転生しても楽しむ心は忘れずに   作:オカケン

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 筆が進まなかったのも、肩こりがひどいのも全部モンハンライズって奴の仕業なんだ……。


 50周年記念で発表された『シン・仮面ライダー』。楽しみだぜ


親友

 幸せだ。幸せだ、俺は今それを噛み締めている。幸福の絶頂。何もしてないけど、失ったと思っていたものを取り戻し俺は幸せな世界で暮らしている。少しの間リハビリを受けて退院し、大学にも復学。

 少し大変だけど頑張れば留年は免れるそうなので万々歳だ。

 

「おい太郎、飯行こうぜ飯」

「見てわかるだろ、溜まった課題やってんだよ」

「葉月もわざわざバイトの後に来るって言ってるぜ?」

「……しゃあねぇ、行くか」

 

 あいつが来る時に行かないと後でうるさいからな。

 

「サンキュー、課題はなんだかんだ俺と葉月も手伝ってくれるさ」

「あぁ、助かるよ」

 

 そういえば中学とかで病気で学校休んだ時とかいつも律儀に俺の分のノートとか取ってくれてたっけ2人とも。

 そんな事を思い出しつつ優也と2人で大学から地元の飯屋に向かう。昔から3人で集まる時は大体その店だったので優也と葉月の飯食いに行こうぜは基本的にこの場所なのだ。

 

「あ、こっちこっちー」

 

 店に顔を出すと既に葉月が席を陣取って一人でポテトを摘んでいた。あいついつもあれ食ってんな。とりあえず注文を済ませて飲み物が来たところで

 

「んじゃ、太郎の退院祝いって事で乾杯ー!」

「おっ、いいなそれ。乾杯ー」

「いやそしたら退院祝い4回目だどんだけやんだよ」

 

 それを口実に何度も誘ってきている。まぁ、楽しいからいいんだけどさ。ひとしきり飯を摘みつつ他愛のない話をして過ごす。

 なんて事のない2人との時間、一度それを失ったと思ったからそれも今は特別に感じる。やっぱり、ここが俺のいるべき………

 

 

 ドクンっ

 

 

 

 心臓が跳ねる。同時に浮かぶ俺が昏睡している時に見ていた長い夢の中の住人。夢というのは覚えていられないもので、もうどんな顔をしていたかも思い出せない。母親譲りの栗色の髪と笑顔が似合う女の子……なんて名前だったかなぁ。まぁ、夢の出来事だ…考えていても仕方ない。仕方ないのに……何だろうか、俺はそれを忘れていっていることに何だか焦りを感じでいる気がした。

 そんな必要ないのに、そんな重要な事じゃないのに……何で俺はこんな焦燥感に充てられてるんだ?俺は……夢での俺は何て名前だったけ?

 

「太郎?どうかしたか?」

 

 優也の顔でハッと意識を戻す。軽く頭を振って思考を放棄する。そうだ、ここが現実なんだ。夢の事を考えていたって仕方ないだろう。俺は「何でもねぇ」と短く返す。

 

「うん?そっか…ならいいけどよ」

 

 優也も特に追及はしてこない。そうだ、今はこの時間を楽しもう。もったいないじゃないか。

 そんなやり取りをしたが葉月は気にしない素振りで何か思い出したように口を開く。

 

「そういえばさ、太郎はいつから柔道復帰できんの?」

 

 は?

 

「そうそう、俺も気になってたんだよ。実際の所どうなんだ?」  

 

 優也まで……何を言ってるんだ?

 

「お前ら……何言ってんだよ?俺はとうに柔道は……」

 

 辞め…て……。

 

 思考にノイズがかかる。考えが浮かんでは消えていく。俺はあの最後の試合で……そうだ。相手選手を……一本背負いで…。

 

 事故が……あって。相手は運ばれて、大怪我で、選手生命の……。

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

「まだ激しい運動はダメだって病院の先生がな、だから今はリハビリの延長のトレーニングして体を取り戻してる所だよ。完全復帰はまだ先になりそう」

 

 そうだ、大学で俺は柔道部に所属していたじゃないか。それなりに有名な所でもっと強くなるために切磋琢磨をこれまでしてきたじゃないか。高校最後の夏のインターハイでの雪辱を果たすために……果たすために……。そうだよ、事故なんて無かった。

 インターハイ予選は事故もなく無事に勝って本戦に俺は出場したじゃないか。そのはずだ。なのに何で俺は………柔道を辞めたと思っていたのだろう?

