転生しても楽しむ心は忘れずに   作:オカケン

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 今回は難産でした。焼肉食べたい


結末

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をしに来たの?……消えなさい。もう貴方に用はないわ」

 

 開口一番のプレシアの言葉にフェイトちゃんは一瞬悲しみの表情を浮かべるがすぐにそれを消して決意の眼差しを向けて口を開く。

 

「貴方に……言いたいことがあって来ました」

 

 フェイトちゃんの想いを俺たちは静かに聞いた。自分はアリシアじゃない。プレシアに作られた人形なのかもしれないと。それでも、プレシアに育てられたフェイト・テスタロッサという自分はプレシアの娘だとハッキリと告げる。

 

「だから何?今更貴方を娘だと思えと言うの?」

「貴方がそう望むなら」

 

 鼻で笑うかのようなプレシアの言い方にフェイトちゃんは態度を変えず真っ直ぐにそう伝える。プレシアが望むなら、フェイトちゃんは娘として世界中のどんな人からどんな出来事からも貴方を守ると。

 

「私が貴方の娘だからじゃない……貴方が私の母さんだから」

 

 フェイトちゃんの想い。答えを聞いた。自分がどうであろうとプレシアが自分の母親で娘として支えたいと。フェイト・テスタロッサが1人の女の子として………娘として伝えたかった事を聞いた。よく頑張ったと心中に思う。

 ここまで来る道中になのはちゃんと話をしたのだろうか。俺と別れる前よりも逞しく感じた。プレシアは一瞬、一瞬だけ優しい笑みを浮かべてからフェイトちゃんの言葉をこう返した。

 

「………くだらないわ」

「っ!」

 

 拒絶。なのだろうか、分からないがプレシアはフェイトちゃんの想いをその一言で片付けた。彼女の目にはアリシア以外の者は写らないのだろうか。フェイトちゃんは覚悟していたとはいえ悲しそうにプレシアを見つめていた。既に一度拒絶されてからの再びの相容れない結果。

 俺も何かプレシアに叫びそうになったが堪えた。一番悲しいのはフェイトちゃんだ、俺じゃない。そんな真似は出来なかった。2人が相容れる事はない、分かっていた結果とも思える。少なくとも俺はそうなるような気がしていた。それでも、ちゃんと勇気を振り絞ったこの子を褒めてあげたい。

 

「よく頑張ったな、偉いぞフェイトちゃん」

 

 隣に立ち、頭をぽんっと優しく叩く。本当によく頑張ったと思う。

 

「言ったろ?その気持ちは本物だ。胸を張れ、せめて堂々してろ。俯く必要はないから、堂々と」

「……うん」

 

 何も卑屈になる必要もなければ申し訳なく思う必要もない、フェイトちゃん。君が母親だと思うあの人には堂々とした姿を見せてやるんだ。たとえプレシアが拒絶しても、認めなくても堂々と。

 

「プレシア、あんたは自分を不幸な人生だと呪ってるかもしれないが俺はそうは思わないぜ」

「………………」

「こんな誇らしく良い娘さんに2人も恵まれたんだ、その事実だけは幸福とも言えんじゃねぇの?」

 

 俺のその言葉にプレシアは少し間を開けてから高らかに笑い始めた。それは嘲笑か、皮肉ゆえか、愉快ゆえか分からない。だが、俺には笑っているというよりも泣いているようにも見えた。

 

「はは………ははは」

 

 ひとしきり笑ってからプレシアはフェイトちゃんではなく俺に視線を投げる。もう、彼女の心情は読めない。今、何を考えているのか分からなかった。プレシアの中で心境の変化が垣間見えた気もしたのだが彼女はフェイトちゃんを拒絶した。そんな彼女は、今更俺に何かあるのか?

 

「………貴方の名を聞かせてくれるかしら?」

 

 そのプレシアの言葉に面食らった。そんな事聞いてどうする気だろうか。しかし、言わない理由もなく俺はハッキリと伝える。

 

「………荒瀬慎司だ」

「その名前じゃないわ」

 

 ここにはクロノやフェイトちゃんもいる。2人はプレシアのその言葉に意味を見いだせず首を捻る。俺は何を言いたいのかすぐ分かったがフェイトちゃん達がいる前でこれを言うのは少し憚れる。が、真剣な瞳で問うてくるプレシアを見て、俺は迷いを捨てて答えた。

 

「山宮太郎だ」

 

 俺の言葉にプレシア以外は更に疑問を抱くような顔をした。意味は分からないだろうけど教えるつもりもないから出来れば流してほしいし気にしないで欲しい。

 

「そう………」

 

