眠いぜ、暑いのはしょうがない。寝にくいのはしょうがない。ただし蚊よ、てめーはダメだ
「甘いぃぃ!!砂糖をたっぷりのコーヒー牛乳より甘いぞヴィータちゃんんんん!!」
「や、やめろ!それだけはやめてくれ!」
「ふふふ………シールドブレイクされてピヨっちまったら最後……これの餌食だぁ!!」
ファルコン……パーンチ!!
「あああああ!!また負けたぁー!」
頭を抱えてorzになるヴィータちゃん。ただ今絶賛八神邸で俺が持ってきたスマブラをプレイ中。ふふふ、俺にタイマンで勝とうなんざ100年早いぜヴィータちゃん。
八神家族と知り合ってから少し経ってあれから何度もお邪魔をしている。ゲーム持っていって皆んなでプレイするのも今日が初めてじゃない。最近前にも増して両親が家を空けるようになりそれを聞いたはやてちゃんはその時は一緒にご飯しようとせがまれてしまったのでこうやって甘えている形である。
いや本当に感謝です。両親にそんなに忙しくて大丈夫なのかと一度話をしたが2人とも大事な用事だからしばらくこんな感じになってしまうと謝っていた。謝る必要はないけど子供としては心配だ、何事もない事を祈ろう。
「くそっ、慎司もう一回だ!」
「いいねいいね!もっと悔しさに顔を滲ませてやろう」
「どんなキャラやねん」
プレイ画面を見ていたはやてちゃんからそんなツッコミが飛んでくる。
ふふふ、負けず嫌いのヴィータちゃんだ。こんくらい煽れば料理もしやすくなると言うもの。よし、俺は永遠の二番手で行こう。ちなみにヴィータちゃんはデデデをよく使う。今回もそれだ。何が気に入ったのだろう?ハンマーかな?まさかな。
「この!この!この!」
あーあー、動きがまだ単調だなぁ。まぁ、始めてからそんなに経ってないし仕方ない。問答無用で吹っ飛ばす!
「復帰阻止メテオじゃオラァ!」
「あー!ずるいぞ!!」
ずるくなーい。テクニックと戦略でーす。
「くそぉ……慎司強すぎだろ」
「年季が違うからね年季が」
こちとら前世からやってるんじゃ、そりゃ負けれねぇですわ。
「んで?まだやる?」
「………今日はもういいや」
「ごめんて、拗ねんなよ」
「拗ねてねぇ!」
あー、怒んなって。
「それなら今度は私が相手となろう……ポケモンでな」
「お、シグナム……やっとメンバー選び終わったのか?」
「ああ、慎司からアドバイスを貰ってポケモンを育て直した。今度こそは負けないぞ」
よーしいいだろう。スマブラの電源をOFFにして今度はポケモンを起動する。ちなみにシグナム達は皆んなそれぞれポケモンをゲーム機本体ごと持ってるらしい。俺のせいで八神家ではゲームがちょっとしたブームになってるらしくはやてちゃんが笑いながら自分の分も含めて全員分のセットを買ったらしい。なんかごめん、家計平気かな?何かはやてちゃんの亡くなったお父さんの知り合いから結構な援助を受けてるって言ってたけど。
はやてちゃんは殆ど余って使い所に迷っていたらしくちょうど良いとは言っていたけども。
「よし、三対三のシングルバトルでいいな?」
「ああ、それでいい」
「やっちまえシグナム」
「頑張りー2人とも」
ヴィータちゃんの私怨の応援に苦笑しつつ俺もポケモンを選んで対戦スタートさてさてどんな構成にしてきたかな?俺の初手はとくこう速攻型のブーバーン。シグナムは………
「おっ!ギルガルドか!」
中々手強いポケモンだぞ。けどうまく使いこなせるのか?ギルガルドは攻守切り替えの出来るポケモン。攻撃形態になれば攻撃が上がるけど防御は下がる、キングシールドという固有技を使って自身を守りつつ防御形態に戻れば基本的には殴られ強い。セオリーなら、防御形態でパラメータを上げる技を使いチャンスを見て攻撃を仕掛けるのが理想だが。
「ちょ、バカお前」
初手でかげうちやって来やがった!バカ!このバカ!かげうちは素早さが遅くても先制を取れる素早さが遅いギルガルドには選択としては悪くない技だが使うタイミングがおかしい!攻撃技選んだら攻撃形態になって次のターンまではそのままだからパラメータ上げられる前に攻撃技選択した俺のブーバーンが
「なっ!?」
なっ!?……じゃねぇよ!当然だよ!みそっかすのとくぼうで俺のブーバーンの火炎放射くらえば終わりだよ!とくこうに努力値全振りしてんだから!しかも効果抜群だし。
「なぁ、シグナム。参考までに今のギルガルドの技構成教えてくれよ」
「ああ、ええっと……かげうち、アイアンヘッド、せいなるつるぎ、ギガインパクトだな」
ドアホー!攻撃技しか入ってねぇ!つるぎのまいどころかキングシールドすらいれてねぇ!完全にギルガルドの個性殺しにかかってんじゃん!何がしたいんだお前は!
