転生しても楽しむ心は忘れずに   作:オカケン

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 アナザーエデンが面白くてハマったりしてる作者です


約束

 

 

 

 土下座からの面接はグレアムさんが「面白い子に育ったなぁ」とぼやきつつ互いに対面に座った所で始まった。最初はフェイトちゃんの今後の身の振り方についてのお話しだった。

 

 といってもグレアムさんは「保護監察官と言っても形上だけのものだから」すぐに俺達を安心させるようにそう言ってくれた。監察官としてフェイトちゃんの人柄やら何やらを報告として受け取っていたグレアムさんはそう口にする。

 

「約束して欲しい事はひとつだけだ。友達や自分を信頼している人たちの事は決して裏切ってはいけない」

 

 それさえ守ればフェイトちゃんの行動について何も制限をかけないと。そのグレアムさんの言葉にフェイトちゃんが真剣な面持ちで頷くとグレアムさんは満足そうに笑っていた。結局、フェイトちゃんの今後の話は簡単に終わり俺となのはちゃんからフェイトちゃんについて聞かれる事はなかった。

 

 無駄に緊張して土下座までしたのに……。

 

「なのは君は地球の日本出身なのだね。懐かしいな」

 

 手元の資料を覗きながら感慨深そうにするグレアムさん。驚いた事にグレアムさんも元々地球出身の人だという。イギリス人で魔法との出会い方もなのはちゃんとそっくりだと笑っていた。

 地球人は基本的にリンカーコアを持たないが稀に天才的な才能を持った子が生まれるというのは以前聞いたが。

 

「さて、慎司君。最後は君だ」

「はい」

 

 表情を引き締める。雰囲気で何となく真面目な話をする事は予感できた。

 

「君の素行については何も疑っていない。君が地球で魔法の存在について吹聴している様子もないようだ。それに、先の事件の君の活躍も耳にしているよ」

 

 流石はあの2人の子供だと嬉しそうに笑うグレアムさん。

 

「父と母はグレアムさんとはどういう?」

 

 一番疑問に思っていた事を聞いてみる。まぁ、大方想像はつくが。

 

「君のお父さん、荒瀬信治郎は私の元部下でね。お母さんのユリカさんと結婚する前から共に頑張っていたんだ」

 

 懐かしむグレアムさんの顔は何故だか切ない感情を浮かべていた。何をかんがえているのだろうか、まるで既に死に別れてしまった人を想うように。父さんも母さんも健在なのに不思議に思った。

 

「君が生まれてすぐの頃に信治郎は私に君を抱かせてくれてね。よく覚えているよ」

 

 そうか、それで久しぶりだと。

 

「今では私は信治郎と別々の道を歩んではいるが交友はあるんだ。慎司君の話をよく聞いていたよ」

「そうです…か」

 

 何だか照れくさい。パパん余計なこと言ってないだろうな。

 

「話が逸れてしまったね。それで私から慎司君に伝えたい事は2つだ。1つは前のような無茶は絶対にしない事、君は本来魔法に関わる事は出来ない人間だからね」

 

 フェイトちゃんの時のような行動は控えるようにと告げられる。といっても早々俺が関わる事態にはなるような事はないと思うがな。理由がないし。

 この注意喚起も恐らく形上物だろう、本気で俺が関わるような事態になるかもなんてお偉い様も思ってないだろう。

 

「もう一つ、これが一番大事な事だ」

 

 ゴクリと生唾を飲み込む。何だろう、あと何を言われるのか検討がつかずつい身構える。

 

「君が友人として、なのは君とフェイト君を支えてあげなさい」

 

 思わぬ言葉に吐息を漏らす。

 

「これからなのは君とフェイト君は管理局で魔法というものに関わっていく。その道は君達が想像している物より過酷で大変な道だ」

 

 その言葉に年長者ならではの重みを感じる。地球出身のグレアムさんもきっと沢山の大変な思いをしてここまで登り詰めたのだろう。

 

「だから、君が支えてあげなさい。2人の友人で秘密を知る君が」

「勿論です」

 

 支えてあげたいっていう気持ちはグレアムさんに言われるまでもない。俺はそうしたくてフェイトちゃんとなのはちゃんのために自分なりに頑張ったんだ。

 

