翡翠の弾丸~ゾックはかく戦えり   作:スナ惡

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機密文書

キャルフォルニアベースからやや離れた荒れ地の一角、元は連邦が出荷前のジムの格納庫として利用していた倉庫が研究の為に割り当てられた。

なぜ、こんな離れたところに一部のジム(全てではない)を格納したのか、合理的な理由が全くわかっていないが、ジムを置く前はやはり何かの研究に使われていたようだ。

この元倉庫は特に大型のIフィールド式熱核反応炉の実験に利用されることになった。

ゴンザレスという人の良さそうな白髪の老人が研究の担当者だ。

ホジョウは、コーエンに勧められてこの研究施設を頻繁に訪れていた。

ホジョウが知りたがったフォノンメーザーの研究のキモはメガ粒子砲とフォノンレーザーの切り替えにあった。

コーエンの考えたフォノンメーザーは平たく言うとメガ粒子砲を「振動子」とコーエンが呼ぶブツにぶち当てて、そのエネルギー高周波に変換して打ち出すのだが、装置の発熱がすごいため水中でもないと冷却が間に合わずに連発が効かない。

なので、乾燥状態ではメガ粒子砲に切り替えたいのだが、そもそも振動子がやや大きい。

コーエン曰く、振動子は素材を精査すれば小型化が見えているとのハナシだが、冷却装置まで含めるとやはりでかい。

それをメガ粒子砲と切り替えるとなると、切り替え機構も含めてもっとデカイ。

そうした事情で昨今のコーエンは切り替え機構を実装しようか諦めようかを日夜悩むだけの人間になってしまった。

ホジョウの相手をしている精神的余裕がないのだ。

「この場所なら、万が一爆発してもキャルフォルニアベースの窓ガラスが全部割れる程度で済むからな。」

ゴンザレスはこの言い回しを気に入っていた。

「ワシなら吹っ飛んでも、悲しむ人間も少ないからな。」

ゴンザレスはこの言い回しも気に入っていた。

ゴンザレスは元は連邦の研究者だったため、比較的、窓際に追いやられやすい研究者だ。

「ジオンが来る前からワシの職場はキャルフォルニアベースだったんじゃから。」

ホジョウは自分の仕事の合間を縫っては、ゴンザレスの研究所に通った。

ゴンザレスの話を聞くのが面白かったからだ。

また、自身の部下の将校が仕事を覚えた関係で、仕事が暇になったこともある。

ゴンザレスは、自分はジムを水中で動かすための研究チームに組み込まれて、自分はミノフスキー粒子の研究をしたかったのに専門外で大変だったことなどを話して聞かせた。

「結局、ジムは水中で動かせるんじゃが、深海では運用できない。深海はどこまでも深いわけで、宇宙はゼロ気圧より低い気圧はないのに、海の方は潜れば潜っただけどこまででも高い水圧がかかる。」

「はい。」

「ジムが潜水艦よりも水中で上手く動けるとしたら、世界中の潜水艦はもう全部ジムに変わってるわけだから、潜水艦に比べて浅い海でしかジムは活動できないんじゃ。」

「わかります。」

ゴンザレスは白髪頭をかきながら話を続けた。

「だから、研究しとった当時も、耐水圧改造を施したジムがせいぜい潜れるのは200mぐらいで……それでも深度200mはびっくりするような世界なんじゃが……背中にジェットパックをつけても、もともとジムがそういう外形をしとらんから、機動性がまずい。海の中には海面からは見えない流れが…こう3次元に流れておる。」

「3次元?」

ゴンザレスは手を上下に動かしながら

「奥行きと左右だけじゃなく、海の中に下へ沈む流れがあったり、海の底から上がってくる流れがあったり。」

「へー。」

ゴンザレスは一層ジェスチャーを激しくした。

「そこへ来てジムにつけた水中推進装置の貧弱さよ。ジェットパックの推進で時速30kmですすめるとするじゃろ?40kmの流れに捕まったらアウトじゃ。どうにもならん。深海1000mか10000mかどこまで沈む流れか知らんけど、テストパイロットが何人か行方不明になったわな。」

「死んだんですか!?」

ゴンザレスはあっけらかんと

「分からん。上がって来ないもんは分からん。」

という。

「あきれたなあ、連邦はそんな無茶な実験やってたんですか。」

ゴンザレスは少し不服そうだ。

「だってワシ、海洋の研究者じゃないもん。ミノフスキー粒子の「場」理論をやってるってだけでモビルスーツの研究に放り込まれて、何するかと思ったらジムの水中行動の研究じゃ。ワシが研究のリーダーだったわけでもなし。何にも分からん門外漢よ。」

「まあ確かに。」

ホジョウもそこは納得した。

「そういうのもあってか、意外かもしれんが、ワシは連邦よりはジオン公国の方がまだ肌にはあっとるな。」

そう言いながらゴンザレスは自分の端末からディスクを取り出した。

何かの書き込み作業をずっと行っていたらしい。

「連邦は名前の通り寄せ集めじゃから、愛国心みたいなもんは無いよ。それぞれ合っても郷土愛どまりで、『連邦を愛してる』なんてのは、一部の変人だけじゃろうな。これ、次、宇宙(そら)に上がるときにドズル少将に会うことになるじゃろうから、渡して。」

ゴンザレスはディスクを黄色い封筒に入れる。

ホジョウもよく知る機密文書用の封筒で、宛名に「ドズル・ザビ少将」と書かれている。

宛名の人物以外でこの封筒を開けようとした人間は例え階級が上でも発砲して良いことになっていると士官学校で習った。

当然、士官学校時代から何度か見てはいるが、「ドズル・ザビ」と書かれたものは初めて見た。

それをゴンザレスはホジョウに手渡した。

ホジョウは思わず大きな声を出した。

「私がドズル少将にでありますか!?」

ゴンザレスは

「手配はしてある。そのファイルは極秘じゃ。そいつが存在することは口外するな。ドズル少将以外の人間には、ザビ家の人間であっても渡すな。もし、ドズル少将に会えなかったら、破壊するか持って帰ってこい。」

と言うだけ言うと。

「まあ、誰も狙ってないと思うんじゃが、何人か心配性がいるんじゃ。」

と笑った。

 

数日後、すっかり諦めて忘れていた士官学校の同窓会に合わせて休暇が出る旨が上官から伝えられた。

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