転生しても楽しむ心は忘れずに   作:オカケン

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 エース編開始ですが時間軸は原作の1話少し前。守護騎士達がはやての前に現れてから少し経った頃です。


A's編
出会い


 

 

 

 

 

 

「しゃあああ!!」

 

 気合と共に相手を畳に叩きつける。技は払腰、相手を自分側に崩し片足に重心をかけさせその重心を足で払い上げて腰で浮かせて投げる技だ。故に払腰と呼ばれてる。技のレパートリーも前世と引けを取らないくらいに増えてきた。力や技術が子供に戻ってしまって四苦八苦していたが前世で培った知識のおかげで通常よりも技術の向上が見られるのはありがたいし使える技が多ければ戦略や戦い方も広がるというもの、相変わらず一本背負いは封印したままだがそれに頼らずとも大会の結果は安定してきたし更に成長を感じている。

 

「よし!今日の練習はここまで、各自ストレッチをしてから整列して解散だ」

 

 はいっと練習生全員の元気な返事で返す。今日も今日とて変わり映えのしない練習の日々、季節は夏の一歩手前という所。気温が上がって暑日が続くがその分練習の熱も上がるというもの、割と暑いのは得意な俺には好きな季節とも言えよう。フェイトちゃんと別れてから既に数ヶ月、ユーノも故郷に帰る為とフェイトちゃんの裁判や魔法関係の手伝いでアースラに戻ってしまい今はいない。あれから皆んなとは会えない日々が続いている。

 時折寂しく感じる日もあるがまぁ、その内会える事は分かっている。焦らずゆっくりその時を待とう。

 

「慎司、今日は居残り練習は無しだ」

「はい。ちゃんと体を休めます」

「それでいい……適度に完全休日の日もちゃんと設けるんだぞ」

「分かりました。……それでは、失礼します」

 

 そう言って道場にも一礼してから後にする。俺も精神は大人だ、ちゃんと線引きをしてオーバーワークにならないように気を付けている。まぁ、試合前の追い込みとかはその限りじゃないけど。誰よりも練習して、ちゃんと効率よく休日を設けてバランス良くやるのが強くなる近道なのは分かっているからな。ガムシャラに頑張るのではなくあくまで効率なんだ、現実的な考えでないと今度の大会だって上には行けない。さて、柔道のことばっか考えてないでさっさと行かないと。

 練習終わりに翠屋に行く事になっているのだ。

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいましたー!」

「あら慎司君、いらっしゃい。練習お疲れ様」

「ありがとうございます桃子さん」

 

 出迎えてくれたのは桃子さん。既に翠屋店内には高町家全員と俺の両親が談笑しながら料理をつついていた。今日は高町家と一緒に夕飯の約束だったのだ。すっかり家族ぐるみで仲良くなった荒瀬家と高町家、こうやって一緒にご飯するのも定期的になっている。特に父母同士が仲が良くとても楽しそうだ。息子としては嬉しい限りである。

 皆んなからの出迎えの言葉を返しつつ定位置のなのはちゃんの隣に腰を落ち着かせる。今日も豪勢だなぁ、ちゃんとパパんがお金払ってるらしいけど家計は平気なのだろうか。まぁ、管理局ではある程度有名らしいパパンだ。懐も暖かいと信じよう。

 

「慎司君、練習お疲れ様」

「おうなのはちゃん、ありがとよ」

「はい、慎司君の分」

「サンキュ」

 

 面倒見のいいなのはちゃんである。

 

「あ、なのはちゃん…ほっぺにご飯粒ついてる」

「え、本当?……って、騙されないよっ。また揶揄うんでしょ」

「………なら俺が取るよ」

「え?あ、ごめんね?」

 

 疑ってしまった事を申し訳なかったのか素直に謝りつつ俺にほっぺを差し出すなのはちゃん。俺は手を伸ばしてご飯粒を取る。目の前に座ってる美由希さんのほっぺから。

 

「イェーイ、騙されたー」

「あーん!また引っかかったぁ……」

「美由希さん、ご協力あざます」

「いえいえ、慎司君の頼みだからねー」

「また仕込みなの!?」

 