………まぁ、ゲームっていうのは好きにやるもんだしとやかく言うものじゃ無いけどそれにしたって酷い。
「まぁ、気を取り直して次だ。このポケモンは今のようにはいかないぞ慎司」
不敵にニヤリとするシグナム。意外とポンコツかこいつ?しっかりしてそうでポンコツか?
予想通りポケモンの個性を殺しにかかってるシグナムの戦い方は俺の相手にならず無残な結果に。我慢できずに俺も苦言を呈した。
「まずギルガルド!キングシールドないのは論外!あっても初手かげうちなんてするのはお前くらいだよ!」
「し、しかし先制攻撃が」
「出来ても威力弱いから意味ないの!その後無防備にやられる確率の方が高いの!その為のキングシールドとつるぎのまいなの!」
「……ちまちました闘いは性に合わなくてな」
「その流れだけでちまちま言うな!」
戦闘狂かお前は!
「とにかく!ギルガルド育てなおせ、せめて技くらいはやり直せ」
「ぐっ………分かった。慎司に負けっぱなしなのは嫌だしな」
俺が言うのも何だけどゲームだからそんな深刻に考えられても困るけど。
ちなみにその後自信満々にシャマルさんからポケモン勝負を挑まれたが編成がピクシー、ハピネス、プクリンとなんとも偏った編成だった。ていうかまん丸ピンク系ポケモンが好きなだけだろ。とりあえず、八神家の皆んなゲーム下手なのがよくわかった。まぁ、今後とも鍛え上げるつもりで遊ぼう。うん、あまりに酷いからね。何だかんだ楽しんでくれてるしいいだろう。
「ほな、そろそろご飯にしよか」
いつの間にか台所で料理を終えていたはやてちゃんにそう呼びかけられる。わお、いつの間に。以前手伝おうとしたのだが頑なに断られたなぁ。カップ麺を料理言うやつには安心して任せられへんだって。酷いよね、その通りだけど。あ、今日はシチューだ。皆んな席に着いたところで全員でいただきますと手を合わせてから料理を口にする。
「うおおおお!やっぱりうめぇなぁはやてちゃんの料理」
俺だけじゃなくシグナム達も満足気に口に料理を運ぶ。やっぱり場数をこなしてるはやてちゃんの料理の腕は同い年とは思えないほど美味しい。
「やっぱオカンだよはやてちゃん」
「あはは、全然嬉しくない言葉やね」
「………ママ?」
「それを慎司君に言われるのは嫌やなぁ」
「くされ外道」
「なんでやねん」
はやてママのツッコミは今日もキレッキレである。あ、ヴィータちゃんがちょっと笑ってる。楽しめたのならなにより。
「慎司君、今日も練習やったんやろ?大変やなぁ」
「大変じゃないさ。勝つ為の努力だからな、練習はキツいし疲れるけどその為だったら惜しくないさ」
スポーツにおいての努力は所詮試合に勝つ為の努力だ。試合の勝つのが全てではない……俺もそうは思うが柔道家として一番の目的は試合に勝って強くなる事なのだから全てではなくても勝てなければ意味はない。
それが現実だ。その事を俺はよく理解している。
「んで慎司、お前が言ってた試合はいつなんだよ?」
シチューを呑み込みつつヴィータちゃんがそう問いかけてくる。そういえばまだ教えてなかったか。
「2週間後だよ」
「そっかぁ、2週間後かぁ、楽しみやね皆んな」
はやてちゃんの言葉に皆んなうんうんと頷いている。
「私達もお前の活躍を見れる日を楽しみにしている。頑張れよ、慎司」
シグナムからのエールにおうっと答える。約束したんだ、情けねぇ試合は見せられねぇ。そうじゃなくても、今度の試合はいつにも増して負けられないからな。
ご飯もご馳走になり少しだけ八神家でゆっくりしてから皆んなに見送られ帰路につく。またすぐに来ることになりそうだ。世話になりっぱなしなのは申し訳ない気もするが、シグナム達との約束もあるししばらくはこんな感じでいいだろう。
「にしても、はやてちゃんには参ったなぁ」
1人そうぼやく。別に悪口ではない、ちょっと困った一面を先日聞いたのだ。はやてちゃん達と知り合って何度も遊んで交友を深めたのでそろそろいいかなとなのはちゃん達を紹介しようと考えていたのだ。シグナムが俺と知り合う前は同世代の友達はいないって言ってたしきっと皆んなともが仲良くなれると思ったから。そう思いシグナム達にも相談したんだが
