「名前変わっただけで貨物船ですよね。」
「まあ、そうね。」
ゴンザレスは公王庁に残った。
アブドルアジース博士とマイはそれぞれに兵士を連れて1艦ずつ仕立てて出て行った。
ホジョウとタニアは公王庁警備室別室特務艦ラモックス・ザ・スタービーストと名前の変わった艦で細々と出航になった。
とはいえ、艦はズムシティの外に係留されているので、そこまでは往復船を使う。
「数日ぶりとは思えませんね。」
「邪魔してるよ。」
「うわ!!」
武器商人のダグラスがブリッジにいた。
「これ、納品書。銃座つけといたんで。あと、店漁ってたら、面白いもの出てきてさ。爆雷付きナイフ。使い勝手が悪すぎて、マニアしか買わなくて、全然売れなかった品物だけど、これはサービス。じゃあ、ご武運を。」
そういって往復船の従業員が積荷を入れている横を抜けて颯爽と出て行った。
「本当だ、火気管制システムが追加で入れてある。」
「ホジョウくん、ここについてるよ!座れるし、多分撃てる!」
名前が変わったわけでもなさそうだ。
「ホジョウ君、聞こえるかね?ワシじゃ。」
「ゴンザレス博士、聞こえますよ。」
ゴンザレスは公王庁に残って取りまとめ役だ。
「博士と孫の船はそれぞれルナゲート1号と2号と呼ぶことになったぞ。その2艦が地球の反対側に向うラモックスと、ズムシティとフォン・ブラウン市との通信を連絡する。ラモックスは常に2号との通信を確保するようにするんじゃぞ?ええな?」
「了解しました。」
「了解しました。」
ホジョウとタニアがそれぞれ返事をする。
「それでは航行予定の軌道をこちらから送る。トラブルない限りはその計画に従って航行してくれ。現在、ハバロ首相ルートでサイド7に特別な寄港許可が出ないか打診中じゃ。そちらも、進展あれば連絡する。もし、寄港許可が下りなければ、また民間人のご夫婦のフリをして切り抜けてくれ。こちらからは以上じゃ。」
「了解しました。」
「了解、航行計画受信しました。」
コンソールにアブドラアジース博士とマイの顔もワイプして映りこむ。
「ご夫婦のフリだったんですね…そうとは知らずに色々失礼致しました。」
マイが謝る。
「おかしいですね?マイも私同様、お二人がご身分を隠しているだけだと知っておりましたはずですが?」
マイは「ウフフ」と笑うと通信から消えた。
アブドルアジース博士も「ホッホッホ」と笑うと通信から消えた。
「あの二人…ラモックス・ザ・スタービースト、出航します!」
係留綱が外れる音が船体にわずかに響く。
メインカメラがサイド3宙域を映し出す。
往復船は十分、安全な距離まで離れたようだ。
タニアはこの操船に関しては全く当てにならないので、ホジョウが一人で操作している。
「…」
だから無言だ。
「管制局、ラモックス・スタービーストの艦長ホジョウだ。出航許可を願う。」
「いつでも大丈夫です。」
軍の所属なので極めて簡略化された手続きで出航が可能になる。
「ホジョウ少佐、一点だけ、マハルコロニーで強制疎開が間もなくはじまります。マハルに入る船と、マハルからサイド3内の各コロニーへの分散疎開する船と、宙域の混雑には十分ご注意ください。」
「了解。忠告ありがとう。」
ホジョウは通信を切ると艦をゆっくりと発進させた。
「ホジョウ君いよいよね。」
「あれ?上曹、いまホジョウ君って呼びましたね?」
「すいません、博士が呼んでたのがうつっちゃって…」
ホジョウがブリッジにいるタニアのほうをみると、ヘルメットを着用して顔の色は分からないが、下をうつむいている。
「じゃあ私もタニアさんで良いですか?」
「…はい。」
ラモックス・ザ・スタービーストはジワジワと前進加速している。
そして、おもむろに機銃を発射した。
「よし!ヒット!」
「え!?え!?」
はるか前方の虚空で爆発が起きる。
「管制!識別不明の連邦の機体がいるぞ!おそらくボールを1機撃墜!」
「了解!スクランブル!!目標は宙港外の識別不明機!!」
ホジョウは管制との通信を切るルナゲート1号2号と通信をつないだ。
