ホジョウはフォン・ブラウン市の街中にいた。
マスクをしてそこそこ顔を隠してはいるが、たいした変装もしていない。
公衆電話で突撃機動軍参謀部別室を呼び出すと、話したいことがあると告げた。
「ピーター・スズマン上級曹長ですね。」
20分もしないで指定の場所にヒゲ面は到着した。
そして困惑した顔をしている。
まさか自分を気絶させて身分証と拳銃を奪った相手が直接連絡を入れてくるとは思ってないだろう。
なので恐らく拾ったのか、何なのか。
ホジョウが指定した店には、公国軍の情報部が好きそうな席がある。
スズマンがその気であればホジョウとスズマンが座った席をいつでもスナイパーや工作員がマークできる、理想的な席だ。
逆に言うとそのベタさゆえに防衛も簡単で、例えば、今回ホジョウはザイオンイヤーズカンパニーを通じて警備員を雇って、それらのポイントを狙っている。
実直なジオンの諜報員であれば絡め取られるのではないかと、ホジョウは踏んでいた。
「はじめまして。タミヤと申します。スズマンさんでいらっしゃいますね。お呼びたてしてすいません。」
「いえ…『ハナシ』と言うのはなんでしょうか。」
ホジョウは会話しながら視界の端に雇われ警備員のサインをとらえた。
ホジョウが配置した5つのポイントのうち、2ポイントにスズマンの仲間がいるようだ。
手はずどおり、フォン・ブラウン市警に不審者として通報が入っただろう。
ホジョウはそのために予め警備会社を通じて拳銃を警察に回してある。
フォン・ブラウン市は中立なので、連邦の人間も、ジオンの人間も自由に出入りできるが、軍籍の人間が警備区域でもないのに銃を携行しているとなればハナシは別だ。
警察はホジョウとスズマンが会うことは知らないが、銃を持った人間がこの周辺にいるかもしれないことは伝わっていて、警戒を強化している。
「せっかく、喫茶店なので、何か注文してからにしましょう。」
2人はそれぞれ飲み物を注文した。
ホジョウはそこまでガラにもなくゆっくりしゃべって時間を稼いでいたが、警備員からの2度目のハンドサインで、スズマンの二人の仲間に警察の職務質問が始まったことが分かったので、本題に入った。
「こちらを拾いまして。」
スズマンはIDカードとタミヤと名乗ったホジョウの顔を何度か見比べた。
倉庫でスズマンはホジョウの顔を見ていない。
スズマンからすれば単に拾った人間かもしれないし、自分からIDカードを奪った人間かもしれない。
「紛失して困っておりました。タミヤさんはこちらをどこで?」
スズマンはIDカードを大事そうにしまうと緊張した面持ちで尋ねた。
「倉庫で倒れたあなたのポケットから拝借しました。申し訳ない。」
「えっ!?」
スズマンはまさかとは思ったが、自分を蹴り倒してIDを奪った本人が、直接自分を呼び出した事実に口をパクパクしている。
「まあ、落ち着いてください。私も撃たれる訳には行かなかったので。だいたいの人間がそうですよ。」
「…お前、何考えてるんだ!?」
ホジョウはスズマンが胸ポケットからハンカチを取り出すのを見て、咄嗟に身構えた。
スズマンは何か仲間へ分かりやすい合図を持っているはずなのだ。
今のところ発見できたスズマンの仲間が2人と言うだけでそれが全てだと言う保障は無い。
狙撃されたらたまったものではない。
ホジョウの動きを見ながらスズマンは眉をひそめた。
「連邦のスパイか…?」
ホジョウはその質問には答えなかった。
「スズマンさんは、あそこで何をしていたんですか?私の探し物は1基の核パルスエンジンでしたが、実際には2基あったらしく、その2基ともどこかへ運ばれた後だったんです。」
「…」
スズマンは答えない。ホジョウの言動を注意深く観察している。
「そして、1基はジオン公国軍が何らかの作戦に使おうとして持ち出した。どこへ運ばれたのかはすぐ分かると思います。しかし…」
「もう1基が分からないっていうことか。」
「その通りです。スズマンさんはご存知じゃない?」
スズマンは何か言おうとしてやめるのを何度か繰り返して、とうとう口を開いた。
「オレもそれを調べていたんだ。」
ホジョウたちはスズマンがあの場所にいた目的を幾つか考えていた。
その上でカマをかけることにした。
「それはジオンの倉庫に明らかにジオンの人間によって、ジオンの所有じゃない核パルスエンジンが保管されて、運び出されたことについてですか?」
コーエンが練った質問だ。
コーエンは、キシリア機関はジオンの中にいる反乱分子を始末する機関の側面も持つため、あの謎のもう1基の核パルスエンジンがそもそもジオンの内部の反乱分子によって持ち出されたのではないかと仮説を立てた。
「そう思っていただいて結構だ。」
コーエンの予想は当たったようだ。
もう1基の核パルスエンジンはジオン内部の別の不穏分子が公然と隠し持ち、そして、運び出したのだ。
「ありがとう、スズマンさん。役に立つか分からないが、これを貰って欲しい。」
ホジョウは胸の内ポケットからアナハイムのパンフレットを出した。
「このボールペンで丸がつけてある製品。これが無いと核パルスエンジンが運用できない。もし、核パルスエンジンが運ばれるとしたら、このケーブルも一緒に運ばれているはずだ。ブリティッシュの時には公国は5キロメートル買っている。しかし、今回2台運び出されたのに、公国は5キロメートルしか買っていない。」
スズマンはパンフレットを素早くしまうと、運ばれてきた飲み物に口をつけた。
「思ったより良いコーヒーだな。」
スズマンは少し顔をほころばせた。
「それは良かった。」
ホジョウはお仲間が二人、警察の職務質問を受けている件について謝った方が良いかどうか考えていた。
そう考えているとスズマンはコーヒーを飲み終わってしまった。
そして一段低いトーンでホジョウに切り出した。
「マハルで強制疎開がはじまる。コロニーレーザーはマハルだ。」
そう言うとすぐに立ち上がって、テーブルに小銭を置くと店を出て行った。
ホジョウはあの熱いコーヒーを良くぞあのスピードで飲むなあ、と感心しながら、自分は残りのミックスジュースを飲んだ。