 俺の返答にプレシアは満足気に頷くと穏やかな表情を浮かべた。そんな表情で一瞬フェイトちゃんを見つめるプレシア。しかし、それはほんの瞬きの間で瞬時に冷たい仮面をかぶったいつものプレシアの表情に戻る。そして、覚悟を決めたような真剣な眼差しに変わったかと思うと自身の杖で足元を強く叩く。瞬間、庭園の崩壊と共に全体に地響きが走った。

 

「うわっ!」

 

 突然の現象にバランスを崩して膝をつく。隣のフェイトちゃんも俺と同じようにバランスを崩していた。これは………恐らくプレシアの仕業だろう。しかし、いったい何をするつもりだ……ここを崩壊させたら俺たちどころか自分だって……。 

 

「慎司っ!フェイトっ!」

 

 後方にいるクロノの声が耳に入るが俺はプレシアから視線を外す事なかった。

 

「私は向かう、アルハザードへ………そして全てを取り戻す。過去も未来も…たった一つの幸福も!」

「まだそんな事を!」

 

 過去は取り戻せない!なかった事にはできないんだよ!そして、幸福は一つじゃない。

 

「これから作っていける!俺みたいに……作っていける……だからっ!」

 

 その先の言葉は続かなかった。プレシアの足元が崩れて彼女は逃げる事なく、重力下に晒され落ちた。

 

「母さんっ!」

「フェイト!」

 

 フェイトが落ちるプレシアを助けようと身を投げ出しかねない勢いで走るがアルフがそれを止めた。が、俺はフェイトちゃんより早く走り始めていた。体が勝手に動いてプレシアに手を伸ばしていた。

 

「ぐおおおっ!」

 

 間一髪、プレシアの手を掴む。小学生の体だがプレシアの細身の体を支えて掴むくらいの腕力はあると信じたい。鍛えてるし、しかしいくら小学生の体とはいえこれは重すぎるぞ。おかしい明らかに。

 

「……離しなさい」

「お前こそ離せよ……」

 

 プレシアは俺に掴まれた手とは逆の手でアリシアの生体ポッドを掴んでいた。おいふざけんな、それ人が持ち上げるものじゃないだろ。何こんな時に火事場の馬鹿力使ってんだよ!

 

「……囚われ続けるのか!過去に、アリシアに……前に進まないでずっと後ろを向いてる気かよ!」

「ええ、私はそれでいい。それでいいのよ……」

 

 クソがっ!このアマ……このままだと俺も落ちちまう。ヤベェ。

 

「慎司!」

「この馬鹿!」

 

 アルフとフェイトちゃんが慌てて俺を落ちないように支える。しかし、生体ポッドが重すぎる。アルフとプレシアをよく分かんない液体も入ってるし…なんで持ってられるんだプレシア。そんな腕力あるなら自力で登って来やがれ。いや………

 

「お前、このままアリシアと一緒に落ちる気かよ!」

「そうよ、だから邪魔をしないで」

「そんな事みすみす見逃すと思うのかよ!」

 

 あんたは死んじゃダメだ!このまま死ぬ事は許されない。罪を償って前を向いて生きなきゃダメなんだよ!それがアリシアの望みでもあるはずなんだから!フェイトちゃんだって、こんな別れはダメだ!離さない、絶対に離さない!

 

「………世話が焼けるわね」

「っ!!」

 

 プレシアの手を掴んでいた手に衝撃と痛みが伴った。手に力が抜けてプレシアは次元の狭間にアリシアと共に落ちていく。魔力弾だ、プレシアが俺に放った魔力弾。

 

「クソがっ!!」

 

 再び体を乗り上げて手を伸ばすが届くはずもなく。落ちていくプレシアを見る事しか出来ない。フェイトちゃんも呆然とプレシアを見つめる。落ちていくプレシアの表情はどこか穏やかで悲し気で……儚い。初めてフェイトちゃんと出会ったときのように。………やっぱり親子だよあんたら。

 

「母さんっ!」

 

 チラッとフェイトちゃんを見つめてすぐ視線を俺に戻すプレシア。そして、小さく口を動かして呟いた。俺に聞こえるか聞こえないか、それくらい小さな呟き。恐らく……フェイトちゃんにも届いた。

 

「……フェイトをお願い」

 

 そう言ってすぐにアリシアの生体ポットを愛おしく手を添えて、俺たちにはもう用はないと言わんばかりにこちらを見る事なく落ちていった。何だよそれ……フェイトちゃんの事どうでもいいとか言っておいて……本当にどうでもいいと思ってるくせに……心配してないくせに!

 

「最後の最後で何でそんなこと言うんだよ!」

 

 ふざけんなよ!ちくしょう………ちくしょう。助けたかった……余計にそう思っちまうじゃないかよ!