「即答か、信治郎とユリカさんの息子らしいな」

 

 満足そうに笑うグレアムさんに

 

「………」

「………」

 

 照れ臭そうに笑うなのはちゃんと恥ずかしそうにするフェイトちゃん。

 

「面談は以上としようか。お疲れ様」

 

 グレアムさんのその言葉でその場は締めとなる。はぁ、何だか無駄に緊張したな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 面談を終えて用が済んだ俺はすぐに帰ることになった。なのはちゃんはフェイトちゃんは今後の事を踏まえて話が残っている為帰るのは俺だけだ。

 

「一旦お別れだな、またすぐに会えるんだろう?」

「うん、数日後には会えると思う」

 

 フェイトちゃんのその言葉に笑顔で楽しみにしてると答える。

 

「なのはちゃんも、気をつけてな」

「うん、慎司君も。おやすみ」

「ああ、おやすみ」

 

 

 

 

 

 

 

 2人に別れを告げて再びクロノに案内される形で本局内を歩く。地球に転移するため転移装置に向かう道中でエイミィさんとリンディさんに出くわした。

 

「あら慎司君、久しぶりね」

「面談お疲れ様」

「お久しぶりですリンディさん、エイミィさん」

 

 今日は再会づくめですな。

 

「もう帰るところかしら?」

「ええ、今回は前みたいに事件に積極的に関わる理由もないですし」

 

 リンディさんはそこまで聞いてきた訳じゃないけど一応安心させるべくそう告げる。 

 しゃしゃり出て迷惑かけるような真似は俺だって本意じゃないのだ。前回は譲れない気持ちがあったとはいえその時だってそんな気持ちだったのだから。

 

「そう………それなら道中気をつけて。なのはさんが襲われたのは地球っていう事実に変わりはないわ。リンカーコアがない慎司君は狙われる心配はないと思うけど」

「ええ、一応気を付けておきます」

 

 そう言われふと気づく。そういえば地球でなのはちゃんが襲われたのなら襲撃者は地球に潜伏してる可能性があるのか?魔法で次元世界間を転移出来ることは知っているが個人で転移するには限界があって専用の機械を挟んだりしないと限界があるとか。

 現に個人の転移では地球からこの本局までは転移できないとさっきクロノに聞いた。もしそうなら地球を根城にしてる可能性は消して低くない。

 

「あの、質問なんですがその襲撃者は既になのはちゃん以外も襲ったりしているんですか?」

「慎司っ」

 

 俺が今回の事件について聞こうとするとクロノは少しカッとした様子で俺に詰め寄る。

 

「君は今回の件には関わらないのだろう?そんな事を聞いてどうする?」

「いや、別に他意はねぇよ。ただ、気になっただけだって」

 

 何だかクロノが妙に反応する。俺が事件に関わるのを避けさせたいようなのは一目瞭然なのだが理由が分からない。

 いや、恐らくは簡単な理由なのかも知れないが。

 

「クロノ、俺を心配してくれるのは嬉しいけどそんな過敏になるなって。本当に事件に関わる気はないしさっきも言った通り理由が無い。前回みたいに邪魔はしないよ」

「そんなつもりは……」

「はは、まぁ困らせたくはないし大人しく帰るよ。多分このままクロノ達アースラの皆さんが今回の事件も担当するんだろ?」

 

 俺のその言にクロノは肯定を示す。やっぱりな、リンディさんやエイミィさん達皆んなが出張ってきてるからそうだと思った。

 

「それならクロノ達も気をつけて頑張ってくださいな」

 

 そんじゃと手を振って転送装置に向かう。地球に帰ったらさっさと寝よう。色々あって何だか疲れてしまった。3人の別れの挨拶を受けながら俺は地球に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クロノ君、慎司君を心配するのは分かるけどあんなに強く言わなくてもよかったんじゃない?」

 

 慎司を見送ったあとクロノ達3人は本局内を歩きながら話をする。エイミィが先程のクロノの態度をやんわりと注意したのだ。

 エイミィはクロノのぶっきら棒な態度には慣れたものだがだからと言って共通の友人でもある慎司に強く言い過ぎなのでは?と思ったのだ。

 

「エイミィ、だから僕はそんなつもりで」

「照れなくてもいいじゃない」

 

