鬱アニメの死亡フラグしかない芸人令嬢に転生した   作:とやる

4 / 5
New スーパーミロクシスターズ

 

 先の任務の負傷により入院する事になった『弥勒』と雀。

 防人としての御役目を担う特殊性を鑑みて彼女たちの生活はゴールドタワー内で完結しており、そのため本来なら中学校に通う年頃である彼女たちのための授業もゴールドタワー内で行われる。

 そのため、お昼休みなどには二人のお見舞いに訪れる防人たちも少なくなかった。

 

「弥勒さん、来たよ! これカツオ」

 

『ありがとうですわ』

 

「弥勒さん、加賀城さん、調子はどう? あ、これカツオね!」

 

『カツオたすかりますわ』

 

「前回の任務のときも、その前のときも、私たちを守ってくれてありがとう! 加賀城さんもカッコ良かったよ! あ、それとこれカツオだよ! 二人で食べてね!」

 

『弥勒の名を持つ者として当然の行いですわ。それとカツオありがとうですわ』

 

「二人ともそんな大した怪我じゃないみたいでよかったにゃー。はい、欲しがると思ってたから持ってきた鰹節」

 

『冷奴には欠かせませんわね』

 

「いつから防人はカツオ漁師になったの?」

 

 雀は冷静に突っ込んだ。

 

『地道な草の根活動の成果ですわ。いつの日か香川の名物はカツオとなっているでしょう』

 

「……や、弥勒さんにはカツオ渡しとけって思われてるだけじゃない?」

 

『フッ。そうやって余裕ぶっこいてられるのも今のうちですわよ。なぜならつい最近食堂には私自らが考案したカツオうどんがメニューに載ったのですから!』

 

「えっそうだったの!? 自分の好物布教するために特産品から浸食してきた! 熱意とやり方がエゲツない!」

 

 カツオうどん。ぷりっぷりのカツオのたたきとカツオで取った出汁が美味いと好評のぶっかけうどんである。

 

『ゆくゆくは紅茶を浸透させるために紅茶うどんも……』

 

「一番ダメな人に一番ダメな成功体験を与えてしまってる気がする」

 

 因みに西暦二千二十年に紅茶うどんは実在する。

 一度食べた人のだいたいは「これ分けたんじゃダメだったの……?」と言うらしい。

 

 そのまま雑談しているとまた一人病室に訪れた。

 山伏しずく。

 防人番号九番の、大人しい少女である。

 

「よう、弥勒!! 見舞いに来てやったぜ」

 

 ……大人しい少女? 

 

『あら、シズクさん。久し振りですわね』

 

「久し振り? 何いってんの弥勒さん、しずくとは昨日も会ってる……え?」

 

「あん? んだよ、言いたいことがあんならさっさと言え」

 

 ギギギ、錆びたブリキのように首を動かした雀は『弥勒』に振り返った。

 

「ダレデスカ?」

 

『シズクさんですわ』

 

「見た目はそうだけどさあ!! しずくはポケットに手を入れないし私を睨まないしあんな喋り方しないよ!! 誰あれ!?」

 

『シズクさんですわ』

 

「私の話聞いてた!?」

 

「んだようるせえなあ。俺が俺だと何か不都合でもあるのか?」

 

「ヒィ!? め、めめめ滅相もございません!」

 

「目を見て話せ。あとその喋り方やめろ」

 

「ははーっ!!」

 

「目ぇ見ろっつってんのに土下座すんのか!? なんだこいつ!」

 

『シズクさん、雀さんが怯えてますわ』

 

 ちょっと見てて哀れなぐらい雀はシズクにビビっていた。

 見かねた『弥勒』が割って入る。

 雀はすかさず『弥勒』のベッドに飛び移り『弥勒』の背に隠れた。

 

「弥勒さんこれどういう事なの!? しずくがしずくだけどしすぐじゃない!!」

 

『雀さんは初めてでしたっけ……紹介しますわ。此方はシズクさん。しずくさんの中にいるもう一人のしずくさんとでも言いましょうか……まあ速い話がしずくさんは二重人格でして』

 

「二重人格……? ということは、元のしずくは……」

 

「しずくは今は俺の中で眠ってるな。まあいいじゃねえか何でも。今は俺がシズクだ」

 

