転生しても楽しむ心は忘れずに   作:オカケン

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 なんか筆が乗ったので連続投稿。このペース維持できたらなぁ。


ありがとう

 

 

 

 

 

 

 

 翌日から早速新しい日々が始まった。と言っても変わり映えはしない。幼稚園が終わった後に公園まで行き同じく俺とは違う幼稚園が終わってからこちらに向かってくる予定のなのはちゃんを待つ。

 合流すれば時間までなのはちゃんと公園で遊びまわる。そのまま家へ連行してご飯を共にし時間まで一緒に過ごす。一つのケジメとしてなのはちゃんは家での寝泊まりはせず毎日毎日自分の家に帰っている。泊まればいいのにと一言言ったけどこれは遠慮とかそう言う類では無く、家族が誰もいない今、せめて家で会う事はできなくてもちゃんと帰りを待ちたいとのなのはちゃんからのお願いだった。そこまで言われては仕方ない。

 と言っても土日休日なんかはたまにお泊まりなんかもしたりしてそこは臨機応変に。なのはちゃんと過ごすいっときの時間は俺にとっても楽しい事だった。幼稚園ではどうしても実年齢とのギャップで心から園児達に接する事が出来なくていかんせん友達と呼べる子は出来なかった。話したりはするけど所詮その程度だ。しかし何故かは分からないがなのはちゃんとは少し波長が合うような感覚がある。なのはちゃんも実年齢より少し大人っぽい考えを持ってるからだろうか。といっても節々に見る言動はやはり5歳児のそれだが。そんな日々を送るとなのはちゃんも最初の頃に比べてだいぶ心を開いてくれて接してくれている。もう仲良しと言っても過言じゃないだろう。最近は前より少しいじっても笑って許してくれる。よしよし、この調子でどんどん許容範囲を増やしていくぞ。

 

「暇ですな」

「ひまですなー」

 

 俺の一言に棒読みでなのはちゃんが繰り返す。なのはちゃんが家に通うようになって10日ほど経った今日。遊ぶネタが尽きた。と言うのも公園の遊具では遊び尽くしたし、家で遊べる事も全て飽きるほどやり尽くしてしまった。こうならないよう色々子供じゃ考え付かないような遊びを提案してやってきたが早くも限界である。どうしようかな、子供の姿じゃなければどこか遠くに連れ回すんだけど。

 今日は仕事は休みで朝から家のソファでだらけてる父を見る。

 

「ん?どうした?」

「パパン麻雀買って」

「だめー」

「えー」

 

 後ろでなのはちゃんがまーじゃんって何っ?てしつこく絡んでくるのをホッペグニグニ応対しながらブーブーと抗議する。

 

「お前がやるのは良いけどなのはちゃんに悪影響がないとも限らんだろ?」

 

 ほぼ預かっているような状態とはいえ他所様のお子様には慎重なパパン。まぁ確かに。別に悪い遊びじゃないけど賭け事が絡んでくる事が多いからね麻雀。

 少し話は変わるがうちのパパンとママンは俺が5歳児とかけ離れた言動しても何も言ってこない。口調とかもう外見の年齢に合わせるのが辛くて半ばやけっぱちで素をだしてるがビックリするくらい何も言ってこない。

 それどころかそれと同じレベルで会話してくれて受け入れてくれてる。いやほんといい両親よ。前世の両親とは負けず劣らず。お陰で素を出す事が怖く無くなった、感謝してる。

 

「んじゃなんかないかな、遊び道具」

 

 俺の問いかけにうーんと唸りながら考える仕草をするパパン。同時にずっとなのはちゃんのホッペをぐにぐにしてたままだった事に気づいてすぐやめた。なのはちゃんは「もうっ!もうっ!やめてって言ってるのにー!」とか言いながら指の跡がついたホッペを膨らませて俺の背中をポカポカ。はっはっはっ、愛いやつめ。

 

「とりあえずこれで遊んでみたら?」

 

