デイズゴーンが面白い。ゾンビゲーはたまにやると面白い
「デッケェ部屋だなぁ」
訪れたその場所を見てそう溢す。ここはなのはちゃんの家の近所にある高級マンションのその一室。部屋は当たり前に広く家賃を想像するだけで震える。ちなみになのはちゃんも来ていて今はフェイトちゃんと2人でお話中。
「あら慎司君、来てたのね」
「お邪魔してます」
声かけてきたのはリンディさんだ。ここはリンディさんとクロノ、エイミィさんにフェイトちゃんが暮らしている。フェイトちゃんが地球に来る事は分かっていたがまさかこの4人で暮らし始めるとなるとは思わなかった。
事前に事情を知るなのはちゃんから話は聞いていたが。
今回の襲撃者の事件はやはりアースラの面々が対応する事になったらしく地球での拠点圏指令室としてここを利用するらしい。下世話な話だが管理局のお金かなぁ。
ちなみになのはちゃんの家の近所なのも理由があり名目上は外部協力者のなのはちゃんの保護だと言うがまぁ恐らくはフェイトちゃんとなのはちゃんを喜ばせる為なのもあると思う。
「クロノとエイミィさんは?」
「奥の部屋で色々今後の準備をしてるわ、悪いけど邪魔しないでもらえるかしら?」
申し訳なそうに言うリンディさんに了解ですと告げる。ちぇっ、ちょっかいかけようと思ったのになぁ。まぁ、俺に色々関わらせないようにしてるのか。今後の準備って多分調査とかそ地球での活動の事だろうし。
リンディさんはごめんね?ともう一度言葉を紡ぐと別室に引っ込んでしまった。
さてこれからどうしようかと考えているとフェイトちゃんに声をかけられる。
「慎司、どうかな?似合う?」
「うん?おう、ばっちりだぜ」
とサムズアップしてみせる。今日はとりあえず引っ越し……とはちょっと違うけど引っ越し祝いと言う事で急遽プレゼントをフェイトちゃんに用意したのである。
それを身につけるとフェイトちゃんは恥ずかしそうにしながらも身につけた姿を見せてきてくれる。
服?アクセサリー?ノンノン、そんなありきたりな物じゃないぜ。フェイトちゃんの好みはまだリサーチ出来てないから下手な物買えないし。
俺が用意したものは。
「ほ、ホント?嬉しいな」
クウガの変身ベルトである。あ、勿論子供用のDX版ね、大人用のCSMは流石に用意できない。それを身につけて嬉しそうにしているフェイトちゃんは何だかシュールだ。
いやまぁ、嬉しいですけどね?フェイトちゃんも仮面ライダーファンになってくれてさ、俺のせいだけど。
「フェイトちゃんが喜んでるならいいけど、女の子のプレゼントとしてはどうかと思うよ?慎司君」
「俺もそう思う」
なのはちゃんに同意だ。ぶっちゃけボケたつもりだったんだけどな。まさかあそこまで嬉しそうにするとは想定外。複雑な気分である。
「折角だし変身ポーズやってみなよ」
「え?は、恥ずかしいよ……」
「勿体ないぜ?折角着けたんだし、俺もプレゼントしたからには一回は見たいなぁ……」
「う、うぅ……慎司がそう言うなら」
フェイトちゃんが恥ずかしそうにポーズを取り始める。てかやっぱり覚えてるのね、連続で全話二週しただけのことはあるよ。
なのはちゃんもドキドキとした様子で見守っている。俺はポーズを取り始めた段階で携帯を取り出していた。
「………へ、変身!」
ベルトの変身待機音をしばらく響かせだ後、そう叫んでポーズを取る。ベルトからは変身音声が鳴り響く。一時の沈黙が訪れ
「はい、録画完了。永久保存します」
「わああああああ!!」
魂の叫びと共に頭を抱えるフェイトちゃん。そんなに恥ずかしがらなくても可愛らしい映像だから気になさんな。本人はそう思えないだろうけど。
まさかフェイトちゃんの黒歴史の立会人なれるとは光栄だ。
「け、消して慎司!お願い、は、恥ずかしいからぁ!」
「やなこった」
「そんな事言わないでぇ」
「なのはちゃん、データいる?」
「うーーーーーん………ごめんフェイトちゃん、ちょっと欲しいかも」
「なのは!?」
ふむふむ、なのはちゃんとフェイトちゃんがじゃれ合ってる姿を見て眼福眼福と手を合わせているとフェレット姿のユーノと子犬姿のアルフが歩いてきた。………子犬姿?