 いい加減気づきなさいよ貴方も。まぁ、引っかかっちゃう所がなのはちゃんの可愛い所でもあるのでそのままのなのはちゃんでいてください。引っかかった事が悔しかったのか頬を膨らませて俺の肩をポカポカしてくるなのはちゃん。片手でポカポカを捌いて膨らましたほっぺを押して空気を押し出してからほっぺをびろーんと伸ばす。

 

「前より伸びるようになったな、お餅みたい」

「ひんしふんのへいでひょー!」

「なに?もっとやってほしい?ドMかよ」

「ひがうー!!」

 

 あっははは。やっぱり楽しいのうなのはちゃんと一緒は。高町家の面々も皆んな大好きですとも。しばらくほっぺを伸ばしているとなのはちゃんがあっ!と何か思い出したようなのでそのタイミングで手も止める。

 

「そういえばね慎司君、フェイトちゃんからビデオメールの返事が届いてたよ!」

「おっ、マジか。待ち兼ねたぜ」

 

 実は別れてから俺たちはフェイトちゃんにビデオメッセージを送っているのだ。俺となのはちゃんだけでなく紹介したいという事でアリサちゃんとすずかちゃんも一緒に。無論魔法の事とかそういうの伏せて海外の俺となのはちゃんの共通の友人って事になっている。

 それからフェイトちゃんも返事はビデオメッセージを送ってくれていていつの間にかビデオメールでやり取りする事が日常化している。高町家も海外の友人っていう事にして伝えていて事情を知っている俺の両親もそれに合わせてくれている。

 

「明日、アリサちゃんとすずかちゃんも呼んで一緒に見ようぜ」

「うん!楽しみだなぁ……元気にしてるかなフェイトちゃん」

「元気さ、きっとな」

 

 クロノ達も動いてくれてるし悪いようにはなっていない筈だ。そこは全く心配していなかった。アリサちゃんちゃんとすずかちゃんも返事が届いている事を伝えたら喜ぶだろう。メールしても良かったけど明日直接伝えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「届いたのね!待ち兼ねたわよ」

 

 早速4人で一緒の登校時に返事が届いた事を2人に伝える。アリサちゃんもすずかちゃんも嬉しそうだ。

 

「フェイトちゃん……いつになったら会えるのかな?楽しみだなぁ」

「そうね、会ったらいっぱい話したい事あるし」

「今すぐは無理でもそう遠くない日に会えるさ。それまでビデオメール続けようじゃないか」

 

 俺の言葉に2人は勿論っと答えて笑顔を浮かべる。互いを知ってる俺となのはちゃんとしても紹介できる日を心待ちにしている。まだ先だろうけど今から楽しみだ。

 

「つーわけで、今日の放課後……一緒に見ようぜフェイトちゃんからのビデオメール」

 

 俺がそう言うとアリサちゃんとすずかちゃんはあちゃーとした顔をして互いに目を合わせる。おっとこれは?

 

「あ、今日習い事の日だっけ?」

 

 俺の問いに頷く2人。あちゃー、そういえばそうだった。どうしようかと考えていると隣のなのはちゃんも何か思い出したようにあっと声をあげる。

 

「ごめん慎司君、私も今日放課後用事あるの忘れてた……」

「こんのドジっ子め」

 

 お前昨日ノリノリで放課後一緒に見ようって言ったらうんっ!て返事してただろうが!

 

「ちなみになのはちゃんはどんな用事?」

「塾の副講義……長期で休んだ分の補講しないといけないの」

 

 あぁ、アースラで頑張ってた時のか。そりゃ仕方ない。

 

「んじゃあどうするか……なのはちゃん、ビデオは持って来てんだろ?」

「え?う、うん、慎司君が持って来いって言うから……学校に持っていって大丈夫かな?」

「平気だよ、アニメとかドラマのビデオ持って来てる訳じゃないし。昼休みに飯食った後に事情説明して視聴覚室借りてみんなで見ようぜ」

「それは……早く見たい私達にはありがたいけどそう簡単に貸してくれるかなぁ?」

「大丈夫だよすずかちゃん、校長にメールしとくから」

 

