翡翠の弾丸~ゾックはかく戦えり   作:スナ惡

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欠けたピース

アブドルアジース博士を襲撃しようとした面々の尋問から得られた情報は極めて少なかった。

3人は公国軍内部の人間で、やはり、金で雇われた人間だった。

「ジオン内部にスパイ多くない?」

タニアが口を尖らせて言う。

ここは公王庁内の半空き倉庫で、保存食の箱が山積みになっているところにデスクだけとりあえず置かれている。

「ザビ家の面々が互いを牽制しあって、秘密部隊を抱えておるのがそもそもの原因じゃ。」

ゴンザレスはつまらなさそうに言った。

「ジオンの軍人たちはお互いの中に怪しい行動をするものがいても、もはや、無視を決め込んでおる。キシリア機関がある、ギレンもなにやらやっておる。当然、ワシらもデギン陛下の秘密部隊じゃ。そこにアナハイムエレクトロニクス社の工作員が紛れ込んでおっても、一般の将兵にはなんとも出来んじゃろうな。」

「おかしな行動があるものを上に突き出して、逆に睨まれるのはまっぴらだろうからな。」

そう言ったコーエンは顔色が悪い。

「こんな大事なときに風邪を引くなんて、私もヤキが回ったものだな。」

そこにマイの残念そうな声が聞こえてきた。

「ホジョウ室長、コロニーが特定できません。アナハイムエレクトロニクス社屋とサイド5が比較的近距離なので、絞りの甘いアンテナを使っていて、通信しているかもしれないコロニーだけで10以上あります。さらにその区域を航行している船の可能性も考えると。テキサスとミランダが入っていないと言うだけです。」

「心情的に、そういう時はど真ん中で通信するんじゃないんですかね?」

ホジョウがそう言うとマイは無言で首を横に振った。

「アナハイムエレクトロニクス社を締め上げるのは?」

「中立地帯の会社だから無理ですね…そのズムシティで内通者を集めてた女性を捕まえれば何とかなるかもしれませんが、今から見つかる気がしません。マハルコロニーで働いているどいつがサイド5のどっかのコロニーの核パルスエンジンの設置作業に合流するのか結局つかめてない。」

マイが悲しそうな顔で頷いた。

「総帥府の旗振りなので、情報が出てこないんです。なんでしょう…紙と口頭でお仕事されると私では手が出せませんので。」

タニアが何か考えている。

「ロボ上曹、何かアイディアがあればなんでもどうぞ?」

ホジョウは望みは薄そうだなと思ったが話をふってみた。

「地球で待ってて、落ちてきたら迎撃するのじゃダメ…ですよね?」

「…的が大きすぎて、攻撃目標がどこか分からなければ、迎撃は不可能だ。」

コーエンが辛そうな声で話した。

「コーエン博士、救護室で寝られては?」

ホジョウがそう言ったがコーエンは何か黙って考えている。

「サイド5に探しに行くのは…無理か…」

縦、横、高さがあるサイド5でくまなく何かを探す作業はちょっと考えたくない。

「しかし、サイド5のいずれかのコロニーが動くのを感知は出来ないか?」

それにはゴンザレスが答えた。

「コロニーの座標が一定以上ずれたときに出る警報を感知して、連邦は迎撃を行って、間に合わずにシドニーが消えたんじゃ。」

コーエンはゴンザレス相手に珍しく食い下がった。

「しかし、ブリティッシュ作戦は完璧ではなかった。ゴンザレス、見えたぞ。落とす側の気持ちになってみろ。次に落とすときにブリティッシュ作戦のような中途半端な落ち方になる様に落とそうとするかね?」

「次は『完璧』を目指すじゃろうな。」

「そのためには、各コロニーの相対位置の警報は切っておく必要がある。」

スペースコロニーは地球や月からみたときに安定する場所に作られる。

地球や月からみたときに「この場所にモノを浮かべれば大体同じ場所にいてくれる」というポイントが存在する。

どういうことかというと、宇宙の適当な場所にものを浮かべると、どこかに向って落ちていくか、離れていってしまうかになる場合が多い。

スペースコロニーは月や地球から見たときに常に一定の場所にないと、なかなか役に立たないので、そうした安定したポイントが利用される。

そうしたポイントをラグランジュ点と言い、地球と月の近場のいくつかのラグランジュ点に、順番に「サイド~」と名前をつけて、それぞれコロニーの設置拠点として使っていった。

ただ、それでもコロニーは何らかの事情で動いてしまう(ときもある)。

放っておくと他のコロニーに衝突して危ない。

そのために、全てのコロニーの場所は監視されている。

一定以上動いたら、位置調整用バーニアで微調整を行い、めでたくコロニー同士の衝突を防がれる。

そのなかでもサイド5の各コロニーの座標の監視は、各コロニーが識別コードを24時間に1回、地球と月に向って送信し、その電波の発信源で割り出す方法を主に使っていた。

でも、それは過去の話で、大半の戦闘で破壊されたコロニーでは、その機能が止まっている。

それがダメになったらどうするか?…地球の天体望遠鏡から『視る』のだ。

実際に人間が望遠鏡を覗くわけではなく、精密な光学監視装置で半自動化されている。

弱点は天候。

雨天や曇りの日は見えない。

ただ、仮に曇りで見えなかったとしても、コロニーが勝手にずれる距離はごくわずかなので、次の晴れた日に見直してそのときに修正するだけのことだ。

「…仮に予想通り、サイド5のコロニーがコロニー落としに選ばれているとしたら、リスクを犯して地球の天体観測所を制圧して、位置監視の『目を潰す』だろうか?」

「かなり無理があるじゃろうな。コロニーの位置観測に参加している観測所は3箇所じゃ。サイド3以外のコロニーは全て24時間に1回以上は地球から監視されておる…あくまでも『位置』だけじゃが。」

コーエンは粗末なパイプ椅子に大げさにもたれながら言葉を続けた。

見るからに辛そうだ。

「対して月面からの観測所はフォン・ブラウン市第1天文観測所のみだ。こちらは何とでもなる。火炎瓶を持って押し込もうが、緊急メンテナンスだろうが何でもいいのだ。…私の推論を言おう。コロニー落とし決行の条件は地球の悪天候だ。コロニー迎撃不能になるタイミングまで地球の天文台と月面の天文台の『目』が見えない条件を作り出せれば、今度こそ五体満足なコロニーが地球にドカンだ。」

「コーエン博士、多くの天文台が天候不良の影響を受けにくい高地に作られてございませんかな?」

それまでずっと黙っていたアブドルアジース博士が質問した。

「実は、博士。そうでもないのです。高地にある天体観測施設は確かに天候の影響を受けにくいのですが、コロニーの位置監視は、今も電波での位置観測を行っている施設に付随するバックアップの望遠鏡で行われているため、赤道上に通信会社が持っている社屋の屋上のような場所で行われているのです。」

アブドルアジース博士は目を細めた。

「コーエン博士…お見事でございますよ。素晴らしい。」

「光栄です。」

そこでコーエンは風邪でノックダウンとなった。

公王庁の救護室に自力で歩いていくと、そのまま戻ってこなかった。

しかし、残した功績は大きかった。

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