転生しても楽しむ心は忘れずに   作:オカケン

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それぞれの想い

「えっ、なのはちゃん達がシグナム達と交戦した?」

 

 滝のように吹き出た汗をタオルで拭いながら母さんからの現状の報告に俺は驚きを隠さなかった。

 場所は父さんと母さん用に与えられたと言う管理局の作業室の一室。その多目的スペースというべきか、とにかくその広い部屋で休憩中だった。

 

「だ、誰か怪我とかしたのか?」

 

 俺の問いに母さんは首を振る。良かった……アースラの皆んなもシグナム達の誰かも怪我をするのは俺にとっては不本意だ。それにしても……交戦か、俺がシグナム達の事をアースラに報告していれば起きなかったかもしれない……考えても仕方ないか。

 もしクロノ達に伝えてシグナム達を捕まえられなかったらきっとシグナム達は俺が知らない何処かへ消えてしまう。それは俺が皆んなを説得してはやてちゃんを救う機会を失うという事だ。良心は痛むが今は母さん達以外には言えない。手遅れになる前に一刻も早く事を進めないと。

 

「慎司、睡眠以外でほとんど休んでないでしょ?休憩ついでにお父さんも混ぜて情報を整理しない?今回の交戦で気になる事があったのよ」

「いや俺は………」

 

 俺が断ろうとするがかぶりを振った。焦るな、がむしゃらにやる事は必要だが酷使し過ぎるのは逆効果だ。ちゃんと自分の体に見切りをつけて効率的に動かないとな、急がば回れだ。

 

「そうだね、一回汗を流したらすぐにそっちの部屋に行くよ」

「えぇ、あんまり目立たないようにね」

 

 ああ、分かってるよ。今回は誰にもバレずにいかに事の準備を進めるかが大事だ。移動ひとつも注意しなければならない。とりあえず備え付けのシャワーを借りてから俺は母さん達が待つ作業室に向かった。

 既に資料を広げて議論している2人に加わる形で俺は席に着く。

 

「さて、丁度慎司も来たし……もう一度今回の交戦についてまとめようか」

 

 頷く俺と母さんは父さんから説明を受ける。今回はなのはちゃんとフェイトちゃん、加えてクロノも現場にて交戦。シグナム達もザフィーラとヴィータちゃんにシャマルも加わって戦闘となったらしい。

 双方目立った外傷はなくシグナム達はなのはちゃん達の追撃を振り切り逃げる事に成功したようだ。その際に新たな事案が発生したという。

 

「こいつは?」

 

 父さんに見せられた映像の切り抜きに俺は首を傾げて疑問の声をあげる。そこには仮面を付けた青年らしき人物が映し出されている。見覚えは全くない、どこの誰だろうか?

 

「そうか、慎司も知らないか……」

 

 俺の反応に父さんは難しい顔を浮かべる。話を聞くとこいつは追撃するクロノに奇襲をかけシグナム達を手助けしたと思われる行動に出たらしい。シグナム達のように闇の書が生み出したプログラムでもなく管理局のデータベースにもいない人物で正体不明だと語る。

 

「目的も正体も不明、事実としてシグナム達を手助けした行動は起こした」

 

 シグナム達の反応も聞くが映像では驚いていた様子だったと父さんは言う。ふむ、シグナム達にとってもイレギュラーな存在となると現状じゃいくら考えてもダメそう。

 

「仮面の男も気になるけど今はそれにかまけてられないな。俺はそろそろ戻るよ」

 

 そう言って席を立つ。ある程度は休憩できた、そろそろこっちも再開しないと。

 

「ああ、無理しないでな」

「慎司、分かってるわよね?」

 

 2人の視線にうっと唸りつつも

 

「ああ、学校休ませてまで取り組ませてくれてるんだ。そこは弁えるよ、ちゃんと」

 

 じゃあと軽く手を振り俺は退室した。ああ、無謀な無理はしない。けど意味のある無理はする、そうじゃなきゃきっと間に合わない。俺は、失敗できない。それだけは常に頭の隅に置いておく。心配させてしまうがそれでも俺は突き進むしかないんだから。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ………」

