転生しても楽しむ心は忘れずに   作:オカケン

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 もっとこう、簡潔にまとめられる文才がほしいと思う今日この頃。それ以外もまだまだ未熟。

 日々精進でがんばります


出来ないだけ

 

 

 

 気まずい空気が病室内を覆う。はやてちゃんは楽しそうにアリサちゃんとすずかちゃんと話をして時折久しぶりに会った俺に喜んでくれているのか話を振ってくる。

 

 シグナムとシャマルは取り繕い平静を保っているが忙しなく指をトントンとさせているのが丸分かりだ。ヴィータちゃんは完全に周りに分からないようになのはちゃんとフェイトちゃんを睨み付けている。たまに複雑そうに俺に視線を移してくるのがまた俺も何だか悪い事をしている気分になる。

 

 当のなのはちゃんとフェイトちゃんはどうしていいか分からず困惑気味だった。どうやら2人はすずかちゃんとの繋がりでたまたまはやてちゃんと友達にはなったがシグナム達のことは知らなかった様子。そこはうまくシグナム達が鉢合わせないように立ち回っていたことが予想できる。が、今回はサプライズで事前予告なしで押し掛けた結果こうして鉢合わせた訳だった。

 俺もはやてちゃんの見舞いだと知っていたら適当に理由をつけて断っていた所だ。非常に不味い状況だった。

 

「それにしても慎司君もひどいなぁ、急に会いにこれなくても連絡一つくれればええのに。心配したんよ?」

「あ?あぁ、悪かったよ。ちょっと色々あってな」

 

 心配なのは君の体だろうが、入院までしてるって事はそれほど症状が重くなっていると言う事。楽観視してた訳ではないが俺が思うより猶予は残ってない。

 

「まぁ、もう少ししたら前みたいにいっぱい遊ぼうぜ?皆んなでさ。その頃には俺の事もはやてちゃんの体もよくなってるさ」

 

 無責任にそんな言葉を口にする。だが、それが俺の目指す未来なんだ。だからこそ口にした。チラリとシグナムの顔を覗けば若干表情が強張っているように見えた。彼女らもきっと焦っている、時間がない事を理解してきっと無茶な蒐集を繰り返していた事は簡単に想像がつく。

 

「そうやね、うちも楽しみにしてるわ」

 

 はやてちゃんのその笑顔は逆に俺を不安にさせた。結局面会中は何事もなくお開きとなった。別れ際にはやてちゃんに

 

「慎司君が何をがんばってるかわからへんけどウチは応援しとるよ」

 

 と、逆に励まされてしまった。俺はありがとうと笑顔を作って伝える。多分、うまく笑えてなかったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………。

 

 

 

 

 

 場所は変わり屋上。アリサちゃんとすずかちゃんとは別れて俺たちは引き寄せられるようにそこに来た。対峙する形で互いを見つめあうシグナムとシャマル、なのはちゃんとフェイトちゃん。俺は真ん中に立って何を言ううべきか悩んでいた。ヴィータちゃんははやてちゃんの護衛のつもりか病室からは出てこなかった。

 

 奇しくも俺から話すことなくシグナム達の事情を察した二人はシグナム達の言葉を待った。

 

「ふふ、まさかお前を遠ざけたのが裏目に出るとはな……」

 

 自虐的に笑うシグナム。

 

「シグナム、俺は…」

「皆まで言うな、分かっている。この状況は私達にとってただの不運が重なったという事は」

 

 不運、不運か………確かに今の状況は不運な状況だろうな。シグナムにとっても俺にとっても…。

 

「しかし、その顔を見ると後ろの2人だけではなく慎司も私達がこれまで何をして来たのか知っているようだな」

 

 シグナムのその言葉に驚きの声を上げるフェイトちゃんとなのはちゃん。同時になのはちゃんは何だか得心がいったような顔をする。俺の行動を振り返って納得した部分があったのだろう。

 

「ああ、俺は魔法の使えない一般的な地球人の1人なんだがな。前に一度たまたま魔法に関わった事があって存在は知っていた。出会った時はまさか、シグナム達が魔導士だと思っても見なかったけど」

「なら何故?」

 

 自分達がして来た事を知っているのかと、そう問いかけてくる。

 

