「ギレン総帥がコロニー兵器の許可を取った。例のマハルコロニーじゃ。『ソーラレイ』という作戦名で正式に許可を取りよった。」
ゴンザレスから翌朝、連絡が入った。
「当然、極秘じゃ。そちらはもう到着するかのう?」
「予定通りであればあと2時間ほどでサイド7に到着します。」
「中将のことは残念じゃったな。」
「いえ…軍人の常ですので。」
ホジョウはあれからずっとドズル・ザビの人生について考えていた。
ブリティッシュ作戦を決行した大量殺戮者としてのドズル・ザビと、仲間思いで、親しみ深い校長で、愛妻家だったドズル・ザビ。
二つの面を持っていた。
彼は二つの顔を使い分けていたのだろうかと、ホジョウは考えた。
「ホジョウ君、ずっと悲しそうな顔してる。」
タニアが言うのももっともだ。
ホジョウはドズル・ザビの死が悲しいのではない気がしている。
ただ、ドズル・ザビを大量殺戮へと押し上げた戦争が悲しいのかもしれない。
お会いしたデギン・ザビ陛下はもし平和な世の中に生まれていたら5人の子どもに囲まれて、どんな人生を送っていただろう。
見た目ばかり豪奢で異様な公王庁は彼の栄華の象徴なのだろうか。
「タニアさんさ、もし私と結婚したとして…」
タニアは急にすごいことを言われたなと思ったが、そんな顔をしていないので素直に話を聞いておくことにした。
「私が公王庁みたいなところに住む人間になったら…デギン陛下みたいになったら、幸せな人生になると思う?」
「無理でしょ。」
即答だった。
「5人いる子どものうち1人は暗殺で、2人は戦争で死んでるんですよ?そもそも、あそこ犬飼いづらそう。」
「犬?」
「戦争がなかったら犬を飼いたいんです。でっかくてエサたくさん食べる犬。実家にそういうのがいたんで。」
「…そう。」
「はい。だから結婚したら犬小屋が似合う家に住ませて下さいね。」
「…え?」
「え?」
「結婚するの?」
「ホジョウ少佐が言い出したんですよ?」
ホジョウは事の重大さにやっと気づいた。
「あ、そういう意味じゃな…」
「じゃあ、どういう意味ですか。」
揉めていると、サイド7の入航手続きが迫っていた。
一旦、タニアとは休戦条約を結んで、サイド7に集中することにした。
サイド7の管制官は露骨に嫌そうな声で応対した。
「それでは積荷の確認をさせていただきます。誘導にしたがって下さい。」
積荷の確認があることはゴンザレスから予め聞かされている。
向った先は巨大な与圧格納庫だった。
「こちらの積荷は与圧は大丈夫ですよね?」
「はい、大丈夫です。…与圧下で確認するんですね。」
「いけませんか?」
「いや、こちらは何も問題は。」
与圧とは、宇宙空間が真空であるのに対して、1気圧の空気があるということだ。
宇宙でも月面の格納庫でも、この貨物船はいつも空気がないところで運用されていた。
単に、この船が入る空間を空気で満たすのに金がかかるからだ。
ホジョウはタニアにヘルメットはいつでもかぶれるようにと指示をした。
ガスでも撒かれた日にはたまったものではない。
たっぷり、30分ぐらいかかって船を収めた格納庫が与圧された。
「メインハッチお願いします。」
「メインハッチ開けますので下がってください。被弾しているので、上手く開かない可能性がありますので。」
ザクマシンガンを1発食らっているので、あけるときに壊れた部品でも飛んだら危険だ。
ハンドサインがカメラで確認できたのでハッチを開けた。
ホジョウとタニアは一応船をでるように言われたので、船を下りて、担当者らしき人間のところへ飛んで行った。
倉庫には空気は来ているが、人工引力までは効いていない。
ホジョウが通りいっぺんの確認事項に答えていると、白衣の集団が宇宙でよく見る、動く手すりにつかまってやってきた。
「特殊な積荷だと聞いてうちの科学者が見たいそうだ。」
「まあそうでしょうね。立ち会ったほうがいいですか?」
「お好きにどうぞ。この格納庫からは出ないで。補給は推進剤のほかには?」
「水と交換膜。あと、何か食料があれば。一応こちら連邦の通貨ですが。」