 崩壊が始まり崩れる庭園。その最中の俺の叫びはプレシアには届かなかった。彼女は、前を向くことなく……ただ1人の最愛の娘の事を思って消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 崩壊した庭園で命からがらクロノ達と俺は転移でアースラに帰還した。なのはちゃんとユーノともその際に合流を果たし全員軽傷で済んだ。帰還して俺はすぐに治療室に運ばれ魔法による治療を受けた。プレシアも手加減した攻撃だったが魔力を持たない俺にはやはり危険だったらしく念の為の治療だった。といっても、怪我自体はたいした事はないのでほんの数十分くらいで終わりとりあえずみんなの所に行こうと思った所で治療室にクロノとユーノが入室して来た。

 

「治療は終わったようだな」

「大丈夫かい?慎司」

 

 クロノは頭に、ユーノは腕にそれぞれ包帯を巻いていた。見た目ほど大きな怪我ではないようだがやっぱり魔法ってのは命が関わる危険なものなんだと再認識させられる。

 

「……他のみんなは?」

 

 クロノから軽く説明を受ける。なのはちゃんはまだ治療を受けていてリンディさんやエイミィさんは事後処理。俺の両親はその手伝い。

 

「フェイトちゃんとアルフは?」

 

 2人は特に心配だ。フェイトちゃんに関しては目の前で母親があんな事になってしまったのだ。心中は計り知れない。

 

「2人は………」

「適切な治療を施した後隔離中だ」

 

 言い淀むユーノに代わりクロノがハッキリとそう告げる。……仕方ないか、今回のゴタゴタの重要参考人だ。無罪放免なんて事は虫の良い話だろう。

 

「君も納得はいかないだろうが管理局として対応は慎重にしなければならない。悪く思わないでくれ」

「分かってる、仕方のないって事は理解してるよ」

 

 俺がそう言うとクロノはホッとした表情を見せる。俺が猛反対して騒ぎ出すとでも思っていたのだろうか。

 

「それにしても、慎司が一人でプレシアに会いに行ったって慎司の両親から通信が入った時は驚いたよ」

「全くだ」

「ははは、悪かった悪かった」

「笑い事じゃないぞ」

 

 いや、ホントごめんて。

 

「でも………どうしても伝えなきゃいけなかったんだ」

 

 アリシアが思ってるだろう事を、置いていった人間が置いていかれた人間に対して言わなきゃいけなかった。

 

「まぁ、結局……あんな結末で終わっちまった」

 

 情けねぇ。説得できるなんて思ってなかったけど、改心させるなんて思ってなかったけど……それでも悲しみが残る終わり方になってしまったのはやはり悔しい。

 

「慎司はよくやったと思うよ……」

 

 ユーノの言葉に俺は首を振る。よくやったじゃダメなんだよ。よくやっただけじゃ……ダメなんだ。何か結果がともわなければ、意味がないんだ。

 

「よくやっただけじゃない。ちゃんと結果を残してるよ慎司は」

「ユーノ?」

「なのはを励まして立ち上がらせた……フェイトの心を救って前へ進ませた。これは凄い功績だって僕は思うよ。皆を巻き込んだだけの僕とは大違いだよ」

 

 そうやって自虐的に笑うユーノ。ジュエルシードが散らばった原因となった事にユーノの一族が関わっている事は聞いてはいるがそんな風に俺は捉えてなかっただけにユーノのそう言い分を反射的に否定する。

 

「そんな風に思った事きっと誰もねえよ」

「そうだね、皆んなならそうだと思う。それと同じで慎司が何も残せなかったって思ってる人はいないよ」

 

 だから、そんな後ろ向きに考えないで僕と一緒に前を向いて行こうよ。そう言ってくれるユーノの言葉につい笑みを漏らす。前に進むか、俺がプレシアにそう言ったくせに俺が後ろ向きじゃダメだよな。

 

「そうだな、最近ずっとクヨクヨしてばっかで男らしくなかったな」

 

 今回の事も、プレシアの事もクヨクヨして下を向くのはやめよう。前を見て行かなきゃな。そう言ったんならよ。

 

「……ユーノ、お前良いやつだな」

「そ、そうかい?それはありがとう」

「ああ、フェレット姿に乗じて女湯に侵入した変態とは思えねぇよ」

「変態じゃないよっ!?」

「ユーノ……お前そうなのか?」

「クロノも引かないでよ!あれは……事故っ!事故なんだよ」

「けど見たんだろ?裸の女の子」

「頑張って目閉じてたよ!必死に!」

「嘘つけ変態フェレット擬き」

「ひどいっ!?」

 

 ちょっとした照れ隠しだ。ありがとよユーノ、感謝はしてる。そう言ってくれて。だから許せ、お前なのはちゃんに負けないくらい揶揄い甲斐のある奴だし。

 何て考えているとユーノの動きが急にピタっと止まる。何だ?