 携帯を取り出して早速メールを打つ。

 

「慎司、なんで校長先生のメール知ってるのよ」

「いや、メル友だし」

「なんでよ」

「メイド好き同盟、俺と土太郎と校長先生」

「やめて、それトラウマだから」

 

 俺とアリサちゃんの会話を聞いていたなのはちゃんが青い顔をしてそう言う。確かにあの時のなのはちゃん傑作だったな。俺のせいだけど。

 あ、返信きた。

 

「校長先生オッケーだってさ」

 

 俺の言葉に3人は苦笑を浮かべて返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しゃあ!飯も食ったしビデオ見るぜぇこの野郎!」

「慎司うるさい」

「慎司君黙って」

「慎司君静かに」

「3人とも当たり強スギィ!いいじゃん俺だって楽しみにしてたんだから!」

 

 そんなやり取りを挟みつつ視聴覚室のビデオデッキにセットしてモニターに映し出す。再生ボタンをポチッとな。写し出されたのは部屋の真ん中で緊張気味に立っているフェイトちゃんの姿。もう何度か送り合ってるんだからいい加減慣れなさいよ。冒頭は俺たちに向けてのいつものビデオのお礼と近況の報告。と言ってもフェイトちゃんもアリサちゃんとすずかちゃんが見る事は承知しているので魔法の事とか裁判の事とかややこしい事は上手く誤魔化してどれくらいでこっちに来れるとかそう言う報告だ。

 

『あ、それと慎司……同封して送ってくれた物、ありがとね』

 

 俺たち一人一人に俺達が送ったビデオメールの返事をコメントしてくれるフェイトちゃん。俺の番になった時にそう言って笑ってくれるフェイトちゃんが映る。

 

「あんたなに送ったのよ?」

「仮面ライダークウガのDVD全巻セット」

「あんたの趣味全開じゃない……」

「フェイトちゃんをどうしたいの?」

 

 いやぁ、特撮オタ仲間に。アリサちゃんとすずかちゃんは知らないけど裁判を受ける身であるフェイトちゃんはかたち上の勾留を受けてると思ってな。暇してる時間もあるのかもだと思って送ったのさ。俺の私物だから俺の趣味になるのは許せ。

 

『せっかくだから全話全部見たよ』

「マジで!?」

「なんで慎司君が驚いてるの」

 

 いやぁなのはちゃん、ちょっとしたジョークのつもりで送ったのもあったから。趣味に合わないだろうなと思ってたのが本心だし。気を使わせたかな?

 

『あ、気を使って無理してみたわけじゃないよ?見始めたら思ったより楽しくてついつい全部見ちゃったんだ』

 

 フェイトちゃん、君は天使だ。同じく過去に勧めなのはちゃんは「うーん……」って趣味に合わなかったようで数話見て見るのやめてたなのはちゃんとは大違いだ!

 

「………私と比較してないかな?」

「イヤシテナイヨ」

 

 なんでわかんだよ。

 

「でも意外だね、フェイトちゃんの表情から見ると本当に面白くて見たみたいだし」

「すずかも私も面白さ分からなかったしね」

 

 すずかちゃんにもアリサちゃんにも勧めたけどやっぱりこれくらいの年頃の女の子には中々合わないんだろうな。それも重々承知だったけど。

 

『面白くてついつい二周しちゃった』

「おい、ガチでハマってんぞ」

「良かったじゃない」

「複雑だよ」

 

 全話連続で二週ってガチファンでも中々いないぞ。

 

『慎司みたいにカッコよかったなぁ……ン・ダグバ・ゼバ』

「「「「クウガじゃないんかい!!」」」」

 

 おま、あれを俺みたいと言うのか?確かにファンも多いし姿もカッコいいけど性格とかいいもんじゃないぞ!!