「私もそれには賛成だ。しかしな……」
乗ってくれると思ったのだが以外にもシグナムは苦い顔を浮かべる。なんだ?何か問題が?
「……見てもらった方が早いだろう」
そう言って八神家の台所に案内される。
「これを見てくれ」
そう言ってそこにある冷蔵庫を開いて見せるシグナム。
「………なんじゃこりゃ」
中には食材という食材がこれでもかとギュウギュウに詰め込まれていた。確かに八神家はザフィーラを除いて4人、冷蔵庫の中は必然と多くなるものだがそれでは説明できない程の量だ。
「これだけじゃない」
そう言うとシグナムはもう一つ同じサイズの冷蔵庫を開ける。
「あれ?冷蔵庫って2つもあったっけ?」
「我がある………はやてがな最近買い足したんだ」
我が……なんて言おうとしたんだ?まぁいいか。それにしても何故?そしてこの冷蔵庫にも恐ろしい量の食材やら何やらが埋め尽くされていた。自然と顔が引きつる。
「こういうことだ」
「どいうことですかねぇ?」
シグナム曰く俺が足げに通うようになってからすぐに冷蔵庫を増やして食材はそれはもう必要以上に買い込むようになったらしい。その時はやてちゃんは
『慎司君は柔道もやってるし一杯食べさせたいからなぁ。これくらい必要やろ?』
多すぎです!バカか!何でだよ、俺のためって言われると罪悪感だよ逆に!お金は!?生活平気なのほんと?
「そこら辺は心配しなくていい。蓄えは本当に余ってるみたいなんだ」
だからって……うーん。
「こんな事は初めてでな。我々も正直戸惑っている、恐らくだが初めて出来た同い年の友達にテンション上がって暴走しているのだろう」
「暴走の域を超えてるよな絶対」
「とにかく、はやてに慎司の友人を紹介するのは少しの間待って欲しい。今の状態で同い年の友達が増えたら……何をするか分からん」
「皆んなと過ごせるようにもっと大きい家買うとか言い出さないだろうな?」
「………………」
「否定してくれ」
とにかく、はやては根はしっかりしてる子だからしばらくすれば落ち着いて冷静にまともになってくれるだろうとシグナムは言う。それまでは待っててくれとの事。勿論今まで通り八神家には顔を出して欲しいとシグナムからお願いされた。
いや、本当……金尽きる前にちゃんと頼むよ?本当。
「はは、はやてちゃんも中々面白いな」
そんなやり取りがあった為なのはちゃん達を紹介する事になるのは先になりそうだった。まぁ、慌てる事じゃないし気長に待とう。八神家の財産が心配だがまぁ本当に大丈夫だって言ってたし心配するのも野暮か。さて、明日も学校だし帰ったら支度してさっさと寝よう。
翌日、学校の休み時間。
「ねぇねぇ慎司君、試合……いつだっけ?」
「……2週間後」
「そっか、ありがとう」
「おう」
そう言って自分の席に戻っていくなのはちゃん。しかしそわそわしだしたかと思うとまた席を立ってこっちに来る。
「ねぇねぇ慎司君、今度はどんな大会?」
「……割と大きい大会。この間なのはちゃんが来れなかった試合と同じくらいの規模かな」
「そうなんだ、分かった。ありがとう」
「ああ」
そう言ってパタパタと席に戻るなのはちゃん。しかし、またそわそわしだし先程と同じようにこちらに戻ってくる。
「ねぇねぇ慎司君、会場はどこかな?」
「県立武道館、なのはちゃんも応援に来てくれた時に何回か来たところ」
「あの大きい武道館なんだ、わかった!」
軽い足取りで自分の席に戻るなのはちゃん。席に座った瞬間にまた立ち上がってこちらの席に
「ねぇねぇ慎」
「だぁ!!何でお前が俺よりそわそわしてんだよ!」
俺の叫びになのはちゃんがピクッと驚く。
「そ、そんな事ないよ!」
「そんな事あるよ!しかもまだ2週間前だぞ?俺だってそんなそわそわしてねぇよ!」
「しょ、しょうがないじゃん!なのはだってすごい楽しみなんだけどなんだか緊張しちゃって……」
なーんでお前が緊張するんだよー?
