鬱アニメの死亡フラグしかない芸人令嬢に転生した   作:とやる

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やられたらやり返すそれがお嬢様の"義"。倍返しで済ます銀行員はまだ優しかったと物理で殴る爆発耐性お嬢様ですわ

 

 星座の名を冠した十二体のバーテックスのうちの一体、乙女座のバーテックス。

 ヴァルゴ・モドキの膨らんだ下腹部から発射された爆撃弾により大地がめくり上がり、マグマが跳ね、音の衝撃が空気を叩く。

 巻き上がる溶岩の混じる土埃を突っ切るように『弥勒』は飛び出した。

 

『よくもやってくれやがりましたわねぇッ!!』

 

 装束はぼろぼろで額からは血を流しているが、駆けるその脚に陰り無し。

『弥勒』の背後では、大盾を展開した護盾隊の防人たちが苦しそうに膝をついていた。

 

 ヴァルゴが砲撃したあの瞬間、アニメ一話の記憶を引っ張り出した『弥勒』は着弾する前に銃剣で爆撃弾を撃ち抜いていた。

 防人たちを襲ったのは直前で爆発した爆撃弾の爆風。それだけでも直撃すれば防人を殺す破壊力を秘めていたが、雀たちによる盾の展開が間に合い被害を最小限に抑えていた。

 芸人の魂を持つ『弥勒』を爆発オチで倒すのはちょっと相性が悪い。

 

『殴って爆発するなら撃っても爆発するのが道理! これ以上届かせねえですわ!!』

 

 ヴァルゴの下腹部が膨らむ瞬間を見逃さず正確に爆撃弾を撃ち抜いていく。

 しかし、一人では対処できる爆撃弾の数に限界があり、どうしても後の方になるほど爆撃弾を撃ち落とす場所が近くなる。

 放物線を描き飛来する爆撃弾が上空で連続して爆発し、踏ん張らないと吹き飛ばされそうなほどの爆風が吹き荒れた。

 

『くっ……! 近づけない……!!』

 

 走れない。

 銃剣も届かぬ遠方から一方的に爆撃される最悪の硬直状態に入る。

『弥勒』がもし一発でも撃ち落とし損ねたら死人が出かねない……それも、長くは続かない持久戦が始まる気配。

 

 だが、撃ち落とされる事を学習したヴァルゴ・モドキは連続して爆撃弾を射出した。

 

 その数、十一。

 

『──ッ!!』

 

 どう足掻いても撃ち落せない数の爆撃弾が高速で降り注ぐ。

 一個撃てば何個かの爆撃弾も誘爆するだろう。

 だが、爆撃弾数発分の大爆発によって生じた白煙に紛れてくる残りの爆撃弾を正確に撃ち抜くことは不可能に近い。

 ならば、一秒とない時間差で飛んでくる十一発の爆撃弾を同時に撃ち抜く? そんなふざけた神業が出来るものか。

 道理を殴り飛ばすような芸当は文字通り神からの御加護を賜った勇者にしか出来ない。

 

 "勇者"なら一人でも切り抜けられた。

 "防人"は一人では切り抜けられない。

 

 一人だったのなら。

 

『弥勒』は迷いなく爆撃弾の一つに狙いを定め、引き金を絞った。

 それとほぼ同時に『弥勒』の背後から重なり合った発砲音。

 計十一発の銃弾は爆撃弾を全て撃ち落としてみせた。

 

『信じてましたわ、皆さん!!』

 

 一人で戦うのが防人にあらず。

 彼女たちは常に部隊で戦う"群れの力"。

 頂に咲く一輪の花にはなれずとも、身を寄せ合い泥臭く、けれど力強く生きる雑草たち。

 

 その絆が防人の力の本質だ。

 

「私たちが撃ち落とすよ弥勒さん!」

 

「だから走って! そのための道は私たちがつくるにゃ!!」

 

『弥勒』が稼いだ時間で最初の砲撃で崩れた態勢を立て直した、頼もしい仲間たちの声が聞こえる。

 ヴァルゴ・モドキの不意打ちはこれで完全に無に返した。

 護盾隊と銃剣隊の半分が星屑の対処にあたり、残りの半分の銃剣隊が『弥勒』の援護に回る。

 姿勢を低くし走る『弥勒』の頭上で何発もの爆撃弾が撃ち落とされる。

 派手な音と光を発し体を震わせるそれはさながら花火のようでもあった。

 