「両機、ともにこの宙域を全速力で離脱しろ!」
どちらの機も操縦しているのはホジョウの実家から送られてきた精鋭だ。
野太い声で「オッス!」と返事が来る。
「タニア、全速力!衝撃に備えて!」
「了解!」
ホジョウはメインバーニアを全力で吹かした。
背もたれに体が押し付けられる。
「ダグラスさん!さては船足も強化したな!」
前方にルナゲート1号2号の機影が微かに見える。
「ルナゲート1号!レーダーに敵影は見えているか!?」
「恐らく見えます!」
「どうせ博士のことだからEMPか何か持ってるでしょ!ぶち込んで!」
「ホジョウ室長、残念ながら私は持っておりません。」
「持ってるのは私です。連中、私達を出待ちするためにミノフスキー粒子を撒いてなかったみたいですね。EMP発射!」
モビルスーツが有視界戦闘しなければいけないのはあくまでも、ミノフスキー粒子が散布されてレーダーのような電磁観測装置が使用できないからだ。
しかし、ズムシティの前にミノフスキー粒子を散布すると、自分がいる場所を逆にばらすことになる。
「ホジョウくん、どうやって敵がいるって分かったの!?」
タニアの質問にホジョウはメモ用紙を見せた。
「これです。ダグラスさんがメモを残しておいてくれました。」
タニアがメモを受け取ると「前方で鹵獲したボールでキミの船を出待ちしている不届きモノがいる。まだ、キミの船がどの船かは分かっていないようだ。せっかくつけた機銃だから、使って欲しい。照準はもう付けてあるからボタンを押すだけで当たります。出航したらすぐに押してください。ボンボヤージ。」と書いてある。
「…ジョウ少…EMP成功…」
ノイズ混じりの通信が入る。
「タニアさん、ミノフスキー粒子の散布が始まりました!銃座お願いできますか!」
「了解!」
タニアが加速する船内を器用に移動して、新造の銃座に座ろうとする。
「ホジョウ君、コイツ勝手に動いて、危なくて座れない!」
「ああ、オート切ります!」
ミノフスキー粒子にかく乱された機銃の動きが止まると、タニアは席へ座り込んだ。
「こっちは輸送機です!ボールが相手でも、攻撃力は向こうが上です!十分注意して!」
タニアは返事をせずに撃ちはじめた。
艦に小さく衝撃が走る。
「くそ!下手くそ!後ろのザクのマシンガンか!?」
ホジョウは手っきり流れ弾かと思ったが、すぐに違うかもしれないと気づいた。
ジオン内部に敵はいるのだ。
緊急発進(スクランブル)したザクのなかにも敵はいるかもしれないのだ。
「タニアさん、戻って!後ろからも撃たれてるかもしれない!」
そう言いながらホジョウは「煙幕」を撒いた。
煙幕と言いながらも、中身は細かいアルミ箔だ。
そのまま、進行方向をかえる。
「万が一のために積んでおいてよかった。」
あとはEMPで麻痺したならず者と、ズムシティの警備隊がどつきあいしてくれればいいだけだ。
しかし、再び艦が揺れた。
「横から!」
横から貨物室に一発命中したようだ。
「くっそ!EMPが入ってなかったのか!」
ブリッジに戻ったタニアが再び銃座に滑り込む。
機銃の音がしばらくなると、側面のディスプレイで爆発が見えた。
「EMPは効いてたけど、ボールはマニュアルでも弾は撃てるから!」
「忘れてた…」
連邦の名機ボールはコックピットから船外に出るのが容易で、主装備のキャノン砲は機外からのマニュアル操作でも発射できるのだ。
「ローテクにしてやられた!タニアさん、ゾック・ゼロに被害がないか見て!ルナゲート1号・2号!被害は出てないか!?」
通信の向こうからバタバタと各部署が細かい確認をする声が聞こえる。
「1号、被害なし!」
「同じく2号、被害ないであります!」
タニアもブリッジに戻ってきた。
「ホジョウ君、ボールのキャノン砲、ゾックに命中してた。」
「え!?壊れた!?」
「びくともしてなかった。貨物室のメインハッチと、側面と、天井に1発ずつ、計3箇所穴が開いてたけど、ゾックは塗装がえぐれた程度。」
伊達に硬くなかった。