『山宮太郎』→『荒瀬慎司』
「何してんの?こんなとこで1人で泣いて」
「ふぇ?」
夕焼けが辺りに赤を染み込ませる時間帯に幼女が1人公園のブランコで泣いているのを見てつい声をかけてしまった。いや、普段ならそんな事しないんだけどこの幼女があまりにも悲しそうだったんでついつい。
「………だれ?」
「俺?俺は……たろ……慎司ってんだ」
「…シンジ?」
「そ、シンジ」
俺こと荒瀬慎司はいわゆる転生者と言うやつである……と思う。といってもただ前世の記憶があると言うだけで転生者かどうかは分からない。妄想なのかもしれない。
ちょうど二十歳の時に俺の不注意で事故に遭い死んでしまった。完全なる自業自得、ボーッとして信号が赤に変わった事にも気付かず道路に飛び出した俺が完全に悪い。俺を轢いた運転手にも申し訳ない事をした。しかしなんの因果か俺は記憶を保持したまま新たな生を受けた。普通の家庭に生まれ現在5歳。前世と合わせれば25歳。
体は子供、頭脳は平凡、精神年齢大人。勘弁してくれと言いたい。転生したこの世界も前いた地球と同じようで違う。元いた地球とは違うのだ。何故分かるのか?と問われたら返答に困るが感覚的な物で何となく理解していた。
何となく違和感を感じるのだ。その違和感も5年も経てば消え失せたが前の世界とは決定的な齟齬を感じているのは変わらなかった。まぁ、今となってはどうにもならない事。前の世界での未練や後悔は沢山あるが今は前を向いて新しい人生を楽しもうと誓ったのが生後3ヶ月の時。喋れないフリしてバブバブ言ってるのは辛かったな。まぁ、何年かしてそのフリも耐えきれずやめてしまったが。
ちなみに『荒瀬慎司』というのはこの世界における両親から授かった名前で前世では『山宮太郎』という名前だった。
さて、自分語りが長くなってしまったが今は目の前の幼女をどうにかしないと。急に声をかけられてビックリしてるしな。見た目は5歳の俺は同じくらいの歳に見える幼女に話しかけた所で周りの目は気にならないが25歳である俺の精神は悪い事をした訳ではないのに妙に焦りを感じさせる。とりあえずはだ……。
「んで?君の名前はなんていうの?」
「……………なのは」
短くそう答える幼女の瞳には涙が溜まったままだった。
「なのはちゃんか、可愛い名前だね」
考えなしにとりあえず褒めておこう。悪い気はしないはずだ。少しでも警戒心を取ってくれると嬉しい。そしたら早速聞いてみよう。
「どうして1人で泣いてるの?」
そう聞くとなのはちゃんは少し躊躇う素振りを見せてから
「ううん、なんでもないの……」
と無理やり笑顔を作って見せた。同年代の子供達なら騙されそうな立派な作り笑いだったが生憎さま俺の25歳という実年齢の前にはすぐにそれが作り笑いと看破できた。
隠すということは知られたくない事なのか、それならば部外者の俺は立ち入るべきじゃないだろう。けど、なんでだろう何となく今の俺は立ち入るべきだと直感が告げていた。知られたくないとかそう言う事じゃなさそうだ。多分この子は……所謂いい子という奴なんだろう。
「えぇ、隠さなくたっていいじゃんかー。教えろって、相談に乗るよ?」
伊達に前世で20年生きてないぜ?この子の悩みを少しでも軽くする事は出来なくはないと自惚れても良いだろう。友達と喧嘩したか?それとも家族と?いじめか?とにかくなんでもカモンだ。
「ほ、ホントに大丈夫だからっ」
おおっと逆効果だったかな?いきなりズカズカ無神経だったかも。反省しつつ次の行動に。
「ホントに平気なの?泣いてたから普通に心配になっちゃうんだよ」