 小馬鹿にするようにからかうエイミィにクロノはムッとしながらも息を吐いて冷静になる。そして神妙な顔つきになってから言葉を紡いだ。

 

「………ジュエルシード事件であいつは笑っていたが本当はいつ死んでもおかしくない状況だった」

 

 クロノのその言葉にエイミィもリンディも押し黙る。彼は独断で単身プレシアの居城に乗り込んだ、彼の母親であるユリカの技術がなきゃ辿り着けなかったとはいえ彼は1人危険な場所に命をかけて向かう事が出来ると証明してしまったのだ。

 

 クロノはこの時あまり慎司に苦言を呈さなかった。巻き込む選択を取ったのは自分だし慎司にそこまでさせてしまった自分に不甲斐なさを感じたからだ。

 

 ジュエルシード事件の解決に大いに貢献してくれたとクロノは慎司に本心で感謝している。フェイトを救い同じく解決に大きく貢献したなのはの事をずっと励まし支えた慎司の功績はまさしく本物だ。だからこそ、魔法を使えない、そして本来なら知るべきではなかった慎司にそこまでさせてしまったのは不本意と言わざるを得なかった。

 

「あの時、本当は慎司を巻き込むべきじゃなかった、今日だってグレアム顧問官との面談がなければ呼ぶつもりも無かった」

 

 理由は簡単だ、エイミィにも慎司本人も言われた通り心配なのだ。クロノは荒瀬慎司が心配なのだ。友人として、心配なのだ。前回はたまたま運良く命は助かったがまた巻き込んでしまった時にそうなるとは限らない。

 

 だからクロノは徹底して関わらせないつもりだった。なぜ、こんなにもクロノは過敏に思うのは勿論他にも理由がある。

 

「今回の件と、これまで起きている同様の襲撃事件は恐らく闇の書が関係している」

 

 クロノ・ハラオウンとリンディ・ハラオウンの腕に力が籠る。この2人にとっては因縁のある名称だ。それを知っているエイミィの体も強張る。

 

「そして、慎司の両親……僕の父と同じ部隊で親友だった荒瀬信治郎さんと荒瀬ユリカさんも今独自で調査をしてくれている」

 

 2人にとっても闇の書は因縁のある物だ。それだけじゃないとクロノは続ける

 

「慎司の友人のなのはは襲撃されフェイトも関わる事になった」

「そ、そうだけど……慎司君だって言ってたじゃない。関わる気はないって、理由がないからって」

「エイミィ、それは裏を返せば慎司にとって理由が出来たら問答無用で首を突っ込むという事だ」

 

 徐々に周りに慎司が関わってしまう理由が出来ている。慎司はああは言っても前例がある以上クロノは気が気でなかった。

 

「今はその気がなくてもあと一つ、決定的な出来事があれば慎司は首を突っ込む………ような気がする。それこそ、前みたいに自分の出来ることを全てやり尽くして」

 

 そのクロノの言葉にエイミィもリンディも否定出来なかった。しばらく沈黙が訪れたが先に口を開いたのはリンディだった。

 

「クロノの心配も分かったわ。あんまり考えすぎだとは思うけど慎司君には極力関わらせないようにしましょう。エイミィも、いいわね?」

 

 リンディのその言葉にエイミィは頷く。確かに魔力を持たない慎司をそう易々と事件に関わらせるのは良くないとそこはエイミィも納得していたからだ。

 

「とりあえず今後の話をアースラの皆んなとなのはちゃんとフェイトちゃんにも話をしないと。エイミィ、皆んなを会議室に呼んでもらえるかしら?」

 

 リンディからの指示に返事をしつつ通信機を起動して各々連絡を取り始めるエイミィを尻目にクロノは慎司が帰っていった転送装置の方を向く。

 

「………まさかな」

 

 そう1人呟く。クロノは考えた、慎司がもしこの事件に関わると決めるような理由は何だろうと。前回は事件の容疑者として追われていたフェイトと顔見知りだった事が一つの理由に挙げられる。

 

 まさか今回もと邪智したが早々そんな事はないかとかぶりを振ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここを開けろおおおおおおお!!御用だ御用だぁ!!」

「うるさいわ!近所迷惑やろ!?」

「逮捕じゃあああ!!」

「じゃかしゃああ!!」

 

