生徒会長・雪ノ下雪乃 奉仕部部長代理・比企谷八幡 作:おたふみ
授業が終わり、海老名さんと話すためにもう一度2-Fへ。
比企谷君が出るタイミングとあってしまった。
「よう。由比ヶ浜か?」
「いいえ、海老名さんよ」
彼は何かを察したのだろうか。
「部室、使うか?」
「いいえ、生徒会室を使うから大丈夫よ」
「そうか」
あっさりと返されたので、意地悪をしてみる。
「部室は一色さんと貴方がイチャイチャしているからイヤよ」
「んぐっ!知ってたのかよ。イチャイチャしてないからね、コキ使われてるだけだからね」
そんな軽口の会話をして、彼は部室へ向かった。去り際に『お手柔らかに頼む』と言っていた。本当に甘いのよね。
「あっ、ゆきのん!どうしたの?」
「由比ヶ浜さん、抱きつかないで!」
あぁ!柔らかい!暑い!柔らかい!
「ゆ、由比ヶ浜さん離れて。海老名さんは居るかしら?」
「姫菜?居るよ。姫菜~!」
由比ヶ浜さんに呼ばれ、海老名さんがやってきた。
「何かな?」
「海老名さん、少し時間いいかしら?」
海老名さんは私の顔を見て何かを察したのだろう。
「結衣、優美子と先に行ってて」
「姫菜?ゆきのん?」
由比ヶ浜さんが心配そうな顔をする。
「大丈夫よ、由比ヶ浜さん。大した話じゃないから」
「そうだよ結衣。ちょっと雪ノ下さんにBLを布教しようと思ってね。愚腐腐…。結衣もどう?」
え?それはお断りしたいわね。
「あっ!いや~。じゃあ、先に行ってるね」
由比ヶ浜さんが三浦さんの方へ行き、海老名さんがこちらに向き直った。
「じゃあ雪ノ下さん、行こうか」
こちらに向いた彼女の顔は真剣なモノだった。
海老名さんと生徒会室に入る。
「少し待ってもらえるかしら?今、お茶を淹れるわ」
今回はいつもの紅茶とは違う。
「どうぞ」
「ありがとう。これは…、ハーブティー?」
「そうよ。冷静に話をしたいから。私も貴方もよ」
「なるほどね」
海老名さんはハーブティーを一口すすり、話し始めた。
「雪ノ下さんはどこまで知っているのかな?」
「なにも知らないわ」
嘘ではない。私の憶測でしかないのだから。
「じゃあ、聞き方を変えるね。いつ気がついたのかな?」
相変わらず主語がない。
「主語がないわよ。言わなくてもわかっているからいいのだけど。気がついたのは、休み時間にそちらのクラスに行った時よ。あまりにも普通に由比ヶ浜さんと話をしていたから」
「さすが雪ノ下さんだね」
「そんなことはないわ。私はあの時何も知らず何も出来なかったのだから。依頼は奉仕部へ来た時にしていた…ということでいいかしら?内容は告白の阻止及びグループの存続…」
「うん、そう。その…、ごめんなさい」
「それは、何に対しての謝罪なのかしら?」
「私の依頼のせいで奉仕部が…」
「確かに、雰囲気が悪くなってギクシャクしたわね」
「そうだよね…。実際に生徒会と奉仕部で別れちゃったし」
「私は乗り越えられると思っているの。私達三人ならね」
「雪ノ下さんは強いね」
「そんなことないわ。私は彼の存在があるから頑張れるのよ。普段は『存在感がない』とか言ってるクセに…」
「ヒキタ…、比企谷君だよね」
「そうね」
「雪ノ下さんは、やっぱり比企谷君のことを…」
「彼への好意に気がついたのは、あの嘘告白があったからかもしれないわね」
「そうなんだね」
「今、冷静に話が出来て居るのも、彼のお陰よ」
「どうして?」
「さっきすれ違う時に『お手柔らかに』って、言われたのよ」
「比企谷君らしいね」