 

 慎司が部屋から出て行ったところで荒瀬ユリカはため息をついた。信治郎もユリカの気持ちは分かるため何も言わない。

 

「あの子、誰に似たんだが………」

「頑張りすぎるところはユリカじゃないか?」

 

 と信治郎はツッコむ、ユリカも覚えがあるため何も言い返せなかった。

 

「あの子に闇の書の解決を託すと決めたんだ、今更引き戻せないぞ?」

「分かってるわよ、私だって覚悟は決めたんだから」

 

 そう言って再び議論と調査に乗り出すべく2人は行動を開始する。状況は刻々と変わっていくが荒瀬家の行動も素早く遅れを取り戻すべく全員が颯爽としているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シグナム?」

 

 地球にて、夜中。誰もが寝静まってあたりは静寂に包まれている。八神の家の前に外の空気を吸って黄昏ているシグナムの背中にシャマルは声をかけた。シグナムは振り返る事なく深く息を吐いた。

 

「今日の事を考えていたの?」

 

 今日の事とは蒐集中に管理局に遭遇してなのは達と交戦した事だった。それもあるがシグナムは首を振ってそれだけじゃないと答える。

 

「主はやてを悲しませた事だ」

 

 今日、実ははやてと約束をしていた。シグナム達が預かり知らぬ所ではやては新たに友達を作っていた。名は……すずかと言っていたか、その子を交えて皆んなと鍋をやろうと約束をしていた。しかし、イレギュラーな出来事が連続して起こし結果的に約束をすっぽかしてはやてとその友達と2人で寂しく鍋をさせてしまったのだ。

 真相を言えずシャマルが当たり障りのない理由をつけて謝罪をしたらはやては仕方ないと許してくれたが罪悪感が募っていた。さらには

 

「慎司を巻き込まない為に私達の勝手で主と慎司を引き裂いた事を今更後悔している。結果的にはやてに寂しい思いをさせてしまった」

 

 結局すずかという新しい友達が出来たことは喜ばしい事だがもう巻き込まない為に慎司と同じようにその子を遠ざける事が出来ない、これ以上はやてを悲しませるのはしたくなかった。自分達が上手くやるしかないのだ。

 

「慎司君……怒ってるかしら……」

 

 切なげな表情でシャマルはそう溢す。私達は慎司を突き放して傷つけた。ちゃんとした理由もつけず一方的に。自分達を初めて友と呼んでくれた慎司をだ。

 当初は守護騎士全員罪悪感で押し潰されそうになっていた。ヴィータはしばらく不機嫌な態度が取れずシャマルはしきりに小さく溜息をつきザフィーラは寡黙ながらも拳をギュッと握って手を震わせシグナムは蒐集中に一度注意力散漫になりかけた程だ。

 自分達にとってとても大きな存在になっていた事に戸惑っていた。

 

「怒っている……かもな。だが、今私達から慎司に接触するのは危険だ。本音を言えば一刻も早く会って謝りたい所だが」

「私も一緒よ」

 

 2人して寂しげに微笑む。友よ、今すぐにでも会いたい。皆そう思っている、あの輝かしい日々を取り戻したい。そのためにも、シグナム達は修羅の道を進むと決めたのだ。だってあの楽しかった日々をかけがえないの無い大切な思い出として今も胸に刻まれている。

 だから、今だけは許して欲しい。心の中の弱音を許して欲しい。都合良く想わせてほしい、すぐにでも会ってまた楽しい事をしたいと思う正直な気持ちを。

 

 

 

 

 それでもはやてを救う為に止まれない自分達を許して欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日も慎司は来なかったわね」

「うん……」

 

 学校の帰り道にアリサちゃんがそうぼやく。いつもの下校の時間でも慎司君がいないだけで賑やかさがだいぶ違う。勿論、少し寂しく感じるだけでアリサちゃん、すずかちゃん、フェイトちゃんと過ごす時間はすごく楽しい。