 

 感じた違和感はすぐに消えてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

 

 

「なのは危ない!」

「っ!」

 

 ユーノからの警告で高町なのはは間一髪で相手の魔法を跳んで避ける。一度距離を取って態勢を整えるが息は絶え絶えで疲労の色が見えていた。既にフェイトと慎司が闇の書に取り残されてからある程度時間は経ちその間なのはとユーノとアルフは諦めずに闘い続けていた。

 

「なのは、このままじゃっ」

 

 アルフの言葉になのはは理解するように苦い顔をする。既に闇の書の暴走や兆しが始まりつつある。世界を飲み込まんと辺りが崩壊を始めているのをなのはは感じていた。

 

「くぅぅ!!」

 

 魔力を放つ、白髪の女性はそれを簡単にいなして逆に反撃に転じてくる。しかし、なのはも負けてはいない。その反撃すらも自分の動きの中で躱していく。

 

「お前も……もう眠れ」

 

 諦めろと彼女は告げる。確かにこのままではこの人に嬲られるか世界の崩壊に巻き込まれるかその二択だ。既にアースラとも連絡がつき向こうも対応を始めているが間に合わない。絶望的な状況だ。しかし、高町なのはは首を振って言う。

 

「私は……諦めない」

 

 杖を構えて、疲労の色が強いその表情を引き締めて吠える。

 

「フェイトちゃんもはやてちゃんも慎司君も絶対に私が助けるんだ!私は絶対な諦めない、諦めない事のカッコよさをずっと見てきたんだから!」

 

 浮かぶのは親友の顔。いつも隣で支えて笑わせてくれる親友の顔。彼は自分が知らない間にずっと苦しんでいた、辛い思いをしていた事を知った。けど、彼は諦めないで頑張っていた。今回もフェイトちゃんの時も。知っている、彼の凄いところは決して諦めない事、彼はきっとそれを否定すると思う。

 

 そんな大層な事じゃないって言うと思う。けど私は思う、彼はカッコいい、彼は凄い。私は、荒瀬慎司を誰よりも尊敬している。そんな尊敬する人が諦めないで頑張っていたんだ。だったら私だって

 

「諦める事なんかできるもんか!!」

 

 不屈の少女は気高く吠える。助けるために、救うために。

 

 

 

 

 

 

 

…………………………。

 

 

 

 

 

 

 

「太郎、ボッーとしてどうしたんだよ?」

「ん?ああ、何でもないよ」

 

 あれ?今何してたんだっけ?何日だっけ?どこかの道を3人で歩いている。

不思議な感覚だった。俺はこの世界に満足している。幸せ溢れるこの世界に、俺がいるべきであるべき場所。優也もいて葉月もいて、父さんと母さんもいる。山宮太郎が歩むべき人生がここにあるんだ。

 だけど、何でだろうか。ここにいてはいけないと心が叫ぶ、お前のいるべき場所じゃないと心が叫ぶ。そんわけない、だってここは山宮太郎が生きてきた世界でこれからも生きるべき世界なんだ。

 

 何でそれを俺の心は否定するんだ?なんで邪魔をするんだ。何で……何でっ!