「私も一人のことが多かったからわかるのだけど、貴方も趣味せいで昔は一人…ボッチだったのではないかしら?」
「うん、そうだね」
「彼はきっと過去の自分と重なったのでしょう。だから、あんなやり方をしても、貴方の依頼を解消した」
「そうだと思う」
「戸部君の依頼を受けた由比ヶ浜さんもそう…。自分と重ねたのでしょう」
「そうだね」
「由比ヶ浜さんは、知ってるの?」
「まだ言えてない…」
「そう。でも、いつか言ってあげて。友達なのでしょ?」
「そうだね。たぶん近いうちに結衣と優美子には言うつもり」
「それは?」
「たぶんクリスマスに、戸部君に告白されると思う…」
「そう…」
「その時は、ちゃんと優美子と結衣に話すよ。そして今回のことも謝る」
「それがいいわね」
「許してもらえないかもしれないけど…」
「そんなことないわよ。由比ヶ浜さんは優しいし、三浦さんは比企谷君曰く『オカン』だから」
「そんなこと優美子に言ったら怒るよ」
「だから、内緒にしてあげて」
「わかった」
もうひとつ確認をしておかないと。
「海老名さん、あとひとつ。グループの誰かには相談しなかったのかしら?」
「勿論、相談したよ」
由比ヶ浜さん、三浦さんに相談していないということは…。あの男は…。
両方から相談されていて、出来なくなって丸投げしてきたのね…。
「ゆ、雪ノ下さん、顔恐いよ」
「あっ、ごめんなさい」
「その事は…」
「大丈夫よ、今は何もしないわ。彼が守ったグループなのだから」
「薄っぺらいグループだけどね」
「でも、もしあの男がまた…」
「その時は仕方ないよ。私は心の中では、見限ってるから」
「あら、私と一緒ね」
「雪ノ下さんは、ハッキリとだけどね」
最後はお互いに笑っていた。
海老名さんが帰り、カップの中に残ったハーブティーを飲んでいると、扉がノックされた。
「どうぞ」
「…うっす」
ひ、比企谷君!
「あら?誰も居ないのに声がするわね」
「ふっ、俺のステルスもそこまで進化したか」
「おかしいわね、声と腐敗臭だけするわ」
「おい、腐ってないからね。って、臭ってないよね?」
「冗談よ。こんにちは、比企谷君」
「まったく…」
「それで、生徒会室に何か用事?」
「いや、紅茶飲みに来ていいって言ってたから…」
本当に来てくれたのね。まぁ、海老名さんの件もあるのでしょうけど…。
「あれが、只の社交辞令だったら帰るんだが…」
「そ、そんなことないわ。す、座って待っていてちょうだい」
「お、おう」
ハーブティーを淹れ比企谷君の前に。
「今日はハーブティーなんだな」
「えぇ」
比企谷君と一緒にお茶を飲む。すごく幸せな時間。
海老名さんとのことは何も聞いてこない。
「何も聞かないのね」
「ん?聞かんでもいいだろ?」
「何故?」
「雪ノ下が、すげぇいい顔してるから」
「え?」
ひ、比企谷君が私の顔を…。
「い、いや、すまん。別に凝視してた訳じゃなくてだな。その、雰囲気というかなんというか…」
ちょっとだけ意地悪をしたくなってきた。
「そ、そう…。私を視姦したのね。通報しなくては」
「ま、待て。まず携帯をしまってくれ」
「では、罰として私を送りなさい」
「へ?」
「こ、この前も送ってくれたじゃない…」
「いや、視姦とか言った相手に言うことかよ…」
ここは一色さんのマネをして。
「…ダメ?」
「うぐっ!卑怯だぞ雪ノ下。わかったよ」
「最初から、素直になりなさい」
素直じゃないのは私ね。
でも、『心の思うままに』…。