「あっ、エーテル抽出機はそこに設置して。あと補給船の着陸場も用意して」
泰平は先日着陸したモスクワの海に基地を作っていた。
「管理人、補給船の到着は」
「あと三時間で着かせるよ」
「わかりました。あと三時間で着陸場を設置します」
最初は旗しか立っていなかった場所も、今ではガラスドームが鎮座する立派な基地になっていた。
「あとは食料基地も設置したいな・・・。やることはいっぱいあるぞ」
泰平の目標は月面都市の基礎を築くことであった。それはKerbal計画の『主任』たちが誰も思いつかなかったことだった。
(・・・今頃は、サッカーの試合が盛り上がっているのかな)
本当だったら、サッカーの試合を見に行くという予定だったが、時間を無駄にはできなかった。
(まあ、すごい試合にはなりそうだけど・・・)
アリサと同じクラスである高町なのはの父親のサッカーチームには、あの男子たちが参加しているのだ。彼らは運動神経が小学生とは思えないほど抜群なのだ。
(僕にもああいった才能があったらなあ・・・)
だが、嘆いてもしょうがない。泰平が専念すべきは月面開発だった。
「あとは・・・。研究室の皆さん、奇跡論の研究は進んでいますか?」
「ええ、進んでいますよ。それにしてもすごい技術ですね。科学と融合させれば、さらなる可能性の開花が期待できそうです」
泰平の宇宙開発は順調に進んでいた。奇跡論を宇宙開発に転用できるのも遠い未来の話でもないようだ。
「さて、新しい宇宙船の開発もしますか」
そういって、浮遊ウィンドウに手を触れる。
「月の洞窟の掘削もしたいからな・・・そうだ、エーテル電磁砲を使うか!」
そう言って、砲台のついた宇宙船を組み上げ始めた。
そこに史強がため息をつきながら、部屋に入ってきた。
「泰平、面倒くさい事実が判明したぞ」
「なんですか?」
「この街にはかなり奇跡放射能を持っている奴が多い。特に、お前の通っている小学校とか」
「・・・たとえば?」
「たとえば、お前と違うクラスの高町なのはとか言うやつだ」
「意外と身近でしたね」
「その高町とやらの同じクラスでも、男子がかなり奇跡放射能を持っているな。・・・しかし、こいつら本当に日本人なのか?まあ、ソフォン・システムがまた調べてくれるだろう」
非日常は意外と身近にあるものだ。そう泰平は思った。
「あと、お前は知らないと思うが、八神はやてとかいうガキも・・・」
「その子は友達です」
Lobotomy計画以前、泰平はKerbal計画関連の本を読むためによく図書館に行っていたのだが、よく顔を合わせることがあって、それで自然と友達になったのだ。
「・・・そうか。あと、フェイト・テスタロッサとかいう最近引っ越してきたガキも奇跡放射能を持っているが、こいつも知り合いか?」
「その子は知りません」
「そうか。まあ、顔は覚えとけ」
そう言って、史強は写真を差し出す。金髪で、赤い瞳の可愛い少女だった。
・・・どこか寂しそうな雰囲気が出ていたが。
「・・・かわいいですね」
「そうだろ。だが、ちょっと厄介な問題があるが・・・今は言えないな」
「・・・わかりました」
管理人になってから、泰平はいくつか隠された情報があることを察していた。
(でも、僕はまだ九歳だ。隠された情報があっても仕方ない)
泰平は自分の立場をわきまえることはできていた。
「ところで、月面開発が済んだら、次はどこに行くつもりだ?」
「・・・とりあえず、エウロパですかね?」
今日は比較的早く帰ることができた。・・・といっても夕方だが。
たまには歩いて帰りたいと思い、公園に降ろしてもらった。
「最近、ろくに歩いて帰った覚えがないからなあ」
夕方の街並みはどこか寂しいものだ。
「さて、今日のご飯は何かな・・・うん?なんだこれ」
道端に青く光る石があった。
(普通に発光してる。エーテル光にしては青く光ってるし・・・。それとも奇跡論とかかな)
触って確かめるべきか。だが、泰平の直感が危険信号を発する。
(やめとくか、明らかに高エネルギー物体の予感がするし)
だが、それでもその石に惹きつけられてしまう。
「・・・スケッチするくらいならいいよね」
そう言って、最近持ち歩いている自由帳を取り出して、スケッチする。
泰平は自分でも絵が上手いということを自覚するくらいの実力はあった。
「それにしても、綺麗だなあ」
数分後には、本物と似たような絵が出来上がっていた。
「・・・そこをどいてください」
「あっ、すみま・・・」
泰平は何とか動揺を隠すことができた。
背後に立っていたのはフェイト・テスタロッサだった。
「・・・すみません」
とりあえず、そこから立ち去ろうとする。
「待ってください。その絵を見せてください」
「・・・はい」
少女は自由帳を手に取って、しばらく見つめていた。
「・・・上手ですね」
「あっ、ありがとうございます」
少女は宝石の絵の上に書いてある宇宙船の絵を指差した。
「これはあなたが考えたんですか」
「そうです。新しいエーテル推進式の探査船で・・・」
その時、泰平は自分の立場を思い出す。管理人だということは秘密にしなくてはならない。
「・・・まあ、考えただけなんですがね。こんなのが飛ぶとも思えないし」
「・・・」
泰平はまた立ち去ろうとする。
今度は服を掴まれた。
「・・・その絵、私にください」
「いいですよ」
そう言って、宇宙船と宝石が描かれているページを破り取り、少女に渡す。
そして、すぐに走り去る。
「フェイト、どうしてあんなガキが描いた絵なんて欲しがったんだい」
「できるだけ、一般人が知らないようにするため」
フェイトは少年がスケッチした絵を見つめる。正確すぎる。あまりにも正確すぎるのだ。
「下手したら、魔法の存在が露見するかもしれない」
フェイトは宇宙船の絵に視線を移す。
「・・・ねえ、アルフ。地球は管理外世界なんだよね」
「・・・まあ、そうなんじゃないの?アレ見ると怪しくなるけどさ」
アルフの視線の先には、エーテル・軌道エレベーターが立っていた。
夕方の街並みを仄かに照らしている。
「あんなので宇宙にいくなんて変なこと考えるよな」
「・・・やっぱりおかしい」
「なにが?」
「エーテルなんて聞いたことないし、それに変な感じがする」
「・・・まあ、確かに違和感は感じるけどさ」
二人は魔法文化圏出身なので、魔力を感じることができる。
だが、エーテルからは魔力とは別の何かを感じた。
魔法でも科学でもない何かを
「・・・ここまで来れば、大丈夫かな」
泰平は今後から本当に気を付けて街を歩こうと思った。
つづく
エルトリア文明は『コンタクト』によって改革を迎えた。
だが、その代償はある意味では大きいものだった。
文明の基礎を成す感情が地球に対する恐怖となったのだ。
「地球文明・・・、そんなものの存在を認めろとでもいうのか」
エルトリアは常に軍拡が日常的に行われるようになった。
子供たちに対する教育は、地球に対する憎悪を涵養するものとなった。
だが、それもまた別の話だ。