 と差し出して来たのはゲーム機本体。こりゃ64ですな。この世界にもあるのね。ついでにソフトも手渡される。スマブラか、いいね。ゲームは確かにずっとやってると飽きやすいがちょこちょこやりたくなるもんでもある。早速ソフトに息を吹きかけてから起動。コントローラーもちょうど2つあるのでなのはちゃんに手渡してやり方をレクチャーしながら練習も交える。では本格的に対戦といこう。こっちは髭面の赤い配管工のおっさんをなのはちゃんは可愛いからとまん丸ピンクの雑食悪魔を。対戦スタートだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ………全然勝てないぃ」

「HAHAHA、まだまだひよっこのぉ、なのすけ」

「なのすけじゃないもん……」

 

 拗ねんなよ。こちとら前世で多少ならしたんだぜ。わざと負けるのはプライドが許さんのよ。

 

「ほれほれ、かかって来んさい」

「もういいもん……慎司君意地悪だから」

 

 あぁ、ごめんって。コントローラー手放すなよ。ならこうしよう、俺も配管工のおっさん使わないから。使った事のないキャラ使うから。それにハンデもあげるから、それに勝ったら何でも言う事を聞いてあげよう。

 

「ほ、ホント?」

 

 ホントホント、嘘はつかない。この変態チックなマスクマンレーサーを使うから。なのはちゃんは好きなの使いなよ。

 

「よ、よーし。負けないもん」

 

 現になのはちゃん操作に慣れて来たのか最初より全然いい動きしてるから自信がついて来たのだろう。いいねいいね、なのはちゃんもやる気出したみたいだし。ゲームはこうでなくっちゃ。ではハンデもつけて対戦スタート。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘だぁ、使った事無いなんて嘘だよぉ」

「あっひは、嘘じゃ無いよ。(今世では)初めて使うキャラだよ」

 

 全てファルコンパンチで決めてやったり。少し頬を膨らませて怒ってますよアピールしてくるなのはちゃん。本気で怒ってないくせに。ホッペを突ついて口から空気を漏らさせる。

 そうするとなのはちゃんまた頬を膨らませて突ついても空気が抜けないように力を込めた。今度は両指で挟む形で突いて空気を吐かせる。はい、俺の勝ちーと言わんばかりの表情を見せつけると負けじとなのはちゃんパンパンに頬が膨らむまで空気を取り込んで顔を赤くしながら口周りに力を込める。

 

「ぷはっ、なのはちゃん変な顔〜」

「〜〜〜〜っ!〜〜〜っ!!」

 

 納得いかないとばかりに頬を膨らませたままポカポカポカポカ。もはやポカポカされるのさえ心地よく感じる。やっぱりなのはちゃんと遊ぶのは楽しいのぉ。

 

「慎司、あんまりなのはちゃんからかわないの」

 

 といつの間にか後ろにいたママンがやれやれとため息まじりに軽くどついてくる。からかってないよ、おもちゃにしてるだけよ。

 

「全く、もう夕飯にするからお料理運ぶの手伝ってくれる?」

「うぃーす」

「わ、私も手伝います」

「いつもありがとね、なのはちゃん」

 

 と2人でわちゃわちゃとお手伝い。

 

「ママン、ママン………パパンサボってるよ。優雅に新聞開いてるよ」

「パパはいいのー、たまにの休日くらい何もしないでゆっくり休ませてあげて」

「ママンは休まず家で頑張ってるのに?」

「…………おい夫、皿くらい運べ」

「慎司もママンも厳しいなぁ」

 

 そういう気遣いが夫婦仲を悪くさせない秘訣だと息子は思うのです。

 

「仲良いね慎司君も慎司君のお父さんとお母さんも」

「仲良すぎて困るよ、俺が寝た後どうせ2人でイチャコラしてんだろうし」

「おい息子、口を閉じろ。晩飯湯豆腐だけにするぞ」

 

 ママンごめんなさい。それは勘弁。なのはちゃんは可愛らしくイチャコラ?と首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 そんなような楽しい日々が続く。家にいる以外にも休日には家族で出かける時もなのはちゃんを一緒に連れて行ったりしていた。映画やショッピングセンターには何回も行ったし。温泉やその他もろもろ。とある日には誰もいない高町家まで赴き世話焼きのママンが遠慮する桃子さんから無理やり許可を得て忙しくて手付かずな掃除や整理などを引き受けていた。

