翡翠の弾丸~ゾックはかく戦えり   作:スナ惡

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ズムの民間人

ゴンザレスとコーエンを船に残して、タミヤ夫妻とアブドルアジース博士とその孫娘の4人はズムシティの宙港に降り立った。

ホジョウにとって軍人ではなく民間人としてズムシティにやってくるのは士官学校入学前の中学校の修学旅行以来ではないだろうか。

ズムシティも控えめだが、十分クリスマスのムードが漂っている。

ただ、フォン・ブラウンと違ってクリスマスにあわせて冬服を着る人間はほとんどいない。

2人はアブドルアジース博士の住所のメモだけを貰うと、色の抜けすぎた髪を染め直すために美容室へ向った。

「女性向けのところだから大丈夫。」

「本当かなぁ…」

マイが上手く予約を取った美容室に二人で並んで座ると、話好きの女性美容師が二人やってきて、ちゃきちゃきと仕事をしていく。

「ロビンさんも緊張してるでしょ?」

「ホセくんだって。」

美容室に来る前も、2人は精一杯民間人に見えるように髪は整えてきたのだが、美容室を出る頃には、二人ともすっかり軍人の匂いが抜けていた。

「ホセくん、カッコよくなったね!髪の茶色似合ってるよ!」

唐突にそう言って腕を組むとずんずん引きずるように歩いていく。

ふと見ると耳が真っ赤だ。

「ロ…ロビンさんも…かわいいよ!」

勇気を出して褒めたが振り返らないし返事もしない。

でも、絡んだ腕を通して嬉しい感情は伝わっている気がした。

そのまま、2人は服を買うと、いかにもズムシティの民間人っぽい風体になった。

ありがたいことに活動資金として現金が手元にある。

これは任務のための変装だ。

「どう?」

「ロビンさんかわいいですよ!」

心の中で何度も「これは任務のための変装だ」と言い聞かせているが、顔はほころんでしまう。

中央公園の噴水の前で年配の女性にポラロイド写真を撮られた。

「はい、お代。」

勝手に写真を撮ってお金をせびるタイプの路上商売だが、なんとなく2人は悪い気がしなくて、もう一枚お願いして撮ってもらう。

「1枚目は私が持ってるから、2枚目はホセくんが持ってて。」

1枚目は不意に撮られてお世辞にも写真うつりがよいわけではない。

どうしようかと思っていたら、また耳まで真っ赤にして

「こっちの方が多分かわいく写ったから持ってて欲しい…」

と言われた。

「僕、今、人生で一番幸せです。」

思わず口をついて出た。

自然な言葉だった。

そして、生まれて初めて女性が嬉しくて自然に泣くのを目の前で見た。

髪を切って、染めて、服を買って、服を着替えて、すっかり変装を終えてから、アブドルアジース博士のマンションにたどり着く。

「少し調べました。ズムシティ放送団体。」

「おじいちゃん、『委員会』です。」

リビングに通されて話を聞く。

戦争が本格化する以前は今の公国軍の広報部に連なる組織だったが、ギレン・ザビが総帥に就任して総帥府が出来ると、総帥府広報部がその役割を引き継いだ為に、解体されていないだけでもはや何の仕事もしていない空虚な組織だと言う。

「電話局にハッキングして問い合わせ先の電話番号についても調べてみましたが、今はその番号は登録が無くなってますね。」

直接電話をかけるのを嫌がってハッキングするあたりはマイらしい。

「公的組織です。住所もハッキリしてございますが、なにぶん、そういう調査は私も孫も向いておりませんで…」

ホジョウとタニアはアイコンタクトして頷いた。

「調べます。万が一のときのため武器は手に入りますか?」

博士はどこかに電話をかけると民間人も護身用に武器を購入できるルートを探し出して、二人にメモを手渡した。

「くれぐれもお気をつけ下さい。」

二人は博士が呼んだタクシーで移動する。

タクシーはズムシティの街の外れにある工場の前で車を止めた。

「ありがとう。」

タクシーにお礼を言うと、タニアがメモを見ている。

「多分、工場の横の路地。」

路地へ入っていくと、確かに、ミリタリーショップがある。

「なんか、もっと裏商売的な店かと思った。」

「結構ちゃんとしたお店ね。」

ダグラス銃器店と書いた店の入り口には『武器等販売公国認定』『最新防犯設備完備』『身分証必須』とデカデカと書いてある。

二人が店に入ると大柄な体格の先客がいた。

ちょうど会計して出るところのようだ。

応対していた店員はカウンターから出て、その客を出入り口まで見送った。

そして、そのまま店の入り口の看板を抱えて店に入ると、内側から鍵をかけた。

「ご紹介で来たお客さんだろ?」

店員の男性は黒いスラックスに白いシャツ、その上から緑のエプロンという出で立ちだ。

ポマードできっちり整えられた髪にやはりきれいに撫で付けられた口ひげを蓄えている。

「はい、よろしくお願いします。」

「身分証見せて。」

二人は身分証を見せた。

店員はすぐさまエプロンのポケットからルーペを取り出して、身分証を観察する。

「ペトローニの旦那に会ったんだね。元気してたかい?この身分証は大丈夫だよ。コイツが見破れるのはズムシティには俺のほかには俺の師匠しかいない。その俺の師匠の師匠がペトローニの旦那だ。」