 玄関でワーワーしながらお出迎えされつつお邪魔する。管理局の本局に呼ばれて翌日の夜。柔道の練習を終えてシャワーを浴びてから八神宅に訪れた。先日病院に運ばれたはやてちゃんであったが今は普通に退院していつも通りの生活に戻ってはいる。

 

「貴様らぁ!俺ちゃんの登場だオラーん!」

「家の中でくらい静かにしたらどうだ?」

「あ、すんません」

 

 リビングに赴き開口一番テンションを上げて突撃して見たものの何だかいつも物静かなシグナムがさらにそんな雰囲気に深みを増しながらそう言われ反射的にピタッと背筋を正してしまった。

 

「何でぃシグナム、何か不機嫌か?」

「いや、そんな事はない」

「そっか、ならいいけど」

 

 とさらりと流すが違和感は消えない。不機嫌……て訳じゃないけど何だろうか。まるで真剣勝負をした後でまだその余韻が残ってる見たいな?

 俺も試合でよくあるんだが一度試合を終えた後に次の試合が控えている時に一度気分をリセットしたくて前の試合の余韻を必死に抑えようとする時がある。

 

 その試合が接戦だったりすると尚のことだ。今のシグナムからそんな似たような感覚を感じた。考えすぎかもしれないが。

 

「あ、慎司君いらっしゃい」

「よぉ」

 

 奥の部屋から俺の声を聞きつけシャマルとヴィータちゃんも顔を出す。2人からもシグナム程ではないしろ何か違和感を感じた。

 

「おっすおっす、お邪魔してますわ。お?何だザフィーラ?撫でてほしいのかぁ?」

 

 珍しく俺の足元に寄ってきたザフィーラを少し強引にモフモフと撫で回す。見た目によらずちゃんと躾けられてるよなぁ、吠えないし噛まないし基本大人しいし。

 それにしても相変わらずでかいなザフィーラは、下手な大型犬より全然大きい。……ホントに犬かお前?

 

 チラッとアルフの顔が浮かんだのは内緒だ。

 

「そういえば今日はこれ持ってきたぜぇ」

 

 ザフィーラを十分に堪能した後、満を辞した感じでバッグからそれを取り出す。

 

「じゃん、『ヒロアカ 』の最新巻!今回も熱かったぜぇ」

 

 と、漫画を一冊取り出すとシグナムとヴィータちゃんが「おぉ!」と大袈裟に反応する。やっぱり違和感は気のせいだったかな?

 

「待ってたぜ!続き気になって仕方なかったんだよ」

 

 ルンルンとした様子で俺から漫画を受け取るヴィータちゃんと興奮している自分を抑えるべく冷静に振る舞うシグナム。ちょっと面白い。

 

「シャマルさんにはこれ!『俺物語』の続きも出てたよ!」

「あ、本当ですか!ありがとうございます!」

 

 この方、雰囲気通り恋愛漫画を好むのだが俺が集めている恋愛漫画でハマったのがまさかの俺物語。剛田武男の漢気にキュンキュンしている。まぁ気持ちは分かる。

 

「へっへっへ、さあ感謝で咽び泣きながら読むがいい!!」

 

 皆んな漫画に夢中で誰も聞いてなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はやてちゃん?何か手伝おうか?」

 

 漫画を読む邪魔をするのも悪いので厨房で夕飯の準備をしているはやてちゃん所に。

 

「ああ慎司君、ええよええよ。ゆっくりしててやー」

 

 暇なんだよね。まぁ、はやてちゃん手際いいし俺が無理に手伝っても邪魔か。料理運ぶ時に手伝いすればいいかね。

 

「んじゃ話相手になってけろ。皆漫画に夢中だからの」

「いつもありがとうなー、皆趣味とかないからどうしようか悩んでたんよ」

「ふっふっふ、この調子で八神家総オタク化計画を進めてやるぜ」

「何がしたいねん」

 

 共通の趣味があれば楽しいじゃんか。

 

「………ホンマ、ありがとうな」

「ん?」

 

 急に真面目な顔してどうした?