 けど、すこし物足りなさを感じるのもまた事実だった。既に慎司君が学校をお休みし始めてから五日ほど経っている。

 

「慎司君、メールは遅れて返信してくれてるけど……」

「事情を聞いても親の都合としか言わないし…」

 

 すずかちゃんは困ったような顔をして、アリサちゃんは納得がいかないといった様子だ。二人の言う通り別に音信不通とかではなく連絡自体は普通に出来ている。電話は一度したときに随分忙しそうだったのでそれからは遠慮しているが。

 

『慎司のご両親の都合なら何か魔法の事とか関係してるのかな?』

 

 念話でフェイトちゃんがそう問いかけてくるが内心首を傾げながら

 

『うーん、どうだろうね?それなら私やフェイトちゃんにも隠さなくていいと思うし……』

 

 率直な疑問を伝えるとフェイトちゃんはうーんと考え込む。結局クロノやリンディさんにご両親から何か聞いてないかを聞いてみようという事で私とフェイトちゃんで話はまとまった。

 

「…………」

 

 アリサちゃんが次慎司君に会ったらどうしてやろうかと画策するのをすずかちゃんが微笑みながら聞いていてフェイトちゃんは苦笑していた。ふと、この間の慎司君の言葉を思い出す。

 

『その時になったらなのはちゃん、俺を助けてくれ。俺は君を…頼りにしてるから』

 

 きっと慎司君は今、何かをすごく頑張っているんだと思う、それがなんなのか…自分達に関係しているのかは全く分からないけれど………そして今は多分自分じゃ力になれないんだろうけど……『その時』が来たら自分の全霊を持って慎司君を助けるんだ。

 

 

 

 

  慎司君の力になるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐうぅ……おええ」

 

 我慢しきれず胃液をぶちまける。頭がぐるぐると振り回されるような感覚と単純に気持ちが悪くて先ほどから嘔吐を繰り返していた。俺が管理局に籠ってからどれくらい経過しただろうか。一週間は経った気がするが正確な所は分からない。

 口元を拭って震える体に鞭打ちながら立ち上がる、まだ完成には程遠い。急がないと、急がないと……。

 

 

 

 

 再び同じ感覚に襲われて胸を押さえながらえずく。すでに吐き出すものは胃の中にはなく、吐くようにえずくのを繰り返す。うめき声をあげながら立ち上がろうとするが力がうまく入らず立てない、もがく俺を見かねずっと見守っていた父が「今日はここまでだ」と俺に告げる。

 

「まだ……やれる」

 

 ぼそっとした声でそう告げるが父は首を振って

 

「これ以上はお前の身にもならない、無駄に体を壊すだけだ。お前も理解できてるはずだ、冷静になれ」

 

 そうだ、父さんの言う通りだ。冷静になれ、冷静に。急ぐからこそ、適切に事を運ばなければいけない。効率だ、考えなしのがむしゃらな努力だけでは間に合わない……効率を考えろ。今はもうやめて休んで次はもっと集中して、がむしゃらに、ひたむきに、考えて行うんだ。

 

「……………分かった」

 

 俺の呟きに父さんは頷いて立てない俺を抱きかかえて備え付けのソファに寝かせてくれる。

 

「落ち着くまでそこで休んでるんだ、今母さんがその症状に効く薬を持って来てくれる」

 

 あー、それは助かる。気分が悪くて寝れもしない………駄目だ。こういう時大抵悪い事ばかり考えてしまう、間に合わなかったらどうしよう、説得出来なかったらどうしよう、失敗したらどうしようと頭の中でぐるぐると駆け回っていた。

 こんな辛い思いをして本当に意味があるのか?そんな事まで考えてしまう。それは……よくない、駄目だ。楽しい事を考えよう、そうだ。皆で笑って、遊んで、くだらない事をして盛り上がる。俺が目指す未来を考えよう。

 それを現実で見る為なら………あぁ、俺はまだ頑張れる。

 