「まぁまぁ2人とも落ち着いて、ね?」
「そうよ、なのはが慎司の柔道の事になると挙動不審になるのなんか今更じゃない」
「挙動不審!?」
「まぁ確かに」
「納得しないで!?」
「いやするだろ」
一部始終を見ていたアリサちゃんとすずかちゃんはうんうんと頷く。だってよぉ
「なのはちゃんこの間の大会の前日も私とアリサちゃんに夜中にずっとメールしてきたし」
「緊張して寝れないーって私達に言われても困る内容をね」
「うぅ……ごめん。なんかテンションがおかしくて」
何してんだ本当に。
「それに、桃子さんから聞いたぞ、いつも俺の大会の近くになると……高町家の道場で正座で暴れ回ってるってな」
「「奇行!?」」
「ち、違うもん!ちょっと柔道の動きとかマネしてるだけだもん!」
どちらにしても奇行だよ。影響受けすぎだってなのはちゃん。
「なのはちゃんが慎司君の柔道応援したい気持ちが大きいのは分かるけど……少し落ち着いた方がいいよ?」
すずかちゃんにハッキリと言われなのはちゃんは涙目になりながら
「うぅ、気をつけます……」
と綴った。まぁ、応援してくれる気持ちは毎度のこと嬉しいけどさ……。
「でも、慎司最近優勝続きで調子が良いんだし今回の大会も楽勝でしょ?」
確かに小さな大会が続いていたとはいえ優勝という結果が安定してきたが油断は出来ない。それに、今回は今までの大会で一番優勝が過酷になると思う。
「そうはいかねぇさ、勿論優勝する気で出場するけどさ……今回の大会はアイツもいるんだ」
「アイツ?」
「『神童隼人』………なのはちゃんが来れなかった大会の決勝戦の相手だよ」
「あぁ!あのすごい強かった人だね、覚えてるよ」
すずかちゃんの言う通り俺が今世で相手した柔道家ではこの神童が1番の強敵だった。後から知った事だがアイツは全国クラスの選手だ、正直言ってアイツにとってはこの間の県大会レベルの大きな大会も肩慣らし程度の気持ちだったのだろう。しかし、接戦とはいえ俺の勝利に終わった。無警戒の相手だった俺に負けたのだ、目を付けられたのは確実だろう。
一度勝った相手には初戦より次から勝つ方が難しい、それに前回は俺が優勝するには必然的に当たる事は分かってたから映像なんかを調べて研究もしていた……今度は五分五分の条件になるだろう。正直、厳しい勝負になると思う。無論俺も努力はしている……前より質の高い練習をこなし自主練も減らさずサボりもしないで勝利の為に貪欲に頑張っている。だから、負けるつもりは毛頭ない。
「確かに強かったけど……」
少し不安げな顔をするアリサちゃんにニコリと笑顔を向ける。アリサちゃんまでそんな顔しなくていいんだよ、気を使いすぎだ。
「そんな顔すんな、負けるつもりはねぇ。一度勝った相手に負ける訳にはいかねぇからな」
と言っても簡単な相手じゃないのは確かだ。油断なんて以っての他。俺のベストを出し尽くさないといけない。
「慎司君なら大丈夫だよ!」
満面の笑みでそう言うなのはちゃんに俺はどこからそんなハッキリ言える自信があるんだよと苦笑しながら言う。しかしなのはちゃんは笑顔を崩さないで
「だって、慎司君だもん。慎司君なら勝てるよ、私は慎司君が負けるなんて思ってないもん」
表情を変える事なくそう言い切るなのはちゃんを見て俺達3人は視線を絡ませて苦笑してみせる。
「えっ?私変な事言ったかな?」
「ううん、なのはちゃんの言う通りだよ」
「そうよ、なのはの言う通り慎司が負けるなんて思わないわよね」
お前らさぁ………。まぁ、ありがとよ。
「そんなら、俺はその3人の期待に応えないとな」
「勿論よ、負けたら承知しないんだから」