「あ、ありがとう。でも、ホントに平気だから…」
泣いてたのも目にゴミが入っちゃってと言い訳し始めるなのはちゃん。うーむ、こりゃ正攻法じゃダメだなぁ。仕方ない、素でいこう。
なのはちゃんが下を向いて目を離した隙に素早く持参している目薬を両目に数滴垂らす。溢れない内に始めよう。
「そ、そんな……おしっ……お……」
「……?」
急に雰囲気が変わる俺を不思議そうに見つめるなのは。
「おじえでくれてもいいじゃんがああああああああああああああ!!!」
「え、ええ!?貴方が泣くの?」
そうだ、焦れ焦れ。理不尽な理由だけど今君のせいで俺は泣いているのだ。嘘泣きだけど。とにかく罪悪感にかられて事情を説明してくれるまでやめんぞ俺は。
「おじえでよおおお!おじえでよおおおお!!なんで泣いてたんだよおおおお!!」
「私はいま貴方が泣いてまで聞いてくる事を教えてほしいよっ!」
ジタバタジタバタ、ゴロゴロゴロゴロ。服が汚れるのも構わず暴れ回る。
「うわああああああん!!なのはちゃんがいじめるよぉ!いくら聞いても意地悪で教えてくれないよおおお!!」
「誤解を招く言い方しないでよぉ〜」
分かった、言う!言うから!と降伏宣言をした所でピタッと嘘泣きをやめる。
「ほれ、さっさと言え幼女なのは」
「よ、よう?……あ!嘘泣きだったの!?」
「さぁねぇ?とりま、言うって言ったからにはちゃんと教えてくれよん?」
「うう、釈然としないぃ……」
そう言いながらも何処か毒気が抜けたような顔をしたなのはちゃんはポツリポツリと話をしてくれた。
……………………………。
「だから、寂しくてつい泣いちゃってたんだ」
そう話し終えるとなのはちゃんは笑顔を見せた。先程と同じく作り笑顔だ。
俺は困惑した。正直想像以上に重い話だった。ごめんなのはちゃん舐めてた。君の悩み舐めてた。ホントごめんと心中で平謝りである。ええっと要約すればなのはちゃんの家の大黒柱であるお父さんが事故に遭って入院中で相当重症で長期の入院になるとのこと。そして、大黒柱がいない高町家を守るため高町家が経営している喫茶店の『翠屋』で朝から夜遅くまで母親が働き詰め。なのはちゃんには姉と兄がいるらしいけどその2人も母親を支える為お店を手伝っているらしい。
まだ幼いなのはちゃんはお店の手伝いは荷が重く、せめて迷惑は掛けまいと1人でいい子になるよう努力しているみたい。
誰もいない。いってらっしゃいもおかえりも言ってくれる人が誰もいない家を出入して1人寂しくご飯を食べてずっと過ごしているらしい。
5歳の女の子にそれは酷い事だ。なのはちゃん曰くご家族は何とか時間を作ってなのはちゃんと一緒に過ごそうとはしてくれているらしいのだが中々上手くいかないとの事。よほど切羽詰まってるのだろう。1人我慢して良い子になろうと努力しているなのはちゃんに甘えている形なのだ。何も知らない俺はそれを断じる資格はない、酷いように聞こえるがなのはちゃんのご家族もきっとこのままではいけないと思っているのだろう。
せっかく俺に話してくれたけどこの問題は俺の力では根本的には解決できない。なのはちゃんのお父さんが元気に退院してようやく解決する問題だ。けど、今俺がすべき事は明白だった。
俯くなのはちゃんの手を俺はとった。少し驚いた反応するなのはちゃんを見つめながら
「一緒に遊ぼうぜ、まずはブランコだオラァ!」
「え?ちょっ、まっ!キャア!?」