「アルフ、お前なんだそれ?」
「新形態の子犬フォームだよ」
「なのはやフェイトの友達の前ではこの姿じゃないと」
ユーノがそう代弁して確かになと納得する。いまアリサちゃんとすずかちゃんはこのマンションに向かってるんだ。
ユーノはアリサちゃんやすずかちゃん達の前じゃフェレット姿しか見せてないしそもそも魔法も知らないし。
アルフは逆に前の狼姿だと色々不都合だ。前にアリサちゃんが怪我をして拾った経緯もあるし説明がめんどくさい。
「なのは、フェイト、慎司……友達だよ」
噂をすれば何とやら、クロノが来客の知らせをしにきてくれた。おいでなすったな2人とも。早速3人で出迎えに、フェイトちゃんは2人とははじめてのご対面だ。
「初めまして……てのも何か変かな」
「ビデオメールでは何度も会ってるもんね」
玄関先でそう困ったように言うアリサちゃんとすずかちゃん、そうは言っているが2人は感慨深げだ。
「うん、でも会えて嬉しいよ、すずか……アリサ」
フェイトちゃんも顔を赤くしつつ嬉しそうにそう言葉にする。フェイトちゃんもずっと楽しみにしてくれていたのだろう。共通の知り合いの俺は何だか嬉しくて胸が熱くなる。
「よしっ!折角皆んなで集まったんだ、外に繰り出すぞ!」
「何するのよ?」
と肩をすくめるアリサちゃん。そうだな……
「とりあえずこのマンションの部屋一つ一つにピンポンダッシュして誰が最後までバレないかゲームするぞ」
「絶対嫌」
「何馬鹿な事言ってるのよ」
「フェイトちゃんの新生活を崩壊させる気かな?」
「慎司、悪い事は良くないよ?」
冗談だよ。
…………………。
結局本当に外に繰り出すことになり近くの高町家が経営する翠屋に向かう事に。引っ越しの挨拶と言うことで俺達4人だけでなくリンディさんも一緒だ、既に前回の件でなのはちゃんをアースラで預かる時に挨拶はしていた(魔法の事は勿論黙秘しつつ)リンディさんはなのはちゃんの両親とは顔見知りだったため筒がなく行われた。
「うめえええ!桃子さん、今回の新作ケーキも最高です!!」
「慎司君がいつも美味しそうに食べてくれるから私も張り切って作れるわ、遠慮しないで一杯食べてね」
言われるまでもなくぅ!頂きます!