「俺の中の疑惑がたまたま絡み合って真実を知っちまったんだよ。それこそ不運の中の偶然だよ」

 

 何も知らない方がどれだけ呑気でいられたか。

 

「そうか……お前も事情を知っているなら、止めてくれるな。全ては我が主はやての為だ、慎司……お前とて邪魔はさせない」

 

 やはり、あいつらは闇の書の完成がはやてちゃんを助ける唯一の手立てだと思っている。完成させた時の悲劇の真実を知らないみたいだ。何故だ、闇の書が使役する守護騎士だと言うのなら何故そこを理解してないんだ?だが、これで道筋は見つかった。何とかシグナム達にその情報を教えて信じてもらうんだ。そうすれば、説得も出来るかもしれない。

 

「慎司君も、そしてそこの2人も私の通信妨害区域から出す訳にはいかないわ」

 

 いつもおっとりとした印象を受けてたシャマルも今ばかりは俺の知らない魔導士としての顔をして強い口調で言い放つ。そしてシグナムはバリアジャケットを纏い剣を構えた。

 確かにな、なのはちゃんとフェイトちゃんがこの事を知った以上シグナム達からすれば敵対する管理局に報告されると思うだろう。それをされればシグナム達は一巻の終わりだ、例え逃げおおせても蒐集もままならなくなるしはやてちゃんを直接的に巻き込むのは本意じゃないだろうから。

 

「口封じか?俺を殺して、なのはちゃんとフェイトちゃんも殺して……取り返しのつかない事を続けるのか?シグナム!」

「………全ては大切な家族のためだ。慎司、お前を傷つけたくはない……全て見なかった、知らなかった事にして秘密を守ると約束してくれるならお前を信じて見逃してやろう」

 

 上から抑圧するように俺にそう言うシグナムだがその声は震えていた。バカが、本当は優しくて他人を想いやれる人間の癖に悪ぶってんじゃねぇよ。

 

「……出来ねぇよ、それになのはちゃんとフェイトちゃんも俺にとってシグナム達と一緒で大切な友達だ。……そんな皆んなが傷つけあう姿は見たくねぇ……」

「…………慎司、お前では私達は止められない」

 

 だから諦めてくれとそう懇願するように見つめるシグナムを俺は真正面から受け取って言い返す。

 

「確かにな、俺は無力だ。力づくでお前らを止めるなんて出来やしない、だが俺はお前らと争いたい訳じゃない……救いたいんだ、はやてちゃんもシグナム達も」

「簡単に言うな!主はやてを救う手段はもはや闇の書の完成に他残されていない!そんな方法があるならとっくに私達だってっ!」

 

 シグナムの慟哭に似た叫び、他に方法があるなら誰が好き好んでこんな事をするかとそう言ってるよう俺には聞こえた。シグナムだけじゃない、シャマルだってヴィータちゃんだってきっとザフィーラだってだれも喜んでそんな事をしている訳ではない。

 そう、この状況は度重なる不運の連続なんだ。不幸の連鎖なんだ、その強固な連鎖を断ち切らないといけないのだ。

 

「待って!ちょっと待って!」

 

 割り込むように声を大きく上げたのはなのはちゃんだった。ずっと俺とシグナムのやり取りを見守ってくれていたなのはちゃんだったがすぐにでも伝えたい事があるとそんな表情を浮かべて

 

「話を聞いてください!闇の書が完成したら……はやてちゃんはっ!」

 

 なるほど、そこら辺の事情はなのはちゃん達アースラも把握しているのか。俺がそれを理解し、その事実をなのはちゃんが突きつけようとした時その言葉を紡ぎ切る事は出来なかった。

 

「はぁ!!」

「っ!?」

 

 空からの奇襲、ハンマーを振り下ろしてなのはちゃんに襲いかかるヴィータちゃん。はやてちゃんの病室から出て来たな!

