前夜、簡単でも喜びにあふれたディナーを早めに辞した二人は、通信が入っていないことを確認すると、明日の朝、今後のことを話し合うことにした。
ゴンザレスとコーエンは心配だが、今できることはない。
せめて、今日まで敵だった連邦の人々と食事して語り合った成果を大事に眠ろうと、ゆっくりと目を閉じた。
「ホジョウ君、寝て起きたら戦争じゃない日になるってこと?」
「実感わかないですね。」
朝、通信がなってまた目が覚めた。
ペトローニ女史だ。
「フォン・ブラウン中心街で自動車事故が原因の停電!!ジャカルタは大雨!!」
「条件が揃ったのう!!」
画面に急にゴンザレスが現れる。
「ゴンザレス博士ご無事で!!」
しかし、いつも見ている背景と違う。
屋外のようだ。
「公王庁の屋根の上じゃ!昨日、急に政変が起きたからのう。巻き込まれる前に公王庁の工事部分の足場から屋根の上に逃れたんじゃ!ほれ!」
ゴンザレスがカメラを動かすと、コーエンや職員の数人がテントを張って、屋根の上に避難しているようだ。
「何か動きがあるまで見つかるわけにはいかんからのう。黙って寝とった。心配かけてすまなかった。」
コーエンがカメラの前に割り込んだ。
「ホジョウ少佐、よく聞け。コロニーは必ず大気圏に突っ込むとき核パルスエンジンのついていない先を下にして斜めに突っ込む。その先端を真っ直ぐぶち破って破壊するためにはコロニーが大気圏に突入する前に先にゾックが地球の重力に引っ張られて落ちながら加速し、反転して下から突き上げるように上昇する必要がある!大気圏内にゾックが入ってしまうと、空気抵抗でそれが難しくなる!軌道はこちらから送る、まずは予定通りのルートでサイド7を発進しろ!急げ!」
「OK!」
ホジョウは間髪入れずにサイド7の管制に通信を切り替えた。
「サイド7、サイド7、こちらラモックス・ザ・スタービースト。本艦はスクランブルする。発着する全ての艦船の制限を求める。くりかえす、発着する全ての艦船の制限を求める。」
「OK、100秒後にスクランブルを認めます。…お話、伺いました。ご武運を。」
「100秒後、了解しました。ありがとうございます。」
ホジョウはラモックスのメインバーニアをアイドリングして待つ。
「ホジョウくん、頑張ろうね。」
「タニアさん、巻き込んでごめん。」
タニアは首を横に振るとヘルメットをかぶった。
「10秒後に出航可能です。サイド2から故障して曳航される艦艇には十分ご注意ください。3秒前、2、1…」
ホジョウはスロットルを目一杯開けた。
昨日見た軍艦も桟橋を焦がさんばかりの噴きっぷりをしていたので、もはや遠慮の必要は無いだろう。
「ダグラス、あの人、どんなエンジン積んだの?」
「ホジョウくん喋ると舌噛む!」
全身がシートに押し付けられてペッタンコになりそうだ。
メインバーニアの温度がぐんぐん上がる。
レッドゾーンぎりぎりで、一旦スロットルを抜いた。
「ホジョウ少佐、悪い知らせ!目標のサイド5で誰かが煙幕か何かを張ったせいで動いているコロニーが特定できない!和平に反対する人間をサイド5に集結させるって流言も飛んでいて、本当か嘘かもわからない!」
ペトローニ女史が本当に悪い知らせを持ってきた。
「ホジョウ少佐、こちらサイド7です。和平条約締結は本日グラナダで行われる予定と言ってまいりました。」
「じゃあ、コロニー落とす先はグラナダじゃないんですか?」
「ホジョウ少佐、説明するヒマはないんだが、サイド5からグラナダに正確にコロニーを落とすとなると、月を1周半は回らなくては無理だ。その前に見える。」
「そうなんですね!」
貨物船の通信に使っているメインコンソールは次第に人の顔で埋め尽くされていった。
屋根の上から降りて屋内に戻るゴンザレスとコーエン。
サイド6にたどり着いたアブドルアジース博士と連邦の兵士達。
マイと祝杯を挙げるルナゲート2号。
サイド7の白ヒゲの博士とその仲間。
バハロ首相と補佐官も一瞬移りこんだ。
「アルゼンチンのアマチュア天文家からニューヌアクショットの位置が変わっていないかとジオンと連邦に連絡が入ったようです。」
「ヌーニュアクショット?」
「ニューニュアク…ニューヌアクショットです!ニューヌアクショットコロニーです!!」
サイド5の典型的なコロニーの1つで、戦闘で気密が破れ、無人化したらしい。
「テキサスコロニーに連絡だ!」
サイド7の人間が叫んでいる。
サイド5のテキサスコロニーに連絡して、確かめてもらうつもりだろう。
「天文家が提供した座標を確認しました。確かにコロニーが煙幕を抜けて加速中です。」
「軌道の座標データを取り続けろ、ホー博士に連絡しろ!」
コーエン博士が焦って上ずりぎみの声を上げる。
「ホーだ。来たか。」
ホー博士が画面に現れた。
「軌道データはこちらでも取れている。2分ごとに落下目標地点を出力する。とりあえず現在、落下目標地点は南半球だということは判明している。あと、誰かその希望を載せた艦の現在とっている軌道のデータも送ってくれ。」
一同が固唾を呑んだ2分間だった。
「出たぞ。南極だ。」
ほっとした表情の人間と絶望した人間の表情が入り混じる。
「考えられる中で2番目ぐらいに最悪な目標だ。」
「どういうこと、人が住んでないじゃん?」
タニアがホジョウにすがりつく。
「いや、私にもどういうことかさっぱり。」
コーエンが説明した。
「南極に大きなエネルギーを叩き込むと、南極の氷が一気に粉砕されて溶ける。しかも、南極の氷の下には、南極大陸が隠れているんだが、それが氷が軽くなることで浮上するんだ。それによって世界の海面が一気に上がる。何メートル上昇するか予測もつかない。」
ホーは頷いた。
「もう1つ悪い事がある。私の知ってる限りだと、その機のスペックでは、南極に向うコロニーとランデブーできない。」
「そんな!」
ホーは眉間にしわを寄せている。
「大気圏内まで落ちながら急加速して上昇する方法であれば可能だが、その機体では急上昇するだけの推進力を得られない。」
「ホー博士いけるぞ!ロケットじゃ!ゾック・ゼロは補助ロケットを使って加速する機構がついておる。」
ホーはその点は認めた。
「問題はこの土壇場でその機体にロケットを渡しているヒマはないということだ。」
「うちの基地からロケットを飛ばしたら渡せないかな?」
連邦の軍人のようだ。
「失礼、こちらジャブロー連邦基地。ミサイルならまだいくらでも余っている。炸薬さえ抜けば何とかならないかな?まだ私も何のことか飲み込めていないが出来る協力はする。」
ホー博士が「ハッ!」と大きな声で叫んだ。
「待て待て待て諸君…閃きそうな気がする…ハッ!閃いた!」
「それを待っとった!」
ゴンザレスも大きな声を上げた。
「ジャブローから発射されたミサイルをゾック・ゼロが空中で掴んで上昇しよう。それ以外に方法はない。」