 

「慎司君が来てくれるようになってから皆毎日が楽しそうしてくれとる。慎司君に会う前から家族で楽しく過ごしてたんやけど知り合ってからはますます楽しそうにしてくれてて嬉しいんよ」

「飯食わしてもらってる俺が礼言うべきだけどな」

「あはは、それでもや」

 

 ふむ、まぁ本当にそうなら嬉しい限りだけどな。友達冥利に尽きる。

 

「………最近、来てくれる回数減ってしもうたけどやっぱりウチが倒れたのを気にしてるん?」

 

 唐突にそう問われ回答に困る。意図的に減らした事をはやてちゃんは知らない。俺とシグナムの間で決めた事だった。体調が万全になるまでって言ってたしシグナムから何か言われるまではそれを続けるつもりでもあった。

 

 だが、はやてちゃんも馬鹿じゃない。恐らく確信を持ってそう言ってきてる。下手に誤魔化すのはダメだろう。

 

「正直に言えばそれもあるけど、両親がよく帰ってきて来れるようになったってのも理由の一つだよ」

 

 嘘ではない。一応な。

 

「皆心配症やな、別に平気なのに……」

「そう言うなって、そう思うなら早く万全になってくれよ」

「もう万全やって」

「番宣?」

「万全」

「安全?」

「万全っ」

「満漢全席」

「もう跡形もないやん」

 

 それなっ。

 

「もう、慎司君は……ホントに……おも……ろ……」

「はやてちゃん?」

 

 急に頭を押さえてふらつくはやてちゃん。そして持っていたお玉を手放してふらり崩れ落ちる。

 

「はやてちゃん!?」

 

 倒れる前に抱き留める。お玉が地面に転がり厨房に響く落下音。騒ぎを聞きつけリビングから慌てた様子で雪崩れ込むシグナム達。

 

 突然の出来事に戸惑うが一度冷静になりまずは部屋に運んで寝かせる。とりあえずシャマルに看病を任せてヴィータには栄養剤やら必要になりそうな物を買いに行かせた。俺とシグナムはリビングで対面になって座り話をしていた。

 

「病院に運ばれてからずっとあんな感じなのか?」

 

 率直に聞いてみるがシグナムは首を振った。

 

「退院してから体調に問題があるようには見えなかった。先程シャマルに診てもらったが恐らくたまたま今日は疲れていただけだと言っていた」

 

 前にシャマルが医療に理解があると言っていたからその診断はとりあえず信じておこう。

 

「だがこの間の事もある、少し心配だな……」

 

 そうぼやくとシグナム俺の肩に手を置いて首を振った。何だ?どいうことだよ?

 

「お前は何も心配するな。主はやての事は私達に任せてほしい、慎司にはこれまで通りはやてに会って笑顔を届けて欲しい」

 

 お笑い芸人じゃないぞ俺は。てか主はやてって、まさか普段そう呼んでんのか?いや、今その事に突っ込んでる場合じゃない。

 

「……大丈夫なのか?」

「ああ、深刻に考えなくていい。私達に任せておけ」

 

 何か引っかかる言い方だが家族のシグナムがそういうならそれを信じよう。

 

「慎司君」

 

 納得するように何度も頷く仕草をしている俺にシャマルさんが静かな声で俺を呼ぶ。シグナムに視線を向けると行ってやれ、と言うように顎ではやての部屋を指し示す。

 

 そう言う事だろう、用があるのはシャマルではなくはやてちゃんだ。

 

「体調の方はとりあえず大丈夫ですから、心配しないでください」

 

 再三シグナムに言われた事を反復させるようにすれ違いざまのシャマルに耳打ちされる。そこまでしつこいと逆に不安になる。分かったと俺も同じように耳打ちしてからはやてちゃんが横になっている部屋に入る。

 

「平気か?はやてちゃん」

「うん、たまたま今日は疲れてただけなんよ。ホンマ心配せんといてな?」

「………ああ」

 

 短くそう答える事しか出来ない。

 

「謝りたくて呼んだんよ。ごめんな?また慎司君に迷惑かけてもうて……これで2回目や」

 

 あははと心なしか弱々しく笑うはやてちゃん。本当に大丈夫だろうな?確かに顔色とかそういうのは平気そうに見えるけど何だかいつものような生気を感じない気がする。

 幽霊に呪われてる訳じゃあるまい、なんだか不安な気持ちが過ぎる。

 