 

「ああっ!」

「なのはちゃん!」

「なのは!」

 

 間一髪魔力の障壁のようなものでハンマーを受け止めたが衝撃で後方に吹っ飛ばされ鉄柵に叩きつけられる。そんななのはちゃんを心配する暇もなくヴィータちゃんのその攻撃が開戦の合図だったかのようにシグナムが剣を携えてフェイトちゃんに襲いかかる。

 

「くっ!」

 

 飛んでそれを避けつつ杖を出現させ臨戦態勢を取るフェイトちゃん。不味い、闘いが始まってしまう。

 

「やめろ2人とも!お前達がやろうとしていることはっ」

「邪魔……すんなよ慎司……」

 

 ヴィータちゃんの鬼気迫る表情に言葉が詰まる。そんな顔をしているヴィータちゃんなんか見たくない。

 

「もうあとちょっとで助けられるんだ、そうすればはやてが元気な姿になって私達の元に帰ってくるんだ、必死に頑張って来たんだ……」

 

 瞳に涙が浮かぶ、彼女らの行動原理は全てはやてちゃんの為。その命を救う為に、たとえ他人に憎まれようと蒐集という行動を起こした。友達と言ってくれた俺を引き離してまで、自惚れなんかでは無くきっと俺にした事も罪悪感を感じていただろう。

 それを飲み込んで、いろんな迷いを飲み込んでここまでやって来た。やって来てしまった。

 

「もう後ちょっとなんだから……邪魔すんなぁぁ!!」

 

 衝撃が襲う。叫びと共になのはちゃんにハンマーを振り下ろすヴィータちゃん、その攻撃で炎が上がる。まずい、なのはちゃんが!俺は駆け寄ろうとするがその炎の中からバリアジャケットを纏い杖を手に持ったなのはちゃんが表情を引き締めながら出てくる。

 くそ、なのはちゃんまで臨戦態勢だ!仕方ない状況だがこれはまずい。俺の説得どころではなくなってしまう。

 

「シャマル、お前は下がって通信妨害に集中してるんだ」

 

 シグナムの言葉にシャマルが頷いて少し離れた所に避難する。

 

「慎司、お前もだ。お前を管理局に行かすわけにはいかないが手を出すつもりもない。今は巻き込まれないように下がっていろ」

「くっ……」

 

 闘いとなれば俺は何も出来ねぇ。俺の土俵じゃない、ならばどうする?大人しく引き下がるか?はっ、冗談だろ?俺は何のために血反吐吐いて行動して来たんだ?どうにかしててでも説得しなければならない。

 

「お前ら、分かってんのか?それを完成させる事の意味が」

「私達はある意味闇の書の一部だ」

 

 そう言うシグナムの声は冷たい。確かに、事実としてはシグナム達守護騎士は闇の書のプログラムの一つだ。そう言い換えるのはおかしくない。なら尚更疑問だった。

 

「だから、私達が1番闇の書について理解している」

「…………」

 

 そうか、そう言うことか。おかしいと思っていた、闇の書の事を理解しているというのなら闇の書を完成させてはやてちゃんを危険な目に合わせようとするのはシグナム達がしようとしている事の真逆になる。

 矛盾だ、しかし考えろ。何故そんな矛盾が起きているのか、何故それがはやてちゃんを救う手立てだと思っているのか。その矛盾の答えを

 

「なら何故それを1番理解しているお前らは……その本を『闇の書』と呼ぶんだ?」

「何?」

 

 怪訝な表情をするシグナムに構わず俺は続ける。

 

「何故、本当の名前で呼ばないんだ?」

「本当の……名前だと?」

 

 シグナムの反応を見て俺は確信した。間違いない、そう考えればこいつらの行動にも納得がいく。喉に引っかかった小骨がようやく取れた気分だった。

 記憶障害……いや、記憶の欠如を、シグナム達守護騎士は起こしている。俺は父さん達との闇の書での話を思い出す。

 

 そもそも闇の書は元々『夜天の書』と呼ばれていた真っ当な魔導書だったと言う。しかし、幾人の主に代替わりする度そのプログラムは悪意と共に改変され続けてバグを起こし、今の呪われた本に変わってしまった歴史があると言う。バグを起こした本のプログラムで起きる事は機械と同じで不具合だ。そのプログラムであるシグナム達に起きた不具合が記憶の欠如……その可能性は十全にあり得る。

 推理に過ぎないが俺はこれがきっと正解だと確信していた。そして、そうなら……それが説得の突破口だ。脳をフル回転させろ、適切な言葉を選んでそして心の赴くままに語れ。それが説得に必要な事だ。