「あんた、もうちょっとゆっくり味わいなさいよ」
「くぅぅ!ありがてぇ!トロットロッにとろけてやがる!犯罪的だ!」
「聞いちゃいないね」
呆れ顔のアリサちゃんとすずかちゃんには目をくれずケーキを貪る俺。いやだってマジで上手いんだから、本当に。これ絶対ギネスいけるって。世界一美味いケーキで。
「フェイトちゃんどうかな?お母さんのケーキ」
「うん、凄く美味しいよ。前に慎司が食べさせてくれた時からお店に行くのずっと楽しみにしてたから」
2人は2人でちゃんと楽しんでくれてるようでなりよりだ。そんなこんなで各々食事とおしゃべりを楽しんでいると見覚えのある人が何かが入った薄い箱を小脇に抱えてこちらに近づいてくる。
あれは……確かアースラの組員の人だ。
組員の人は俺達に会釈しながらフェイトちゃんその箱を渡して
「はいこれ、今日届いたから届けにきたよ。詳しい話はリンディさんにね?」
そう言ってすぐに立ち去って言った。全員状況が飲み込めずとりあえずその箱を開けてみると
「あ、これ……」
「俺達の学校の制服だな」
いやはやリンディさん、粋な事をするね。
すぐに4人で桃子さん、士郎さんと立ち話をしているリンディさんの元に。
「あの、リンディさんこれって……」
戸惑いながらフェイトちゃんが渡された制服をリンディさんに見せる。
「転校手続き取っといたから、週明けからから4人とクラスメイトよ」
「聖祥小学校ですか、あそこはいい学校ですよ。なっ、なのは?」
「うん!」
事態を理解した士郎さんがそうなのはちゃんに問う。俺とアリサちゃんとすずかちゃんも同意だと頷く。
「よかったわね、フェイトちゃん」
そう笑顔で桃子さんに言われてフェイトちゃんは
「あ、ありがとう……ございます」
恥ずかしそうに顔を赤らめて制服の入った箱で顔を半分隠しながらそう嬉しそうに言った。
「よっしゃ!入学祝いじゃあ!!なのはちゃん!フェイトちゃんに生ビールを!俺の奢りじゃあ!!」
「いい雰囲気が台無しだよっ!?」
「あ、やべ!フェイトちゃんとこのマンションに携帯忘れたから取りに戻るわー!」
「やりたい放題かっ!」
アリサちゃんのツッコミを背中に受けながらも俺は慌てて来た道を戻る。フェイトちゃんが数日後には俺達の学校に転入してくるならすぐにでも連絡してやりたい事ができたからだ。
ふっふっふ、折角だし色々仕込んでやるぜ。
…………………………。
「おーいクロノ、俺の携帯見なかったかー?」
お邪魔して声をかけてみるが返事がない。奥の部屋か?そういえば奥の部屋で今後の準備をしてるとか言ってたか。
事件の捜査とかそう言うのだろうからとりあえず邪魔しないでおこう。しかし部屋を隈なく探してみるが携帯が見つからない。
あれ?俺がいた場所は全部探したよな?うーん……しょうがないよな?奥の部屋の扉をノックして部屋に押し入る。
「忙しいとこ悪いクロノ、俺の携帯見なかったか?」
「っ!慎司か……」
俺の来訪に気付くとクロノは慌てた様子で魔法でプロジェクターのように映し出された映像を消す。一瞬だけ映像が見えたが他は殆ど分からなかった。
やっぱり、クロノは今回の件は徹底的に俺に関わって欲しくないんだろう。まぁ、その意は汲むつもりだからいいけども。
「携帯なら僕が預かってたんだ、ホラ」
「お、サンキュー」
クロノから携帯を受け取り、礼を言ってすぐに退室する。扉を閉める瞬間にクロノから安堵のような溜息が聞こえたが聞こえないフリをした。
「…………」
最初に部屋に押し入った時にわざとではないがモニターの画面についつい目がいった。見えたのは一瞬だったが俺はその時見た映像が気になっていた。
「あの本………」
映像にあった装飾が施されている大きい本。魔導書なんてイメージがつくその本には見覚えがあった。両親が今調べている何かしら重要な事項の書かれた書類にあったものと一緒だった気がする。忘れ物として届けた時や乱雑に置かれていたのを整理した時に目についたのを覚えている。