 

『慎司君』

 

 君は何でそうやって俺じゃない名前を呼び続けるんだ!何度も頭の中を反芻する声。夢の中の君、夢の中で誓い合った親友、夢の中で仲良く歩み続けた大切な人。

 

『慎司!あんたいい加減にしなさいよ!』

『慎司君はいつも楽しそうだね、いいと思うよ?』

 

 勝気な性格で思った事はハッキリと告げてくれる女の子と穏やかで優しい微笑みがよく似合う女の子。2人とも親友だった。

 

『ありがとう……慎司。ありがとう……私を救ってくれて』

 

 そう言ってはにかんで俺に感謝の気持ちを伝えてくれた女の子。皆、覚えている。忘れられない。覚え続けている。

 けど、それは夢の出来事のはずだ。だから気にしたって仕方ない、仕方ないのに………。どうしてこんな気持ちになるんだ。

 

「太郎?本当に大丈夫?」

 

 心配そうに俺の顔を覗き込む葉月と優也。だって、夢の中の出来事じゃなかったら……俺は……この幸せな世界は嘘になってしまう。山宮太郎は……既に死んでしまった事になってしまう。それはつまり、またこのかけがえのない2人の親友と永遠に別れるという事だ。そんなのは嫌だ。嫌なんだよ。

 

『慎司君』

『慎司』

『慎司君』

『慎司』

『慎司』

『慎司』

『慎司』

 

 荒瀬慎司を呼ぶ声が響く。違う、違う!俺は、俺は山宮太郎なんだ!俺はっ!

 

『慎司君と出会えてな?私もっと幸せなんよ』

 

 あ……………。

 

 

 

 

 ………待ってる。あの子が、皆んなが待ってる。待ってくれてる。俺はまだ……何もできてない。

 

 

 

 

 俯いていた顔をあげると2人は少し驚いた声を上げる。心配の言葉をよそに俺は震える声で、堪えることのできない涙を流しながら。2人には絶対に言いたくない言葉を紡ぐ。

 

「ごめん…優也、葉月。お別れだ……俺、行かなきゃ……」

 

 ひどく、みっともない顔をしていると思う。鼻水も涙もだらだらと流れる。

 

「何……言ってるの太郎?お別れって何?」

「そうだぞ太郎、急に何を言い出すんだ」

 

 2人は明らかに動揺する。だけど俺は言葉を続けなくてはならない。

 

「俺……死んでるからさ。本当は、だからここにいちゃいけないんだ。お前らとは……いられないんだよ」

 

 涙声でうまく言葉を発さない。だけど伝えなきゃ。伝えなきゃ。

 

「何言ってるんだよ太郎!お別れなんて嫌だぞ俺は!これからだろ?俺達これからずっと一緒に楽しくやってくんだろ?」

「出来ないだよ優也!俺もそうしたいけど……出来ないんだよ!」

「意味わかないよ太郎!太郎は不満なの?私達といるのが不満なの?柔道だって続けられてるこの世界が不満なの!?」

「不満なわけないだろうがぁ!」

 

 葉月の言葉につい大声を出す。

 

「俺だって!俺だってお前達もっと一緒にいてぇよ!ずっとずっと一緒に生きていきたかったよ!!柔道だって続けたかった!!こんな未練を残してお別れなんて本当はしたくなかった!!けど……」

 

 そうだ。嫌だけど、絶対に嫌だけど。この世界に許されるならずっといたいけど。それはきっと……荒瀬慎司も山宮太郎も許さない。

 

「無かったことにはできないんだ。あんな事があって、柔道を辞める選択した俺の臆病な決意も!俺の自業自得で死んだ事も!!全部山宮太郎の恥ずべき最期だったけど……無かったことには出来ないっ」

 

 たとえ目を覆いたくなるような恥晒しな最期であってもそれは山宮太郎の20年という生涯の幕を閉じた出来事で歩んできた道の最終地点なんだ。その事実を受け入れるしかないんだ、そしてそうじゃなきゃ……俺はいつまで経っても荒瀬慎司として前には進めない。

 

「だからお別れなんだ。お前達と一緒にいられないのは嫌だ、このままお別れなんて嫌だ……けどそうやって人生の幕を閉ざしたのは俺の責任だから……皆んなを悲しませてしまった事も含めて俺の人生なんだ」

 

 だから俺はそれを背負い続けなきゃいけない。背負って、それでも普通ではありえない第二の生に真剣に向き合って生きていかなきゃいけない。そうじゃなきゃ

 

「『山宮太郎』は居た堪れないままだから……俺は行かなきゃいけない。夢から覚めて、現実を生きなきゃいけないんだ」

 

 例えそれが……どんな幸せな夢であってもだ。

 