 ホントママン出来る女で泣ける。無論、なのはちゃんと俺ちゃんもお手伝いでついていったり。時にはなのはちゃん連れて翠屋まで家族で行ったり。なのはちゃんになるべく定期的に家族に会わせるために。お客さんとして行くなら迷惑にはならないだろうとパパンの提案である。

 そん時初めてなのはちゃんのお姉さんとお兄さんに遭遇。ていうか結構年上だった。びっくりよ、姉の美由希さん12歳で7個上、長男の恭也さんは14歳。まぁ、お手伝い忙しそうで顔を見ただけでほとんど話せなかったけどね。落ち着いたら是非お話ししてみたい。

 

 

 それにしても翠屋ケーキ超うめぇ。桃子さんパティシエ?なのかね?すごいこれ、前世含めて今まで食べたケーキで一番うまいよ。満面の笑みで美味い美味いと食べる俺を見て桃子さんやお兄さんお姉さんは満足気に俺を眺めていた。

 何だよ、照れるじゃんかー。もう、そんな目で見ても追加注文なんかしてあげないぞ〜。

 

「すいません、ビールください」

 

 ママンにどつかれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無論何も問題が起こらなかったという訳ではなく、一度ちょっとした事件があった。

 

「…………………」

「…………………」

 

 互いに無言で見つめ合う俺となのはちゃん。2人ともスッポンポン。全裸、裸。いや露出癖とかそういうんじゃない、ここは我が家の風呂場である。今日はなのはちゃんは幼稚園のイベント的な事があるらしく少し遅くなるとの事。ちなみに桃子さんがなんとかイベントに参加できるよう時間を取って一緒に楽しんでるみたい。と言っても終わったらすぐお店に戻らなきゃいけないそうで夕飯には来るらしい。ちなみに桃子さんの代わりに店にはうちのママンがまさかのヘルパーとして赴いてる。無論ケーキなど作れないが雑用なんかを無償で引き受けたそう。そのかわり後日ケーキを貰う約束したらしく俺的にはたのしみである。

 とにかく、そんな予定を聞かされていたので幼稚園から帰っても我が家には誰もいない筈だった。実は途中で通り雨にやられ全身びしょ濡れ。風邪を引かぬよう玄関の鍵が開いていたことに疑問も抱かず、なのはちゃんの靴があることも気付かず、速攻で服を脱ぎ捨て風呂へダッシュ。

 そしたらちょうどお風呂から出てきてタオルを手に取ろうとしてたなのはちゃんに遭遇。恐らくなのはちゃんも同じ理由でお風呂を頂いたのだろう。イベントも予定より早く終わったのだろうか。とにかく、そんな嬉しくもないスケベイベントが発生してしまった。

 

「早かったねなのはちゃん。イベント楽しかった?」

 

 と言っても幼女の裸に遭遇したところで何も感情は湧かなかった。それもそうだ、別にロリコンとかそういうんじゃないし。体も5歳のせいか性的な気持ちとか一切湧かないし。だからいつも通り声をかけた。

 

「…………」

 

 と言ってもなのはちゃんは硬直したまま返事してくれない。

 

「なのはちゃん?早く体拭かないと風邪引くよ?」

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 

 顔を真っ赤にしたと思ったらタオルを体に巻いてそそくさと着替えの服を持って風呂場から逃げるなのはちゃん。出て行く直前にこちらを向いて一言。

 

「し、慎司君のエッチ!すけべ!!」

 

 そんなことを声を大にして言い放ちつつも扉はゆっくり静かに閉じるというしつけの良さを見せつけてパタパタと逃げて行く。

 

「いやっ、理不尽ワロタ」

 

 なのはちゃんにあとでしっかり謝ろう。なのはちゃんも5歳とはいえ羞恥心はあるだろうし。でも風邪を引いちゃうから先にシャワー浴びてからだなぁ。

 

 ちなみにその後は平謝りで機嫌を治すのには少し苦労した。事故ってことを理解してもらいその日の夕飯のおかずを一品提供したらコロッと機嫌が良くなった。くそがっ、俺のエビフライを!