 

『あとね、あとね……あの人もお気に入りなんだ……一条刑事』

「「「「クウガじゃないんかい!!」」」」

 

 おい、見事にハモるぞツッコミが。

 

『でもでも、やっぱり第二話の教会での変身がカッコいいよね!』

「わかるっ!」

 

 この娘ガチだぁ。ガチで好きになってくれてるぅ…。

 

「慎司君、泣いてるの?」

「うん、ようやく巡り合えた同志に感涙だよ」

『慎司も柔道頑張ってね、クウガみたいに』

 

 意味分かんないけど分かったよぉ!!

 

 

 

 

 

 後日俺の家の住所宛にクウガのDVDが送り返されて来ていた。ふむ、次のビデオメールで一緒にアギト送ろうと決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、3人は朝も言ったように用事なので今日は真っ直ぐ家に帰る。柔道の練習も今日はないから自主トレでもするかね。

 

「ただいまーっと」

 

 家に帰るといつもは出迎えてくれるママンの姿がない。電気も消えてる、留守か?どうしたものかと家を彷徨うとリビングの上のテーブルに書き置きとお金を発見。

 書き置きにはパパンもママンも管理局のお仕事で今日は帰れませんって事と謝罪文と共に冷蔵庫の中も空だから夕飯は置いてあるお金で好きにしてくれって事が書いてあった。ていうかママンは管理局辞めたんじゃないのかよ、最近はこういう事がちょくちょく増え始めた。俺としては精神的にはほぼ30歳だし別に家で1人なのは辛くも何ともないが普通に両親が心配である。

 両親も俺の事は理解してくれているからこうやって1人でも安心だと思ってくれているのだろうけど。

 さてどうするか………冷蔵庫の中を見てみたが確かに空も同然の状態だ。外食もいいが……たまには自分で自炊でもするか?大したもの作れんけど。よし、そうしよう。なればいつもより遠くのスーパーまでランニングついでの買い物だな、そうと決まれば早速準備しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 片道走って30分程のスーパーまでハイペースで走る。スタミナ作りに心肺機能上げるならやはりペースは早めでないといけない。帰りは荷物もあるから走れなくなるしな。息が上がってまともに呼吸できなくなっても耐えて耐えてペースを落とさずにスーパーの前まで走り切る。呼吸を整えて立ったまま軽くストレッチをする、とりあえずこれ終わったらスーパーで買い物しようかと思っていると

 

「頑張ってるなぁ、また会ったね」

 

 車椅子に乗った少女に話しかけられる。後ろには付き添いなのか車椅子を押している優しげな雰囲気のお姉さんと目がキリッとしていて何だか警戒心を持ち合わせた目で見てくる赤髪の少女の姿もあった。

 

「貴様は……悪代官!」

「よいではないか〜よいではないか〜……ってちゃうわ」

 

 流石関西出身、いいノリツッコミ。

 

「えっと……どちら様でしたっけ?」

「誰か忘れとるのにボケて来たん?」

「冗談冗談、この間ぶりだな。えっと……」

「八神はやて言うんや……よろしゅうな」

 

 八神のはやてさんね。覚えた覚えた。とりあえず握手をば。

 

「俺は荒瀬慎司、またの名を遠山の金さんってんだ」

「どっちなん?」

「荒瀬慎司」

「よろしゅうな慎司君」

「おう、こちらこそはやてちゃん」

 

 関西少女とかこの辺じゃ珍しいな。車椅子の事もあるし色々事情がありそうだ。まぁ、どうでもいいか。そんなの関係ないし。

 

「んでんで?そちらのお二人さんは?家族か?友達か?誘拐犯?」

 

 俺の冗談に2人はギョッとしながらもはやてちゃんは笑いながら家族やと答えてくれる。似てねぇなぁ……それもどうでもいいけど。

 

「ほうほう、さっきも言ったが改めて……俺は荒瀬慎司…そちらのなんでやねんさんとたった今友達になったもんです」

「誰がなんでやねんやねん」

「いや、言い辛いな……省略して省略」

「なんでやねん」

「なにがやねんっ」

「「イェーイ」」

 

 パンと両手でハイタッチ。

 

「「いや意味分からん!」」

「それはこっちのセリフです!」

 