 とんとん、とシズクが親指で自身の胸を叩く。

 人格や意志と呼ばれるものが脳の働きによって生まれる以上、二重人格とは頭の中に別の人格フォーマットが保存されている状態だ。

 しかし、あえて自身の胸を……心を指して"ここに眠っている"とシズクが言ったことから、山伏しずく/シズクがお互いをどう思っているかを二重人格のカミングアウトによる衝撃の中で雀は朧げに理解した。

 

『ところで、いつ変わったんです?』

 

「今朝起きたら。理由までは知らねえ……おい、弥勒。それ以上近寄るな」

 

『なんでですの? せっかくお見舞いに来てくれたのですから、何かおもてなしをせねば弥勒家の名折れですわ。ささ、早くこちらに』

 

「ナチュラルに自分の膝の上を叩くのもそれがおもてなしになると思ってるのも思考回路バグってるだろ。俺はしずくと違って抱きしめられるの好きじゃないからな。十四にもなって恥ずかしいだろ」

 

『弥勒に抱きしめられることに恥ずべきことは一切ありませんわ。ささ』

 

「屁理屈が剛腕過ぎる」

 

『亜耶さんはぎゅうってさせてくれますのに……』

 

「……ん? もしかして俺を亜耶と同じ位置に置いてないか?」

 

 小さくて可愛い枠。

 

 そのまま雑談に入りかけた二人に、雀が疑問の声をあげた。

 

「……弥勒さんとシズク様って知り合い……知り合い? この表現が正しいか分かんないけど、仲良さそうなのはどうして? 私、シズク様のこと今日初めて知ったのに」

 

 雀の記憶では、防人として集められてから今日までシズクを見た事がない。

 ゴールドタワーで共同生活を送る防人たちの中で、山伏しずくが二重人格であるという噂話すら聞いた事がないのだから、恐らくシズクの存在を知っている者も相当少ないはず。

 しずくを猫っ可愛がりしているフシがある『弥勒』だが、彼女がしずくとは防人として集められてから知り合った関係なことも知っているため、シズクの存在を認知している事が不思議だったのだ。

 

 一度シズクと顔を見合わせた『弥勒』は懐かしむように目を細めた。

 

『そうですわね……あれは私が気絶してから一週間後ぐらいの事ですわ』

 

 目を瞑り、手を当てた胸から当時の感情が記憶とともに蘇る。

 忘れもしない。

 あの日。

 

『弥勒』は木登りをしていた。

 

 適当なところまで登って、適当な太さの木の枝に腰掛けて、やりきったように額の汗を拭う。

 満足した顔の少女がそこにいた。

 それはまるで何ヶ月も外出を自粛した子どもが、数ヶ月ぶりに思いっきり外で遊び倒したような顔だった。

 

『一度やってみたかったんだよなーですわ。お嬢様ですもの』

 

 夢解釈と呼ばれるものがある。そのうちにの一つに、"夢は願望を満たすもの"という考え方がある。

 それに則るならば、『弥勒』は前世で"お嬢様は木に登るもの"という認識を何処かで刷り込まれ、前世の記憶を取り戻した今、夢のように不確かで朧げな記憶で"お嬢様だから木登りがしたい"というモノへ変質した結果だ。

 当たり前だが普通のお嬢様は木に登ったりしない。

 

『自分の体を使って木という自然の壁へ挑む。登り切ったあとに見える景色は、ただ高いところから見るそれとは本質が異なる己の手で掴み取った"高みの景色"。そうですわ、これがお嬢様の見る景色……!』

 

 ばか違う戻ってこい。

 木登りで見えるお嬢様の高みがあってたまるか。

 

『……おや、あれは』

 

 木の上で高みの景色を見ていると、『弥勒』が登っている木の方へ歩いてくる少女が見えた。

 その少女は木の幹へ背中を預けると、そのまま座り込んでしまう。

『弥勒』はその少女に見覚えがあった。

 なので、挨拶はしておこうと軽やかに飛び降りた。

 

「私の居場所は。もうここだけ……」

 

『ご機嫌ようですわしずくさん』

 

「……ヒュぅぁっ!!?」

 

 鮮やかな三点着地を真横で突然決められた少女、しずくが口から心臓が出そうなほどびっくりした。

 

「だ、だれ!? え。ぁ。弥勒……?」

 

『こうやってちゃんと話すのは初めてでしたわね。あと、良ければ私の喉元に突き刺しかけてる手刀をやめて頂けると助かりますわ』

 