「謝らなくていいから、明日元気になれるように今日はもう休みな。寝るまで側にいてやるからよ」

「ホンマ?慎司君独占や、ラッキーやなぁ」

「だろ?」

 

 何て言って見せて2人で笑う。睡眠の邪魔にならないようにゆっくりと静かに他愛もない話をする。眠たくなるまで付き合ってやるつもりだった。

 

「…………何で、側にいて欲しいって分かったん?」

 

 話の途中にはやてちゃんは唐突にそう問うてきた。そんなの、簡単だよ。

 

「顔に書いてある」

「え?ホンマ?」

「まぁ、そんな分かりやすい表情じゃないけど俺はやてちゃんの倍以上生きてるからさ、分かるんだよ」

「わたしと同い年やんか」

「実は30歳くらいだったりする」

「嘘つけ〜」

「はっはっは」

 

 嘘じゃないだなぁこれが。

 

「…………最近な、ずっと幸せなんよ」

「いい事じゃんか」

 

 話を聞く。はやてちゃんが言うにはシグナム達とこうやって一緒に過ごすようになったのも実はそんな前からではなく割と最近の事らしい。

 何だかどういう出会いだったかははぐらかされたけどまぁいいだろう。それまでは家ではずっと1人で寂しく感じていた正直な気持ちを俺に伝えてきた。

 

 分かりきってた事だけどこの八神家の家族達に血縁関係はない。俺がそれを理解していて何も言わないでくれたからとはやてちゃんは今こうして話してくれているらしい。

 

「家族の形なんて血縁が全てじゃないし、互いに家族だと思い合ってるならそれはもう家族なんじゃねぇの?知らんけどさ」

「うん、わたしもそう思う」

 

 なら尚のことそれでいいじゃないか。何をそんな………そんな不安そうな顔をしているんだよ。

 

「皆んなと一緒に過ごせるだけでも十分幸せやった。それなのにな?まだ幸せな事が待ってたんよ」

「幸せな事?」

「君や君、慎司君と出会えた事や」

「っ」

 

 胸が締め付けられるようなそんな気持ちになった。なんだよ、何でそんな事今言うんだよ。

 

「慎司君と友達になってな?わたしもっと幸せなんよ。シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラも皆そう思ってる」

「大袈裟だなぁ」

「大袈裟やない、だって慎司君はわたし達にとって初めて出来たかけがえのない友達なんやから」

 

 曇りのない笑顔を向けてそう言うはやてちゃんの視線から何だか気恥ずかしくて頭をかいてそっぽを向いてしまう。

 恥ずかしい奴め、こんなの照れちゃうに決まってるだろうに。

 

「幸せ過ぎてな、逆に不安なんよ」

 

 と、思いきやくぐもった声ではやてちゃんは笑顔からいっぺん不安そうな表情をまた浮かべる。

 

「もしかして、わたしはもうすぐ死ぬのかなって。だから神様が最後くらいこうやって幸せにしてくれてるかなって」

「まさか、はやてちゃん……」

「ああ、勘違いせんでな?ただわたしが勝手にそう思い込んでるだけなんよ。病気とかそう言うんじゃなくて、それくらい幸せやって事だと思う」

 

 そうは言ってもはやてちゃんの顔は何だか切なげだ。本当に違うんだよな?ヤバイ病気とかそう言うのじゃないんだよな?散々シグナムとシャマルも言っていたけどそういうのじゃないんだよな?心配いらないんだよな?

 

 とめどなく溢れる俺の不安な心の声を何とか外に漏らさずに押さえ込む。

 

「だから、わたしがこのまま眠ったらもう目覚める事のないまま……ってそんな突拍子もない事考えてまう」

 

 それで、側にいて欲しかったのか。さっきから少し眠そうにはやてちゃんは目を擦っている。けど、それに抗い眠らないように気を張っていた。

 

 こういう時どう言えば安心してくれるだろうか。気にしすぎだとか、馬鹿な事言ってんなとか思う事はあるけどどれも今送るべき言葉じゃない。

 はやてちゃん真剣にそれに悩んで苦しんでいるのだから。

 

「じゃあさ、不安で眠れないなら約束しようぜ」

「約束?」

 