クロノ達が追いかけている襲撃犯と両親が調べているものは一緒なのか?または関係しているか。
思考の海に浸かる前に頭を振って考えを消す。今回はしゃしゃりでないと決めたんだ。余計な事を考えるのはよそう。
そんなことよりもだ、今のうちにいろんな奴に連絡せんとな。ふっふっふ………。
……………。
あっという間に数日が経ち、いよいよフェイトちゃんが俺達の通う小学校に転校してくる日がやって来た。とりあえず俺達4人は先に合流しフェイトちゃんのいるマンションに。
「あ、皆おはよう」
何だか少し緊張気味のフェイトちゃんを出迎え、リンディさんに見送られて学校に向かう。道中は他愛もない会話をしながら楽しげに登校するフェイトちゃんだが学校が近づくにつれやっぱり少し緊張してきたようで。
「そんなに緊張しなくても平気よ、私達も色々手助けするから」
アリサちゃんの一言にありがとうと笑顔でフェイトちゃんは返すがやはり表情は硬い。ふむ、そろそろ仕掛けるか……こっそりと携帯を操作しメールを送る。
するとすぐに動きがあった。
「慎司っ!」
俺たちの後ろから慌てた様子で声を掛けて来たのは俺たちのクラスメイトの男の子だ、俺も割と仲良くしている子でもある。
「大変なんだよ!」
「どうした?」
「とにかく一緒に学校に来てくれ!」
「お、おう?わかったよ。悪い、先に行ってるな?」
そう4人に声を掛けて足早に2人で学校に向かう。4人が見えなくなったところで
「良い演技するじゃん慎司」
「うっせ、お前は逆に不自然だよ」
何だよ大変な事って、もっと他に連れ出せる理由あるだろ。まあいいけどさ。
「とにかく準備しないとな、何とかギリギリ間に合いそうだぞ」
「本当か?よかった」
完成さえすれば問題ない。
「大変な事って何だろうね?」
「慎司が関わってるならどうせくだらないことよ」
「あはは、そうかもね」
取り残された4人のすずかとアリサとなのははそう言葉を交わしていたがフェイトの表情は相変わらず緊張した面持ちだった。
朝のホームルームの時間。既に教室には生徒が着席し先生の話をきくところなのだが、明らかにおかしい今の状況に女性の担任の教師は頭を抱えながら一言呟く。
「どうして男子が誰もいないのよ……」
そう、既にチャイムが鳴り生徒は既に教室にいなければいけない時間なのだがこのクラスの男子が誰一人教室にいないのだ。
「また荒瀬君の仕業かしら……」
頭を抱えながらそう悲壮に教師は漏らす。それを聞いたなのはとアリサとすずかは苦笑いを浮かべていた。今廊下に控えているであろうフェイトちゃんの折角の晴れの日に何をしでかすつもりなのだろうかと。
「まぁ……いいわ。今日はこのクラスに転校生がやって来ます、皆拍手でお出迎えしましょう」
よくはないのだが教師は予定通りに話をホームルームを進めた。既にこの手の事で慎司が過去に色々大掛かりな事を何度もしている。
既にこの教師も慎司に毒されもうどうにでもなれと言った感情だった。
クラスの半分がいない拍手は少々盛り上がりに欠けつつもおずおずとした様子でフェイトが入室する、緊張した面持ちで注目を浴びつつ自己紹介を終えた時だった。
ガラガラと乱暴に教室のドアが開かれそこにはまだ席についてなかったクラスの男子生徒が1人。教師が注意するがそれに意を返さずただ呟く。
「………天使だ」
「え?」
フェイトの方を向いてそう言うその男子生徒はフェイトが疑問の声をあげるとダッシュで目の前まで移動してどこからかカーネイションを取り出しながら
「3秒前からあなたが好きです!俺のお嫁さんになってください!」
「「「えええええええええっ!??」」」
素っ頓狂な声をあげたのはなのは達3人。残る他の女子生徒も勿論黄色い歓声ではなくええっ……というドン引きの声だった。
「えと、あの……そんな急に」
どう返答したものかとフェイトが悩んでいると再びガラガラと乱暴に教室の扉が開く。
「ちょっと待ったーー!」
カーネイションを持った別のこのクラスの男子生徒が叫ぶと同時に今度はバラの花束を取り出しながら