「それは……お前が決めた答えなのか?」

 

 優也の問いに俺は強く頷いて

 

「ああ、『山宮太郎』の答えだ。そして『荒瀬慎司』の望みだよ』

 

 そう言う俺に2人は涙を堪えるように上を向く。鼻をすする音と共に葉月は俺に抱き付く。

 

「嫌だよっ……せっかく会えたじゃん!ここならまたこうして楽しく一緒にいられるのに……お別れなんてっ」

 

 ぐずる葉月を優也が後ろから肩を置いて涙ながらに口を開く。

 

「葉月……太郎を困らせるなよ。……これもあいつらしい答えじゃんか」

「優也は……それでいいの?」

「嫌に決まってんだろ。親友に会えなくなるんだぞ?俺だって嫌だよ。けど………」

 

 俺を真っ直ぐに見つめて

 

「太郎は……前を向こうとしてるんだ。それを止めるのも……親友として嫌なんだよ」

「…………」

 

 3人とも子供のように涙を流し続ける。皆答えは一緒だ、別れなんてしたくない。けど、俺は行かなきゃいけない。今の現実に、俺を待ってくれてる人がいるんだから。

 

「……分かった」

 

 そう呟いて俺から離れる葉月。顔はぐちゃぐちゃで化粧も落ちてしまっている。優也も俺も大の男がベソかいて鼻水を垂らしている。悲しいけど、それほどまでに俺との別れを惜しんでくれている2人に感謝の気持ちが湧き上がる。………決意が鈍る前にいかないと。

 

「………ごめんな、そしてありがとう。俺は……行くよ」

 

 2人に背を向けて歩き出す。せめて、胸を張って。

 

「太郎……」

 

 ふと呼ばれる。葉月の声だった。

 

「私達……死んでも親友だよね?」

 

 ……バカヤロウが。

 振り向いて涙を流し続けつつも笑顔で俺は告げた。

 

「バーカ、死んで転生したってずっと親友だよ」

 

 走る、これ以上は本当に決意が鈍ってしまう。走馬灯のように2人との思い出がよぎる。出会いは中学生の頃。何となく仲良くなって一緒につるむようになった。一緒にバカやって教師に何度も怒られた。3人で同じ高校に通って、一緒に旅行とかして、葉月の恋の応援をしたり優也の勉強の応援をしたり俺の柔道の応援をしてくれたりと支え合ってきた。

 一緒にいるのが当たり前で、大学生になって一度別々の道に歩んでもやっぱり毎日ように会っていた。

 優也……葉月。ありがとう、山宮太郎の親友でいてくれて。お前達のおかげで俺の人生は悪いものだけではなくなった。後ろから声がする、大声で2人が俺へと言葉をかけてきてくれる。感謝の気持ちをエールを送ってくれていた。

 

 俺はそれから振り返る事なく走り続けた。

 

 

 

 

 

 

………………。

 

 

 

 少しだけ息を切らしながらたどり着いたのは山宮太郎の実家だ。ここを出る前に俺はまだしなきゃいけない事がある。玄関を開けて

 

「ただいま」

 

 そう告げる。山宮太郎が最後まで言えなかった言葉だ。出先で轢かれた俺にただいまを言う事は出来なかった。そして、それをまた繰り返す。リビングで談笑している両親。俺の顔を見て驚く2人に俺は間髪入れずに告げる。

 

「俺、また行かなきゃいけない。もう帰って来れないから、だから言わせてくれ」

 

 謝罪の言葉を口にしようと思った。死んでしまって、親不孝な事をしてごめんって。けど、それよりも俺は伝えたい事があったんだ。

 

「俺を産んでくれてありがとう。2人の息子でよかった………行ってきます」

 

 2人が止める間も無く走って実家を後にする。ただいまはいえないけど、ちゃんとこの『行ってきます』という言葉を噛み締めて俺は再び走る。この夢から覚めるにはきっとあそこに行かなければならないから。

 

 

 

 

 

…………………………。

 

 

 

 

 

 

 何の変哲もないちょっとした繁華街の歩道を走る。横を何度もすり抜ける様々な車の風圧を感じながら目当ての場所まで走ってようやく辿り着く。

 