ああ、と頷く。自然と、強張っていた思考が何となく解きほぐれたようにリラックス感覚に変わっていた。いつも、大会でいい結果出せてるのは3人の支えもあるんだなって思えた。
「頑張ってね慎司君!いっぱい応援するから!」
「はは、おうよ。けど、まだ気が早いよ」
「にゃはは、そうだった」
そんな感じで試合が近くになると3人からの激励も毎度の事だったりするのだがそれで勇気づけられるのは確かだった。しかし、その数日後………
「え?試合来れないのか?」
「うん………私だけじゃなくてお父さんとお母さんも……あとお兄ちゃんとお姉ちゃんも」
学校でなのはちゃんからそんな言葉が飛び出た。高町家全員か、今までそんな事無かったから驚きだ。なのはちゃんから詳しく事情を聞いてみると何のことない翠屋で団体のお客様のお相手をしなくちゃいけないそう。しかも、団体と言っても翠屋の席が全て埋まる規模で貸し切りとなるそう。いつも俺の応援の為に社員に任せて高町ご夫妻は店を空けるそうなのだが今回は大切なお客様らしくそうも行かなくなったらしい。そもそも俺の柔道の応援よりお仕事の方が大事なのだ。
あまりに忙しくなるのでなのはちゃんもお手伝いに回るそうな。高町家総出のお仕事になるそう。
「ごめん〜。私慎司君の応援行きたかったんだけどお父さん達も人手が欲しいみたいで」
「きにすんなって、そもそもそっち優先した方がいいに決まってんだから。俺は高町家の皆には十分応援されてるからさ、ちゃんと優勝してくるからなのはちゃんも頑張れよ」
「うん……」
と言ってもなのはちゃんは残念そうだ。本当に楽しみにしてくれてたんだなって思うと嬉しいような申し訳ないような感じだ。
「なのはも来れなくなっちゃんたんだ、慎司の応援」
俺となのはちゃんが話しているとアリサちゃんとすずかちゃんもその輪に入ってくる。
「なのはもって……もしかしてアリサちゃんも慎司君の応援来れなくなっちゃったの?」
「うん、私だけじゃなくてすずかも」
「すずかちゃんも?」
「うん……実はそうなんだ」
なのはちゃんが来れなくなった話を聞く前にアリサちゃんとすずかちゃんも来れなくなったって話をしていた所だった。アリサちゃんもすずかちゃんも習い事関係でどうしても外せない用事が出来てしまったと謝ってきた。謝る必要はないんだけどな、俺の事より自分の事を優先して欲しい。というかそれが当たり前なんだよね、皆俺の事優先しようとしすぎだよ。嬉しいけどさ……。
「そっかぁ………アリサちゃんとすずかちゃんも行けなくなっちゃったんだね。それだと今回の応援は慎司君のご両親だけなんだ」
俺と同じようにアリサちゃんから事情を聞いたなのはちゃんがそうぼやく。
「あー………」
「どうしたの慎司君?困った顔して」
「あ、いや……すずかちゃん、困ってる訳じゃないんだけどさ」
実はな……両親も来れないんだよね。今回の大会。理由はお察しの通り最近ずっと家を空けてる理由と同じだ。パパン男泣きしてたな。泣くなよ恥ずかしいから。
「えー、じゃあ今回慎司は1人なの?」
そんな俺の両親の事情も簡単に説明を聞いたなのはちゃんはそう不安そうに聞いてくる。
「んな事ねぇさ、いつも通り相島先生も来てくれるし同じ道場の皆んなも一緒だ。1人って事はねぇさ」
それに………なのはちゃん達には都合上まだ紹介できないから言えないけど今回は八神家も応援に来てくれる。会場で鉢合わせた時にはどうしたもんかと少し悩んでいたのだが望まぬ形でその事については悩まずに済むようになった。
「っ!」