「ぁ、ごめん……」

 

『いえいえ。此方こそ少し不躾でしたわね。それにしても、流石は防人番号九番。一から八番までの指揮官型を除く通常の防人で一番強いと認められている腕前ですわね』

 

 反射だったのだろう。

 下手したら殺されてたかもしれない精度と速さの手刀に冷や汗を流す『弥勒』。

 自己主張の低そうな外見からは想像もできないような、天賦の才とも言うべき"戦う才能"の片鱗がしずくには垣間見える。

 

「……それは。私じゃない」

 

 もっとも、やはり顔を伏せるその姿からは想像もできないが。

 

 微妙に気まずい沈黙が場を満たした。

 あっやべ、なんか地雷踏んだっぽいですわと察した『弥勒』が話題を変えるように切り出す。

 

『そういえば、しずくさんはどうして此処に?』

 

「……少し一人になりたかったから。弥勒こそ。どうして?」

 

『お嬢様の高みを目指すためにですわ』

 

「お嬢様の高み……?」

 

『この辺で一番高い木がこれですので』

 

「……???」

 

『フッ。お嬢様とは険しき道のり。孤独ゆえに理解されない茨の道を進むのもまたお嬢様……』

 

「……私の知ってるお嬢様は多分木登りはしない」

 

『えっ、まじですの? 私がお嬢様の最先端?』

 

「ポジティブ過ぎる……。私小学校は神樹館だったから。お嬢様けっこう見てる」

 

『神樹館……? イマイチ記憶に引っかからないですわね……でも、"神樹"の名を冠してるってことは相当由緒正しいところっぽいですわ』

 

「うん。……あの乃木家のご令嬢とか。同級生だった」

 

『な、え?』

 

『弥勒』の思考が一瞬止まった。

 

『乃木……? それでしずくさんの同級生……まさか、乃木園子……?』

 

「……そうだけど」

 

『……東郷、いや……この頃は……鷲尾須美』

 

「──っ!」

 

『もしかして、しずくさんは先代の勇者たちを知って──』

 

「……どうして。弥勒が彼女たちを知ってるの?」

 

 その声には、理解の及ばないものを怪しむ色があった。

 

 勇者乃木園子。

 勇者鷲尾須美。

 

 アニメ一期で出てくる先代勇者の二人。

 一人は数十回にも及ぶ満開で身体機能の殆どを捧げてしまいベッドの上から動けなくなり。

 一人は満開で足の機能と記憶を捧げ、名前を変えて勇者として続投する少女だ。

 

『弥勒』の知識では先代勇者の"二人"はそういう認識になる。

 だが、"彼女たちと同じ学舎に通う同級生だった"しずくは違う。

 しずくにとって彼女たちは隣のクラスの同級生で、カッコよくて、普通の女の子たちで、そしてある日突然居なくなった人たち。

 特別な御役目を担っていることは聞いていた。危険な御役目だとも聞いていた。

 だけど、彼女たちはあまりにも普通であり善良で、自分よりも友を想う人たちだったから。こんなに尊くて善い人たちが死ぬわけないとしずくは思っていた。

 だから、その別れはあまりにも唐突だった。

 

 死。

 祭壇。棺。献花。

 花の中に横たわる少女。壊れた体。

 

 その記憶は今もしずくの中に焼き付いている。

 憧れだった。

 あんな風になりたいと思った少女だった。

 

 啜り哭く声が聞こえる。彼女の弟の慟哭が耳に突き刺さる。名誉の死だと零す大人の声を鼓膜が拾う。

 座る者のいない机に置かれた花束。もう誰も呼ばない名前。

 

 勇者三ノ輪銀。

 

 銀の死からおよそ一ヶ月ほど経った頃、行方を晦ませるように乃木園子と鷲尾須美も転校をした。

 つまり、しずくにとって乃木園子と鷲尾須美は行方の知れない少女であり、もしかしたら、もうこの世にいないかもしれないと考えている少女たちで。

 

「どうして。答えて……弥勒。彼女たちは生きて──」

 

『しっずくさん!!! 是非ともお話を伺いたいですわ!!!』

 

「えっ」

 

 ぐっと体を前のめりにした『弥勒』がしずくの両手を掴む。

 シリアスが死んだ。

『弥勒』とシリアスの組み合わせは長持ちしない。

 