「僕は今日、たまたま職員室で見かけた18分前から君の事が好きです。結婚はしなくていいから僕の子供を産んでください!」
「「「大胆な告白だーーーー!?」」」
なのは達の絶叫が響くなか、先に告白をした男子が
「お前!先に告白をしたのは俺だぞ!」
「ふん、馬鹿め。恋とは先に告白したかどうかが重要じゃない、重要なのは……恋した時間と渡す花の量だ」
んなわけあるかと内心みんなツッコんだ。仮にそうだとしても時間に関してはたかが10数秒違いである。
「ぐぐ……くそっ!」
そう言われ先に告白をした男子は悔しそうに膝をついた。
「待って!それを理由に諦めるの!?」
なのはの至極真っ当なツッコミが飛んでくるが男子は変わらず悔しそうだ。
「というわけでフェイそんさん」
「フェイトだよ」
「僕の想いを受け取って貰えるかい?」
どこか聞き覚えのある間違いを指摘しつつフェイトは考える。ぶっちゃけ振る以外の選択肢はない。名前間違えてるし、初対面だし、しかしどう言えば円満に話を進められるか残念ながら社交性がまだ低いフェイトには思い浮かばなかった。
困った様子のフェイトを差し置いてバラの花束をズイズイと差し向ける男子は続けた。
「結婚はしなくていい、けど僕の子供は産んでくれないかな?フェイトたそとの子供だけ欲しいんだ」
ああこの人絶対に振ってやるとフェイトは思った。あとフェイトたそってなんだ。もう手酷く振ってやろうとささやかな決意をしたフェイトだったが実行に移る前に再び教室のドアが騒がしく開けられた。3人目の男子だった、無論このクラスの。
しかしその男子の格好は普通ではなく全身様々な花を身体中に気持ち悪いほどくっ付けているいわば花男と言うモンスターのような外見だった。全員絶句である。
「エイト・エスプレッソさん!」
「もう私の名前の原型が殆どないね」
何者だその人は、コーヒーか。あとその格好はなんだろうか。フェイトの頭の中は疑念ばかりとなる。
「君の事は未来予知で知っていた、14日前から好きです。僕ごと花を受け取ってください」
嫌ですと反射的に出かけた言葉をフェイトは呑み込んだ。未来予知ってなんだ嘘つくな。何を言っているんだこの人は、まさかクラスの男子一人一人にこの訳の分からない告白を受けるのか。そうなる事を想像してフェイトは戦慄する。
「俺も好きだー!フェイスさん!」
「僕もだー!フェルさん!」
「いや僕ちんの方が好きだ〜!フェイフェイ!」
「いいや!俺の想いこそが本物だよ。ね?フェーンさん」
次々と扉から、ロッカーから、窓からこのクラスの男子が叫びながら一様の花を持ってフェイトに迫る。何がどうしてこうなった、そして誰一人私の名前を言えてないと内心フェイトは突っ込んだ。
『くぉら!この軟弱どもがああああ!!気持ちを伝えるならこんぐらい花を使いやがれえええええれ!!』
突如、外からスピーカーを介した声が響く。この教室の窓からは学校のグラウンドが見下ろせるようになっておりそこが音源だった。
「この声は!?」
「まさか!」
「あいつなのか!?」
「あいつだ!あの大馬鹿野郎にちがいねぇ!」
「皆んなあそこを見ろ!」
教室の男子が芝居がかった動きとセリフを言いいながら外を指さす。教室にいた女子も、教師も窓からグラウンドを見やると感嘆とした声をあげる。
「フェイトちゃん、こっち!」
訳がわからなくオロオロしてるフェイトを外を見ていたなのはが嬉しそうにしながら手招きをして呼び寄せる。なんとなくおっかなびっくりといった感じでフェイトはゆっくりとグラウンドを見下ろす。
「あっ…………」
そこにはグラウンドの真ん中に決して無いはずの花々。薄い紫のような綺麗な花々が並んでいた。よく見るとそれらは植木鉢でそれを沢山並べているのだ。そしてただ乱雑に並べられているわけではなくちゃんと意味があった。
正確に言うならば上から覗くと文字になるように。
『かんげい』