 

「シグナム、シャマル、ヴィータちゃん……俺の話を聞いてくれ。友達からの一生のお願いだ、そしてはやてちゃんを救う為の大事な話だ……だから頼む」

「慎司……」

 

 頭を下げる俺に戸惑うシグナム達。しかし、臨戦状態のままだ。

 

「フェイトちゃん、なのはちゃん……俺を信じて武器を下げてくれ」

「え、……でも」

「………頼む」

「……分かった」

 

 フェイトちゃんとなのはちゃんは頷き合うとシグナム達から少し距離を取ってから武器を下ろす。俺はありがとうと告げてから再びシグナム達を見やる。

 

「聞く価値がないと思ったらすぐに俺を人質にでも取ってなのはちゃん達を捕まえればいい、だが話を聞こうとはしてくれ……後悔はさせない」

「慎司君……私達は…」

「シャマル、俺は何のために今ここに立っていると思う?……皆んなを救う為だ、そしてその皆にははやてちゃんもシャマル達も含まれてる」

 

 ここに立っている以上既に覚悟は出来ている。今ここでシグナム達に襲われる事も全くないとは思わなかった。命を掛けて俺は行動すると決めたのだ。そうじゃなきゃ救えないと思ったから。

 

「だから、俺の話を聞いてくれ……頼む。俺を信じてくれ、荒瀬慎司が絶対にお前達を救って見せる」

 

 手を差し伸ばす。そうだ俺はその為にここにいる。本当はもっと準備をして、ちゃんと説明具体的な説明をできる人を伴って話をしたかった。けど、こんな状況になってしまった以上俺がやるしかないんだ。固唾を呑んで俺を信じて見守ってくれているなのはちゃんとフェイトちゃんの為にも。

 

「闇の書の完成ははやてちゃんを救う方法にはならない、むしろ逆だ。はやてちゃんを殺してしまう道なんだ」

「何をっ!」

 

 構わず残酷な真実を告げた俺に3人は明らかに動揺した。口から出まかせと言われれば今この場には証拠がある訳じゃないから言い返せないがそれでもそれを聞かせて俺の話に持ち込む。

 

「俺はシグナム達と会わなくなってすぐに色々あってこの事を知った。それから今日までの期間の間俺が何もしてこなかったと思うか?目を背けたと思うか?……出来なかった、だから必死になって探して方法を探したんだ!信頼出来る俺の家族と一緒にそれを見つけて実現する為に俺は妥協しないで努力して来た!!」

 

 胸を張って堂々と自信を持って言える。俺は、一切手を抜かず、ここまで走って来た。弱音は吐いても、気持ちが折れそうになっても踏ん張って来た。その結果が今の俺の態度を形成できる。

 そんな俺の言葉でシャマルが小さく声を上げる。

 

「慎司君……貴方…、体が」

 

 今までそれどころじゃなくて気づかなかった様子の3人が俺の顔を見て反応を見せた。

 

「……やつれたな、慎司」

「ああ、それだけ必死だったんだわ」

「どうして……そこまで出来るんだ」

「八神一家は俺にとって大切な友達だからだよ、だから守りたいんだ。だから頑張れんだ。だから、救いたい。笑っていて欲しいんだ、そんな顔を見たくないんだよ」

 

 俺だって聖人君子じゃない、知らない人間の為にここまでは出来ない。友達だからここまで出来たんだ。

 

「頼むよ、俺に皆んなを助けさせてくれ」

 

 再び頭を下げる。手を差し伸ばして

 

「また、一緒にご飯を食べよう」

 

 俺の言葉にシグナムもシャマルもヴィータちゃんも力が抜けたように武器を下げる。葛藤はまだ残っている様子だった。けど3人は互いに目配せをしながら覚悟を決めたように代表としてシグナムが俺の目の前まで移動し

 

「詳しい話を聞こう。慎司、友であるお前の言葉なら……信頼出来る」

 

 俺の手を取ろうと差し伸ばしてくれた。顔を上げて俺は表情を崩してシグナムを見る。

 

「はっ?」

 