 お姉さんからの渾身の叫びで笑い合う俺とはやてちゃん。あぁ、この子とは……なのはちゃん達と同じで波長が合って心地がいいな。

 

 

 

 

 

 

 

 てなわけで、自己紹介もほどほどにスーパーに。はやてちゃんも夕食の買い出しで同じスーパーに用があった模様。ちなみ、お姉さんの名前はシャマルさんで赤髪の女の子はヴィータちゃんと名乗ってくれた。ヴィータちゃんは何故かブスッとした態度を取っていた、何か気に触る事でもしただろうか。まぁ、初対面だし致し方なし。

 

「慎司君もお夕飯の買い出しなん?」

「ああ、いつもは俺じゃないんだが今日はたまたまな」

「そうなんや今日は一人で夕飯?」

 

 そうそうと頷く。いつもは違うだがなー。さてさて、なにを作ろうかなと。お、新しい味のカップ麺見っけ。

 

「……まさかそれが今日の夕飯?」

「おう、これとプロテインが俺の夕飯で唯一作れる料理よ」

「それは料理とは言わん」

 

 まあその通り。と言っても前世の頃から料理はからっきしなのである。今世でも改善されずそのまま。まぁ、やる気がないんだからそりゃ上達はしないわな。

 

「せや、なんなら今日ウチで一緒にご飯食べへんか?御馳走するで?慎司君がよければ」

「え?そりゃ嬉しい申し出だけど迷惑じゃないか?」

「えぇってええって、一人増えた所で手間は変わらんし人数は多ければ多いほど楽しいやろ?それに、カップ麺とプロテインが夕飯って聞かされたらうちのプライドにかけてそれは許せへんしな」

「…………ママ?」

「せめてオカンって言え」

「関西のおばはん」

「あっははは……はっ倒すぞハゲ」

 

 怖い!?あとハゲじゃない!

 

「2人もそれでええよな?」

 

 食材を選んでるシャマルさんとヴィータちゃんに目を向けてはやてちゃんは同意を求める。

 

「ええ、勿論です」 

「あたしは……別に」

 

 2人は特に難色を示さなかった。

 

「ウチもこない間の親切してくれたお礼しとらんかったし……な?」

「大袈裟だなぁ……」

 

 ま、せっかく友達にもなれたし。ヴィータちゃんやシャマルさんそれに……はやてちゃん曰く家にもまだ家族がいるらしいしそのみんなとも仲良くなって友達になりたいなと思ったり。

 

「……んじゃ、お言葉に甘えてご馳走になろうかな」

「ホンマ?やった、そんなら1人分追加やね」

「あーそれと、その分の追加の料金は払わせておくれよ。そうした方が俺もはやてちゃんの料理気兼ねなく味わえるからさ」

 

 両親から預かったお金だけどな。でもそう言う事はキチッとした方がいい。

 

「別にええのに。まぁ、慎司君がそう言うなら素直に受け取るわ」

 

 そうしてもらえると助かりますよ。ちなみに今日の八神家のメニューはカレーらしくその為の買い出しをしつつ俺は3人の案内で八神家に足を運んだ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

「慎司君、ランニングしとったやろ?準備してる間シャワーでも浴びてな」

「え、いいのか?」

「かまへんよ。ヴィータ、案内したって」

「うん………」

「悪いな、ありがとう」

「いえいえ〜」

 

 まぁ、汗臭いままみんなの前で食事するのも失礼だしお言葉に甘えよう。途中シャマルさんとヴィータの他に以前にも見かけたキリッとした雰囲気で桃色の髪色をポニーテールで束ねた女性とアルフの獣形態を彷彿とさせる犬?狼?らしき動物を見かけたのでそれぞれ会釈だけしておいた。

 

「お風呂は…ここだ」

「ありがとうヴィータちゃん」

「……別に」

「あ、それと俺の荷物にヴィータちゃんが食べたそうにしてたアイス買って来たからさ冷凍庫に入れておいてくれる?みんなの分もあるから食後に一緒に食おうぜ」

「え?は?」

「スーパーで食いたそうにしてたろ?俺も好きなんだアレ」

 

