翡翠の弾丸~ゾックはかく戦えり   作:スナ惡

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翡翠の弾丸

見渡す限りの白い氷原の、低く差し込む陽光に照らされて、ゾック・ゼロは再び大気圏を突破しようとしていた。

青白く輝く大気の辺縁を超えて、再び清冽な闇の世界へ、緑の軌道が描いて上昇していく。

「6セット目!掴んだァ!!」

「加速!!目標の速度をすでに超えています!」

「よくやった!上曹!2階級特進モノだ!ホジョウ少佐、軌道修正のデータを送る!」

「了解!軌道修正します!!」

わずかな修正でゾック・ゼロとスペースコロニーニューヌアクショットは、全く同じ直線状に並んだ。

「ホジョウ少佐!最終プロセスじゃ!」

ゴンザレスが通信に飛び出してきた。

「ゾック・ゼロは180秒後に衝突する!60秒前から頭部メガ粒子砲を最大出力で撃つんじゃ!」

ホジョウはコンソールにデジタルで表示されているタイマーを見つめた。

「タニア、頭部メガ粒子砲発射準備。」

「発射準備よし。」

「8連メガ粒子砲発射準備よし。」

大気圏を大きく離れた今、ゾック・ゼロの内部は、ゾック・ゼロの駆動音以外は全く聞こえない。

頭部メガ粒子砲を照準するための頭頂部のカメラには直径およそ6キロメートルのニューヌアクショットが絶望的な大きさで迫っている。

「タニアさん、生きて帰ろう。」

「さっきせっかく『タニア』って呼んでたのに。」

タニアがトリガーを弾く。

頭頂部のカメラが真っ赤な閃光を映す。

この出力が足りなかったら、ゾック・ゼロはコロニーに衝突して終わりだ。

「8連メガ粒子砲!全砲門発射!」

コロニーに突入する直前、ゾック・ゼロは表裏の全砲門からメガ粒子砲を撃ちはじめた。

バターのようにコロニーの硬い外殻を切り裂いて、ゾック・ゼロはニューヌアクショットの中に飛び込んだ。

「入ったか!?」

その瞬間、ゾック・ゼロの通信が全て落ちた。

「最初の関門は抜けたぞ!」

「ホジョウくんやったね!」

二人はその数秒間を永遠のように感じた。

二人が飛び込んだ世界は、元来、人の命を奪うための兵器ではなく、ついこの前まで、人々の生活が染み付いたスペースコロニーだった。

今となっては無人の、その世界に、学校が、公園が、病院が、家々が、スペースノイドの原風景があった。

人工太陽は機能していないため、太陽の差し込む側しか暗くて見えないが。

愛着の残滓がこの大きな空洞には今も一杯に詰まっていた。

「くそがああああああ!!」

ホジョウは赤熱して溶ける外壁を見ながら、高ぶる感情が抑えられずに思わず大声を出した。

頭部メガ粒子砲はさらに反対側の隔壁も貫いている。

そしてその先には核パルスエンジンがある。

「Iフィールド展開!」

ゾック・ゼロは巨大なコロニーを数秒かかってとうとう縦断した。

直後に核パルスエンジンの爆発がゾック・ゼロを飲み込んだ。

さらにその光球からもゾック・ゼロは無傷で抜け出した。

コロニーは大気圏に落ちながら8つに裂けて花のように開いていく。

そして、地球の大気の表面を滑るように動くと、そのまま地球を離れて飛び立った。

「やったのか?」

「やったのよ!」

急に通信が回復する。

通信機のスピーカーから割れんばかりの歓声と拍手が聞こえる。

この偉業は、その大きさに比べて、それを目撃した人間の数が少ない。

世界の目は僻地の上空で起きたテロではなく、新しい平和な時代に向いていたからだ。

特殊な軍人の、それもごくごくわずかな人間だけが目にした奇跡だった。

それをサイド5から見ていた一団がいた。

「双眼鏡をありがとう。なかなか面白い見世物だったよ。」

「『赤い彗星』に対してあれはなんですかね?『緑の弾丸』ですかね?」

「私には翡翠色に見えたな。」

「『赤い』に比べるとずいぶん高級ですね。」

仮面の男は負けを認めたように笑った。

「向こうの方が1年先輩だそうだからな。先輩に花を持たせてもいいじゃないか?『翡翠の弾丸』…なかなかいいじゃないか?」

男はシリンダー型コロニー落としの重大な弱点を目の当たりにして少々、考えをめぐらせながら、次の命令を下した。

「さて、ショーも終わったことだ。アナハイムの犬どもを始末しようじゃないか。」

「ハハッ!」

宇宙世紀80年1月1日15時00分。

月面基地グラナダで、地球連邦とジオン共和国の終戦協定が締結された。

仮に平和は長く続かないとしても。

人々の歓喜は本物だった。

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