 あぁ、そうだ。約束だ、バカな俺が頭を捻って言葉を並び立てた所で薄っぺらい想いのこもってない言葉が飛び出るだけだ。

 今、俺が言いたい事したい事を伝える。それが正解なのか不正解なのかは関係ない。突拍子のない事を言うのが、するのが俺なんだから。荒瀬慎司、なのだから。

 

「そう、約束。もしもはやてちゃんが目覚めなくて、全然起きてくれなくなったらさ……俺が意地でも叩き起こしてやるよ」

「ど、どうやって?」

「そうだなぁ………頭突きでもかましとけば起きるんじゃね?」

「また適当な」

「けど起きるまで辞めねぇぜ?血が出ても、痛くても、頭が変形しても起きるまでやめない」

「そら怖いなぁ」

「怖いだろ?それが嫌ならちゃんと起きるか、起きれなかったら一発目の頭突きで起きるか。よし、そう言う約束にしよう」

 

 はやてちゃんの手を取り俺の小指とはやてちゃんの小指を絡ませる。

 

「俺ははやてちゃんがもし目覚めなくなったら頭突きする、どんな状況でも容赦なく。はやてちゃんは、俺に頭突きされたらちゃんと起きる。これ約束な」

「無茶苦茶や」

「そうだな。けど、ないよりいいだろ。約束ってのは守る為にあるんだ、約束したんだからはやてちゃんは例え眠ったままになっちゃっても俺が頭突きしたら起きれるよ」

「何を根拠に言うてるねん」

 

 いつも突っ込みのような感覚ではやてちゃんは笑うが俺は笑顔を崩さず言ってみせる。

 

「約束ってそう言うもんだろ?」

「………………」

 

 約束するんだ、だからはやてちゃんは起きれる。はやてちゃんは約束を守れる子だって俺が信じている。それでいい、根拠のない子供の理想論すらも厳しく聞こえてしまうような甘い幻想だ。

 

 けど、そんな突拍子もない俺のバカみたいな励ましでも

 

「……なら、頭の形が変わる前に起きんとなぁ」

 

 心が少しでも、気持ちが少しでも晴れやかになってくれるのならそれでいいんだ。

 

「だから、安心して寝な。ゆっくり休んで明日には元気になるようにな」

「…………うん」

 

 微笑を浮かべて目を閉じるはやてちゃん。やっぱり眠たかったのだろう、すぐにでも眠ってしまうような雰囲気だ。

 

「慎司君、ありがとう……なぁ………」

 

 そう言ってはやてちゃんは微睡に身を投げる。規則的な呼吸をしているのを見届けてから。俺は部屋を出る。扉を開ける直前、つい俺はもらしてしまう。

 

「俺はまだ、何もやってあげれてないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋が重苦しい雰囲気に包まれている。慎司は先ほど私達に別れを告げて帰路についた。流石にこれから夕飯という雰囲気でもなくなってしまい、主はやてを励ましてくれた後にすぐに帰ってしまった。

 

「シグナム……」

 

 重々しく口を開くシャマル。顔色は悪い、シャマルの体調には何ら異変はないのにその顔色は悪かった。慎司の前でよく隠し通せたと思う。

 

「闇の書の進行が予想よりも早いわ……」

「そう……か」

 

 沈黙。

 私達が出来る事は主はやてとの約束を違えて魔力を蒐集すること。それが唯一はやてを救える方法、例え許されぬ犯罪行為であっても私達は迷う事はない。

 

「私は蒐集に出る。はやてを頼んだぞ、シャマル」

「……分かったわ」

 

 はやてが用意してくれた地球での服から騎士甲冑に姿を変える。魔法を知らない慎司には見せれないな、だから当たり前だがはやての体の事も魔法の事も秘密だ。

 慎司には、これまで通りはやてに友人として接して欲しい。そして、やましい事をしている私達の荒んだ心にも安らぎを与えてくれる。大切な友人だからこそ言えるわけも無かった。

 

 それが私達ヴォルケンリッターの総意でもある。慎司、次はいつ会えるだろうか。出来るだけ速く憂を断とう、はやての事で心配をかけないようにしてやる。だから、どうかそれまでは………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 慎司と守護騎士達、そう遠くない日に訪れる決別の日は近い。

 

 

 




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