『汚え花火ですわね……! でも、それもこれで終わりですわ!』

 

 仲間の力を借り、仲間の想いを背中に『弥勒』は遂にヴァルゴ・モドキを射程圏内に捉える。

 狙いは下腹部。卵型の爆撃弾が射出される直前。

 防人の装備ではダメージを与える事が難しくても、サジタリウス・モドキがそうであったように、"バーテックス"自身の攻撃であれば有効打を与えられる。

 致命傷にはならなくても。再生に掛かりきりになるほどの負傷をさせる事ができるのなら、撤退を可能にする時間稼ぎになる。

 

『お前を止めなければ全滅するかもしれない。だから──邪魔だ! 道を開けやがれですわッ!!』

 

 低い姿勢のまま、片膝を突き出し大地を削りながらの射撃姿勢。

『弥勒』の銃剣がヴァルゴの下腹部──その射出穴を捉える。

 次の瞬間、『弥勒』の体を凄まじいスピードで伸びたヴァルゴの白い帯のような器官が打ち据えていた。

 

 サジタリウス・モドキと違いヴァルゴ・モドキの攻撃方法は一つではない。

 分かっていたはずなのに、避けられなかった。

 原因は一つ。

 速く排除しようと躍起になった『弥勒』は勝負を急ぎ過ぎた。

 

『がはっ……!』

 

 くるくると『弥勒』の体が宙を舞う。

 視界が明滅する。

 皮膚が裂ける。

 内臓に達した打撃の振動が嘔吐反応を人体へ強制させ、喉を焼く酸っぱい胃液が口内へ迫り上がった。

 平衡感覚すら怪しくなりそうな空中で、それでも『弥勒』は握り締めた銃剣を離さなかった。

 

『お嬢様は根性! 舐めんじゃねえですわッ!!』

 

 片腕でのノールック掃射。

『弥勒』の放った銃弾とヴァルゴ・モドキが放った追撃の爆撃弾が衝突する。

 至近距離で爆風を浴びた『弥勒』の体が吹っ飛び溶岩の中へ突っ込んだ。

 

『弥勒』が吹っ飛んだ場所へ照準を向けるようにヴァルゴ・モドキが体の向きを変える。

 

 その一部始終を、やけにゆっくりな世界で雀は見ていた。

 

「(──死んじゃう)」

 

 雀は臆病だ。

 だが、臆病ゆえに磨かれた雀の生存本能はときに未来予知にも似た超直感を発揮する。

 サジタリウス・モドキの攻撃に気付いたように。

 ヴァルゴ・モドキの出現と同時に前方に飛び出し盾を構えたように。

 雀の"生き残る"事に関するそれは天賦の才とも呼べる域にある。

 

 その雀の生存本能が、ここで『弥勒』は死ぬと告げていた。

 

「(──弥勒さんが死んじゃう)」

 

 何倍にも鈍化した世界で思考が加速する。

 体が震えていた。

 カタカタと震えていた。

 歯の根が合わない。

 呼吸が荒くなる。

 汗が止まらない。

 雀の無意識のうちに最適解を弾き出す生存本能は"この場に留まれ"と叫んでいた。

 

 雀は臆病だ。

 何をするにしても最悪を想像してしまうぐらいの心配性で、臆病者で、怖がりで、死を忌避する当たり前の感性を持っている。

 痛いのは嫌だ。怖いから。苦しいことも嫌だ。怖いから。死ぬのは嫌だ。怖いから。

 怖い。怖いのだ。本当に恐ろしいのだ。

 死にたくない。痛いことをしたくない。本当なら防人だって辞めてしまいたい。

 

「(──弥勒さん、が、死ぬ……?)」

 

 雀は臆病者で卑屈な人間だ。

 でも、そんな自分が好きではなかった。

 そんな雀が防人を続けている理由を、雀の心の奥底はちゃんと分かっている。

 