 結構チラチラ見てたからすぐにわかった。遠慮してたのだろうか、しかし俺が準備してしまえば問題なかろうと思いついつい買ってしまった。溶かすのも勿体無いし皆んなに食べてもらわないと。

 

「お前、何でだよ」

「何が?」

「何でわざわざそんな事……」

 

 ヴィータちゃんが驚きの表情を浮かべてそう言っている。そんなに驚く事だろうか?少し疑問を抱きつつ俺はなんて事ないと答える。

 

「ヴィータちゃん達と仲良くなりたいからな、そのための親切みたいなもんさ。別に驚くような事じゃないだろ?」

「……そう言うものなのか?」

「そう言うもんさ」

 

 さて、体も冷えて来たしシャワーでスッキリさせてもらうとするか。

 

「案内ありがとねヴィータちゃん。んじゃ、また後で」

 

 そう言って扉を閉める。

 

「……………変なやつ」

 

 1人取り残されたヴィータちゃんがそう静かに呟いたのは勿論聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うめえええええええええ!!このカレー超うめええええええ!!」

「なんやそんながっつかれると照れるなぁ。カレーは逃げへんからゆっくり食べなって」

 

 苦笑気味のはやてちゃんにおうっと返事をしつつペロリと皿を空にする。シャワーを浴びてから服を借りてそれに着替えた後八神家の面々に自己紹介をしあった。ヴィータちゃんとシャマルさんはスーパーでも名前は聞いた。後の1人と一匹、キリッとした雰囲気で何だかカッコ良そうな女性がシグナムさん……犬(狼?知らね)の方がザフィーラとの事。そして八神はやて。今この面々で共同生活をしているとはやてちゃんは語った。家族全員似てないとか違和感感じまくりだけど突っ込むの無粋だし家族の形はそれぞれだ、その事に口出す権利もあるわけでない俺はその言葉を信じた。はやてちゃんはなんて事ないって顔しながら話してるけど他の皆んなは何だかそわそわしている様子だった。

 俺がいる事に何かあるのかそれとも別の理由があるのかは知らんけど。まぁ、そんな事気にせず俺はいつも通りの態度でいる事にする。

 

「慎司君まだ食い足らんやろ?いっぱい作ったからおかわりしてな」

「マジで?なんか悪いな」

「慎司君おるからついつい作りすぎてしもうてなぁ………残すのも勿体無いし遠慮しないで食べてぇな」

「なら遠慮なく」

 

 というわけで皿を持っていこうとするとシャマルさんが「私がやりますよ」と笑顔でよそってくれる。

 

「はい、どうぞ」

「ありがとうシャ……マルさん」

 

 おいおい、デカ盛りじゃねぇか。フードファイターじゃないぞ俺は。

 

「いくら何でも多くないか?」

「加減しろよ」

 

 シグナムさんとヴィータちゃんが苦笑気味にそう言うとシャマルさんはあわあわしながら

 

「ご、ごめんなさい」

「ええやんか、慎司君ならそれくらい食べれるやろ?」

「………おう、任せろ」

 

 そう言ってスプーンを手に取りカレーをかきこむ。

 

「流石男の子やな、ええ食べっぷり」

「そりゃどうも」

 

 まぁ、これくらいなら食べれなくはない。柔道の体作りの一環で普段からご飯は人より多く食べてるしな。

 

「……初めて会った時もランニングしとったし、見かけによらず体もがっしりしとるけど何かスポーツでもやってるん?」

「ああ、柔道やってんだよ」

「へー、そりゃカッコええな」

 

 どうもどうも、なんか照れるな。

 

「「「柔道?」」」

 

 そう首を傾げるシャマルさんとシグナムさんとヴィータちゃん。おや、知らないのかな?まぁ、外国人っぽいしおかしな事じゃないか。日本語流暢なのは気にしないでおこう。

 

「日本の国技だよ………えっとな…」

 

 げっ、俺がやってる試合の動画しかない。まぁいいか。

 

「ほら、こういうやつ」

 

