「ホジョウ君、サイド7寄航の許可は下りたが、許可がでたのはあくまでも補給までじゃ。コロニーには入れんそうじゃよ。」
「了解しました。」
ゴンザレスが交渉の結果を伝えてきた。
元々、そんなに期待はしていなかったが、補給が受けられるだけでもありがたい。
サイド7には稼働中のコロニーは1基しかないので、グリーンノアコロニーないし付随する宙港で、補給が受けられるのだろう。
サイド7ズムシティのあるサイド3からみて地球をまたいだ反対側だ。
他のコロニーからもあまりにも遠いため、ジオン軍はサイド7を攻略したことはない。
赤い彗星の異名で知られるシャア大佐も、破壊工作程度の活動しかしていない。
そうした事情で、ルナゲート1号とルナゲート2号が中継に入らないと、地球と月が邪魔でズムシティと交信が出来ない。
公王庁にはそうした事情で指向性アンテナが急造された。
本来ならそんなことをしたらすぐに独自の通信をしていると敵にバレそうなものだが、公王庁は設計した建築家の意向で常にどこかが増築され続ける「成長する建物」がコンセプトなので、何かが増えているのは日常茶飯事だという。
だから、多分バレないというのはデギン・ザビ陛下の弁らしい。
「一体、いつまでゾック・ゼロをサイド7に置いておかなくてはいかんのか、全く見通しが立っておらん。今、ルナゲート3号を用意して、コーエン博士が回復次第、各機のバックアップに向わせる予定じゃ。」
「ありがとうございます。助かります。」
ホジョウの乗るラモックス・ザ・スタービースト号はサイド7で補給を受けられるので、サイド7についてしまいさえすれば、基本的に艦が壊れるまではいつまででも待機できる。
しかし、ルナゲート1号・2号は全く何もない宙域に独立して浮かんでいるだけなので、補給を受ける手段がない。
しかも、サイド7と違ってどちらもラグランジュ点にいないので、位置をキープするために、わずかに燃料を消費し続けなければならない。
バックアップが必要だ。
ルナゲート1号はまだサイド2とサイド6が近いが、戦禍に巻き込まれるのを避けるため、やや外れた位置を目標に航行している。
「それではよいクリスマスを!」
ゴンザレスはそう言って通信を切った。
「そうか、もう24日になるのか。」
グリニッジ時間であと30分もしないで24日になる。
船長室で仮眠していたタニアが起きてきた。
「もう『メリークリスマス』?」
「いや、イブまであと25分ある。その24時間後にクリスマスだ。」
「シャワー浴びてきまーす。」
船内の生活用水は、交換膜で浄化されて循環している。
これぐらいの規模の船だと、交換膜の寿命と浄化に使われる電力だけ気にすれば、シャワー程度は一日何度浴びても問題がない。
タニアはクリスマスイブになる前にシャワーを出てきた。
作戦行動中とはいえ、ただ計画された軌道に沿って、宇宙空間を飛んでいるだけだ。
今は加速すらしていないので、本当にただ飛んでいるだけなので特に作業はない。
ぼーっと過ごすとお互いに「メリークリスマス」といって、またぼーっと時間を過ごした。
「こちらルナゲート1号。目標の座標に到着しました。」
「はい、了解。以後引き続き警戒を願います。」
「了解!」
ホジョウは一応確認しておくかと考えてルナゲート2号に通信をつないだ。
「ルナゲート2号、応答して下さい。」
「こちらルナゲート2号。」
「すでに減速プロセスに入っているか?」
「予定より少々行程が遅れておりますので今から30分後ぐらいになるかと。」
「何か異常か?」
「いえ、単にメインバーニアの噴きが悪かったのと、ちょっと思ったよりも荷物が載っていまして。」
「荷物?」
通信している兵士がちらちら後ろを気にしている。
「あの、マイ様のお手荷物が。」
ホジョウが画面をよく見ると、ブリッジの後ろのほうでクリスマスパーティーをやっている。
「マイ様がだいぶご飲料を持ち込まれまして…」
ホジョウは感心した。
「今回、補給が大変そうだから、飲み物が多いのは良い事ですよ。警戒だけ怠らないようにして、楽しんで。メリークリスマス。」
「ありがとうございます!タロウ坊ちゃまもメリークリスマス!」
通信が切れた。
「へー『タロウ坊ちゃま』って呼ばれてたんですかあ…」
タニアに聞かれていた。
ホジョウは今のヤツの顔を覚えて、今度とっちめようと心に決めた。
しばらく、そのハナシでホジョウがいじられていると、通信が入った。
ゴンザレスからかと思いきや、軍の通信がゴンザレスのところで中継されてきている。
よく通って聞き取りやすい女性の声だ。
「地球連邦軍がサイド1ソロモン基地周辺宙域で攻撃を開始しました!敵陣営の戦力については不明!」
その後、周辺宙域の艦隊のどことどこは至急援軍に向うようになどの指示が延々と読み上げられる。
「クリスマスイブぐらい静かに過ごせばいいのに…」
ホジョウとタニアは幸か不幸か、地球を挟んでソロモンのちょうど反対側を飛んでいる。
今から何をどうあがいても何の手出しも出来ない。
その日の夕刻、ドズル・ザビ中将戦死の一報が流れた。
ホジョウは船長室に一人でこもると涙を流した。