 

「おい、どうした?」

「念話でリンディさんに呼ばれたんだ。僕は一足先に戻ってるよ」

「そっか」

 

 そう言ってユーノは駆け足で医務室を出ていった。なんか手伝い事かもしくは事後処理に向けてユーノと話でもあるのか。まぁ、どっちでもいいか。

 

「俺たちもとりあえず司令室に行くか?クロノも元々迎えに来てくれたんだろ?」

「ああ、その通りだ。治療も終わってるなら僕達も戻ろうか」

 

 立ち上がって俺もクロノに続いて医務室を出る。ゆっくり歩いて向かう道すがら、クロノが口を開く。

 

「質問なんだが、いいか?」

「なんだ?構わんぞよ」

 

 わざわざそんな前置きしなくてもいいのに。

 

「………プレシアとの会話で言っていた『山宮太郎』というのはどう言う意味なんだ?」

 

 君の名前は荒瀬慎司だろうと付け加えてそう俺に問うてくる。まぁ、気になるよなぁ。クロノとあとフェイトちゃんとアルフの前でそう言っちゃったし。軽率な気もするが、プレシアにはちゃんと伝えるべきだと思ったんだ。俺念話使えないし言葉にするしか無かった。

 しかし正直に前世の名前ですなんて言ってもしょうがないしな。

 

「深い意味はねぇよ。言葉遊びみたいなもんだ………あんまり気にしないでくれ」

「………そうか、分かった」

 

 適当な事言って話を切ったがクロノはあまり掘り返して欲しくないと察してくれたのか潔く引いてくれた。悪いな、でも話す訳にいかねぇ。前世云々の事はやっぱり秘密にしよう、軽率な事をしないように気をつけないとな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロノと共に司令室に赴くと勢揃いだった。リンディさんに治療を終えたなのはちゃん、俺の両親にクロノとエイミィとユーノ。フェイトちゃん達とアルフは恐らく何処かの部屋で隔離されてるのだろう。

 とりあえず全員で今後の事を話し合う。事件は結末はどうあれ終息へと向かった、リンディさん達アースラの組員達はここで事件後処理やら何やらでしばらくは艦にとどまるらしい。父さんと母さんは今回の事件の報告の為一旦管理局本局の方に向かうと言う、父さん達も立派な当事者となってしまったしなにより

 

「俺もうまい事言ってフェイトちゃん達の処遇に便宜を図れるよう動かないといけないしな」

「慎司も、そうした方がいいでしょ?」

 

 母さんのその言葉に俺は笑顔で頷いた。ありがとう、本当に。今回はこの2人に世話になりっぱなしだった。頭が上がらないよ。

 

「ありがとう、2人とも」

「気にするな、息子なんだから。………お前にこう言うのも変だが……成長したな慎司」

 

 そう言って頭を撫でてくる父さん。正直俺としては精神年齢も考えるとかなり恥ずかしかったがまぁ、素直に撫でられておこう。2人は話を終えるとすぐにアースラから転移していった。

 俺となのはちゃんとユーノはあの突入の最中次元震?とやらが起こったらしくその余波が鎮まるまで大事を取って数日アースラで過ごす事に。待て、つー事は父さん達横着して転移してったのか?

 そう言うとリンディさんは困った顔をしながら

 

「報告も便宜を図るのも早い方がいいから」

 

 と諦めたように言っていた。いや、父さん、母さん……自重しようよ。息子のために体張りすぎだよ。先程無事に着いたと通信があったとの事なので一安心だ。

 

「昔からああなのよねあの2人」

 

 そう呟くリンディさん。古い付き合いなのかな?そういえば連絡先も知ってる見たいだったし知り合いではあったみたいだからなぁ。

 あの反応を見る限り色々両親にこれまで振り回された事が沢山あるのかも。なんかごめんなさい。

 

「とにかく、これからなのはちゃんとユーノ君だけでなく慎司君も数日アースラで過ごしてもらう事になるから……ゆっくり休んで頂戴」

 

 そうさせてもらおうかね、ここ数日は怒涛すぎて流石に疲れた。濃密な時間だったよ。

 

「とりあえず一旦解散とします。皆んなそれぞれ今日は部屋で休んで下さい。慎司君は、残っててもらえるかしら?」

「ん?はい、分かりました」

 

 そう言われ俺だけ残ることに。なのはちゃんが俺を気にするようにチラチラとこっちを見ていたがユーノに促されるように部屋を出て行く。そういえば、アースラに帰還してからまだまともに会話できてねえな。