組み手争い。柔道の試合において最初に始まる攻防、これの結果でその後の試合の流れが決まると言ってもいい。相島先生と直々の組み手の実践練習でレベルの違いを感じつつも何とか食らいついて励む。今回の大会で優勝するには必ず当たる事にはなるだろう神童隼人には一瞬の隙も見せる事は許されない、最初が肝心とはよく言ったものでこの組み手では絶対に完敗されるような事態には出来ない。技の精度を高めるのも大事だが組み手も試合における重要な技術なのだから。
練習は苛烈さを増していた、俺がその神童を意識するが故だろう。自然と熱も力も入る、途中何度か相島先生に落ち着けと忠告されるが落ち着かない気分は抜けなかった。組み手争いだけではない、立技の練習においても寝技の練習においてもこれでもかと気合を入れて練習に励む。
道場の練習が終わりその後の相島先生と自主練を終えても気持ちが落ち着かない。大会前はいつも神経質になりがちな俺ではあるが今回はそれの比ではなかった。そして帰り支度をする俺に相島先生が俺に話があると真剣な面持ちで言われ俺は手を止めて相島先生に連れられ別室に。向かい合って互いに椅子に腰かける。
「悪いな、疲れてる所」
「いえ……」
わざわざ話があると前置きをしてきたという事はそれなりに真面目な話だろう。予想はつくが。
「話っていうのは『一本背負い』の事だ」
やはりか。そろそろ言われる頃合いかなと危惧していた。
「お前がどんな技を使おうがお前の自由だ、ちゃんと精度を高めて実践向きに仕上げるのならな……そのために必要なら勿論俺も協力する」
俺が今、多くの技を使えるよう指導してくれたのは相島先生だ。この人の協力なしで俺のこれまでの功績はなかっただろう。
「あの大会でお前が見せた一本背負い……あれ以来練習でも大会でもお前は使わなかった。理由を尋ねてもお前はだんまりだしな」
「…………すいません」
「いや、それはいいんだ。全く一本背負いの練習をしてなかったお前になんであんな熟練とした一本背負いが出来たことやなんでそれを使わないのか色々気にはなっているが慎司が話したくなければそれで構わないんだ。大会も近づいてきたからな、俺が聞きたいのは一つだ……今後慎司が一本背負いを使うのかどうかだ」
息をのむ。自然と体が強張り力が入ってしまう。落ち着け……落ち着け……。この問答には相島先生の中で今後の俺への指導方針にも関わっていると思われる。使うか使わないか……答えは決まっている。
「使いません」
淀みなくそう答えられた。そもそも例の大会でも一本背負いを使ったのは本意ではなかった。朦朧とする意識の中で負けるわけにはいかないと心で叫び続けていた俺が前世で一番使い一本をもぎ取ってきた一本背負いを無意識でかけてしまったのだ。本来なら今世ではずっと使うつもりがなかった技だったのだから。
「そうか……わかった」
慎司がそう言うならと相島先生はなにも聞かないでそう飲み込んでくれた。
「しかしな慎司……」
先生は俺を真っ直ぐに見つめて強い口調で言い放つ。
「神童隼人は全力を出さなければ絶対に勝てない相手だぞ」
それだけ言うと相島先生は大会も近くなってきてるから早めに休むようにと俺に言いつけて話を終えた。俺は一礼してから道場を後にして帰路につく。………そんな事は俺だってよく分かってますよ、相島先生……。
「どうかしたの慎司君?貴方の番よ?」
「えっ?あ、ごめんごめん」
シャマルに呼ばれボッーとしてた意識が覚醒する。練習の後また八神家にお邪魔してご飯を頂いたのだ。食後には皆んなで丸くなってトランプのババ抜きを嗜んでいた。慌ててシャマルが構えていたカードを引き抜く。げっ、ババだ。
ゲームはそれとなく進んでいき最終的には俺が最下位となって終わる。
「あーあ、負けた負けた」
そう言って乱雑に置かれたトランプを整理して元に戻す。軽くシャッフルしながら次はどうする?と皆んなに問いかけると何故だか難しい顔をしていた。手を止めて俺は
