翡翠の弾丸~ゾックはかく戦えり   作:スナ惡

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後手

「おじいさま、後は私が。」

「頼むよマイ。」

マイは手早く送信元を探ろうとする。

が、上手くいかない。

「端末の契約者は『社団法人ズムシティ放送委員会』です。どなたかかこの団体の名前をご存知ですか?」

「聞くからに総帥府関係の名前に聞こえますね。」

ホジョウが言っているのはあくまでもカンの話で確証などない。

「電波の発信元はグラナダですが、グラナダの手前でフォン・ブラウンを経由しています。フォン・ブラウンのアンテナを経由しているので、フォン・ブラウンのアンテナに入った通信はどこかの艦船の通信アンテナを経由していますね。この艦船は単純な橋渡し通信で特定不能です。その艦内から、この社団法人ズムシティ放送委員会が契約した端末を使って暗号文を送ったと言うことになります。フォン・ブラウンのアンテナが狙える場所ならばどこでも可能性があります。」

「手がかりが途絶えたってこと?」

タニアがぼそりと呟くとマイは否定した。

「そんなことはありません。マハルに隊を離れて合流する軍人がいると言うことが分かっています。この軍人の情報は洗えると思います。」

ホジョウはそれよりも別のことが気になっていた。

そろそろ船を動かさないと悪さがバレる気がしているのだ。

「一旦、船を動かしていいでしょうか?バレる気がするので。」

「とりあえず、その間抜けが隊を離れてならず者に合流するまで3日間は猶予がある。一旦離れてもいいはずだ。」

コーエンの提案にアブドルアジース博士が新たな提案を付け加えた。

「ズムにいくべきです。ズムシティ放送協会を調べるべきでございましょう。」

「おじいさま、放送委員会です。」

ホジョウは若干の不安を感じながらも、次の目的地をズムシティに定めた。

全員がブリッジに集合する。

「大丈夫でしょうか?ズムシティにすんなり入れますかね。しかも積荷はアレですよ。」

貨物室にはゾックが乗っているのだ。

「HLVを呼んで船はその辺に停泊しておくのがよろしいと思います。お忘れかもしれませんが組織の人間が一番多いのもズムシティですので。」

「私もおじい様の家に戻れば、先ほどハッキングした方のもっと詳しい情報を調べられると思います。」

博士と孫がホジョウを励ます。

しかし、ホジョウは悲観的だ。

「ズムシティだと流石に顔バレしますよね?」

「…そういえばそうだな。」

コーエンがそう言って黙り込んだ。

しかし、タニアはそう悲観的でもないようだ。

「私はお化粧すれば多分大丈夫です。もし、マイさんのお化粧道具をお借りできればさらにバレにくいかと。」

「どういうことじゃ?」

ゴンザレスにはマイが説明した。

「化粧品がかわると、船長の奥様の印象もだいぶ変わると思いますよ?ところで」

「ところで…なんですか?」

マイは1つ気がかりなことがあったようだ。

「顔がバレると何かまずいんでしょうか?」

博士はゴンザレスとコーエンを知っていた様子なので、偽名に気づいていたが、孫娘はそうでもないらしい。

「まあ、色々…」

ホジョウが苦し紛れに答えると、マイは「ふうん」とどっちともつかない相槌を打った。

「アナタは、髪染めましょう。消毒用のオキシフルがあるから、それで、髪の色脱色すれば、ヒゲも伸びてきたし、誰もわかんないと思う。」

「あ、はい。」

ホジョウはタニアに初めて「アナタ」と呼ばれた。

そのタニアの本気の演技に気圧されて返事した結果が「あ、はい」だ。

そのまま、ゴンザレスとコーエンにブリッジの船の航行状況の監視をお願いして、シャワールームに連れて行かれる。

「ロビンさん、これどうやるの。」

消毒液のボトルを持ってホジョウがうろたえている。

「私がやるから大丈夫。上の服脱いでね。」

タニアは努めて明るい声でホジョウをリードしている。

その声の明るさを聞けば聞くほど、ホジョウは演技を続けるタニアに何か悪いことをしているような気がしていた。

狭いシャワールームのドアは宇宙船の常で鍵がかけられている。

タニアにホジョウの妻であることを要求する人目はどこにも無いのだ。

「ロボ曹長…申し訳ない。」

「やめてください。」

ホジョウはその返事に黙った。

「器用ではないので、『ロビン・タミヤ』と『私』をそんなに上手に切り替えられないので。」

「あ…」

無重力空間では水のような液体は表面張力でぴったりとまとわりつく。

そのためオキシフルにはやや粘り気のあるものが混ぜてある。

タニアはそれをホジョウの頭に塗りつけていく。

しばらく無言の時間が続いた。

「戦争が無かったら大尉とこんな風に夫婦ゴッコしてたでしょうか?」

ホジョウは何も答えなかった。

「戦争が終わったら…」

「ロビンさんが嫌にならない限りは、続けましょう。」

今度はタニアが何も答えなかった。

ホジョウはシャワールームの小さい鏡越しに少しだけタニアが見えている。

水滴のシミがついた鏡越しに、自分の頭の後ろに少しだけ映りこんだタニアの口元が見えている。

ホジョウはタニアの口が何かいいたそうに動いては閉じるのを見ていた。

ずいぶん時間が経ってからタニアが口を開いた。

「髪の色、結構明るくなったよ?流すのは自分で流して…」

再びロビンになった明るい口調に、ホジョウはたまらずタニアの腕を掴んだ。

「離してください…」

「…曹長がお嫌じゃなかったら。」

シャワールームから出る頃には、ホジョウの髪は信じられないぐらい色が抜けていた。

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