 

「ごめんなさいね、疲れてるところ」

「いいえ、全然。それで。何か俺に話でも?」

「ええ、少し……お説教をね」

 

 ですよねー。父さん達が許してくれたとはいえ俺がした事はとても危険で下手をすればアースラの皆んなも危険に晒したかもしれない行動だ。

 

「慎司君、貴方は賢い子だから自分がどれだけ危険な事をしたのか理解はしていると思います」

「……はい」

「それを理解した上で貴方は危険を冒して一人でプレシア・テスタロッサの元に向かった。魔法も使えない貴方が……無謀にも」

 

 あえて厳しい事を言うリンディさんには申し訳なかった。厳しく叱責する事で俺の為に言っている事はすぐに分かる。

 

「その件に関しては……謝ります。軽率な行動でした……大変申し訳ございません」

 

 素直に頭を下げる。俺のわがままであった事に変わりはない。両親の代わりにとの思いもあるのだろう、両親はそれを許した都合上叱る事は出来ないだろうから。

 

「ですが、貴方も巻き込まれた立場でなのはちゃんやフェイトちゃんの為に尽力した功績は私達アースラにとっても非常に助かりました。それを考慮してお説教は短くしておきましょう。………本当にありがとう、荒瀬慎司君」

 

 そう言って頭を下げてくるリンディさん。ユーノも、リンディさんも俺は役に立ったと言ってくれる。それはとても嬉しいけど、何だかモヤモヤした気持ちも抱く。自分にとっては納得いってないからなのだろうか。

 

「それで、プレシア・テスタロッサは最後に何と?」

「…………彼女は、最後までフェイトちゃんを否定していました。俺の言葉も、フェイトちゃんの想いも……あの人には届かなかった」

 

 プレシアは本心でフェイトちゃんを拒絶した。それは間違いない、本心で否定してその考えは変わる事は無かった。けど、節々に見せた穏やかな表情と最後の言葉。

 

「最後、次元の狭間に落ちた時『フェイトをお願い』って言っていました」

「……そう、最後にそう言ったの」

「ええ、正直わかんないです。プレシアは最後の時もフェイトちゃんの事を娘だと思ってなかったと思います」

 

 その証拠に、彼女は最後までアリシアに寄り添っていた。最後の瞬間も俺達に視線をよこしただけでアリシアと共に落ちた。フェイトちゃんに向ける視線とアリシアに向ける視線もかなり違った物だった。だからこそ、拒絶して、どうでもいいと吐き捨てたフェイトちゃんの事を俺にお願いと託すように彼女は言葉を発した。

 俺には、どういう意図があったのか分からなかった。

 

「……難しく考える必要は無いと思うわよ慎司君」

「……というと?」

「彼女が最後に何を思ってそう言ったのかは彼女以外誰も分からないわ。けど、少なくてもそう言わせる何かしらの心境の変化があったのよ。たとえフェイトちゃんを自身の娘と認めなくても、そう言わせるだけの変化を。そしてその変化を起こしたのは……きっと慎司君…貴方よ」

「俺が?」

 

 そうとは限らない。フェイトちゃんの真摯な想いを告げた結果だと思う。少なくても赤の他人俺よりは可能性が高いだろう。

 

「まぁ、私の勘だから……あまり気にしないで頂戴」

 

 そう言ってからリンディさんは席を立って

 

「話はお終いよ。時間を取らせてごめんなさいね、ゆっくり休んでからちゃんと前を向いて頂戴」

 

 と述べる。俺は頷いてから礼を言って退席した。最後の言葉は………リンディさんなりの励ましだろうか。

 リンディさんから自身の部屋の場所を聞いてそこに向かう。とにかく疲れたな、本当に。まだ眠るに早すぎるが寝てしまおうか。

 

 

 

 

 

 割り当てられた部屋に辿り着いて入室する。殺風景な部屋だった。まぁ、普通か。ベッドがあるだけで十分だしな。ベッドにダイブして枕に顔を埋める。このまま寝れそうだけど俺は色々考えを巡らせる事にした。

 

「………正しかったんだろうか」

 

 俺の言葉は、行動は正しかったんだろうか。前を向けと言った、今思えばプレシアの絶望を真の意味では知らない俺のその言葉は酷く無責任な言葉だ。

 後悔はしてない、あの言葉も行動も。それでも正しい事をしたのか……正解だったのかは分からない。それを知る術もない。ため息が出る。ユーノに発破をかけられて前向かなきゃと思いはしたがやはりそう簡単に切り替える事は出来なかった。自分の手を見つめる、プレシアを掴んでいた俺の手………助けれたかもしれない俺の手。後悔してないなんて嘘だ、きっと俺は救えなかった事に後悔している。何でもできる完璧な人間なんていないのに、そう思うのは傲慢だと理解しているのに……その気持ちは消えない。

 自分で勝手に考えて憂鬱になっているとコンコンとノック音が。

 

「どうぞー」

 

 寝転がる体勢からベッドに腰掛ける形に体勢を変える。誰だろうか?