 防人とは"勇者になれなかった者の寄せ集め部隊"。"かつて勇者候補だった少女たち"。

 見知らぬ誰かのために命を懸けられる"勇気"はなくても。

 友達を、仲間を、そして、ポンコツで変な事ばかり言ってお嬢様っぽくないのにお嬢様を自称して……不安で不安で堪らなかった自分を守ると本気で言ってくれる、大切な先輩を。

 

 守るための"勇気"は、きっと最初から雀の中にあった。

 

 ぐっと拳を握りしめて。

 強く強く、大地を蹴った。

 

「──ぁ、ぁぁああああああああっ!!!」

 

 大音量で警告する生存本能を無視して雀は走る。

 怖い。怖くて怖くて足が震えて上手く走れているかも分からない。

 でも、未練はあれど、走り出した事への後悔はなかった。

 

 ヴァルゴ・モドキが爆撃弾を射出する。

 放物線を描く死の砲弾が『弥勒』へ飛来する。

 仮に『弥勒』がそれを撃ち落としたとしても距離が近すぎるために爆発の圧と爆風は尋常ではない。

 撃ち落とさなければ確実に死ぬ。撃ち落としても恐らく死ぬ。

 防人の少女たちには撃ち落とす選択肢しか残されていない。

 

 ヴァルゴ・モドキの爆撃弾が撃ち落とされる。そのコンマ数秒前に、間に合う。

『弥勒』の前に割って入った雀は盾を灼熱の大地にあらん限りの力で叩きつけた。

 

「死なせるッ、もんかぁぁあああああああああああッ!!!」

 

 視界が白く塗りつぶされるほどの近距離での大爆発。

 巨人に踏み潰れているのかと思うほどの衝撃が盾を通して雀の体をめちゃくちゃに叩き、骨の奥を駆け抜けていく。

 あまりにも重い。足が沈み、膝が屈しそうになる。

 それでも、構えた盾だけは絶対に崩さない。

 

 歯を食いしばる雀の手に、添えられる手があった。

 

『──ごほっ。どうやら、私が守られてしまった見たいですわね』

 

 血を吐く『弥勒』が立ち上がり雀の盾を支えていた。

 

 限界を絞り切っているはずなのに、体に力が湧き上がってくるのを雀は感じた。

 

「ほんとだよ……私を守ってくれるって約束、だったのに……!! ばかばか! 弥勒さんのばか!! 死んじゃったら私を守れないんだよ!? 本当に……ばか!!」

 

『返す言葉もないですわね。だから──ありがとう。受けた恩は倍にして返すのが弥勒の流儀。不死鳥の弥勒と呼ばれた姿をお見せしますわ』

 

「だから誰も呼んでないってば! ……本当に、死んじゃったらだめなんだよ……」

 

 そこで雀は言葉を切って、下手くそな笑みを作る。

 それはまるで、誰かがよく浮かべていた自信満々の笑みの出来損ないのようで。

 

「それに……弥勒さんが死んだら、机と椅子を運ぶのが手間になっちゃうからさ。私を朝に紅茶を飲まないと落ち着かなくさせた責任、ちゃんと取ってよね」

 

『それは……絶対に死ねませんわね』

 

 フッ、と『弥勒』は笑い返す。

 血の化粧を施した相貌に刻む笑みは、清々しいほどにいつも通りの笑みだった。

 

 爆撃弾の雨は続く。

 後方の防人たちが撃ち落としてくれるのを信じて、二人は必死に盾を支え続ける。

 

『一度食らって確信しました。あのスピードで鞭のようにしなり振り回される帯を掻い潜り、砲撃穴を狙うのは難しいですわ。……でも』

 

「何か考えがあるの?」

 

『雀さんが帯の攻撃から私を守ってくれるのなら。必ず、撃ち抜いて見せます』

 

「……それは」

 

『怖いですか? それとも、私を信じられませんか?』

 

「両方」

 

『怖いのは分かります、私だって今も……あれ? ここは場面的に前者を選ぶやつでは? え?』

 

「でも、弥勒さんになら"託せる"よ。あんな化物の攻撃を受け止めるなんて恐ろしくて、足だって震えて、今すぐにでも逃げ出したいけど──弥勒さんに"託す"。だから、絶対に倒してよね! じゃないと、私なんてすぐ死んじゃうんだから!!」