歓迎、ひらがなでそう並んでいた。そして花々の前にスピーカーメガホンを持った男が一人。
「慎司……」
フェイトの口からそう漏れる。言わずもがな慎司の差し金なのは分かった。そして協力者はクラスの男子全員、下のグラウンドのぐったりとしている教室にいない残りの多数の男子がいた。
教室に変な告白ばかりしてきた人たちはいわば時間稼ぎ。ホームルームが始まって誰もグラウンドより先生の方を注目しているうちにグラウンドの倉庫に隠してあった花を並べ、足りない時間は教室の男子達が注目を浴びて稼ぐ。
こういった段取りだったのだ。
「ようこそフェイトちゃん、俺たち皆んなフェイトちゃんを歓迎するぜ!!」
イェーイと教室の男子もクタクタになっている慎司を含めたグラウンドの男子も歓迎ムードでフェイトちゃんに手を振ったり声援を送る。慎司からの転入祝いのちょっとしたサプライズだった。
「あら、荒瀬くんも洒落てるわね」
そうぼやく担任の教師にサプライズがですか?と問いかけるアリサ。教師はそれもだけどと前置きを置いてから続けた。
「あのグラウンドの花、アゲラタムっていう花なんだけどね?あれの花言葉の一つで『楽しい日々』っていう意味があるのよ」
「楽しい日々………」
そう反復するフェイトを穏やかな目で見つめながら教師は微笑みを交えて
「荒瀬君なりのメッセージじゃないかしら?テスタロッサさん、あなたにこのクラスで楽しい日々送りましょうって言う」
そう教師に言われてフェイトは恥ずかしそうに、けれども嬉しそうに顔を赤く染めながら慎司にもそして協力した男子達に感謝の気持ちを大きな声で伝えるのだった。
「反省文の時間だよクソがぁ!!」
「口が悪いよ慎司君」
机に突っ伏しなが叫ぶ俺をなのはちゃんがそう宥める。いやはや、確かにホームルームの妨害行為にはなったけどだからってこんなに反省文書かせなくてもいいじゃない。
既に学校の授業を終えて放課後、紅い日差しが教室に差し込んでいた。これが書き終わるまでは帰れない俺はせっせと作業を進める。ちなみに俺以外の男子は俺が主犯なので罰は免除してもらっていた。
「なのはちゃんもフェイトちゃんも先に帰っていいんだぜ?」
既にアリサちゃんとすずかちゃんは習い事があるので既に学校を後にしている。なのはちゃんと俺からのサプライズで用意した花の一部を花瓶に生けて上機嫌な様子でそれを見つめるフェイトちゃんにそう声を掛けるが急ぎの用事があるわけではないから待つとの一点張りである。
「それにしても本当にびっくりしたよ、あんな沢山のお花どうしたの?」
「町中の花屋さんから強奪した」
俺のその言葉を鵜呑みにしたフェイトちゃんがギョッとしながら花瓶の花と俺を何度もキョロキョロと見比べる。
「町中の花屋さんにお願いして手配してもらったんだ」
まぁそう言う事だ。ちゃんと汚さず枯らさずに殆どは返したし。色々クラスの皆んなで花屋さん手伝ったりしてバイト代みたいなもんで貰ったのもあるし。数日で用意するのは大変だったけどな。
ていうか何で通訳してんだよなのはちゃん怖いよ。
なのはちゃんのその言葉を聞いたフェイトちゃんが安心してホッと胸を撫で下ろしてるのをみて軽く吹き出してしまう。純粋と言うか何というか。
「ね、慎司。この花大事にするから、本当にありがとう」
「その礼の言葉今日でもう8回目だよ」
嬉しいのは分かったから。そのうち枯れるまでは大事にしてくれるならそれで十分ですがね。
「慎司君慎司君、私も何かサプライズして欲しいな」
「あっ、なのはちゃん足元に黒光りするGが!」
「え!嘘っ!?」
「嘘ピョーン」
「そういうサプライズじゃない!!」
「勝海舟?」
「無理矢理間違えないでよ!」
俺となのはちゃんのやり取りにフェイトちゃんは堪えきれずに吹き出して笑っていた。
結局その日は不満そうに頬を膨らませるなのはちゃんと花を大事そうに抱えながら持ち歩くフェイトちゃんに挟まれて帰ったとさ。
そんな風に穏やかな日常が何より幸せな事だっていうのはよく分かっていた。そして、今は色々心配なはやてちゃんともそんな穏やかな日常を取り戻せるって何となく思っていた。