 

「し、失礼しまーす」

「何でそんな緊張気味に入ってくんだよ、なのはちゃん」

「にゃはは、いつもと違う部屋だから何となく緊張しちゃって」

 

 俺の家の俺の部屋に入る時はノックも何もしないで入る癖に。まぁ、気持ちはわからんでもないが。

 

「まぁいいや、そこに立ってないでどっか座りなよ」

「う、うん……」

 

 妙によそよそしいな。俺の隣に座ったなのはちゃんだったが何だかモジモジとしていて落ち着かない様子だ。

 

「んでどうしたんだよ?何か用があるんだろ?」

「う、うん……用っていうかお話って言うか…」

 

 煮え切らないな。本当にどうしたんだろうか。

 

「………怪我は平気か?」

 

 とりあえず一回雑談でもして落ち着かせよう。話が進まなそうだ。足に巻いてる包帯とか気になるし。

 

「あ、うん。見た目ほど大きな怪我じゃないから平気だよ。慎司君は平気?」

「ああ、たいした事ないよ」

 

 よかったと呟くなのはちゃんを盗み見る。一言二言言葉を交わしただけだけど、落ち着い様子だ。一応もう少し挟んでおこう。そう思って適当に何か喋ろうとした時だった。突然、体に重みを感じる。隣にいたなのはちゃんが急に俺の肩を掴みながら頭を俺の胸に当てて体を預けてきたのだ。

 

「……なのはちゃん?」

 

 突然の事に少し驚きつつもどうしたんだよと一言添える。引き離すのは忍びなく感じてそのまま俺はなのはちゃんの好きにさせる。

 

「本当に……よかったよ……無事でよかったよぉ……」

 

 肩を握る手に力が込められる。

 

「私……慎司君が1人で向かったって通信で聞いた時心配で……心配でぇ……」

「あーあー、泣くなよぉ……」

 

 胸に顔を埋めるなのはちゃんの頭を撫でる。顔を見えなかったけど声が完全に涙声だった。庭園でなのはちゃんと合流したのは脱出する時のほんのひと時だけ……言葉を交わしている余裕は無かったし、なのはちゃんは別の場所すべき事をしていた。けど、それまでずっと俺の心配をさせてしまっていたのか……結局迷惑かけっぱなしだったな。

 

「うぅ……泣いてないもん」

「何でそこで強がるんだよ」

「もぉー、心配だったんだから本当にー!」

「急に怒るなよ、悪かった……ごめんな心配かけて」

「………ううん、いいの。慎司君だって理由があってそうした事は分かってるし」

 

 さりげなく目元を拭いながらなのはちゃんはようやく俺から身を剥がす。

 

「にゃはは、ごめんね?やっとちゃんと無事を確認できて気が抜けちゃったみたい」

 

 そんなに心配させてしまってた事に少し罪悪感を抱く。ごめんな、まさかそこまで心配するとは思ってなかった。けど、なのはちゃんの言う通り譲れない理由があっての事だったから俺としても複雑な心境だ。

 

「……ありがとな、なのはちゃん。そんな心配してくれて」

「ううん、わたしこそありがとうだよ。慎司君のおかげで最後まで頑張れたから」

 

 それは自分の実力だよと言いたかったが無粋になりそうなんでやめておいた。そう言ってくれるなら俺も頑張った甲斐があるしな。

 

「………ねぇ慎司君?」

「ん?」

「………責任を感じてるの?」

「……っ」

 

 なのはちゃんの鋭い指摘にビクッとする。いや、俺があからさまになってたのかもしれない。

 

「………フェイトちゃんのお母さんの事は残念だったけど……慎司君のせいじゃないよ」

「あぁ……」

「そう言っても、慎司君はきっと責任感じたままだもんね。慎司君は実際に自分のせいじゃないって分かっててもそう思っちゃうんでしょ?」

「……ははっ、鋭いななのはちゃんは」

 

 心を見透かされてるのかと疑いたくなるくらいドンピシャだよ。

 

「俺の心の弱ささ……情けねえ」

「ううん、違うよ」

 

 俺の言葉をなのはちゃんは即座に首を振って否定した。そして、真っ直ぐ俺を見つめて自信満々に言う。

 

「それは慎司君の優しさだよ」

「優しさ?」

 

 どう言う事だろうか?

