がってくることは無いだろう。

吹っ飛んだ銃を見るとジオン公国軍の正規の装備品ではない銃なので、恐らく、こいつもアウトローだ。

起きられると面倒なので、倒れた相手のノーマルスーツの小物入れからダクトテープを出すと、後ろ手に縛っておいた。

ヘルメットを寄せて首元を覗き込むと酸素残量が多くは無い。

ペトローニ女史から貰った酸素ボンベは、軍需品で足がつかないブツなので、そいつを新たに差し込んでおいた。

手は縛ったので無線のスイッチは入れられないが、じきに目が覚めたら自力で歩いてどこかにたどり着くだろう。

偏光がかかって見づらいながらも一応、どんな人間か確認してみると、ヒゲのオッサンだった。

「ゴンザレス博士、コイツ誰か知ってますか?」

「知らん。」

ホジョウは再びゴンザレスをダンボールに入れて台車に乗せると、軽い足取りで倉庫を後にした。

せいぜい2キロメートルも走れば、タニアの待つポイントにたどり着ける。

さて、上手くことが運んだと見せかけて、実はホジョウにはもう一つ気がかりなことがあった。

今は真空中でホジョウもゴンザレスもノーマルスーツを着て活動しているが、どこでもいいのでエアロックを通らないと、エアドーム内で待っているタニアの場所にたどり着けない。

エアロックは無数にあるが、すんなり通れる場所などあるだろうか。

カードキーが無いと基本的にエアロックが通れない。

カードキーを紛失や破損した場合には係員に申告して通るのだが、流石にその方法を使うとつかまるだろう。

正々堂々とジオンの軍人だと名乗ってしまうと、せっかく地球撤退のゴタゴタで上手く行方不明者になっているのにそれも台無しだ。

ホジョウはそこまで考えたところで、再び先ほどの倉庫に戻った。

まだ、ヒゲの男性は気持ちよさそうにノビている。

ポケットを探るとカードが出てきた。

「へえ…」

キシリア・ザビ直轄の諜報部員のようだ。

「この肩書きならお気に入りの銃を持っててもどこでも出入りできるよな。」

せっかくなので、お気に入りの銃も拝借しておいた。

取るものを取ると、再びホジョウは構内を走り始めた。

走っていると、倉庫作業員が台車に乗ってキックボードのように滑走しているのが見える。

「ああ、そういえばそんなことやってるヤツもいたな。」

ホジョウはキャルフォルニアベースではさんざん他人に「台車に乗るなよ」と注意していた。

その実、内心、いつも少しうらやましく思っていた。

楽しそうなのだ。

今は自分のことを注意する人間はいなさそうだ。

ホジョウもやってみることにした。

「楽しい!」

楽しかった。

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