「皆そんな顔してどうしたんだよ?」
「いや………慎司が負けんのが珍しいからよ」
ヴィータちゃんがそう言い淀む。確かにこのメンツだとそうかもだけどそんな驚くことでも無いだろうな。何か別の事を言いたげな様子だ。
「ヴィータちゃんらしくないなぁ……ハッキリ言えって照れ屋さん」
「……茶化すなって」
あー、ごめん。シリアス嫌いなのでね。
「……お前なんか変だぞ?」
「変?」
「変ていうか……ボーッとしたりいつもより考え事してる気がする」
「うーん……」
まぁ、相島先生とのやり取りで色々思うことがあったのは事実だがそんなあからさまに態度に出てたのか。俺もまだまだ子供だな。
「まあ、大したことじゃねえよ。それより続きだ続き」
そう告げてトランプを配って話を終わらせる。せっかく皆で楽しんでるんだ、少しでも空気が変わるような内容は避けたかった。
少しトランプやらゲームやらを皆で楽しんだ。そんな中でも頭の片隅には今日相島先生に言われた言葉がよぎっていた。もう決めたことをぐちぐち考えてもしょうがないけどな。それでも、つい考えてしまうのは俺の意思が弱いからかね。
今俺はゲームで俺に連敗して悔しくて俺抜きで特訓しているシグナムとヴィータちゃん、シャマルをはやてちゃんが用意してくれたお茶をソファに腰掛けすすりながらボーッと眺めている。そんな俺の隣にはやてちゃんがよっこらせとおじさん臭いことを呟きながら座る。
「皆楽しそうやね」
「はやてちゃんも特訓すれば?」
「ウチは勝てなくても一緒にやれればそれでええんよ」
そんなもんか。まぁ、勝ち負けよりは皆んなでやる事の方が大切だもんな。
「なぁ慎司君」
「うん?」
「試合前でちょっとピリピリしてるなら……無理してウチに来んでもええよ?」
「………すまん、迷惑だったかな?」
「ちゃうちゃう、何でそうなるんよ。じゃなくて、ウチに気を使わんで家で1人で落ち着きたかったらって意味よ。慎司君が来るのはウチはいつも楽しみにしてるんよ?迷惑なんて思った事ない」
すまんすまん。わかりきってた事だよな。無理して来なくて良いってはやてちゃんのセリフじゃないだろうに。色々世話になってるのは俺なのにな、俺の友達はいい子ばかりだ。
「迷惑じゃなければ……試合前でもお邪魔させてくれないか?皆んなとこうやって楽しんでる方がリラックス出来るんだ」
「勿論、大歓迎よ。皆んなも」
ゲームに熱中してる自身の家族を愛おしそうに眺めながらはやてちゃんはそう言う。あ、ヴィータちゃん負けて悔しそうに地団駄踏んでる。
「………皆んなも慎司君が心配なんよ」
「心配?」
「うん、ウチらを試合に誘って変にプレッシャーを与えてないかって」
「……俺が自分で誘ったんだぜ?」
「それでもや、ウチら皆んな楽しみにしとるけど……楽しませる言うてくれた慎司君がウチらのせいで悩むのは本意じゃないんよ」
「…………試合前は少々ナイーブになりがちなんだよ毎回。はやてちゃん達が来てくれるのは寧ろ気合いが入って助かってるんだ」
「そかそか、それならええんやけど」
そんな風に勘違いさせてしまったのか。それは悪い事をした。心ももっと強くならないとな……俺。
「まぁ、素人のウチからは慎司君に何言うても仕方ないけど……これだけは言わせて欲しいんよ」
「何だよ?」
「………頑張れって」
「………」
照れ臭そうにはやてちゃんが微笑んだ。その一言はありきたりだけど誰かを応援する気持ちを伝えるのには1番の言葉。頑張れ……か。そうだな、何を思おうと悩もうと試合で出来る事はただ一つ。全力で頑張る事だけだ。一本背負いがどうとか神童がどうとか関係ないよな。分かってるはずなのに分かってなかった。俺はただ、全力をぶつけるだけでいいんだ。一本背負いを使わなくとも、神童と当たる事になろうとも……ただ全力で柔道をするんだ。
