ホジョウは秘密任務である手前、あまりおおっぴらにドズル校長にアポイントを取ることも出来ないと考えて、ここまで何も準備してこなかったが、そろそろドズル少将の居場所を探さなくてはいけない。
半信半疑のまま、士官学校を訪れると、どうも少将がいるような雰囲気を感じる。
学校の事務局へ顔を出し、校長に会いたいと申し入れてみると、たいして待たされることもなく、校長室へ通された。
「ホジョウ少尉、よく来た。」
扉を開けられながら発せられた落雷のような豪放な声にはぬくもりが感じられる。
「ホジョウ少尉、到着いたしました!」
ドズルは「見ればわかるわ」と言って笑った。
2mを越す身長のドズルの声は175cmほどのホジョウの頭上から降ってくる。
ホジョウは緊張しきっていて会話のペースがつかめないまま敬礼し、ドアをしめると、胸のチャック付きの内ポケットから黄色い封書を出した。
ドズルは大きな掌でそれを受け取ると、空いたホジョウの手を分厚く包み込んで一方的に握手をする。
ホジョウはどう反応して良いかわからずに再度敬礼の姿勢を取る。
ドズルは「来たか!来たか!」と言いながら、黄色の封を切ると、中から取り出したディスクをデスクの端末に挿した。
ドズルの巨大な手が持つとディスクが滑稽なほど小さく見える。
狭苦しいキーボードの中で大きな手が忙しく動く。
「よし、保存したぞ!…まだ、そんなところに立っとるか!座れ座れ!ガッハッハ!」
革張りのソファを勧められてホジョウは座った。
「ホジョウ少尉は、姉上からきいてるが、なかなか仕事ができるそうじゃねえか!」
ホジョウは驚いた。
「え!キシリア様が私のことを覚えてくださっているのですか!?」
ドズルは少ししまったという顔をした。
「ああ、まあそうだ。あと、キシリアを姉上と呼んだのは内緒にしてくれ。あいつはオレの事を兄さまと呼ぶんだ。」
「と…申しますと?」
ドズルは口の中でモゴモゴと小声で答えた。
「コイツはジオン公国軍の軍事機密だが…アイツ、年齢(トシ)サバ読んでんだよ。」
「サバ!」
ドズルが指を立てた。
「シーッ!おめーは声がでけーよ!…いつの間にか姉上は年齢(トシ)とらなくなっちまってよ。今じゃオレが兄貴よ。」
ドズルとホジョウはしばらくお互いの顔を見合わせてから同時に吹き出した。
しばらく笑うと、ドズルは無言でポットに淹れてあったコーヒーをカップに注ぐと、ホジョウの前の応接テーブルに置いた。
「今後、ジオンではモビルスーツの規格に収まらない大型の機体を製造する。艦から発着せずに、自ら基地を飛び立って戦地へ移動し作戦を行う特殊な機体だ。もしくはその機体を移動させる専用の艦を作るかもしれねえな。目的は様々あるが主な目的は高出力のビーム兵器を運用するためだ。そのためにはより高出力なジェネレーターを小型化して運用する必要があるんだ。」
ホジョウはなんとなく頭を下げて、コーヒーに口をつけた。
「小型化って言っても、現行のモビルスーツに乗るような容量じゃねえ!戦艦並みの出力のジェネレーターが必要なわけよ!そしてホジョウ少尉が持ってきたこのデータが、その基礎研究データの第1弾ってわけだな!どうせキャルフォルニアベースでも同じようなこと考えてんだろ?とにかく連邦に漏れるとやばいのよ。ところで地球の任務はどうだ?宇宙(そら)が恋しくないか?」
話の方向が急に変わってホジョウはどぎまぎした。
「恋しくないといえば嘘になります。」
ドズルは地球降下作戦の当初の目的と、実際に作戦がもたらした効果について自身の考えを語り始めた。
ドズルいわく、連邦の戦力を削いだという点では評価できるが、特に北米に広大な領土を得たことで、その統治にジオンはエネルギーを割かれすぎているという。
「こちとらスペースノイドなわけだ。大気圏に入るのも、脱出するのも、いちいち手間なんだよ。バカでけえエネルギーが要る。」
ホジョウはドズルの高説を頷きながら聞きながら、ドズル少将の新たな面に触れた気がした。
なぜか帰りにドズルはインスタントコーヒーの缶をホジョウに持たせた。
商店で普通に買えるありふれた品だったが、「これウマいんだよな!沢山買ってあるからやるよ!」と言って渡された。