 いつの間にか、意識を手放して寝息を立てていた。

 

 

 

 

 

 

 

「信治郎さん、慎司は……大丈夫かしら」

「大丈夫じゃないさ、正直無茶な事をやろうとしているんだ。辛いと思う、けど同時に目は死んでない。せめてその目に火が灯ってる内は好きにやらせてあげよう。そう決めたんだから」

「えぇ、今になってようやく息子に振り回されるなんて思っても見なかったわ」

「あいつは赤ん坊の頃から手がかからなかったからな………」

 

 2人でゆっくりと休む慎司を優しい目で見守る。本当は今すぐにでもやめさせたいが、慎司は覚悟を決めてここにいる。それを邪魔する事はたとえ親としても出来なかった。

 無茶を要求したのは百も承知だった、そしてそれを慎司は理解して受け入れて血反吐を吐いて頑張っている。それを本当の本当に限界まで見守って協力する事も、家族としての愛情だと信じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1日1日を費やして、初日よりは明らかに形になってきた。しかし、目標までの到達は未だ見えず。それでも確実に前には進んでいる、俺は諦める事も手を抜く事もしないで何とかここまでやってきた。体調は……万全とまではいかないがそれでも最初のように頻繁に吐き気を催す事も無くなり心にも余裕が出てきた。

 しかし、気を緩む時間はない。期限は限られているのだから。今日は既に俺の体調面とかその他もろもろを加味していつものトレーニング……と言っていいのだろうか?とにかくそれは終了して体を休めながら魔法についての資料や教科書を読み漁っていた。

 完璧とまでは程遠いがミッドの文字も翻訳書を使う頻度が少なくなってきてスムーズに読めるようになってきた。母さんも近くで資料を見ながら魔法で何かしらの作業をしている。父さんは今はここにはいないで管理局内を練り歩いてると思われる。…………学校、どれくらい行ってないっけ?皆心配してるかな?なのはちゃん達に少しずつメールは返しているがその頻度も徐々に少なくなって来ている。

 ある意味では集中していると言う事だが心配かけない程度には連絡を続けないと。そう思い携帯を取り出そうとした時だった。

 

「あー!やっぱりここにいたよユリカ」

 

 唐突に扉が開かれ元気な声を上げる女性の姿が。あ、猫耳と尻尾を確認。誰かの使い魔かな?アルフもそうだが使い魔っていうのは獣耳が常識なのだろうか?

 

「お疲れ様、ユリカ」

 

 続けて最初の女性と双子のようにそっくりさんの対象的に落ち着いた雰囲気女性も登場。

 

「あら、アリアにロッテじゃない」

 

 知り合いかね、アリアにロッテ……と呼ばれた女性は母さんと一言二言交わすと同時にこちらを向いてジッーと見てくる。な、なんだ?ていうか本当に瓜二つ、違うのは雰囲気と髪の長さくらいだ。話を聞いた感じは髪がショートで元気な方がロッテで髪はロングで落ち着いているのがアリアか。

 

「あの……なにか?」

 

 俺が声をかけても変わらず注視してくる2人。え?何?恋に落ちたの?割と美人さんだし山宮さんとしてはウェルカムだけども

 

「君、もしかして………」

 

 ロッテがそう言って母さんに視線を移すと母さんは笑って頷く。

 

「嘘っ、慎ちゃん!?大きくなったねー!」

「えっ、うわっ!」

 

 ロッテが興奮気味に俺を抱き寄せてめちゃくちゃにしてくる。え?何?パニックよ?てか慎ちゃんて俺の事かい。

 

「もうー!こんなに可愛くなってー!うりうり〜」

 

 あ、ちょっといい匂いする。前世の親戚の綺麗なお姉さんの顔が浮かんだ。

 

「相変わらずアリアは元気ね」

「我が双子ながら時々計り知れん事はあるね」

 

 そんな事どうでもいいから止めてもらっていいですか?ちょっと貞操の危機なんですけど。あ、やばい。色々やばい。………女って怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、突然押し掛けてごめんねユリカ」

