「起きてください。」
喝を入れると、酷くうめきながら目を覚ました。
「うぐぐぐ…」
「なんで銃なんて抜こうとしたんですか?そんなことするから指折れるんですよ?」
拳銃のトリガーに指を入れようとした瞬間に蹴られて指が折れている。
「かわいそうだから、指は戻しておきますね?」
ホジョウが折れた指を元の位置に直すと「ぎゃあああああ!」と叫び声を挙げた。
「胸に挿してるペンお借りしますよ?」
そう言って、ペンを胸ポケットから抜き取ると添え木にして指を固定した。
「ヒゲのオッサン、どうやってここへ?」
「もうちょっとマシな呼び方はないのか?…まあいい。反乱分子から押収した携帯電話の支払い名義がここの会社になっとった。」
ヒゲのオッサンは床に胡坐をかいて座っている。
「たどり着いた理由は似たようなものですね。」
ホジョウは少々粘って尋問を試みたが彼らは同じ放送委員会を名乗る人物から毎月現金を受け取って、放送委員会の名義で銀行で手続きをしたり、電話代を支払ったり、ここに来る郵便物を管理していたのだそうだ。
現金を渡してくる人物は素性を知ると危険が及ぶと言い含めて、顔は隠していたらしい。
そしてヒゲ面ことスズマンにかぎまわられたために口の堅い連中を集めて、縛りつけ、始末に困っていたところにホジョウとタニアがやってきたと言うことだそうだ。
「一応、いつも現金を受け取ってる場所を聞いておきますね?」
最初にその人物に会った場所は行きつけのバーだそうで、酔いつぶれて寝ていたところに電話番号のメモと現金があったそうだ。
それ以降は電話で連絡を取り、この元公設市場の入り口詰め所の横の暗がりで顔の見えないように現金を渡されていたそうだ。
「だから、その女が太っていないと言うことと身長はさほど高くないと言うことしか分からん。」
「女性なのか。ちなみに毎月いつごろお金を受け取っていた?」
アバラ折れおじさんはホジョウの問いかけに答えるにもだいぶ苦しそうだ。
「毎月月末…今月は早かった…もう今月分は受け取ったし、銀行に振り込んだ。」
もう情報は出ないと観念すると、ホジョウはタニアとスズマンに声をかけて一旦建物の外へ出た。
「ずいぶんと大きな借りが出来たな。」
スズマンが渋い顔をして言う。
「スズマンさん、喧嘩弱いんだから無理しないで。」
「ぐぬ・・・」
スズマンは武闘派で通っているのだが、ここまでホジョウに全敗中なので何も言い返せない。
「気にしなくていいですよ。ホセくんが異常なだけです。6人全員畳んだのホセくんなんで。」
「軍人6人畳む…ウチの部隊に入らんか?お前ならオレが口を利けば伍長ぐらいからはじめられるぞ?」
「うん…ご遠慮させていただきます。」
ホジョウはたたき上げの軍人に評価されて嬉しかったが、当然断った。
「とりあえず持ってる情報、下さいよ。」
「うん。」
スズマンは今追っているのがもう1基の核パルスエンジンだと言う話をした。
「そいつの行方は分からんが、通ったルートは大体分かった。」
「と言うと?」
スズマンは続けた。
「マハルコロニーに核パルスエンジンとシールドケーブルを曳航して運んだ輸送機は、もう1台の核パルスエンジンとケーブルも曳航していたらしい。」
「『らしい』?」
スズマンが頷いた。
「梱包されていて中まで見えない状態で、大荷物を2つ曳航していたそうだ。そして一塊をマハルの工作部隊に渡し、そのまま飛び去った。これが輸送機の情報だ。」
「そこまで分かってて追えないのか?」
「行方不明だ。輸送機の乗組員は全員マハルで降りたことになっている。」
「どうやって、マハルから機が離れたんですか?」
「…最近、軍人がどんどん失踪してるんだ。単に戦死しただけかもしれないが、地球から引き上げて来るはずの軍人も何人かは生死が確認できずに行方不明らしい。」
「ヤダ怖い…」
ホジョウの背中にタニアがしがみつく。
「マハルの連中曰く『特殊な任務だと思って誰も詮索しなかった』んだそうだ。」
ホジョウは仕方がないので、こちらからも情報を提供することにした。
暗号のことは隠して、マハルコロニーの住民の疎開後に隊を離れて、恐らくもう一台の核パルスエンジンに合流する軍人がいるらしいと告げた。
「しかし、そいつが誰か分かってないんだ。」
ホジョウはそう言ってため息をつくとスズマンはホジョウの肩を叩いた。
「合流する理由を考えてみろよ!核パルスエンジンを取り付ける技術者が必要なんだと思わんか?」
ホジョウとタニアは顔を見合わせる。
「そんなに特別な技術なの?」
「分からない…でも、特殊な技術だとしたら、確かにマハルの作業が終わったらコッチも来て…ってなるかもしれませんね。」
スズマンは腫れた顔をほころばせて自分の胸を叩いた。
「調べてやるよ!明日の朝刊見てろ!求人欄のところにマハルの求人載せるから、そこ見れば分かるようにしてやるよ。」
ホジョウとタニアはスズマンに後始末を任せて、夜も遅いのでビジネスホテルのカウンターで朝刊を頼むとチェックインして疲れを取った。
翌朝、早速、ルームサービスで届いた新聞を見る。
「ふぉれふぁわい?」
「歯ブラシ抜いてしゃべりましょうよ。」
求人欄に「マハルコロニーにて技術者求む。要宇宙工学博士号。」と書いて電話番号も添えてある。
ホジョウとタニアはチェックアウトすると、フロントで電話をかけた。
「はい、コロニー技術派遣株式会社です。」
女性の声が出た。
「新聞の広告見たんだけど、担当者じゃなくていいからスズマンさんいます?」
「ただいまスズマンはおりませんが、別の担当にお電話換わります。」
ホジョウとタニアはホテルのフロントの時計を見ていた。
逆探知されたらかなわない。
しかし、相手は意外と早く出た。
「突撃機動軍司令キシリア・ザビだ。ホセだな?」
「キシリア少将出てきちゃった。」
「マジ!?」
ホジョウは古めかしい黒電話の受話器の口のところを押さえてそう言った。
キシリアは実はホジョウの本来の上司の上司の上司に当たる。
ホジョウが突撃機動軍の下部組織の地球方面軍所属だからだ。
またそれはタニアもおなじだ。
「部下を助けてもらったそうで礼を言う。スズマンから伝言は宇宙工学で大学院を卒業したレベルの人間であれば核パルスエンジンの取り付けの指揮は可能だそうだ。また、本意ではないかもしれないが、今からこちらへ来てくれ。ロドリゲス会長とコーネル社長はこちらで預かっている。手荒な真似はしたくない。」
ホジョウはもう一度受話器を手で塞ぐと
「会長と社長、捕まっちゃったって」
とタニアに言った。
数分後、観念してビジネスホテルの前にやってきた高級車に、ホジョウとタニアはため息をついて乗り込んだ。