「……あぁ、頑張るよ」
俺はとても穏やかな気持ちでそう告げた。……誰かに励まされてばかりな俺だけど、それは柔道で返そう、カッコいいところを見せてやろう。すごい所を見せてやろう。爽快な一本を見せてやろう。
時間も時間なので八神家を後にして帰路につく。先程とは打って変わってとても穏やかで落ち着いた気分だ。吹っ切れればなんのその、試合までの残り期間全力で練習に取り組んで準備しないとな。
少し歩いた所で後ろから走ってくる足音と俺の名を呼ぶ声が聞こえた。ヴィータちゃんだった。
「あれ?どうしたのヴィータちゃん?」
結構全力で走ってきたみたいだけど意外と体力あるのか息切れ一つせずに俺に手に持ってるものを手渡してくる。
「ほら、忘れもんだよバーカ」
あ、携帯!しまった、はやてちゃんの家に落としてたのか、あっぶねぇ。気づかなかったぜ。
「すまんすまん、助かったよ。ありがとな」
「おう、気を付けろよ」
そう言ってムフーとするヴィータちゃんに苦笑しつつ携帯を受け取る。一応連絡とか特に来てないことを確認してからポッケにしまう。
「わざわざありがとねヴィータちゃん、そんじゃまた」
立ち去ろうする俺をヴィータちゃんが「なぁ」と一言で呼び止める。その表情は何だか落ち着いてない様子でつい考えなく呼び止めてしまった事が窺える。
「どうした?」
落ち着けという意味も込めてゆっくりと穏やかにそう告げるとヴィータちゃんは照れ隠しのように頭をかきながら口を開く。
「その……何だ、お前の試合……アタシ達皆んな楽しみにしてるからよ。頑張れよ」
「………ああ、勿論だ」
「……慎司は勝つか負けるかで色々その……考えてるかもだけど……その、何て言ったらいいのかな」
頭を捻って考えて考えて言葉を紡ぐヴィータちゃん。しかし思うように言葉が出なくて「ああもうっ」と堪えずにそう吐き出す。そんな様子が面白くて自然と頬が緩んだ。
「と、とにかく!何かその……悩み?とかそういうのあったら言えよ!アタシが聞いてやるからさ」
今日の俺の様子に敏感に反応していたヴィータちゃん。ヴィータちゃんは結局俺の内心なんぞ分かる訳もなく少しトンチンカンな事を言って来る。けど、言いたい事はよくわかった。分からないけど、どうすれば、何を言えばいいか分からないけどとにかく何かあるなら力になると。俺の様子を見て心配になってそう言ってくれてるんだ。
「ははっ、ありがとうよ。でも大丈夫だ、心は決まったよ………心配してくれてサンキューな」
「し、心配なんかしてねぇよ!その………友達なんだろ?アタシ達、それなら当然だろ」
「…………どっちにしろ心配してくれてんじゃんそれ」
「うっせぇな!用は済んだからさっさと帰れっ、しっしっ!」
そんな照れて怒らなくてもいいのにー。
「………ヴィータちゃん、ありがとう」
「………おう」
「またな」
「………バイバイ」
互いに手を振って別れを告げる。結局は励まされてばっかりだったな。情けねぇ……けど、嬉しかった。なのはちゃんやアリサちゃん、すずかちゃんには背中を叩かれて、はやてちゃんから励まされて、ヴィータちゃんから不器用だけど心温かいエールを貰った。それだけじゃない、皆んな……皆んなが俺を応援してくれてる。なら、俺の勝利の姿を届けたい。それが、俺が出来る恩返しなのだから。明日も頑張るか……そう呟いた言葉は夜の空に溶けていった。
余談ですが、お話の中でゲームのネタ、ポケモンとかそういうのは慎司君の主観のお話ですので「いや、そんな事はないだろ」と思ってもスルーしていただけるとありがたいです