 後でスマブラでボコボコにしてやる。

 

「今日のスマブラは慎司君残機1の私残機5ね!それで完全に許してあげる」

「いやだから理不尽ワロス」

 

 まぁそれでも結局ボコボコにしたわけだが。そしたらまた拗ね始めて今日のお風呂の件をネチネチ文句言ってくる。いやだから理不尽でテラワロス。とりあえずホッペをいつもより強めに引っ張り回しておいた。何故か機嫌が良くなった。ドMか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな日々を満喫して早数ヶ月、あっという間にその日はやってきた。なのはちゃんのお父さん………高町士郎さんが無事退院の日を迎えたのだ。これからは士郎さんが翠屋の店長としてお店を支える事になるらしい。すぐにとは行かないだろうが、遠くない日に状況も落ち着いて高町家に元の日常が戻る事だろう。めでたい事だ。なのはちゃんもようやく本当の家族と過ごす時間を取り戻せるのだ。その報告をしにきてくれたなのはちゃんはとても嬉しそうに語る。うんうん、喜べ喜べ。俺も嬉しいぞ。

 

「それでね、それでね!お父さんが皆んなに………慎司君と慎司君のお父さんとお母さんに是非お会いしたいって!」

 

 えっ。まさか、裸を見てしまった事を報告したのかなのはちゃん。それで不届きものの俺を切り捨てごめんしようと!?それを両親に見せしめとして呼ぶと!?あれ、事故なんだけど!!つーかまだ死にたくねぇ。

 俺は震えながら土下座をしてポッケから飴ちゃんを取り出しなのはちゃんに手渡す。

 

「これで勘弁じでぐだざい」

「え、何が?何で泣いてるの?」

 

 ちゃんと聞いたらお礼をさせて欲しいとの事。何だよそんな事かい。飴返せ。

 

 

 

 

 何て一幕がありつつ3日ほどなのはちゃんがうちにご飯を食べにくる日常は変わらず。が、今日はなのはちゃん一家が総出で待っている高町家の実家へ。とりあえず夕飯お呼ばれをしている。翠屋は早めに切り上げて来たらしく、結構準備して待ってくれてるみたい。なのはちゃんも向こうで待ってる。

 仕事を終えたパパンと合流しうちも一家揃って高町家へ。割と頻繁にお掃除しにママンと通ってたので道はバッチリ覚えたのである。

 

「あ、お待ちしておりました」

 

 出迎えてくれたのは桃子さんと士郎さん。士郎さんとは初対面。いや、カッコよ!カッコいいなこの人!見た目もそうだけどなん雰囲気とか何もかも全てがカッコいい。つい自分の父親と見比べる。

 

「悪かったな、あんなイケメンじゃなくて」

 

 いやいや、パパンもイケメンとまでは行かないけど結構いい線いってると思うよ。本心だよ、だからママンと同じように後ろからアイアンクローしないで!

 

「どうぞ、上がって下さい」

 

 士郎さんに促され俺たちは案内された居間に通される。来客用に用意された席に荒瀬家の3人が座りそれに対面する形で高町家、なのはちゃんやその兄姉を含め5人全員席につく。

 なんだろ、この空気。シリアスを感じる。やっぱり処されるなんてことないよね?ね?

 

「荒瀬家の皆さん………」

 

 重々しく開く士郎さんの口。あれま声もイケボ、完璧ですわ。

 

「本当に、本当にありがとうございます」

 

 真っ直ぐに、ただ真っ直ぐにこちらを見つめて頭を下げる士郎さん。だけじゃないな、なのはちゃんも桃子さんも、美由希さんも恭也さんも同じように頭を下げていた。両親はどうしようかと困惑しつつも頭を上げて下さいとパパンが返す。

 

「桃子となのはから事の経緯は聞いております。皆さんには返しきれない御恩を頂きました。何度お礼をしても足りないくらいの」

 

 パパン困惑しないで、ママン照れないでイケメンがいるからって。この空気変えてよ。

 

「不甲斐ない父親である私の尻拭いをさせてしまった事、大変申し訳ありませんでした」

「高町さん、そんな真剣に考えなくても結構ですよ」

 

 パパンようやくまともに返事をする。よし、いけたたみかけろ!シリアス苦手なの俺!