「ここだ……」

 

 そこにあるのは普通の道路とそれを挟む横断歩道、歩行者用の信号が赤から青に代わり周りの歩行者がそれを渡るべく歩き出す。それを少し遠巻きで見つめる。

 

「……ふぅ」

 

 息を吐く。心を落ち着かせる為に。心臓がバクバクと脈打つのを感じる、体が震える、嫌な汗が噴き出てくる。そう、ここは俺が死んだ場所。山宮太郎の生涯が終わった場所だ。ここで俺はボッーとして赤信号に変わっている歩行者信号に気づかず道路に飛び出して轢かれたのだ。

 

「よしっ」

 

 歩行者信号が青から赤に。俺は一歩を踏み出す。

 

 

 

 突然、時間が止まったように世界が停止する。車も、人も、風も何もかもが止まって何も感じない。唯一変わった事はさっきまで誰もいなかったはずの俺の背後に白髪の女性が立っていた事だ。

 そう、さっきまで町で大暴れしてくれたはやてちゃんと入れ替わるように夜天の書から出現した女性だ。

 

「……本当に出ていくのか?」

「ああ」

 

 短く答える。今、この場所は恐らく夜天の書ないし闇の書の中。俺はそこに取り込まれてこの幸せな夢を見せられていた。それはもう自覚している。記憶も鮮明に思い出している。

 

「何故だ?ここはお前が一番望んでいる世界だ。お前の記憶を読み取り、感情を読み取り構成されたお前のための幸せな夢だ。現実はどうせ私によって滅びる。それなら、この幸せな夢の中で眠っていればいいのに」

「滅びないよ、滅びなんかしない」

 

 淀みなく俺はそう言えた。皆んながいる、荒瀬慎司の父さんと母さんもアースラの皆んなもなのはちゃん達も。そんな簡単に滅んでたまるかよ。

 

「それに、結局はそれは夢なんだ。夢じゃダメなんだ、夢で得た幸福を噛みしめたって山宮太郎の罪は償えない」

「罪?」

「罪さ、自分のポカで勝手に死んで俺を大切に想ってくれた人達の心に一生残る傷を負わせたのは罪だよ。それはきっと贖えない、本当だったら贖えない。それでも俺は本当なら得られないであろう新しい人生を得たんだ」

 

 俺はどうして前世をもってこの世に生を受けたのか。何か意味があるのか?神様の気まぐれか、そんな答えは一生分からない。けど本来得られない人生をまた得られたのなら

 

「今度こそは頑張って後悔のない幸せな人生を送る事がせめてもの償いだ。俺はそう信じてる。だから、夢で俺の人生を完結させる事なんか出来ねぇよ」

 

 夢の中で再会した大切な人達は存在しない空想だ。つまり、本人達に俺は再会できた訳じゃない。ちゃんと別れを済ませないままなのは変わってない。俺の記憶で構成された親友と両親だったとしてもそれでも

 

「大切な人達に顔向けできる人生を歩みたいんだよ俺は」

「ここを出た所で滅びの運命は変わらない」

 

 そう言う女性の顔はなんだか悲しみの色に染まっている。やはり、この人は……。

 

「安心しろよ、今はお前の中で眠ってるはやてちゃんも……そして貴女の事も……」

 

 ああ、ずっと情けない顔ばかり最近していた気がする。それなら、この言葉を述べるなら俺は俺らしい顔を。荒瀬慎司らしい満面の笑顔で

 

「2人まとめて俺が救ってみせる」

 

 だから、俺はここをでる。

 

「その邪魔をすんな!」

 

 走る、瞬間止まった時間は動き出す。白髪の女性は「あっ」と短く声を上げて俺へと手を伸ばすがそれに答える事はない。前に進め、俺がいつも言ってる事を俺が曲がるわけにはいかない。なぁ、そうだよな?葉月、優也、父さん、母さん。

 