 

「慎司君が本気で本心でプレシアさんを救いたかったから……そんな優しい気持ちで頑張ったからそう思っちゃうんだよ。慎司君が本気で頑張ったからそう感じちゃうんだよ」

 

 そう言うとなのはちゃんはベッドから離れて立ち上がる。軽快にクルッと回ってこっち見て言葉を続けた。

 

「ねえ慎司君……私ね、思うんだ」

「何が?」

「今回の騒動を解決できたMVPは……慎司君だって思うんだ」

「それは……流石に気を使いすぎだろ」

 

 明らかに違うじゃねぇか。なのはちゃんやアースラのみんなだろ。フェイトちゃんだって頑張った。

 

「ううん、この気持ちはね……私の本心だよ」

「嘘こけ」

「嘘じゃないもん、ホントだもん」

「………何でそう思うんだ?」

 

 俺がそう聞くとなのはちゃんはニヤニヤしながら嬉しそうに、聞いちゃう?それ聞いちゃう?と機嫌良さげに言う。ちょっとキャラ違くないかなのはちゃん?

 まぁ、一緒に遊んでる時楽しくて変なテンションになるのはややあるけども。

 

「なら、私がそう思う理由全部言ってくね」

 

 マジかよ。

 

「慎司君はなのはの事沢山励ましたり応援してくれたよ、そのおかげで私は今回の事件最後まで頑張れたよ?」

 

 そのまま考える仕草もしないで続けるなのはちゃん。

 

「フェイトちゃんの心を救ったよ、私が庭園でフェイトちゃんと合流した時ね……すごい清々しくて力強い顔つきをしてたんだ。いっぱい感謝してた……。それも、慎司君のおかげ」

 

 皆そう言ってくれていた。なのはちゃんを救った、フェイトちゃんを救った……だから俺は良くやったって。だけど、俺にとって重要なのは助ける事の出来なかったプレシアの事だ。

 だから、次になのはちゃんから飛び出た言葉には驚きを隠せなかった。

 

「………そして、プレシアさんの心も救った」

「っ!」

 

 つい立ち上がる。掴みかかりそうになるのを抑えて、必死に大きくなりそうな声も抑える。

 

「そんなの!………分からないじゃないか……それに救ったなんて言えないっ!あの人は……もういない。心を救うどころか、俺は掴んでた!助けられたかもしれなかったのにっ!」

 

 本心が飛び出る。罪悪感とか責任とか色んな感情がごちゃ混ぜになって言葉も整理できない。そんな俺の狼狽した態度にもなのはちゃんは怯まずに俺を真っ直ぐに見つめていた。

 

「ごめんね?リンディさんと慎司君がさっき2人で話してる時、扉越しで隠れて聞いちゃったんだ」

 

 なのはちゃんは言わないだろうがリンディさんが恐らく念話で手を回したのだろう。あの人も、俺に気を使いすぎだ。

 

「私ね、慎司君が言ってたプレシアさんの最後の言葉と態度を聞いてね……きっとプレシアさんは昔の自分を取り戻せてたんだと思うんだ」

「けど、あの人は自ら落ちた!もしそうなら、その行動はおかしいだろ!」

「そうだね……なのはもその理由は分からないけど……でも自信を持って言えるんだ……プレシアさんの心を慎司君はきっと救えたって」

「どうして!?」

「……慎司君だからだよ」

「えっ?」

「慎司君だから、救えたよ……絶対。慎司君が救おうって、慎司君が頑張ったなら絶対救えたよ。慎司君は………そんなすごい事をなし得ちゃう優しい人だってなのはは知ってるもん」

 

 そんな盲目的に俺を信用するな。俺はそんなすごい人間なんかじゃない。

 

「俺はそうは思わないよ」

「慎司君がどう思っても関係ないよ、だってなのはがそう思ってればいいんだもん」

「………無茶苦茶だな」

「うん!無茶苦茶だけどそれでいいんだよ」

 

 笑うなのはちゃんに釣られて俺も笑みが溢れる。本当に、太陽のような笑顔だ。そんな顔をもっとして欲しかったから……俺は頑張ってのかもしれない。

 

「だから、慎司君………慎司君の言葉を借りて私もこう言うね?」

 

 改めて俺を真っ直ぐに見つめて、さっきよりも可愛らしく輝くような笑顔でこの子は言う。

 

「下を向いてる慎司君より、前を向いて進んでる慎司君の方が私は大好きだよ!」

 

 そう言って手を取ってくる。暖かくて、小さくて、優しい手だ。強くなったな、なのはちゃん。本当に強くなった。

 すごいよ、君はやっぱり凄い子だ。

 

「………そうだな」

 

