同窓会の会場には「ジオン公国士官学校第二期卒業生同窓会」と看板が立っていた。
実際にはホジョウがいた頃は「ジオン自治共和国士官学校」だったのだが、現在は「公国」と名を変えている。
「ホウジョウくん!御久しぶり!」
「確か・・・タナカくん?」
ホジョウを唯一「ホウジョウ」と呼んだ同期のタナカが声をかけてきた。
ホジョウ家は元はトーキョーにルーツがある家系で、当時の正式な読み方は「ホウジョウ」と「ウ」を強調する読みらしい。
しかし、スペースノイドの家系ではそうした長い母音は、移民の過程でしばしば縮められる。
タナカはそうした移民の歴史に詳しい男で、ホジョウの名前も伝統的な「ホウジョウ」の発音で器用に呼ぶ。
ホジョウはタナカと配属先や現在の境遇などについて少し話すと、同窓会の会場を見て回った。実は生まれてはじめて同窓会というものに参加したのだ。
途中、ドズル・ザビ少将も姿を現したが、ホジョウを見て「おう」と手を挙げた。
そしていかにも親しみを感じさせる敬礼をするとすぐにいなくなった。
ホジョウが「今のは、自分に向けた挨拶だったのだろうか」とアイドルと目が合った観客のような心持ちでいると、会場のどこかから「校長、今度、中将に昇級されるらしいぞ」と声が聞こえてきた。
ホジョウは十分ありえることだと、また一層、誇らしい気分になって、そんな方から親しくコーヒーをお土産にもらったのだと思うと、遠路はるばる同窓会に来てよかったと心底感じた。
そう考えながら、ハッとした。
すっかり場の雰囲気に和んで忘れていたが、自分は特別な任務でズムシティにきたのであって、ドズル・ザビ少将とお会いしたのは必然なのだと思い直した。
思い直したが、その任務はもうとっくに終わっている。
機密書類も持っていない。
そう考えると気が緩んだ。
さて、ホジョウは根は社交的な人物ではないが、社交性を発揮しようと思えば出来るタイプの人間ではあった。
そもそも、この会合が彼を含むジオンの若い将校の同窓会なので、出席者は総じて能力が高いエリートだ。
この場のほぼ全員が「社交性を発揮しようと思えば出来る」類の人間だった。
そうした人間が揃いも揃って社交的に振舞っているので、会は盛況だ。
その様子を生暖かく微笑みながら見ている男がいる。
「まあ、しょうもないな。」
そして、ラコック大佐はそうつぶやいた。
同窓会のゲストとして招かれている士官学校の指導官の一人だった男だ。
「まあまあ大佐。ジオンの歴史を作る若者たちなので、そこはお手柔らかに。」
ラコックが同伴している女性も軍服を着ている。
「気持ちは分かりますよ。私にとっても彼らは可愛い元教え子新造の将校ですから。ただ、閣下の考える宇宙攻撃軍構想が成るためには多少の辛口さがあってもよろしいでしょう?」
ラコックの目から見ると、その空間は空虚な空間だった。
「盛り上がり方が…なんというか雑ではないですかな?」
「若者らしくてよろしいのでは?大佐も少しはお楽しみになられたら?」
やや意地悪な女性の言葉にラコックは口元を緩めて微笑むと首を横に振った。
「ここに来ただけで、勘弁してください。」
ラコックは先ほどまで元生徒に囲まれて記念写真を取らされていたところからようやく抜けてきたのだ。
「ラコック大佐!お写真お願いします!」
ラコックはため息をつきながら、横の女性にボヤいた。
「私と写真を撮ることが彼らなりの気の遣い方で、もてなしなんだろうな。」
「そうでしょうか?単に若者は写真が好きだというだけでしょう。」
ラコックは納得した顔で「仰るとおりかもしれない」と言うと、生徒に両側を固められて騒がしさの中へずるずると引き出されていった。