なのはちゃんが座っていたブランコを後ろから思いっきり押す。帰ってきた所を更に勢いをつけて押し返しそれを繰り返す。時に助走をつけて押し返しさらにブランコを高く加速させる。
「ひゃあああ!!」
なのはちゃんが面白い悲鳴をあげて止めてと懇願してくる。無論止めないが。
「まだだ!もっと速く、加速するんだ!目指せクロックアップの世界!!」
「何でもいいから止めてよぉ!怖い怖い怖い!!」
数分ほどなのはちゃんの反応を楽しんだ後ブランコを止めてあげる。なのはちゃんは頬を膨らませてポカポカと俺の胸を叩いて抗議してくるがいかんせん非力過ぎて全く痛くない。
ていうかそれで怒ってんのかよ、かわいすぎだろ。
「まだまだこれから!次はあれじゃあ!!」
「わっ!?引っ張らないでよぉ!」
公園でしばしなのはちゃんを振り回す形で遊びまわる。シーソー、滑り台。ある遊具全て使ってスリリングな遊びを提供して終わる頃にはなのはちゃんはくたびれた様子だった。
だがこれでいいんだ、この子の寂しさを俺の力じゃ振り払う事は出来ない。今日知り合ったどこの誰かも分からぬ俺じゃ寂しさを忘れさせる事なんか出来ない。おこがましいことだが、少しでもいい。ほんのいっときだけでもその寂しさを紛らわせてあげるだけでもしてあげたかった。それが今俺が出来る精一杯。
「んじゃ、俺んち行くぞ」
「え?」
くたびれた様子のなのはちゃんを引っ張り上げてそう言いながら手を引っ張る。この公園から数分もかからない場所にある今世の我が家へ。
「で、でも……私もう帰らないと………」
「家に誰もいないんだろ?俺んちの電話使って連絡しとけば平気だって。一緒にご飯食おうぜ」
でもでもと遠慮するなのはちゃんを無視して無理やり連れて行く。本当に嫌なら無理して連れて行く事はないけどなのはちゃんの顔を見れば何となく本気で嫌という訳ではなさそうだし。まぁ、いいだろう。強引だけど、この子にはそれくらいの方が丁度いいような気がする。
………………………。
家に帰れば共働きの両親は既に帰宅していた。この時間には毎回帰ってきている所を見ると割とホワイトな職場なようで子供ながら安心している。まず遠慮がちに玄関から動こうとしないなのはちゃんを家に招き入れ、驚く両親には軽く事情を説明してご飯の1人分追加を懇願。
急な話だったから叱られると思ったが笑顔で快く了承。なのはちゃんから電話番号を聞き翠屋へ電話して高町家への報告と許可を貰ってくれた。これで心置きなくなのはちゃんもご飯が食べれるだろう。
ホント両親に感謝である。久方ぶりの1人じゃない食事に最初は戸惑っていたなのはちゃんも途中から楽しそうにお話をしながら夕食を満喫していたから良かった。
2人でご馳走様と手を合わせて洗い物の片付けを手伝った後母親から褒美でアイスを貰う。美味しいねと最初とは違う心開いてくれた笑顔を向けてくるなのはちゃんを可愛らしいなと思いつつ
「ホッペにアイスついてる」
「え、う、嘘っ……」
赤面しながら頬を拭うなのはちゃん。
「俺のホッペに」
「か、からかわないでよ!」
反応が面白くてついついいじりたくなる。あんまり怒らせない程度に気をつけないといけないなこれは。
とまぁ、食休みをしつつあっちむいてホイやら両親交えてトランプやら遊んだらもう流石に帰さないといけない時間に。事前に高町家には何時頃に家まで送ると伝えたそうで両親と俺でなのはちゃんを家まで送ることに。家から徒歩15分程の場所になのはちゃんの家に到着。てかやばいなのはちゃんの家すげぇ立派。立派な日本家屋、そして隣に立派な道場も隣接してる。武士?武士の家系?侍?なのはちゃん侍?
