「・・・それにしても何なんだこいつは?」
史強はファイルを睨む。
『暁美ほむら』
「なぜソフォン・システムの監視が効かない?」
彼女のファイルに書かれているのは
『監視失敗』
その四文字だけだった。
〈速報です。ヨコハマ宇宙港は本日午後に火星に船団を送ることを発表しました、繰り返します・・・〉
さっそく朝からすごいニュースだった。
(・・・まあ、僕はエウロパ開拓に専念するだけだ)
宇宙飛行士たちは有能で、管理人である泰平がいないときも作業を進めてくれるので、エウロパ開拓にいよいよ乗り出せそうだった。
「さて、学校に行くか」
そして、学校。もちろん教室では朝のニュースが話題になっていた。
「やっぱ火星人いるのかな」
「いたらいいなあ」
泰平は席に着く。
「おはよう、泰平君」
「おはよう、暁美さん」
いつものように暁美は泰平に挨拶し、そのまま席に着いて本を読み始める。
(・・・そういえば、どうして暁美さんは僕にだけ声をかけるんだろう?)
何も思い当たることはなかった。接点といえば、隣の席というぐらい。
(・・・今はエウロパに専念しよう)
予想通り、図書館からは火星に関する本がすっかり無くなっていた。
だが、問題はなかった。泰平は本棚から一冊の本を取り出す。
『エウロパに向かって』
かつてのKerbal計画で『主任』が放った『処刑用』無人探査機によってエウロパに関するデータは集まっていた。そのデータを子供にわかりやすくした本だった。
「またそんな本を読んでるの」
前の席にはいつものようにアリサが座った。
「ええ、ちょっと必要なので」
「必要・・・ね」
泰平はできるだけ言葉を選んでいた。自分が管理人だというのは隠す必要がある。
「・・・ところでさ、今週末、暇?すずかの家でお茶会するんだけど」
すずかというのはアリサのクラスメイトだ。
「いえ、ちょっと用事があって・・・」
「そう、ごめんね」
アリサの顔はどこか憔悴していた。
「アリサさん、何か辛い事でもあったんですか」
「・・・大したことじゃないのよ。ただ、ちょっとうちの男子がギスギスしているというか・・・」
「・・・あの人たちも、喧嘩はするんですね」
泰平には信じられなかった。あんなに素晴らしい人間たち同士が喧嘩するなんて。
「・・・はあ、アンタ、うちの男子を何だと思ってんの?」
「超人」
「まあ、間違ってはいないわね」
アリサの顔に少し元気が戻ったように見えた。
「やっぱりアンタといると気が楽ね」
「・・・ありがとうございます」
だが、少し泰平は不満だった。
(でも、何が不満なのか僕もわからないや・・・)
だが、ともかくエウロパ開拓だ。すげに月面基地でも宇宙船が待機していた。
今回のエウロパ航海は海鳴宇宙港から発射される宇宙船と、月で待機している二隻の宇宙船で行くことになっている。
「宇宙船はこんなものでいいでしょう」
ささっと宇宙船を組み上げて、物資を積み込み、エレベーターで宇宙に向かっていった。
だが、ここで泰平はあることを思い出す。
(あっ、やばい。いま組み上げた宇宙船、このまえの女の子に見せたのと同じデザインじゃん)
だが、気を取り直す。
(まあ、偶然だと思ってもらえればいいか)
「あれ、あの宇宙船は・・・」
「・・・この前のガキが描いていたのと同じ見た目じゃないか」
まもなくして、月に待機していた宇宙船と合流し、エーテル機動でエウロパを目指す。
「よーし、順調ですね」
しばらくして、火星の前にまでたどり着く。
「あとは小惑星帯を超えれば・・・」
だが、その時だった。火星の前に巨大な鏡が数十枚も出現した。
「な、なんですか!?」
「ま、まさか・・・。噂には聞いていたが・・・!」
「知っているんですか、史強さん!」
「ああ、あれは間違いなく・・・」
数十枚の鏡のそれぞれから巨大な宇宙船が出現する。
「・・・Nフィールド航行だ!」
「え、Nフィールド航行!?」
鏡は割れて、その破片は光の粒となって消えた。
「ああやって精神世界を通ることで、航行時間の短縮を行う技術だ。まあ、ワープと変わらんな」
「その技術の情報は手に入りませんか?」
「もちろん手に入るぞ。今後から使ってみるといい」
こうして泰平の宇宙開発はさらに進むことになるのだが、それはまた別の話。
小惑星帯、一般人は巨大な岩石が密集していると想像するだろうが、実態のところはそこまでごみごみした場所ではなく、スカスカともいえるほど小惑星と小惑星の間の距離は離れていた。
だから二隻のエーテル宇宙船は楽々と突破することができた。
「順調ですね」
「ああ、順調だな」
かつてのKerbal計画において『主任』が「順調」というと必ず宇宙飛行士が死んだ。
だが、Lobotomy計画においては『管理人』の「順調」は生還を意味するものとなった。
エウロパに着陸。トラブルでもあると思った?ないよ。
「よーし、さっそく開発を始めてください。地表は氷なので気を付けてくださいね」
あっさりと人類初の外太陽系開発が始まった。
泰平が帰った後の管理人室。
「それじゃ、乾杯」
「ああ、乾杯」
汪淼と史強はシャンパンをあおる。
「それにしても彼は本当にすごいな。もう外太陽系の開発を始めるなんて」
「まあ、近いうちに近くの恒星にも乗り出すんじゃないか?」
「あり得そうだな」
汪淼は苦笑した。史強の冗談が本当になりそうだからだ。
「確かNフィールド航行を目撃したんだろ?」
「ああ、目が煌めいていやがった」
SFのお約束にワープ航法による恒星間航行が存在する。泰平はいつの日かそれを実現するかもしれない。
「その頃には、もう地球はとんでもないことになっているだろうな」
その時、モニターにノイズが走る。そして青く点滅する。
別の宇宙港からの通信を意味する色だった。
「こ、こちらヨコハマ宇宙港管理人のキバヤシだ!」
眼鏡をかけた男性が冷や汗を流しながら叫んでいた。
「おっ、キバヤシか。何があった?」
「史強か!それに汪淼もいるのか!・・・本当の管理人はどこに!?」
「さっき帰ってしまったよ」
「な、なんということだ。もういい、本題に入る!火星に運んでいた美術品が盗まれた!怪盗の仕業だ!それによって人類は滅亡する!」
「「な・・・なんだってー!」」
つづく
蛇足(という名のネタバレ)
大山泰平の見た目はA(DAY50)と鹿目まどかが混ざった感じ。
作者本人も泰平君の姿がイメージできない。
まあ、顔のパーツが鹿目まどかのものになっているAだと思ってください。