 色んな人に、こうやって励まされたら。何が何でも前を向かなきゃな。ユーノがそう言った、リンディさんがそう言った、なのはちゃんもそう言った。前を向けと。俺も、言った……前を向けと。そうあるべきだって思う。いい加減本当にウジウジするのはやめだ。前を向こう、俺もこれから色んな人にそう伝えれるように。

 

「前……向くよ。ありがとうなのはちゃん、スッゲー嬉しかったよ」

「えへへ、それから最後に一言言わせて……まだちゃんと言えてなかったから」

 

 何だろうか?もう既に話す事はないと思ったが。

 

「優勝……おめでとう!慎司君」

 

 その言葉に面食らった。……ははっ!たくっ、なのはちゃんは……。

 

「………ありがとう」

 

 もう、この感謝は伝えきれないよ。2人で笑い合って俺達はその日を過ごした。久しぶりに2人でこんな長く話した気がする。俺も、気づかないうちにいっぱい助けられたんだろうな……。お互い様だよな。これからも一緒にそうやって過ごせたらいいなって思えた。

 

 

 

 

 

 プレシアが最後、救われたのかどうかは永遠の謎で俺を時折悩ませるだろうけど……けど、俺を信頼してくれているなのはちゃんの言葉を信じてみてもいいなって思える。 

 真実は分からなくても、俺は救えたかもって……1人の女の子のおかげでそう考えれるようになった。前を向いてな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 浮遊感に身を任せて落ちていく。悲痛な表情で私を見つめて手を伸ばすボウヤと人形が見えた。彼には悪い事をした……どうか自分を責めないで欲しいと最後に残った良心で今更ながらそう思う。滑稽だ、そういう風に思う資格すら私にはないと言うのに。人形……フェイトを見る。あそこまで拒絶して否定してもまだ私にそんな表情をするのね。

 貴方がどんなに私を思っても……私は貴方を娘だと思う事はないというのに………全く。私にとって娘とはアリシアただ1人。フェイト、貴方に同じ感情を抱く事はない。

 

 

 

 そう思っている、本心でそう思っている。

 

 

『フェイトちゃんの愛情は、本物の筈だろ!』

 

 何故だかボウヤのあの言葉が頭の中で反響する。……彼の言葉にはつい耳を傾けてしまったけど、それでも気持ちが変わる事はない。ないのだが……。

 

「……フェイトをお願い」

 

 自分でもびっくりした事だった。勝手にそんな事を言っていた。誰であろう山宮太郎に。何故だろうか。何故そんな事を言ったのか。私は人形の事などどうでもいいと………。

 いや……どうでも良くはないのだ。今わかった……フェイトを初めて拒絶した時は本当にどうでもいいと思っていた。どうなろうと知った事ではないと。しかし、それからフェイトを否定する言葉を発するたびになんだかモヤモヤした感情を感じていた。

 気のせいだと思った、非情になりきれない甘い女なだけかとも思った。2つとも違う………娘だとは思っていない……思ってはいないのだが………せめて幸せに。そう……思ってしまった。

 そんな資格はないけども……私が生み出してそこで存在して生きているのなら……フェイト・テスタロッサとして生きるのなら、せめて不幸ではなく幸福に生きて欲しい。そのために何かするわけではないけど、せめてと。そんな風に情を抱いてしまった。

 この心境の変化は恐らく2人のせいだろう、フェイトと太郎……あの2人の言葉に絆されたからだろう。全く、私も甘く弱い人間だ。けど、そう思ってしまったのだから仕方ない。

 きっと、太郎なら貴方のこれからの人生に彩りを与えてくれるでしょう。だから、太郎………私とは赤の他人で血の繋がりも何もない…親子でもないけど……私の為に頑張ってくれた哀れな優しいこの娘の事を………どうか。

 

 

 

 

 やめよう、今更そんな事を思う資格は無いのだから。2人から視線を外してアリシアを見る。彼は自身を転生者と明かした。もし、それが真実なら………本当に存在する現象ならば……。

 

「一緒に行きましょう……今度は離れないように」

 

 もしかしたら、私達はまた……再会できるかもしれない。

 そんな夢物語を抱いて意識が消失していく感覚に襲われる。終わる時が来た。しかし、何故だろうか………私は許されない事をした。罪を犯した。しかし、何故だろうか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、最後の瞬間………小さな希望を抱いて……暗い意識に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが真実である。荒瀬慎司が成し遂げた功績である。しかし、これは誰にも知られる事のない事だ。荒瀬慎司にも、誰にも知られる事のない事実。だが、少なくとも……プレシアは最後の瞬間…救いはあったのだと言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 次回にて無印編本編完結。その後数話ほど蛇足書いてAs編になる予定です。閲覧ありがとうございました。

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