ちなみに喫茶店の方は商店街の方にあるらしい。家にはエプロン姿の女性が1人。なのはちゃんに似てるな、お姉さんかな?すっげぇ美人。
「あっ、お、お母さん!」
お母さん!?うそん母親?若っ!若すぎだろ。三児の母でしょ?なのはちゃん末っ子でしょ?嘘だろおい。つい自分の母親と見比べる。
「悪かったね美人で若くなくて」
そんな事思ってないよママン。あれはあの人がおかしいだけだよ。だから後ろからアイアンクロー決めないで。ていうかママン早婚だから年齢まだ若いほうでしょうに。
なのはちゃんのお母さん(名前は桃子さんと言うらしい)は俺の両親に深々と頭を下げてお礼を言ってくれた。どうやら店を抜け出して慌てて来たのだろう。律儀な人だ。
「慎司、今日はこれでなのはちゃんとお別れなんだからちょっと向こうですこしお話でもしてなさい」
ほいほい、パパん。大人同士の積もるお話があるのね。俺も混ぜてと言いたいが空気を読んで素直に応じる。
………………………。
「申し訳ありませんでした。息子がなのはちゃんを振り回してしまったみたいで」
慎司となのはちゃんが離れた所にいるのを確認してから妻が桃子さんにそう言い頭を下げる。自分も続いて頭を下げると、桃子さんは慌てた様子で
「そ、そんな……お礼を言うのはこちらの方です」
そう言い桃子さんも頭を下げてくる。埒が明かないので自分から本題に入る事にした。
「事情はなのはちゃんと息子からある程度聞いています」
桃子さんの旦那さんが病床についていること。不本意ながらもなのはちゃんを1人にしてしまっている状況についても。桃子さんは悲しそうな顔を浮かべて自分が不甲斐ないからと責め始める。それに待ったをかけたのは妻だった。状況が状況だ、人間そう万能に出来ていない。桃子さんは自分が出来る事をしっかりやっていると励ました。頼りになる妻だ。
さてここからは提案だった。
「不躾な提案なんですが………今後うちの方でなのはちゃんの夕食の面倒を見てあげたいと思うのですがいかがでしょう?」
自分の提案に桃子さんは驚きの声を上げた。
「そ、そんな……そこまでしてもらうわけにはっ……」
「いえいえ、なのはちゃんくらいの小さい女の子1人増えても手間も変わりませんし………」
妻から助け船に後押しされつつ続ける。
「旦那さんが退院するまでの一時的とはいえずっと1人にしておくのも……勿論桃子さんが悪いと言っているわけではないのですが」
少し傷つける言い方だが、よくない状況には変わりないので正直に言わせてもらう。
「夫婦共働きだったのですがちょうど来週で妻は仕事を辞めて家に専念してくれることになっていたので」
これは事実だ。前々から決まっていた事でタイミングも良かったのだ。
「それに、こう言っては何ですが100%の善意と言うわけではないんです」
「はぁ、それは一体?」
口を開く。自分はこの人の今切羽詰まった状況を図らずも知ってしまった。それを知った上で自分はズカズカ踏み入るようになのはちゃんの面倒を見させてくれという提案をした。だから、せめてこの本心は今日初めて会った人とはいえ伝えるべきだと思った。
「息子………慎司はしっかりしている子なんです」
まるで自身の息子を自慢する親バカに見えるような発言だ。だが、この言葉にはそう言う意味は篭っていない。