 

 俺を十分堪能してほくほく顔のロッテは悪びれもなくそう言う。色々落ち着いて何処のどなたかは聞いたのだが何と前に一度面談をした父さんの元上司のグレアムさんの双子の使い魔だと言う。よりにもよってグレアムさんの使い魔か………失礼のないようにしないと……と思いたかったのだが最初にもみくちゃにされたからブスっと明らかに不満ありありと顔に出していた。

 

「慎ちゃんごめん〜、機嫌直してよ〜」

 

 と言いつつ懲りもせず俺の頭を撫でながら抱きしめてくるロッテ。おいクソが、いい加減にしろ。

 

「それにしても、慎司は本当に成長したな。君は私達の事を覚えてないだろうが」

 

 アリアも俺を微笑ましげに眺めながらそう言う。そうなのである。グレアムさんが生まれたばかりの俺を抱いたと言っていたがその時にこの猫姉妹も一緒で抱いてくれたそう。俺が自分を転生者と自覚してこの世に生を受けた時から意識はあったがあの時はパニックの方が大きくてあの時期の事は全く覚えてないが。

 

「それで?私に用があったんでしょ?」

 

 母さんがそう言うとロッテはそうだったと俺に構うのを止める。同時にアリアが懐から何か書類の束を母さんに手渡して

 

「頼まれてた資料と許可証だ。律儀だね、ユリカは」

 

 律儀?何の事だろうか。

 

「いくら父親が管理局員だって息子を無断でここに置いてくわけにもいかないでしょ?」

「ユリカと信治郎なら顔利くんだからいらないと思うけどねー」

 

 成程そう言う事。俺魔法とは無縁の一般人だしね、ここに理由なく滞在するのは不味いもんね。許可証を取るのにも多分適当な理由をでっち上げたのだろう、ならそれに話を合わせないとな。

 

「それにしても慎ちゃんも真面目だねぇ、管理局で本格的に魔法について学びたいからってわざわざ」

 

 ロッテが尻尾を振りながら俺に詰め寄ってそう言う。この野郎、また俺をもみくちゃにしようとしてやがる。それにしても、成程そう言う事にしてるのね。とりあえず適当に相槌をうっておこう。

 

「だが慎司は確かリンカーコアが……」

「まぁ、魔導師にはなれなくても管理局で働く事だって出来るんですよね?将来の選択肢を増やしたかったんですよ」

 

 まぁ、これが妥当な言い訳だろう。アリアの疑問にはとりあえずそう答えておく。アリアは微笑みながら「偉いね」とロッテとは違く優しく頭を撫でてくれる。

 

「それしても慎ちゃん固いよ?そんな敬語なんか使わなくていいのに」

「おおそうか、そっちはもっと距離感保て」

「えー?もしかして嫌われた?」

「ロッテにはこれくらいが丁度いいって母さんが」

「息子に冤罪をかけられる日が来るとはね」

 

 てな訳で、なんやかんやいくらか雑談してこの猫姉妹ことリーゼロッテ、リーゼアリアとはなんだかんだ仲良くなれたんじゃないかと。

 

「何か分からない事があったら遠慮なく聞くといい。仕事の合間になるが手は貸すよ慎司」

「慎ちゃんまたね」

「あーい、ロッテは次菓子折り持って来てね」

「お礼に食べさせてくれるならいいよー」

「あ、マジ勘弁ごめんなさい」

 

 2人を見送ってからうーんっと体を伸ばす。いやいい休憩になったな、新しく出来た友達?でいいよな、友達に感謝しつつ再び作業に戻る。あんまり、ここで人と会うのは避けて方が良いんだろうけどな。どんな形でアースラの方々の耳に入るか分からない。

 要らぬ誤解と面倒はかけたくない。まぁ、母さんも直接ここに来るとは思って無かったみたいだし想定外だったみたいだけども。

 

 それにしても………ふとアリアとロッテとの雑談を思い出す。話の勉強の一貫という設定で闇の書について調べてると話のタネとして喋ったのだがその時ロッテとアリアが見せた一種の表情。