俺は、何も知らなすぎた。関わらない事が正解な時もある。だけど、今回の事は俺はもっと早く行動を起こすべきだったと後悔する事になる。俺にとっての日常は崩壊し、苦悩して選択を迫られる時が来たのだ。
…………………………。
「何だよ……コレ」
この日、俺は八神家にお邪魔していた。シグナムに大事な話があるからと呼ばれたのだ。はやてちゃんは今のところ体調に問題がないらしいが大事をとって自分の部屋で休ませているらしい。
一応顔を出してみたが気持ちよさそうに眠っていたのですぐに退出しようとした。だが、見てしまった、視界の端にたまたま捉えた。はやてちゃんの部屋の本棚、その端に隠されているように置かれている見覚えのある本を。
心臓が跳ねた。記憶が呼び起こされる。母さんが見ていた資料の端々に載っていた装飾が施された魔導書のような物、クロノ達の部屋にお邪魔した際にたまたま映像に写っているのが見えてしまった同じ本。
手に取る、それと同じ物だった。本を開こうとするが怖くなって辞めた。元の位置に戻して部屋を出る。
リビングではシグナム達が神妙な面持ちで俺を待っていた。明らかに見た目ははやてちゃんと血縁関係がないシグナム達。この人達は何者何だろう、深く考えてなかった疑問が膨らむ。
いや、たまたまだ。たまたま同じ見た目の本を持っているだけなのかもしれない。そうだ、きっとそうだ。
「なぁ、話ってなんなんだよ?」
平静を取り繕ってそう皆んなに問いかける。シグナムが代表して俺に告げる。
「しばらく、私達と会うのを控えて欲しいんだ」
「えっ………」
呆けた声が出る。それは予想外の言葉だった。けど冷静になって考えてみる、何故……俺を皆んなと、そしてはやてちゃんから遠ざけようとする?
「理由は……はやてちゃんの体の事か?」
「それもある、だが勘違いしないで欲しい。お前は私達にとってもはやてにとってもかけがえないの友人だ、それは変わらない」
「じゃ、なんで……」
「詳しくは……話せない」
「何だよそれっ」
つい声が大きくなる。俺に、隠し事があるって事か。何か大きな隠し事が。そう、例えば……この間の夜。なのはちゃん達を襲ったのはシグナム達……とか?
いや、と心中でかぶりを振る。その考えはいくらなんでも飛躍しすぎた。考えすぎだ、落ち着け。
「すまない、しかしはやての為でも慎司の為でもあるんだ。詳しくは話せないがそれは信じて欲しい」
「……………」
そんな風に言われては何も言えない。
「約束する、全て解決したら慎司に全てを話す。だから、今だけは私の言葉を信じて欲しい。何も聞かずに言う通りにしてくれないか?」
「………くっ」
踵を返して玄関に向かう。納得はいってない、疑問も疑念も多々ある、何より………あの本の事も聞けてない。しかし、俺はそれ以上考えるのが嫌になって玄関に向かった。
「………すまない」
背中からシグナムの悲痛な小さな声を受け取る。軽く振り返って皆んなを見る。シャマルは目を伏せ悲しそうな顔をしてヴィータはどうしていいか分からず寂しそうなに顔を伏せ、ザフィーラは心なしか耳までぺたんと垂れていた。そしてシグナムは何かを抑えるように震えるほど拳を握っていた。
「……………」
俺は何も言わず八神家を後にした。
「これで……良かったんですよね」
「ああ、万が一でも慎司は巻き込めない。この間の件で管理局に本格的に目をつけられているだろうからな」
「…………」
「ヴィータちゃん?」
「ああ、くそっ………分かってるよ」
「………全て終わったら誠心誠意謝ろう。理由はどうあれ私達は慎司を傷つけてしまったから」
シグナムの言葉に全員が頷く。慎司が出て行ってすぐにそんな会話が繰り広げられていた事を肩落として逃げるように帰路につく慎司には知るよしもなかった。
ウルトラマンの動画ばっかり見てる。ぼーっとしすぎていきなり慎司がスペシウム光線を打ってる描写を描いた時は驚いた←マジです