「確か……2歳頃でしょうか……急にピタリと赤ん坊で起こす粗相を全く起こさなくなったんです」
ぐずることはおろか泣いている姿さえ見なくなった。病気とかそんな風には思わなかった。最初はむしろ誇らしささえ覚えた。こんな小さいのに偉い子だ。そう思った。5歳になった今でも泣いているところは見ていない。
だが同時に笑っている所を見る事が少なくなった。おもちゃを買い与えてもありがとうとお礼はしてくれるがそこに子供らしい笑顔はなかった。一緒に会話している時も、5歳の子供と話していると言うよりはもっと大人に近い年齢の子と話している気分になる。まるで見た目とは別に中身は成熟した人格があるかのような。雰囲気や、言葉選びが話題が子供のそれとは違うんだ。
何度も言うようだがだからといって自分も妻も慎司を不気味だとかそういう風には全く思わなかった。うちの子はこういう子供なんだ。しっかりしていて心が大人びているだけで自分の息子には変わりない。この子との一緒の生活は楽しいと本心で思っている。
しかし心が大人のせいか慎司は親である自分達に気遣う事が多い。それはそれでうれしく思う気持ちがあるが、親としてはもっと甘えて欲しいという本音もあるのだ。
「今日、慎司がなのはちゃんと一緒にご飯を食べて遊んでいる所を見た時とても楽しそうに笑っていました」
初めてできた友達だからか分からないが、心の底からなのはちゃんと一緒に何かをする事を楽しんでいた。親の目からはそういう風に見えた。あれは無理になのはちゃんに付き合ってあげてるとかそういう事ではなく、本人が楽しんで色々行動していた。そして極め付けはあの言葉。食後なのはちゃんが席を外した時に出た慎司の言葉。
『なのはちゃんの家が落ち着くまで、ダメ……かな?毎日ご飯誘ってあげちゃ』
慎司から飛び出たなのはちゃんを気遣いつつもでた私達に対するお願い。悪くいえばわがまま。滅多どころか全く言ってこなかった慎司のそれを叶えてあげたい。その本心を桃子さんに伝える。
桃子さんは何度も真剣に頷いて頭を下げてよろしくお願いしますと言ってくれた。
………………………。
「今日はありがとう」
両親と桃子さんが話し終わるのを待っている時なのはちゃんは急にそう言ってきた。
「別にお礼言われるようなことはしてないよ。俺が楽しんでただけだしね」
「そ、それでも……嬉しかったから」
「友達と遊んで一緒にメシ食っただけじゃんか。まぁ、そのお礼は受け取っておくよ」
俺がそう言うとなのはちゃんは少しポカンとした後ニヤニヤしだした。
「ん?なんだよ?」
「あ、ううん!何でもない、何でもないの………。友達……友達かぁ……にゃはは」
友達って言われた事が嬉しかったのね。まぁ、それくらいで喜んでくれたのなら何より。そういえば今世の俺と同い年って言ってたしそこらへんは5歳相応だよね。にしてもそんなにニヤニヤしちゃってかわいいやつめ。
なのはちゃんの頬を指で挟んで引っ張る。
「にゃっ!にゃにふるのぉ」
グニグニと痛くない程度に引っ張り回す。肌すべすべしてんなぁ、若いだけある。ほれグーリグーリ。びよーんとな。
「にゃー!にゃめてよ!」
ポカポカと叩いて抗議してくるが構わず続ける。
「ぷっ、変な顔」
「しょうしゃせてるのはきみでしゅー!」
痛!?このやろう俺の指に噛み付いてきやがった!