「うん、確かに。これぐらい有れば足りるな。これは釣りだ。」
「…いいんですか?」
ホジョウはてっきりワイロ的なものを取られるかと思っていたがお釣りが帰ってきた。
「バカやろう、今お偉いさんがたくさんいるんだ。イランこと言わずにとっととしまえ。」
「あ、」
白衣の集団の後ろには連邦の階級の高そうな軍人も何人か控えている。
「ホジョウ少佐!ご質問があるそうです!」
タニアに呼ばれてホジョウが駆けつける。
禿頭に長い白ひげを垂らした老人だが、無重量のせいで、ヒゲがなんとも自由奔放な状態になっている。
「おお、キミがホジョウ君か、別に質問なんざありゃあせん、ロドリゲス会長から話しはうかがっとるよ。」
ホジョウは一瞬何のことかと思ったが、ゴンザレスの偽名だ。
ということはこの白衣の人間は恐らく仲間だ。
そこへ一人の将校が近づいてきた。
「クルーザーが運ばれると聞いていたんだが…これは本当にクルーザーなのですかな?」
ホジョウは白ヒゲの白衣の男性を見たが、いたって朗らかで平静な顔をしている。
「中尉、こちらをご覧下さい。ジオンのモビルスーツの非常に特徴的な技術、モノアイじゃ。これが、この機体の場合、表と裏の両方をカバーしておる。」
「ほう…ということは?」
「表と裏でリバーシブルのモビルスーツなんぞ聞いたこともないわ。軍事技術を転用したクルーザーじゃろうな。そもそも、長さが40m近くあるぞ。カタパルト発艦すらできん。」
「ソロモンで出現したモビルアーマーは異様な風体をしていたそうですが…」
「ふむ、ここ見てみなさい。」
白ヒゲの博士と中尉と呼ばれた軍人はゾックの腕のほうに飛んでいく。
その後ろを他の人間もついて飛んでいく。
ホジョウとタニアも追いかけた。
「アイアンネイルに見えるね。」
「見えます。」
「ここ見てみなさい。」
「なんですかなこの機構は?」
白ヒゲの博士は得意げに解説をした。
「これは外付けのロケットを取り付ける機構じゃな。このフックの部分が起き上がって、ロックして。この接点でロケットの制御信号をやり取りするんじゃろう。アイアンネイルはそのロケットの保持のための機能しかないじゃろう。そもそも、こんなずんぐりむっくりに殴られるやつがおるか?」
タニアは「またずんぐりむっくりって言った」と思った。
「まだ、あるぞ、モビルスーツだとすると大体は股間か胸から乗り込めるのじゃが、これは股間のほかに頭頂部付近にも出入り口があって、なんとそっちはエアロックになっとる。」
「モビルアーマーにエアロック?」
「そう、ちょっと開けさせてもらおうか。ホジョウ少佐だったかな?」
急に呼ばれた。
「はい!今あけます!」
ホジョウは急いで頭頂部のエアロックを開けた、すぐ真下は居住区になっている。
中尉が覗き込んで率直な感想を述べている。
「あー本当だー!居住できるようになってる!アッ…臭ッ!スゴ臭ッ!!アッ…ダメだ!臭ッ…臭ァッ!!」
ホジョウとタニアは驚いた。
「え!?嘘でしょ!?」
駆け寄ると、本当に臭い。
イカの臭いだ。
「これ…!イカの臭いです!!多分…害は無いです!!」
「最悪!!一度、ロドリゲス会長が中にスルメ持ち込んでたんです!!マジで臭い!!」
タニアも相当にお怒りだ。
「こ…これは確かに兵器ではない!乗用機だ!早く閉めたまえ!」
ホジョウはその後、補給物品の中に消臭剤とエアコンのフィルターを追加した。
「あの臭いを消そうと思うと、ずいぶん高くつくぞ?」
「お願いします。」
犯人は居住区に残されていたカビたスルメだった。
湿気を吸ってカビたらしい。
ホジョウはカビたスルメを怒りに任せて真空の宇宙空間に放り出した。
運がよければ遊星からの物体Xよろしく、異星人に拾われて、どこかの文明の脅威になるだろう。
補給で受け取った消臭剤は業務用の洗剤だったので、実際に高くついたが、サイド7の与圧格納庫の中でみっちり2日間清掃したら、臭いはずいぶんマシになった。
「連邦の洗剤凄いじゃん!」
「ねー!」
少し勉強になった。