翡翠の弾丸~ゾックはかく戦えり   作:スナ惡

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暗号

ロドリゲス&コーネル運送は休日だったため、いつもは狭い社長室で立ち話だったが、今日に限ってはそこそこ広いオフィスが使える。

コーエンはホジョウの報告を聞いた上で、提案をした。

「我々が取れる方法は4つある。まず、アナハイム・エレクトロニクス社を締め上げてシールド線の納入先を聞きだす方法が1つ。フォン・ブラウンの外れにある公国軍の軍需品倉庫の連中を締め上げてもう1基の核パルスエンジンに関わってた連中がどんな連中か聞き出す方法が1つ。マハルコロニーに核パルスエンジンを運んだ連中を締め上げて、同じくもう1基の核パルスエンジンに関わってた連中がどんな連中か聞き出す方法が1つ。最後にもう1つ。」

「まだあるんかいのう?」

ゴンザレスも首をかしげている。

「我々は特にコロニー間の通信ではビーム通信を採用している。通信に使う電磁波は比較的近距離で行われるような通信では一点から全方向に拡散するラジオのような電波を用いた通信方法を用いるが、異なるサイドにあるコロニーの間や宇宙を航行する船同士の通信では距離が遠すぎて通信に適さない。そのため電磁波を収束したビームによって通信を行う。」

「そういえば高校で習った。」

「士官学校でも習いましたね。」

「まあ、そうなっとるわな。」

コーエンは3人の反応には対して興味が無い様子だ。

「そこで、消えたもう1基の核パルスエンジンに関わっていると思われる連中が、互いに通信をしようと思ったらどうなるか考えてみた。」

コーエンはオフィスのホワイトボードの前に立った。

そして、置いてあったペンのキャップをあけると、試し書きをして「うむ書ける」と言った。

「今いるフォン・ブラウンは地球側。対してマハルがあるサイド3は月の裏側だ。この2点間で何らかの通信をするとなると、そもそも拡散する電波でも、ビームでも月そのものが邪魔をして通信が開かない。月の周りを回る通信用衛星はルウム戦役でサイド5が落とされたときに巻き添えで結構な数が機能不全を起こしている。これに関しては南極条約で連邦と公国がそれぞれに資金を出し合い、それこそアナハイム・エレクトロニクスが元請になって修復を進めている最中だ。」

コーエンは説明しながら月の周辺の通信衛星の略図を書いている。

「結果、より確実な通信の方法は、月の地中を走る光ケーブルでまず、フォン・ブラウン市から見て裏に当たるグラナダ市まで通信して、その後にサイド3の各コロニーへ向けられたグラナダのビームアンテナを使ってマハルに通信を送る。マハルと通信するアンテナを特定するのは難しくない。どうせ連中は強度に暗号化された通信を用いるだろう。マハルの住民は…これは私の印象だが、お世辞にも教育が行き届いているとは言いがたい。通信を自発的に暗号化する人間は極めて少ないだろう。」

「と言うことはマハルとグラナダ間の通信を傍受して、その中で暗号化されているものだけを拾えば、高確率で…」

コーエンはホジョウの言葉をさえぎった。

「それは少し違うな、ホジョウ大尉。マハルとグラナダ間の通信であっても、共用アンテナを使う場合は全ての通信は暗号化されている。これは通信のデータ量を圧縮するのが主な理由で、通信業者などが勝手に行う暗号化だ。公国も連邦の軍人も民間や共用の回線を使用して暗号化通信を行った場合、まず自前の暗号が作られる。そしてその暗号化された通信が、さらに通信業者の暗号技術で処理される。」

「じゃあ、すぐにグラナダに行かなきゃ!」

コーエンはそれも否定した。

「ロボ曹長、待ちたまえ。実は私もそこまでは分かるのだが、具体的にその技術を持っているわけではない。」

「ふむ、通信傍受と暗号解読の専門家じゃなけりゃ厄介じゃな。」

コーエンはやっと同意した。

「ゴンザレスの言うとおりだ。これはその道の人間じゃないと出来ない仕事だよ。ペトローニさん、組織の中にその技術を持っている人間はいないか至急調べて欲しい。」

「分かりました。」

ペトローニ女史は自分のデスクの引き出しを開けると、古い革表紙の手帳をめくった。

しばらく無言の時間が続く。

「この人物はどうでしょう?」

そして、手帳のあるページを指差してコーエンに見せた。

ゴンザレスも横から覗き込む。

「なるほどアブドルアジース博士か。ワシもすぐに思い出すべきじゃった。適任じゃろう。今はご退官されてズムシティに住んでおられる。」

「すぐに連絡を取ります。」

ペトローニ女史が事務所を飛び出していった。

ペトローニがいなくなった後にホジョウがコーエンに質問した。

「なぜ、連絡取るのに出て行かれたんですか?」

コーエンは簡単に説明した。

「我々の暗号は難しいものではない。普通に企業のダイレクトメールに偽装されている。例えば、今回の場合『メガネのサバエー堂フォン・ブラウン本店で新作メガネが大特価』とでもメールを打つのだろう。しかし、本文中に特定のシンボルが埋め込まれている。」

コーエンは説明しながら他愛も無い文章を書き始めた。

 

I sold apples for 10U$.

Six apples was bought.

 

「この文では左から3文字目に〇(マル)と×(バツ)がそれぞれ縦に並んでいる。この横書きにしたときに〇と×が縦に並ぶ形の文はあらゆる言語で作ることが出来る。このシンボルが3箇所以上、本文に含まれているダイレクトメールなら我々の暗号だ。これを見つけるためにはダイレクトメールのチェックをある程度しないといけないので少々骨が折れるが…実際にメールを送ってくる企業は元ラル家に連なる企業になりがちなので、そこそこ探せる。メールの発進元を迂闊に偽装して目をつけられると厄介なので、多分、系列会社までメールを送りにいったんだろうな。これが実際のメールだ。」

コーエンはポケットから端末を取り出して見せると結婚相談所からのメールが入っている。

「顔文字ですね。」

コーエンは顔をしかめた。

「そうなんだ。この暗号を考えた人物が誰かは分からんが、この暗号で文章を作る達人が何人かいるらしく、最近はワル乗りが過ぎる。」

「結構…過激な文章ですね。」

タニアが言葉を選んだ。

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