『アニメ一期だけだとよく分からなかった東郷さんとそのっちの過去……。辛い結末なのは分かっていますが、私はその先の日々の未来を知っている。だから私は知りたいですわ! 普段の彼女たちのことが!』

 

「待って。弥勒。何言ってるか分からない。それに……なんで弥勒が知ってるの?」

 

『なんでと言われましても……勇者様を知っていることがそんなにおかしい事ですの?』

 

「それは……」

 

 おかしくはない。

 先代勇者の名前まで把握している人は少ないだろうが、いないわけではない。

 例えば、まだ防人を編成する前段階、四国各地で勇者適性を持つ少女たちを一まとめにしたグループを作っていた段階。大赦からの指示を受けてそのグループのリーダーとなる者は、誰が勇者に選ばれたかを知っているし、その際に先代のことも耳にしているだろう。

 

『(勇者候補だった、というだけはありますわね。あとは、この世界の基盤、"神樹信仰"も大きいですわ。神樹様から与えられた崇高なる御役目、それが怪物たちと戦うとびっきりの非日常……。今日まで"神樹様に守られている"以外のファンタジー要素から無縁だった少女たちが興味を持つには十二分過ぎる。防人たちは勇者に興味を示す傾向がありますわね。だから私が知っていても不自然では無いはずですわ)』

 

「(大赦関係者……? でも弥勒は没落して。大赦からも追い出されてるって話。でも。かつての名家に何らかの情報源があってもおかしくない)」

 

 まあそんな事は全く関係ない迫真のすれ違いをしていたが。

 

『でも、そうですわね。私が何で"こんな事"になってるのか少しだけ考えてたところはあったんですわよね。でも、多分こういう事だったんだと思いますわ』

 

「弥勒……?」

 

『弥勒』は、しずくの言葉をちゃんと聞いていた。

 ちゃんと聞いて、受け止めて、自分に出来ることを探して、見つけていた。

 

『乃木園子と鷲尾須美は生きている。生きて、今を生きている……はずですわ! ラストの演出的に! だから、会いに行きましょう。会って、お話をしましょう。きっとそれが一番ですわ、しずくさん』

 

 多分、しずくは彼女たちと友達だったんだろうなと『弥勒』は考えていた。

 なんか事情があって急に離れ離れになったんだな、鬼畜大赦ならやりかね無いと『弥勒』は思っていた。

 このままは苦しいだろうな、辛いだろうなと『弥勒』は感じていた。

 純度マックスの勘違いだが、しずくが彼女たち二人にもう一度会いたいと心の何処かで思っていたのは、勘違いではなかったから。

 

「(会う? 会ってどうするの? ……あ。でも。私は、まだありがとうを言えてない)」

 

 人と話すのが苦手で孤立していたしずくを見つけて、友達のように接してくれた……友達になってくれた、彼女に。

 三ノ輪銀に、その大切な友達の少女たちに、伝えたくて伝えられなかった、もう伝えることを諦めてしまっていた事があるから。

 

「弥勒。……私は。もう一度。会いたい」

 

 だから二人は、勇者に会いに行く事にした。

 

『(やっぱりアニメ世界に来たんだから原作キャラには会いたいですわあ!!! あ、色紙! 色紙持っていかないとですわ!!!)』

 

 台無しだよ。

 

 しかし。

 

「許可できません」

 

「ダメです」

 

「讃州市に行く事は認められません」

 

『弥勒』の提出した外出届は全て受理されなかった。

 

『ブッ潰れちまえ大赦。ですわ』

 

 思わず怨念の篭った声も出るというもの。

 

 普通ならここで諦めた。

 そういう教育と統治がこの世界でされているから。

 だけど、『弥勒』はその世界より半歩外側にいる存在で、ついでに大赦が嫌いだったので。

 

『ダメと言われるならこっそり行くまで。あらゆる障害を乗り越えて讃州市までたどり着く……そう! New! スーパー弥勒シスターズの始まりですわ!』

 

 紅いベレー帽を被った『弥勒』と緑のベレー帽を被ったしずく、大赦に内緒で夜中にこっそり出陣! 

 

「……これはなに?」

 

『弥勒をローマ字にするとMiLokuですわ。見えましたわね』

 

「弥勒のスペルは。LじゃなくてR」

 

『どっちも一緒ですわ』

 

「力技で捻じ曲げてる」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。