 道路に飛び出した俺へと浴びせられる大きなクラクションの音と急ブレーキ。偶然か必然か猛然と迫るその車は俺を轢かせてしまった車と同じだった。衝撃と一瞬の痛み。視界は暗転し、何も感じなくなる。今再び、山宮太郎は決別する。幸せな夢を壊して、現実という可能性の世界へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わーお!戻ってきたと思ったら空中とか無理ゲーじゃねえええええかあああああ!!!」

「えっ!?し、慎司君!?」

 

 現実に戻り、意識を取り戻した瞬間から始まった自由落下に度肝を抜かしつつも慌てた様子のなのはちゃんが受け止めてくれる。わー、女の子に抱き抱えられるって恥ずかしいな。

 

「なのはちゃん?俺を腕だけで持ち上げられるとか力持ちじゃん、ゴリラかよ」

「開口一番にひどいね!落とすよ!?」

 

 いや、それは洒落にならんて。ちなみに魔力で身体強化的なのがかかっていると俺は推測する。とりあえず俺を連れて一度件の女性から離れて地面へと移動するなのはちゃん。

 

「慎司!」

 

 俺を見て安堵するように息を吐きながら一度集合する、アルフとユーノ。

 

「悪いな、心配かけた。今どういう状況か聞いていいか?」

「う、うん」

 

 短く説明を受けると俺が取り込まれたあと3人は根気強くあの闇の書と戦闘を続けていたらしい。既にアースラとも通信が取れているが打開策がなくジリ貧の状況だ。それに、既に世界の崩壊の予兆が始まっている。証拠にあちこち地面から火の柱が噴いたり形が崩れている箇所が目立つ。

 交戦中に闇の書の動きが急に止まりしばらく警戒して様子を見ていたら急に俺が現れたとなのはちゃんは語る。フェイトちゃんはまだ戻れていないようだ。

 

 闇の書の方をチラリと覗くと止まっていた体がピクリと動いて再び行動を開始しようとしている。すぐにでもまた動き出すだろう、さてどうしたものか。

 

『慎司君、聞こえてる?』

「その声は……リンディさん?」

 

 なのはちゃんの通信端末からだった。

 

『状況はこちらも把握してます。とにかく、無事でよかったわ。今、ここに貴方の両親もいるわ』

『慎司っ!よかった……よかった無事で』

「母さん……」

 

 リンディさんに変わって通信越しから母さんの声と安堵する声を上げる父さんの声が。俺は2人の声を聞けたことに安心しつつ

 

「ごめん、俺がモタモタしたせいでこんな事になっちまった。もっと早く行動していれば……」

『今更後悔したって仕方ないさ。それにいったろ?お前がしていることはずっと最善だった。事をなす為の最善の行動しかしていなかったんだ。それを謝る必要はない』

「うん、ありがとう父さん」

 

 よし、十分に励ましてもらった。んなら、後は頑張るだけだ。

 

「リンディさん、俺もなのはちゃんから状況はある程度聞いた。アースラからの援護はあいつが張った結界で介入は無理。今は俺達でどうにかするしかない……だろ?」

『ええ、その通りよ。けど暴走の兆候が出ている闇の書は強力よ。現状の勢力で力押しは厳しいわ』

「倒す必要はないですよ。……ようは、主人を呼び戻せればいい……そうだろ?」

『確かにそうだけど……そんな方法は……』

「ある」

 

 断言するように俺は告げる。その場になのはちゃん達も驚きの表情を隠せなかった。

 

「ありますよ、その方法」

『一体……どういう?』

「正直に言えば、理論もへったくれもない無茶苦茶な方法で理由も正当じゃない方法です。けど、俺はその方法がきっと…夜天の書の主を…八神はやてっていう俺の大切な友人呼び戻せる方法だと信じてる」

『そんな方法……』

「賛成は出来ないでしょうね、けど俺はやりますよリンディさん。諦めてください、俺は自分がやるべきでやりたいと思った事は必ずやり遂げる人間ですよ。この方法を提案した理由も……感情論が先走ってる感じだけど俺はやるよ」

『…………慎司』

「クロノ?」

 

 再びまた別の声が通信から聞こえて来る。すぐにクロノと分かった。

 

『……今はこちらからは何もできない。……だから君達に任せるしかない』

 