 

「私と妻はただ息子のわがままを聞いてやっただけです。それに奥様にもお伝えしましたが100%の善意という訳でもないので、こちらもこちらの思惑があっての行動ですから……どうか気にせず。遅れてしまいましたがご退院おめでとうございます」

 

 士郎さんはそこで涙ぐんでしまった。大袈裟な人………いや違うな。律儀で誠実な人なんだろう。高町家の面々は全員所謂良い人達なんだ。素晴らしい家族なんだろう。

 

「私達はこの街に住みついて日が浅い……妻が息子を産んですぐの頃に引っ越したものですから。ですからこの街に親しい間柄の……ご近所付き合いというものが無くてですね。ちょっとした憧れが妻と私共々あるんです。高町さん、よろしければ私達と親しい友人になる……それを私たちへのお礼としてくれませんか?」

「…………友人…ですか。勿論です、私の方から是非お願いしたいくらいです」

「それなら、私とたかま……士郎さんはこれから仲良くなる友人です。ですから友人から机の下に隠しているその封筒は受け取れません」

 

 え、パパン気付いてたのか。かっこいいな、見直したよパパン。

 

「何から何まで………ありがとうございます」

「いえいえ、その分今日は付き合ってもらいますよ。私、結構いける口ですので覚悟しておいて下さい」

 

 そう言って持参して来た酒瓶を手に取るパパン。パパン、そんな酒強くないでしょ。気をつけてね。

 

「それなら、私と桃子さんはとっくにもう親しい友人ですねぇ」

「あはは、ありがとうございます」

 

 母親組もう前から絡みあったしね。

 

「……貰ってばかりで立つ瀬がないです」

「それは違うわよ桃子さん。確かに私達は今回貴方達の手助けをした形だけど今後私達が困ったら高町家には遠慮なく頼らせてもらう予定なんですから」

「そうですね、こういうのは持ちつ持たれつ……て奴ですよ」

 

 最後にパパンのその一言で堅苦しい話は終わりですと告げるママン。よし、シリアスは終わったね。ていうかうちのママンとパパン人間出来過ぎでしょ、ますます尊敬の度合いあがるよこれ。

 

「あぁ、すいませんあと一つだけ」

 

 士郎さーん、もうええやんかー。腹減ったで俺。

 

「慎司君……」

 

 俺かい!俺にかい!なのはの裸を見てしまったのは事故なんですって!

 

「君にも、ちゃんとお礼を言わせて欲しい。なのはと仲良くしてくれて、高町家を助けてくれて………本当にありがとう」

 

 あまりに真剣な声音に息を呑んだ。ふざけた思考は消えて、そのお礼を真摯に返す。

 

「俺は……何も。ただなのはちゃんと遊んでただけですよ」

「君はそれだけだと思ってる事でもなのはにとってそして高町家にとってもとても救われたんだよ。君の心優しい行動に、感謝を。しつこいようだけど本当にありがとう」

 

 それは俺を子供と見て軽々しくお礼を言ってきている訳では無かった。1人の人間として俺を見て、深々と謝辞の想いを告げてくれていた。

 

「私からも、ありがとう……慎司君」

「なのはの事、ありがとうね」

「本当に妹が世話になった。俺からも……ありがとう」

 

 桃子さん、美由希さん、恭也さんも同じように真剣に礼を告げてくれていた。そして

 

「なのはちゃん……」

 

 立ち上がって俺の前で止まる。手をもじもじと恥じらいを少し混じりつつもそれでもみんなと同じ真剣な目つきと天使のような微笑みを添えて。

 

「私からも………ありがとう。私と友達になってくれて、いっぱい遊んでくれて……」

 

 思い出すように目を閉じてからなのはちゃんは、あの時とはもう全然違う、心の底からの満面の笑みで

 

「あの時、手を差し伸べてくれて、本当にありがとう。いっぱい感謝してます」

 

 まったく。どいつこいつも律儀だよ。だって俺はそこまで深く考えて声をかけた訳じゃ無かったから。ただ………前世のように色んなことに後悔をしながら人生を終えたくなかったから。今世では後悔しない人生を歩みたいって、そんな自分勝手な理由もあったから。そんな真剣なお礼を受け取る資格なんか無いと、そう思ってしまう。

 

「それでね、あのねっ」

 

 なのはちゃんは俺の手を取ってギュっと握って戸惑いながらも何か伝えようとしてくる。

 

「これからも、友達でいてくれますか?」

 