 音も何も無かった。小さな呻き声がいくつか聞こえる。目の前のシグナムが、俺の手を取ろうとしていたシグナムは魔力で形成された縄のような形状の物を体中に巻かれ拘束されていた。

 

「シグナムっ!?」

 

 シグナムに駆け寄る暇もなく後方から前方からも驚くような声が。拘束されたのはシグナムだけじゃない、シャマルもヴィータちゃんも同じ物で拘束されていた。さらにはなのはちゃんとフェイトちゃんまでも。俺以外の全員が拘束されていた。

 これは……バインドってやつか!近くのシグナムに駆け寄りバインドに手を掛けるがびくともしない。くそっ!こういう時には本当に俺は役立たずだ。

 

「誰だっ!出て来やがれクソ野郎!!」

 

 大声で辺りに俺の声を響かせる。するとそれに応じたのか人影どこから現れ屋上に降り立つ。こいつは……

 

「お前、仮面の……」

「……………」

 

 映像でしか見てないが何度かシグナム達の手助けをしに現れたかと思えば消えていなくなる正体不明の仮面の男だった。こいつか!一体何がしたいんだ!

 

「皆んなを離せコラァ!!」

 

 その男に向かって駆けるが瞬時にまた俺の目の前に現れる仮面の男、ついその足も止まる。しかし、先程の位置にも仮面の男は変わらず佇んでいる。

 

「ふ、2人?」

 

 状況を飲み込めてない俺に代わりなのはちゃんが疑問声を上げた。仮面の男は元々2人いたってことか?ああクソ訳わかんねぇ!けど考えてる場合じゃない!!

 

「このっ!野郎っ!」

 

 目の前の仮面の男に殴り掛かるがヒョイっと軽くかわされる。くそ、小学生の体じゃなきゃまだマシだろうがどっちにしろ力でどうこう出来る相手じゃなさそうだ。けど、何とかしないと。今動けるのは俺だけなんだ!

 

「クソがぁ!!」

 

 がむしゃらに暴れ回るが全ていなされる。くそっ、くそっ!俺にも魔法が使えれば!

 

「……大人しくしていて」

 

 そう呟くと俺の右手首が空中で固定されたように動かなくなる。バインドだ、みんなと違って俺の拘束は手首に魔力を一巻きされただけの軽い物だがこれでさえ俺の動きは止まる。俺じゃこれだけで十分ってかクソっ!

 

「これだけの人数のバインドでは通信妨害も長く持たん、早く頼む」

「ああ」

 

 仮面の男同士でそう会話をすると俺の相手をしていた方がどこからか夜天の書を取り出す。

 

「っ!?いつの間に!」

 

 驚きの声を上げたシャマル、こいつら……あれを奪ってどうしようってんだ?

 

 仮面の男は闇の書を掲げると何かを呟きながら魔力を込め始めた。呪文ってやつか?その動作と同時に3人から苦悶の声が上がった。シグナム、シャマル、ヴィータちゃんだ。

 

「っ!?何をしてんだテメェ!!」

 

 明らかに仮面の男の差し金だった。程なくして苦しそうに声を上げる3人の胸元から光り輝く小さい球体のような物が浮かび上がる。リンカーコアだ、まさかアイツら……シグナム達から魔力を奪う気か!

 

「やめろ!やめてくれぇ!!」

 

 シグナム達は夜天の書の守護騎士プログラム。資料によれば普通に生身の身体も存在するが構成されている元は魔力。つまり、仮に魔力を全て奪われれば………死ぬのと一緒だ。体を形成する魔力がなくなり霧散してしまう。最悪の考えが浮かんだ。

 

「やめろ!!やめろっつってんだろうがあ!!」

 

 俺の声など聞く耳など持ってる筈もなく無常にも闇の書に魔力を吸収させる仮面の男。ヴィータちゃんが、シャマルが、シグナムが、その存在が徐々にあやふやになるように薄くなっていく。

 

「おおおおお!!」

 

 咆哮と共に衝撃が。突如白髪の筋骨隆々とした男が現れ仮面の男に殴り掛かる。しかし、それを最も容易く魔力障壁で仮面の男は受け止めた。

 今殴り掛かったあの男は……人間状態のザフィーラか!