 

『……フッ、失敗はありえないですわ。何故なら、この弥勒が守ると言ったのだから! そして、雀さんが、仲間たちが力を貸してくれるのですから!』

 

 連続で撃ち続けていたヴァルゴ・モドキの爆撃弾を撃ち落とす爆風が僅かに弱まる。

 その瞬間、二人同時に飛び出した。

 

『さんっざん好き放題やってくれやがりましたわね! 私は受けた恩は倍にして返しますが、受けた屈辱に倍返しなど生温い! 半沢直樹はまだ優しかった、真に恐ろしいのはこの弥勒なのだとその身に分からせてやりますわ!!』

 

『弥勒』を狙って帯のような器官がしなる。

 それを殆どスライディングに近い姿勢で前方へ突っ込み回避した『弥勒』が、再びヴァルゴ・モドキの射出穴へと銃剣を突きつけた。

 しなった帯を引き戻す動き。後方から背中を強かに打ち据えようと迫る帯。

『弥勒』は振り向きもしない。

 その背中を、守ってくれる人がいると信じているから。

 

「うぁああああああ!!!」

 

『ナイスですわ、雀さん!!』

 

 横あいから飛び込んだ勢いのままに空中で帯を弾く。

 そのまま反動で転がっていく雀を視界の隅で捉えながら『弥勒』は引き金を引いた。

 

『これでフィナーレですわよ! 勇者ガンッ!!!』

 

 発射された弾丸がヴァルゴ・モドキを捕らえる。

 爆撃弾を超至近距離で爆発させられたヴァルゴの体が崩れ、その体表面がぼろぼろと剥がれていくようだ。

 爆風に吹っ飛ばされて溶岩の上を転がる『弥勒』。

 絶対に手放さなかった銃剣が、強かに片手を大地にぶつけた衝撃で手から離れ滑っていった。

 すぐさま跳ね起きるように態勢を持ち直した『弥勒』はそれを見た。

 

『お前もかあ!!! 頼むから一撃で諦めてくれやがりますか!?』

 

 ヴァルゴ・バーテックス・モドキ、顕在。

 再生終わらぬ崩れかけの体で、それでも神に立ち向かう咎人を殺さんと半壊している射出穴に光が灯る。

 

 銃剣を取りに行く時間はない。

『弥勒』は片足を天に突き刺すように高々と上げた。

 それはまるで、投手がボールを投げるときのように。

 

『ここは異界へと書き換えられた理。神の力満ちる灼熱の地獄。歩けるということは触れられるということ。着弾するということは当たるということ。唸れ闘魂! 燃えろ魔球! 私の全力は──二百キロオーバーらしいですわよ!!』

 

 防人の全力で投擲された"溶岩玉"が爆撃弾が射出された瞬間に接触。

 二回目の超至近距離の誘爆により、今度こそヴァルゴ・モドキがそのリソースの全てを再生に回し始める。

 銃剣を拾った『弥勒』は雀と共にすぐさま撤退だ。

 

『ぎにゃー!? これマグマが中に入り込んで撃てなくなってますわあ!?』

 

「ええっ!? 何やってんのさ!?」

 

『銃剣なので剣としては使えますが……! 防人のメインはだいたい銃の方! 近づかれる前に倒せは鉄則ですわ! これは早速新たなる技、勇者スローを活用する時が来たようですわね……!!』

 

「だから効かないって言ってるじゃんかさ!! その意味分かんない前向きさ絶対危ないから直したほうがいいと思うな!! あと毎度そのネーミングセンスどうにかならないの!? ってうわああああ!? 弥勒さん星屑めっちゃ来てるぅ!? 死ぬ死ぬ死んじゃう!!!」

 

『うおおおおお! 勇者スロー! ……無傷ですとー!?』

 

「弥勒さんのばっかやろー! わーんメブー! 助けてよメブー!」

 

 ぎゃいぎゃい騒ながらも、仲間の援護もあって二人は無事に合流。

 "強化個体"を倒していた芽吹たちと共に、再生途中のヴァルゴ・モドキから逃げ切り、無事に四国結界内へと帰還できた。

 