 怒りのような、悲しみのような……そんな二つの感情がごちゃ混ぜになって滲み出たようなそんな顔を一瞬浮かべていたのだ。気のせいかもしれないが……。

 

 頭を振る、今はそんな事を考えても仕方ないか。さて、時間は有限なのだか有効活用しないと。

 

 

 

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 そろそろ寝ようか。今日も結構遅くなってしまった。だいぶ前に父さんも作業室に戻って来ており家族3人でずっと書類の睨めっこと議論をしていた。といっても解決策の方法は見出しているので後は俺次第なのだからこの議論はさらに成功率を高める為か見落としや他に方法がないか思い付くかなのだが。

 まぁ、無駄にはならない事を願おう。俺だけでなく両親も連日ずっとこの調子だから疲労の色が強い。雰囲気的にも就寝の時間だ。

 

 管理局に来てからはずっと仮眠室で家族3人川の字で寝ている。寝る支度を済ませて3人で横になった所で気が抜けてしまったせいか俺は前から気になっていた事をつい口にしてしまった。

 

「何で父さんと母さんはずっと闇の書についてそんな神経擦り減らしてまで追っかけてるの?」

 

 俺が闇の書の存在を知るずっと前から2人は帰りを遅くしながら闇の書をどうにかする為奔走していた。その執念を目の当たりにするとただ管理局員の仕事って訳でないのは分かる。きっと深い事情があるんだなって予感はしていた。だから聞かないようにしていたが何故か俺は口に出してしまっていた。

 

「そう……だな、お前にも知って欲しい事だ。ちゃんと話すよ」

 

 父、荒瀬信治郎は語った。自身の直属の上司でありクロノの父親でもあるクライド・ハラオウンの物語を。今から11年前、父さんと母さんが地球に新居を構える前の事だ。当時父さんはクライドさんが提督を務める次元航空艦の副艦長を務めていたという。上司であり、気の合う兄弟のような関係だったららしい。

 

 父さんとクライドさんが指揮する艦船で見事、件の闇の書を捕らえる事に成功し、移送中の出来事だった。突如船が闇の書に制御を奪われ暴走、船員全員の命の危機となった。すぐに事態を把握しクライドさんと父さんは船員を緊急避難船を用いて脱出させ船員の安全を確保。父さんもその時にクライドさんと共に脱出すると他を優先させたが本人に諭され先に避難したと言う。

 事態は急変、船を乗っ取った闇の書が船の最大火力砲撃を用いて共に隧道していたクライドさんの上司、グレアムさんの船を攻撃しようとチャージを始めたのだ。

 最後の通信でクライドさんは自身が避難する猶予はなく砲撃のチャージが終わる前に自身ごと船を破壊しろとグレアムさんに懇願。父さんを含めた避難中の船員と自身のクルーの命を守る為グレアムさんは苦渋の決断を下した。

 

 その日、クライド・ハラオウンという1人の父親が家族を置いて旅立った。父さんは自分を呪い続けたという。そして、母さんもクライドさんとは父さん繋がりで仲も良かったという。そう、2人にとって闇の書は仇敵、怨敵なのだ。

 

「……………」

 

 言葉が出なかった。そして同時に安易に聞いた事を後悔した。

 

「なら、何で俺に協力してくれるんだ?」

 

 疑問が浮かぶ、確かに俺の目的ははやてちゃんを救いつつ闇の書をどうにかするという目的だ。しかし同時に俺は闇の書のプログラムでもあるヴァルケンリッターの皆んなも救いたいと言っている。父さんと母さんにとって4人は仇と一緒だ。

 こういうのは理屈じゃないっていうのは何となく分かる。本来関係のないはやてちゃんだって闇の書の主に選ばれた時点でよく思ってない事だって不思議じゃない。なら何で俺に協力してくれるだろうか?親だから……なんてそんな事では無い気がした。

 