 

「もう一匹いたな……奪え」

「っ!ぐあああ!」

 

 ザフィーラの胸元にヴィータちゃん達と同様にリンカーコアが浮かび上がり魔力を奪われる。ザフィーラは必死の抵抗で再び攻撃を仕掛けるがまたもそれは簡単に塞がれる。攻撃に魔力を消費したからかザフィーラは既に半透明になったように消えていく。

 

「ザフィーラぁぁ!!」

 

 俺の叫びにザフィーラが驚きつつも優しい眼をして俺を見つめてくる。そしてパクパクと口を動かして何かを伝えてくる。そしてそれと同時にその体は粒子となって跡形もなく消え去った。

 

『すまなかった』

 

 それがザフィーラの俺への最後の言葉になってしまった。

 

「ザフィーラぁぁああ!!」

 

 情けなく涙が浮かんだ。救えなかった。皆んなを救う為に俺は頑張ったのに……一体何のためにっ

 悲しんでる暇などなく今度はシャマルの体が消える寸前な状態になっていた。必死に名前を叫ぶが俺はそれしか出来ず、助ける事は出来ない。

 

「慎司君……」

 

 か細い声で俺の名を告げてシャマルは申し訳なさそうに、悲しそうに、そして寂しそうに俺に告げる。

 

「ごめんなさい……本当は私も……もっと貴方と…楽しく……」

 

 その言葉を最後にシャマルはザフィーラ同様消えていった。

 

「シャマルぅ……シャマルぅぅ………」

 

 ただ見ているだけだ。友が消えていく姿をただ見ることしか出来ない自分にどうしようもなく情けなさと無力感を味わう。腕が空中で固定されている為膝をつくことも許されない俺に何が出来るというのか。

 

「しん……じ」

「シグナム!!」

 

 目の前にいるシグナムも、もう風前の灯火だった。すぐにでも消えてしまいそうだった。

 

「シグナム、頼む……消えるな、消えないでくれぇ!!」

 

 情けなくそう懇願することしか出来なかった。

 

「……慎司、ありがとう……」

 

 シグナムから出た言葉は感謝の言葉だった。何言ってるんだ俺はまだ何も出来てない、してやれてない。何も……何も…。

 

「お前と友として歩んだあの日々は私達にとってかけがえのない宝だ。だから、私達は主とそしてお前と歩むあの日々を取り戻したかったんだ……。だが結果的にお前を追い詰める事になるとは思ってもみなかった……」

「そんな事、いいんだよ!友達なんだ!友達ってのは互いに嬉しい事も悲しい事も一緒に感じて一緒に歩いていう人の事を言うんだ!だから、俺を遠ざけた事も秘密にしてた事も謝る必要はないんだよ、お互い様なんだ。だから俺はまだまだお前達と一緒に未来でも歩いて行きたいんだよ!皆んながいなきゃダメなんだよ!だから、消えないでくれよぉ!!」

 

 涙はとうとうぽたりと地面に打ち付けられる。俺は、俺は……何て無力なんだ。

 

「……そうか、私の為に泣いてくれるのか……慎司、すまなかった……私もお前と一緒に未来でも……共に歩んで……行きたかった……」

 

 弱々しくそう呟いてシグナムは消えた。ダメだ……俺はもう…ダメだ。

 

「シグナムうううううううううう!!!」

 

 その名前に反応してくれる友は、もういなかった。

 

 

 

 

「うわああああ!!」

「っ!」

 

 ヴィータちゃんの叫びが耳につんざく。くそ、ヴィータちゃんは……ヴィータちゃんだけでも助けないと!!

 

「ぐうう!この!動けよ!!動けえ!!」

 

 右手はコンクリートが敷き詰められたように動かない、体を使って捻っても引っ張ってもびくともしない。怒りがふつふつ沸き立つ。自分の無力さとシグナム達から魔力を奪いその存在を消したあの仮面の男達に。

 

「殺してやる!!お前ら2人とも殺してやる!ぶっ殺してやる!!」

 

 怒りが勝り、普段では絶対に口にしないその言葉を発する。しかし、弱い犬ほどよく吠えるというが今はまさにそれが俺だった。

 

「慎司君……」

「慎司…」

 

 なのはちゃんとフェイトちゃんの憐れむような悲しそうな呟きも怒りに支配されてる俺の耳には届かなかった。

 

「慎……司」

「っ!ヴィータちゃん!!」

 

 既に消えかけのヴィータちゃんが俺に向かって手を伸ばしていた。俺も必死に伸ばす。しかし、あまりに遠い。お互いに動けない身である以上その手は決して届かない。

 

「待ってろ!俺が……俺が助けてっ」

 

 せめてヴィータちゃんは!ヴィータちゃんは!!