「お元気されていました。ムーンムーンでお会いして…」

店員はホジョウの言葉を遮った。

「いや、それ以上は聞かない。でも元気なら良かった。俺はダグラス。この店のオーナーだ。ジオンのお偉いさんにもご贔屓にしてもらってる。どんな武器が欲しい?」

店の中は外から見たよりも狭く感じた。

いくらかホルスターやガンベルトが並べてある。

対してカウンターの奥は広く、そちら側には壁と言う壁に、棚が作られ、おびただしい量の銃器が並んでいる。

そして、それぞれに盗難防止用のフェンスドアがはまっていて、南京錠と鉄鎖でロックされている。

ホジョウが考えていると、タニアには具体的なビジョンがあったらしい。

「ダブルアクションとシングルアクションが切り替えられるセミオートマティックの小型拳銃でシングルカラム。」

「それならこれはどうだ?5.7ミリ、ベルジャン57社製。小型で軽い。トリガーガードが可動式でノーマルスーツでも楽に指が入る。」

そう言いながら、ダグラスは南京錠を空けると一丁の小型拳銃を取り出した。

空のマガジンを外し、薬室内にも弾丸がないことを確認すると、タニアに手渡した。

タニアは受け取ると両手で構えてセーフティーの位置などを確認する。

「良かったら。」

ダグラスはノーマルスーツの手袋のレプリカをカウンターの上に置いた。

タニアは手袋をはめて、再度、銃を構える。

「あいにく今は右利き用しかおいてないが、右利きだな?」

「私、これにします。ホセは?」

ホジョウは実は射撃は大の苦手だった。

「ハンドショットガンがあれば。」

「あるよ。」

ハンドショットガンは、ショットガンシェルが撃てるハンドガンの一般的な呼び名だ。

発明されたのは宇宙開拓時代をはるかにさかのぼるが、宇宙世紀に入って重要度が増した銃だ。

狙いがルーズでもノーマルスーツを容易に傷つけるため、撃たれた側は急いでスーツのエア漏れを補修しないといけなくなる。

そうした事情で特に宇宙空間の白兵戦ではサブウェポンとして使用される場合があるのだ。

「結構種類がある。グラナダTEK社製、サーマル3連装ショットガン。弾速が遅いため、ノーマルスーツは破損しても人体にはあまりダメージを与えない。主に鎮圧用のものだ。3発打ち切ると弾をこめるのが面倒くさいが、機構が単純だから信頼度が高い。次は同じグラナダTEK社製、サーマル2連装ショットガン。小型化して軽量になった。こちらはリボルバーショットガンでジオン軍も採用しているものだ。」

そもそも装備の手配はホジョウの元々やっていた仕事なので、その辺は詳しい。

「サーマル2連装でお願いします。シェルはもし有ったらラバーハーフをお願いします。」

「あるよ。珍しいもの知ってるね。」

ホジョウは薄ら笑いを浮かべて頭をかいた。

「ホセくん、ラバーハーフってなに?」

「ショットガンシェルの中に半分ゴム弾混ぜたものだよ。ノーマルスーツの破壊とパンチ力が共存してる感じのモノ。」

ダグラスが持ってきた箱はホジョウも今まで数えるほどしか扱ったことが無いものだ。

「あとスローイングナイフのシンプルなやつ。」

「あるけど…投げれるの?」

ダグラスは怪訝そうな顔をしてカウンターの奥のドアを開けて、ブツを探し出して持ってきた。

何種類かの投げナイフがカウンターの上に並べられる。

「ちょっとバランス見たいんですが良いですか?」

ダグラスは無言でカウンターから出ると、ホジョウの立っている横の壁をスライドさせた。

「へえ、射撃場あるんだ。」

タニアが覗き込む。

「まあ、無きゃ仕事になんないからね。そこの斧が刺さってる的、ナイフ投げれるから。」

ホジョウは聞き終わる間もなくカウンターに並べられた投げナイフを立て続けに投げ始めた。

白木のボードに青いペンキで的が書いてある。

投げたナイフは20本弱。

先に刺さっていた斧に弾かれた1本を除いた全てが的に刺さった。

ダグラスの吹く口笛が聞こえる。

「すごいじゃんお兄さん…気に入ったよ。」

「あの的の真ん中に集まって刺さってる銀色のヤツなんですか?」

ダグラスは的のほうへ歩み寄ると、引き抜きながら言った。

「シャープエッジスローイングナイフって呼ばれる分類のもので、特にコイツはたまたま見つけて手に入れたもので型番とかわかんないんだけど…これは、お兄さんにあげるよ。6本セットだ。」

「なんか、ありがとうございます。」

ホジョウが生家で修行させられたのは何も徒手格闘だけではない。

手裏剣術も含まれていた。

「いいモノ見せてもらったしね。もしかして、アレ?こんなのも投げれちゃうワケ?」

ダグラスが、エプロンの胸の辺りに引っ掛けているボールペンを渡すと、ホジョウは振り向きざまに的に向って投げる。

ボールペンは割れながらも的に刺さっている。

「あっぶねー…俺、調子乗ってたらボールペンでも殺されてたわ。お姉さんも、このお兄さんのこの技知らなかったんでしょ?」

「初めて見ました…」

ダグラスは笑いながら店の奥に入ると、スキットルを持って出てきた。

「ごめんね、酒飲んじゃって。初めて見たって言うか…初めて見たよね、こんなスゲーの。凄過ぎて笑うわ。下手な拳銃の抜き打ちより速いぜ?今夜はあのナイフの刺さった的を見ながら酒を飲むことにするよ。」

ホジョウとタニアの二人は色々買い足して店を出た。

ミラー越しに差し込む太陽光が次第に弱くなっていく。

間もなく人工の夜だ。

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