「貴様許さん」
「ちょっ、やめっ……くすぐらな…にゃははははははは!?」
「ほーれ、ここか?ここがええんか?」
息も絶え絶えになるまでなのはちゃんをくすぐり撃沈させる。はぁ、スッキリした。楽しいなぁおい。年甲斐もなく5歳の女の子と全力で今日は遊んだ。なんだか気分も晴れやかだ。チラッと両親の方を盗み見する。
どうやら話はついたようだ。遠目からみた雰囲気で何となく分かった。うまく話もまとまったみたいだし、桃子さんの許可も得たっぽい。あとは、なのはちゃん本人が何て言うかだな。ちゃんと聞いてなかった。両親と桃子さんがゆっくり近づいてくる。
「なのはといっぱい遊んでくれてありがとう慎司君」
開口一番桃子さんにお礼を言われる。うわ、本当美人なひと。前世の俺だったらそのまま惚れちゃってたかも。まぁ5歳の体のせいか自然とそんな邪な気持ちは浮かばなかった。
「俺も楽しかったんで、お互い様っす」
「ありがとう、そう言ってくれて」
すごくニコニコしてるな。よっぽど心配はしてたんだろうななのはちゃんの事。さてさて、俺の提案は受け入れてもらえたっぽいし後はなのはちゃんの返答を聞くだけだ。桃子さんはなのはちゃんの頭を撫でながら両親からの提案をなのはちゃんにまんま説明する。
「どう、なのは?慎司君達と一緒にしばらくお夕飯……どうかな?」
少し期待に満ちた表情をしたのを俺は見逃さなかった。しかし、すぐに両手を合わせてもじもじし始める。これはまた変に遠慮しようとしてるな。ホント、5歳とは思えないよこの子は。しっかりした子だ。なら、後押ししてあげよう。
「いいじゃんなのは。今日楽しかったし明日からずっとウチに来なよ。俺は大歓迎だよ」
その言葉になのはちゃんはつられるように桃子さんに頷いてから。
「私も……そうしたい」
か細い声でそう言う。その言葉を聞いて俺も桃子さんも両親も笑顔を浮かべて頷き返した。その後正式に桃子さんからよろしくお願いしますとのお言葉をもらう。それに付け加えて
「このお礼は必ず致します」
その言葉に両親は気にしないで下さいと笑って返していた。とりあえず今日はこれで解散だ。明日から本格的になのはちゃんと色々楽しい遊びをしよう。本当に、年甲斐もないが…同情で始めたお節介だったが自分も存外に楽しかった。俺も明日からの生活に少しワクワクしている。お別れの挨拶をして両親と帰路につく。
「し、慎司君っ!」
少し離れた所でなのはちゃんの声が聞こえてきた。
「バイバイ!」
少し恥ずかしそうにしながらも一生懸命手を振って伝えてきてくれた。何だろうか、本当に小動物みたいで可愛らしい子だなぁ。大人びた考えをしているけどやっぱり5歳の子供である。
そんな俺も中身は大人でも見た目は5歳だ。ここはなのはちゃんに倣おう。
「おう!また明日なぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!!!!」
テンション上がって全力で腹から声を出したら母親に近所迷惑だとどつかれた。まぁ、なのはと桃子さんのビックリした顔を見れたのでよしとしよう。あぁ、ホント明日から楽しみだ。
機嫌よさそうな足取りで帰路につく息子を眺めつつ、妻に息子には聞こえないよう話し掛ける。
「明日から頼むよ。ミッドチルダに引っ越すのも考えていたけど慎司の為にもこのまま地球で生活した方が良さそうだし」
妻は専業主婦となるべく先日魔導師を引退した。自分はこのままミッドで魔導師を続ける事になるが。
「まぁ、通うのは大変だと思うけど頼むね。一家の大黒柱になるんだから」
妻の激励に少し胃を痛くしつつも頑張ると誓う。慎司には魔導師の事は内緒だ。いずれ話すことも考えてはいるが今ではない。精神が大人びているとは言ってもちゃんと一般的に物事をしっかりと考えられる実年齢になってから話すと妻と決めたのだ。なのはちゃんの事もあるしとりあえずは地球で根を下ろすつもりで頑張ろう。
「………」
鼻歌を刻みながら歩く息子を見つめる。何となく頭に手をポンと乗せて撫でる。慎司は動きを止めてどうしたの?と告げてくる。
「いや、よくやったな慎司。偉いぞ」
なのはちゃんのことを気にかけてあげた心優しい一面を見せてくれた息子を褒める。慎司は少し驚きつつも、照れ臭そうな笑みを浮かべる。あぁ、やっぱり……例えどんなに普通の子と違っても、内面が大人びていても。俺達にとってかけがえなのない1人息子だとそう再認識した。
更新は不定期ですので悪しからず。