 

「………逃げ……ろ」

「ふざけんな!!俺は諦めねぇ!諦めてたまるか!」

 

 あがけ、あがけ、せめてあがけ。何も出来ない俺でも足掻かなければ。暴れる、刃物であればこの拘束されてる腕を切り落としてでも助けに行きたい。だが、それすら出来ない。俺が暴れ回るのを見かねてか仮面の男の1人が俺の目の前まで再び瞬時に移動してくる。そして俺に向かって手をかざすと

 

「………諦めて、ここから立ち去れ。荒瀬慎司」

「っ!!!」

 

 そう告げると俺の体に感じた事のある浮遊感と独特な感覚が走る。周りの景色がぐにゃりと歪みそれが正常に戻る頃にはまた再び別の景色が俺の目に写る。

 

「なっ………」

 

 ここは……俺はさっきまで屋上に居たはずじゃ。明らかに屋上じゃなく地上の道路の真ん中に俺はいた。辺りを見渡すと少し離れた所にさっきまでいた建物の屋上が見える。転移か!あの野郎俺を転移させやがった!おまけに手の拘束は解け体は自由に動く。

 辺りはいつもの結界により空間が剥離され人っこ1人いない。そうだ、ここまで離れればあの通信妨害とやらの影響から外れてるんじゃないか?携帯でクロノか両親に状況を……と思いポッケを弄るが取り出した携帯は無残な姿に変わっていた。なんで?まさか、仮面の男が転移の瞬間に壊したのか?通信させない為に。

 

「クソがっ!!」

 

 走る、とにかく戻らないと!ここにいてもできる事はない。戻っても足手まといにしかならないがとにかく戻るしかない。走れ、とにかく走れ。手遅れになる前に!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………。

 

 

 

 結構遠くに飛ばされたようで走ってもなかなかあの建物には辿りつかない。体感で10分ほど走った所だろうか、ようやく近くまでたどり着いた時だった。屋上に尋常じゃない衝撃と禍々しい魔力の奔流を見る。足が止まる。分かる、魔法を知らない俺でも分かる。雰囲気が変わった、謎の悪寒に襲われ体が震える。

 

「そん……な」

 

 闇の書の……復活。そしてそれの意味する事は、魔力を吸収されたヴィータちゃんの消失とはやてちゃんが闇の書に取り込まれたという事。そしてこれから暴走が始まる。この地球を飲み込んでの暴走が。俺がやろうとしたはやてちゃんを助ける手段はとても復活した闇の書の前じゃ行使できない。……俺は、失敗した。

 

 がくりと膝をつく。そんな……そんな。皆んなを助けるどころか皆んなを見殺しにしてしまった。俺は……プレシアの時から何も変わってないじゃないか……。くそっ、くそぉ!!

 なんでだ、なんでいつも俺は肝心なところで役立たずなんだ。そんな自分が嫌で頑張ってきたのに結局こんな……。

 

「ぐっ……くう」

 

 力が入らない。何もできない、何もしたくない、現実から目を背けて楽になりたい。けど、そんな事できないってことは自分でも分かっている。それができる人間なら当に行動など起こしていない。俺はきっと諦めない立派な人間なんじゃない、諦めることが出来ない人間なだけなんだ。だから、膝を折っても……絶望しても…もう一度立ち上がる。

 まだ何か希望があるかもしれない、方法が残されているかもしれない、一縷の望み以下の願望だ。だが、俺がそう思えているうちは………

 

「まだ………終わってない!」

 

 

 諦めることなんて出来やしないんだ。

 

 

 

 

 

 




 早くシリアスを終わらせてほのぼの回書くまで作者は止まらねぇからよ……
だからお前(やる気)も……止まるんじゃねぇぞ……

\キボウノハナー/
 


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