補給も終わり、与圧倉庫から追い出されたラモックス・ザ・スタービースト号は、本当にやることが無くなった。
サイド7の民営放送局のテレビ番組をザッピングしたりしながらだらだらと時間をすごすだけだった。
ただ体がなまるのは本当に危険なので、毎日、運動だけは欠かさない。
そこに通信が入った。
「お久しぶりですね。」
月面から来た通信にはペトローニが映った。
「ペトローニさん!」
ペトローニ女史の夫で、ムーンムーンで身分証の偽造をしてくれた人物だ。
「コロニー落とし計画がとうとう見えたかもしれません。」
「本当ですか!?」
通信に顔が出ているのはアブドルアジース博士、マイ、ホジョウ、ゴンザレスだ。
「アナハイムエレクトロニクス社をご出奔した人物でエイラ・マコミックという女性がいらっしゃいまして、今のところ連邦にもジオンにも属さない人物だと考えられます。現在、アナハイムエレクトロニクス社からは横領で追われております。」
「横領…」
ペトローニはあまり鮮明ではない写真を引き伸ばしたものをカメラに映した。
「この女性ですが、会社の資金を横領しまして、その横領した金でジオンと連邦の軍人を次々に買収、計画を進めていたのではないかと考えられます。ただ…」
「ただ?」
ペトローニは笑っているのか何なのか分からない顔で続けた。
「ただ、本当にそんな横領ばれずに出来るんですかね?途中まではアナハイムエレクトロニクス社もやっていたのではないですかね?…あくまで憶測ですが。まあ、その女性が何を目指しているかというと、恐らくはコロニー落としの企画営業です。」
話を聞いていた全員、思考が止まった。
「どういうこと?」
ペトローニが噛み砕いて説明した。
「『コロニー落とし、1回おいくらでご購入しませんか?』という商売をされるおつもりのようですよ。とにかく、ジオンと連邦とフォン・ブラウン市に『いつでもコロニーが落とせる』サービスを売りこむつもりのようです。ジオンが買えば地球に落とす。連邦が買えば月に落としてもいいし、落とさずに取っておいてもいい。誰も買わなかったら、恐らくデモンストレーションにどこかに落とすのでしょうね。ギレン閣下にはすでに接触した形跡があります。当然『コロニー落しを買わないか』という話をした模様です。」
「ギレン閣下はなんと?」
ホジョウが無線に食いつかんばかりの勢いで質問した。
「不明なんです。」
一同、しばし放心していると、ゴンザレスのところが騒がしくなった。
通信機越しに「ゴンザレス博士!」と叫ぶ男性の声が聞こえてきた。
首相補佐官だ。
「いま、デギン陛下宛てに『コロニー落としをお売りします』と書かれた封書が!」
「今こっちもその話が入った瞬間じゃ…ということはギレン総帥閣下は断ったな…封筒にはなんと書いてある?」
首相補佐官が、通信がつながっているのに気づいて、畳まれた紙を広げて見せた。
ゴンザレスが最後の一文を音読する。
「『カサブランカを持ってこちらから伺います』…あちらから接触してくるということか?デギン陛下に直接!?そんなことが可能なのかのう?公王庁に内通者がいる?」
「ひとつ…」
アブドルアジース博士が普段は出さない険しい声で語り始めた。
「可能性があるとすれば、ジオン公国と地球連邦の和平交渉の場でございます。恐らく和平交渉をされるとしたら地球連邦側はレビル将軍、ジオン側はデギン陛下のお二人でございましょう。そこに何らかの形で絡めば…報道、警備などでしょうか。」
「そうすれば、同時に連邦にも売り込めますね!」
後の証言では、カサブランカを携えた女性は和平交渉の場に居たという。
亡命艦隊と呼ばれた、ジオンから連邦に亡命した一団の中に、カサブランカを納品した花屋が証言した。
そして、デギン公王、レビル将軍ともどもソーラレイで蒸発したという。