 携帯に保存していた俺の試合の動画を見せる。ビデオで撮った動画を移行しているのだ。手持ち無沙汰の時に研究できるからな。ちょいと恥ずかしが。はやてちゃんも含めて皆んな食い入るように見つめる。お、ザフィーラまで後ろで見てるよ。

 

「これ、慎司君とちゃうか?」

「そうそう、右側が俺」

「おぉ……おぉ!すげぇ……」

「これは……見事な動きだな」

 

 ヴィータちゃんとシグナムさんの言葉に若干照れる。やめろって、自慢してるみたいだから。

 

「すごいですね……」

 

 シャマルさんまで……。俺が一本を取って試合が終わった所で携帯を返してもらう。皆んな少し興奮気味だ。

 

「慎司君すごいなぁ……めっちゃ強いとちゃうん?」

「まさか、まだまだだよ俺は」

「しかし、素人目だが目を見張る技の冴えだ。正直驚いたよ」

「ああ、シグナムの言う通りだ。カッコいいなお前」

「だははは、まぁありがとう。悪い気はしないよ」

 

 恥ずかしいからここらへんで話題を切っておきたい。が、はやてちゃんの次の一言で場の空気は少し固まる。

 

「ええなぁ、うちはこんな足やからスポーツ出来ひんからなぁ」

 

 俺もまだ未熟だった。そこで軽口でも返しておけばはやてちゃんに気を使わせずに済んだがつい言葉を止めてしまった。はやてちゃんもハッとした様子で

 

「ご、ごめんなぁ……失言やったわ、気にせんといて。慎司君も気を使って聞かないでくれたのにごめんなぁ」

「謝る事じゃないだろ別に」

 

 何とか言葉を絞り出す。ここでこの話を終わらせても良かったけどここまではやてちゃんが言ってしまったのならあえて聞くのもありだろう。

 

「いつから何だ?その足」

「……ちっちゃい頃からや。もう慣れたから気にせんといてなホンマに」

 

 つーことは、恐らく治る見込みはほとんどないってやつなのか。親と思われる人もいないのを見ると孤児なのだろう察しもつく。シグナムさん達はよく分からないけど。

 

「そっか……」

 

 スポーツどころか歩く事も出来ないこの女の子に俺が何を言っても傷付けるだけだ。励ましも同情もこの子にとっては辛いものだろう。だったら、俺は気にしないままでいよう。だからこそ、こんな提案する。

 

「だったらさはやてちゃん、今度俺の試合見に来てくれよ」

「慎司君の試合?」

「ああ、まだ少し先の話だけどさ…まぁまぁ大きい大会に出るんだ。暇だったら見に来ないか?」

「え、ええんか?」

「勿論、確かにはやてちゃんは普通のスポーツは出来ないかも知れないけどさ、スポーツの楽しみ方ってする事だけじゃねぇだろ?見る事だって楽しめるのがスポーツだよ。…………俺が、はやてちゃんを楽しませる試合を見せてやる」

「あはは、大きく出たなぁ……そんな事言って平気なん?」

「おう、約束してやんよ。ぜってぇ生で見てよかったって言わせてやるよ」

「慎司君男らしくてカッコええね、惚れてまうわ」

「嘘つけ、笑い堪えてんじゃねぇか」

「あ、バレた?」

「「あははははは」」

 

 2人して笑う。俺の友達は皆んな笑顔がよく似合う。その方がいい。笑ってる方が……いい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後はアイスでも食べながらはやてちゃんと中心に話をした。実は関西出身じゃないって言われた事が一番驚いた。嘘だろおい、関西弁なのは両親の影響だという。その両親も既に亡くなっている事も教えてくれた。シグナムさん達の事は何だかはぐらかされたが別に無理して知りたいわけでもないしな。

 はやてちゃんだけじゃなくてヴィータちゃんやシグナムさんとシャマルさんとも結構お話できたと思う。シグナムさんはしっかりしてる人だって事がよく分かった、シャマルさんは割とお茶目な所もある事を知った、ヴィータちゃんはムスッとしてるけど優しい子だって事を理解した。今日で割と皆んなと仲良くなれたと自負している。ああ、楽しい1日だった。