『最後、ヴァルゴの攻撃が弱まったのって』

 

「強化個体を倒した私たちがヴァルゴを攻撃したからね。こっちにも爆撃弾が流れてきたから、その分よ」

 

『そうでしたか。また助けられたのですね。お礼を申し上げますわ、芽吹さん』

 

「……弥勒さんのおかげで死者を出さず切り抜けられた事には感謝します。ですが、前回も……そして、今回も。私の部隊では絶対に死者は出しません。それは貴方もですよ、弥勒さん。……忘れないで」

 

『……ええ。"死者は出さない"。私も、それは素晴らしいと思いますわ』

 

『弥勒』は雀にそう言ったように、約束という言葉は使わなかった。

 芽吹はそれに気付かない。

 積み重ねた時間や、芽吹自身の問題が、芽吹の周りへ目を向ける心の余裕をまだ十分に作っていないからだ。

 

『……難しいものですわね』

 

 ふと、『弥勒』が視線を向けた先には防人の少女たちに囲まれる雀の姿があった。

 臆病者というレッテルを貼られ、防人番号三十二という数字も相まって何処か軽んじられていたところのある雀が今回の任務で見せた"勇気"に思うところがあった者も多いのだろう。

 慣れない様子であたふたしていた雀だが、芽吹を見つけるとぱっと緊張を脱力させ芽吹に抱きつく。

 芽吹は呆れたような顔で眉間を揉んでいるが、雀は安心しきっているような表情を浮かべていて。

 それは、『弥勒』が雀に与えてやれないものだった。

 

『もっと強くなりてーですわねー』

 

『弥勒』の目的は"勇者を戦わせないこと"。そして、"防人を誰も死なせない"。

 危険な任務だ。困難だって多い。今回みたいに、『弥勒』一人の力ではどうしようもなくて、仲間の力を借りる事もいっぱいあるだろう。

『弥勒』はちょっとアニメを通じた知識があるだけで、そんなに強くはない。

 そんな事は『弥勒』が一番よく分かっている。

 

 でも、それはそれとして。

 

『あー、全身いってえですわ……骨はギリ折れてない……ですわよね?』

 

 臆病な後輩を安心させてやれるぐらい自分も強くなりたいなと、『弥勒』は思った。

 

 翌日、『弥勒』と雀は同時に目を覚ました。

 目覚まし時計が一緒なのだから仕方ない。

 ついでに言うと隣り合って寝てるのだから何も不自然な事はない。

 

『入院になりましたわね……』

 

「入院になったね……」

 

 そういうことである。

 

 今回の任務で負傷した防人は多かったが、その中でも『弥勒』と雀の怪我は重く無事入院の運びとなった。

 といっても安静にしてれば一週間程度で退院できるので、実際には検査入院といったところだろう。

 

 やることないなーと雀が朝ご飯の時間までぼーっとしていると、となりからコポコポと水音が聞こえて来る。

 

「何してるの?」

 

『お湯を沸かしていましたわ。これが無いと始まらねぇのですわ』

 

 シャッと開くカーテン。

 そこには、湯気の立つティーカップを持つ『弥勒』が居て。

 

『どうやら私は責任を取らないといけないようですので。雀さんも一杯どうですか?』

 

「うん、私は責任を取ってもらわなくちゃいけないんだよ、弥勒さん。だから一杯頂きます」

 

 いつもの場所で、いつもの時間でははなかったけれど。

 いつものように飲む紅茶は、やっぱりいつものように悪くなかった。

 

『あー、やっぱコレですわ……』

 

「ビール飲んだときのうちのお父さんみたいだよ、それ」

 

『えっまじでかですわ?』





「メブー!URおめでとう!メブが強くなって私も嬉しいよ!え?だってメブは私を守ってくれるからメブが強くなればなるほど私が安全に……え?防人勇者のステータス大幅アップで逆に最前列で戦わされる?……嘘だよね?冗談だよね?嘘だといってよメブー!ねえ!ねえってば!!わーんメブー!そんなのってあんまりじゃんかさ!私を守ってよメブー!」
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