 ちょっと目が点になりそうな事を伝えてくるなのはちゃんだが、なぜそんな事を言ってきたのかは察する事が出来た。

 士郎さんが退院して元の日常に戻った高町家。なのはちゃんもうちに通い詰める理由はなくなった。元通り家族との時間を過ごす、そうするべきだ。無論だからといって今生の別れとかそんな物はなく。たまにうちにご飯でもご馳走されにくればいい。遊ぶのだって毎日できる訳だし。会える時間が減るだけで会えない訳じゃないのだから。

 だけど、大袈裟な言い方をするならば今、なのはちゃんと荒瀬家の間の一つの契約が終了したのだ。これまでとはお互い違う過ごし方となる、それは友人関係の終了とも言えなくはない。俺が同情でなのはちゃんを気遣って無理にそう装っていたらの話の場合だ。確かに、もしそうなら根本な事も解決した今、俺はなのはちゃんと会う事はなくなる可能性もある。それを心配したのだろう。だが、あくまでそれは俺がそういう風に考えていた場合であって事実とは異なる。

 心配する必要なんか何一つない。ていうか信じろよ友達じゃないか。なんだかモヤモヤとしてなのはちゃんのホッペをいつもみたいにグニグニと引っ張る。このタイミングでこの行動に驚くなのはちゃんに間髪入れずに俺は言った。

 

「んなの当たり前だろ。覚悟しろよ、なのはちゃん……なのはちゃんが嫌がってもずっと付き纏って一緒に遊んでもらうから」

 

 そんな事を言った事を後悔させるほどにな。フハハハハ。

 

「う、うんっ……うん!」

 

 嬉しそうに、安堵するように何度も頷くなのはちゃん。もう、流石に限界だから。この空気、やめよ。もうワイワイしようぜ。

 

「あー、お腹空いたなぁ」

 

 子供っぽくそうぼやく。わざとらしかったかな?

 

「うふふ、ごめんね慎司君。すぐに用意するから」

 

 そう言って桃子さんはキッチンへ。ママンも手伝うべく桃子さんについていった。

 

「慎司君……」

 

 士郎さんに呼ばれる。ふにゃふにゃしてるなのはちゃんの鼻に軽いデコピンをかましてから士郎さんに向き直った。後ろでギャーギャーしてるなのはちゃんは無視する。

 

「なのはの事、これからもよろしくお願いするね」

「っす、勿論です」

「ありがとう」

 

 礼を言うのはこっちだ。俺は今日こんなに感謝されて。こんな俺に真剣に向き合って言葉をくれて、そしてなのはちゃんと言う友達に出会わせてくれてありがとうと言いたい。

 そして何より、少しだけ。少しだけだが、俺は今日この人達に真剣に感謝されて……暖かい言葉をもらって初めて………少しだけ転生して良かったと思えた。まだ前世に未練はある、冷たいようだが戻れるなら戻りたいと願っていると思う。だけど『荒瀬慎司(山宮太郎)』にそう思わせてくれて、本当にありがとう。

 

「うん、そしたら。今度は別の話があるんだがいいかな?」

「はい?」

「……………なのはの裸を見たそうだね」

 

 ゲッ。嘘だろ。やっぱりその事話してたのかよなのすけぇ!

 

「…………いや、そのぉ……」

 

 事故なんですぅ。そんなつもりなかったんですぅ。なのはちゃんもお父さんやめてと慌てている。

 

「ふふ、冗談だ。事故だっていうのはなのはから聞いてるよ。子供同士なんだ、気にしなくていい」

 

 そう言って爽やかに笑う士郎さん。そして恥ずかしそうにポカポカと抗議するなのはちゃん。

 

「ただ、今後は気をつけて。これでも大事な娘なんだ」

 

 流石に威圧は篭ってなかったが本当にそういう事は今後ないように気をつけんとね。本当、次は多分斬られるわ俺。

 つーか、撤回だ撤回。やっぱ前世の方が良かったわー。つらいわー。

 

「慎司君ももう忘れて〜」

 

 今度は俺にポカポカしてくるなのはちゃん。それを見てやっぱりこう思うのだ。

 

 

 

 割とこの世界も悪くないと。

 

 

 

 

 




 シリアスメインで行くか日常メインで行くか。いや、普通に日常メインになるなこれ

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