 

 時間を見てはやてちゃん達に別れとまたお邪魔する事を約束して八神邸を後にする。新しく出来た友人達に心を躍りながら帰っていると後ろから荒瀬……と声をかけられる。振り返るとさっき別れたばかりのシグナムさんとシャマルさんにヴィータちゃん、ついでにザフィーラがいた。はやてちゃん以外の面々が勢揃いだ。

 

「あれ?何か忘れ物でもしたかな?」

 

 所持品を確かめるが忘れ物は特になさそうだが。

 

「荒瀬……ありがとう」

 

 突然シグナムさんからお礼を言われる。

 

「ある………はやてにはお前のような同世代の友人がいなくてだな。またはやてとこうやって会いに来て欲しい」

 

 何だそういう事。家族思いの優しい人達だ。

 

「当たり前よ、俺が会いたいくらいさ……今日はめちゃ楽しかったからな」

「そうか……それならよかった」

 

 それだけだとシグナムさんが言うと皆んな踵を返そうとする。

 

「待てよ!何か勘違いしてるみたいだけど……俺ははやてちゃんに会いに行くんじゃないぞ?皆んなに会いに行くんだからな!」

 

 俺のその言葉で止まる一同。意味が分からなそうな顔をしているから改めて言葉にする。

 

「だーかーらー、はやてちゃんだけじゃなくてシグナムさん達と一緒なのも楽しかったって言いたいんだよ」

 

 全員に近づいて俺は宣言するように口を開く。

 

「お前らがそう思ってなかったとしてもこれからははやてちゃんだけじゃなくて皆んなも勿論友達だからな!今日は何か遠慮してあんまり話に入ってこなかったけど次はちゃんとお話ししてくれよ」

 

 笑顔を見せて約束だからなと伝える。今日のこの3人の態度には違和感があった。別に俺を邪険にしてるわけではなかったけどなるべくはやてちゃんと話をさせようとしたりとかそんな素振りがあった。気を使ったつもりだろうがとんでもない、俺ははやてちゃんも勿論皆んなと仲良くなりたいのだ。

 

「それと!荒瀬じゃなくて慎司でいいよ、いやそう呼んでくれ。その方が親しみあんだろ?」

 

 俺の言葉に3人は驚きの表情を浮かべる。フェイトちゃんもそうだったけどどうしてか俺の友達になろうって初めて言われたみたいな反応する子多いんだろう。

 

「あ、もちろんザフィーラもな。お前も友達だぞ、忘れんなよ」

 

 そう言って大きすぎるこの大型犬を撫で回す。それにしても大人しいな、嫌がるそぶりも喜ぶそぶりも見せねぇ。

 

「そうか……なら私の事もシグナム……そう呼んでくれ。その方が………親しみがあるんだろ?」

「あ、それなら私もシャマルって呼んでくれるかしら?」

「アタシも……ヴィータって……」

「ああ!改めてよろしくな、シグナム、シャマル、ヴィータちゃん」

「おい、アタシだけ変わってねーぞ」

「ヴィータちゃんはヴィータちゃんの方が親しみあるししっくり来るんだよ」

「まぁ……それならいいけどよ」

 

 ああ、よろしく頼むな。こうやって仲良くなっていけたら嬉しい。

 

「んじゃ、今度こそまたな。今日は本当に楽しかったよ!」

「私達も今日はお前と会えて楽しかった。また私達の家に遊び来てくれ、慎司」

「またね」

「またな」

「ワン」

 

 おお、ザフィーラが鳴いた。にしても下手くそなワンだな、返事を返してくれたのは嬉しいけど。お前本当に犬か?まぁいいけどさ。

 手を上げて別れを告げる。踵を返して歩を進め3人と一匹に見送られて帰路に着いた。後ろを向いた俺には分からなかったけど、何にも事情を知らない俺には知る由もなかったけど…………

 

 

 

 

 守護騎士達は今日、主はやての前以外で初めて心の底から笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 





 
 さぁ始まりましたエース編。頑張ります!

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