「俺は救えなかった。クライド提督を救えなかったんだ、ずっとずっと後悔してるし多分この先忘れる事なんか出来ない」

 

 そうだろう、忘れる事なんか出来ない。俺も、前世のあれこれを死んだ後だってきっと忘れる事なんて出来ないんだから。

 

「だから慎司、お前は救え。救いたいと思ってる人がいるなら救え。助けて、支えて、希望に連れ出してあげるんだ。身勝手だけど、俺は慎司……お前に救って欲しいんだよ。お前にとって大切な人達を」

 

 父から子へ託される想い。同じ気持ちを味わって欲しくない、後悔をして欲しくない。それもあるだろう、だがそれだけじゃない。自分が救えなかった、その事実を慎司に塗り替えて欲しいのだ。身勝手だと信治郎は自覚がある、それでもそれが理由の一つでもあったのだ。

 

「…………」

 

 そうか、俺は託されていたんだ。いろんな想いを心中で託してくれていたんだ。くやしさも、怒りも、飲み込んで救えと言ってくれるのか。火が灯る、魂に。心が燃える。熱い衝動に体が包まれる。

 頑張る理由が増えたな………上等だ。

 

「任せろよ、父さんだけじゃ出来なかったんなら……俺が父さんと一緒に救うよ」

「……ああ、流石は俺の息子だ」

 

 もう止まる事はない、決してない。救う為の努力は……努力ってやつは……俺の一番の得意技だからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

 

「………………」

 

 病院の待合室で車椅子に乗った少女がふぅと溜息ような息を吐く。足の定期検査の後だった。今一緒に来てくれているシャマルが受付でお会計を済ませてくれている頃だろう。

 担当医の表情は何だかいつもより固かった、ここ最近急に意識を失ったりとゴタゴタしていたが足の麻痺も関係しているのだろうか?だが自分の体の事だから何となく分かっていた。今、自分の体は確実に悪い方向に進んでいる。

 もしかしたら、命の危険もあるかもしれない。そんな予感があった。怖くなって、一度大事な友人の前で弱音を吐いた……彼は励ましの言葉とお馬鹿な約束をしてくれた。まぁ、約束については本気にはしてないが。……いや、本当にやりかねないなと少女は一人で苦笑する。

 その友達とはここの所ずっと会えていない、彼と知り合ってからこんなに会わないのは初めてだ。

 

 シグナム達は何か事情を知っているようだけど「今はそっとしておいてあげて欲しい」切なげな表情でそう言われたら少女も寂しかったが納得するように心がけた。メールを流すのも電話をするのも何だか気が引けてしまっていた、彼からまた連絡がある事を、会いに来てくれる日を待とうと決めた。

 

 きっと、事情は分からないが今大変なんだろうと漠然に思う。会いたい、会いたい、また笑わせて欲しい……また、ご飯を一緒に食べて欲しい。前まで一緒の事が多かったから寂しさは余計に感じた。

 

 最近友達になったすずかちゃんを紹介したい、そしてまた私とすずかちゃんを楽しませて欲しい。思えば思うほどそんな吐露が止まらなくなった。自分だけではない、シグナムもヴィータもシャマルもザフィーラもすごく寂しそうなのが痛いほど伝わってくる。「八神家をここまで振り回すなんて慎司君も罪な男やね」っといつものようにからかう言葉が自然と出ていた。

 

『俺は存在自体が罪と罰だからなぁ!』

「っ!」

 

 幻聴だ、すぐにわかった。自分の今の呟きに対して慎司君が言いそうな言葉が幻聴になってまで聞こえた。重症だ、全く。惚れた訳でもなし、純情な乙女のような事になってる自分に笑えてくる。

 ああ、けど本当に…………

 

「会いたいなぁ………」

 

 その呟きに対しては幻聴も返答も無く、ましては誰も聞いている事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 仮面ライダーディケイドが好きな作者です。ネオディケイドライバーと21ケータッチを迷わずポチり。本当に出費が………


 感想意見、よろしくです。次回くらいから展開が動いてくはず……

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