 重々しい声で告げてくるクロノ言葉に俺はああ、と頷く。

 

『……無茶は…お前の事だからするんだろうな。だからこう言うよ……死ぬなよ、慎司』

「任せなって、死んでも生き直す男だぜ俺は」

 

 また訳のわからない事を……と少しだけ笑いながらクロノはそう言って通信を切った。

 

 

 

 

 

 

「信治郎……ダメだ、慎司君が危険だ。今からでも止めるんだ」

 

 アースラ内。グレアムの言葉に信治郎は目を閉じて思案しながらも諦めてように息をついた。

 

「まあ、止めたい所ですけどあの眼をした慎司は言って聞くやつじゃないですからね。うまくいくよう祈るしかないんですよ」

 

 アースラではモニターで状況は確認できる。船員もリンディもエイミィもクロノも彼の行動を固唾を呑んで見守っている。

 

「信治郎っ!お前の息子だろ、何かあってからじゃ遅い。あの子をこれ以上巻き込むのはっ!」

「ロッテ、私達が……言える事じゃない」

 

 掴み掛かろうとするロッテをアリアが制する。2人とも苦虫を噛み潰したような顔をする。既に罪悪感で一杯なのだ、2人は。

 

「とにかく今は見守りましょう?」

 

 そう言って場を落ち着かせるユリカ。自身も心配で気が気でないが息子を信じてモニターを眺め続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 さてと、大見得を切ったはいいけど今からやる事は正直俺1人じゃ無理だ。俺がはやてちゃんを救う為にずっと訓練をしてきた物とはまた別の無茶苦茶な行動だ。

 それをなすにはこの3人に説明して同意と助けを求める必要がある。そろそろ闇の書も動き出すだろう。俺は真剣な顔をするなのはちゃん達3人にその方法と理由を説明した。………各々困った顔をしていた。

 

「慎司……それはいくらなんでも」

「あんたねぇ……そんな事でどうにか出来るとは思えないけど」

「それに……それ実行するのもすごい大変だよ」

「まあまあそう言うなって」

 

 確かに無茶苦茶だし難しいしなんなら正直これした所で何も変わらないかもしれない。ていうか変わらない可能性の方が高いよな。けど、俺はそれをするしかないんだ。何たって………なぁ?

 

「これやるのは俺1人じゃ不可能だ。ていうか俺のわがまま全開だけどちょっと手を貸してくれよ?どうせ他に有効打ねぇだろ?なぁなぁドッグフードやるからさぁアルフ」

「バカにしてんねあんた」

「今度エロ本やるからさユーノ」

「殴っていいかな?」

「オラ、助けろやなのはちゃん」

「私だけ雑だ!?」

 

 さてまぁ冗談はさておき。

 

「なのはちゃん………今がそん時だよ」

「え?」

「俺を……助けてくれ」

「あ……」

 

 

 

『その時になったらなのはちゃん、俺を助けてくれ。俺は君を…頼りしてるから』

 

 

 

「それは……ちょっとずるいよ慎司君」

「ははっ、ごめん」

 

 けどそういうなのはちゃんは……嬉しそうに笑っていた。

 

「ふふ、でもいつもの慎司君らしくて嬉しいよ。分かった……慎司君の頼みだもんね。それなら私はいくらでも力になるよ。慎司君を……信じてるから」

 

 なのはちゃんの真っ直ぐに見つめてくるその瞳がとても綺麗でかっこよかった。そうか、君はそうやって俺に応えてくれるのか。嬉しいよ、親友。

 

「なのはちゃん………それダジャレ?」

「ちょっとは空気読んでよ!!」

 

 ごめん、照れ隠し。

 

「もう……ユーノ君、アルフさん。私からもお願い……慎司君を助けてあげて」

 

 なのはちゃんにそう言われて2人は困ったように互いに目を合わせながらも

 

「まぁ、慎司の事だからどうにかしてくれそうだし」

「フェイトの時もやらかしてくれたしね、分かったよ」

 

 そう言ってくれた。

 

「ありがとう……3人とも」

 

 荒瀬慎司は恵まれているな。こんな誇らしい友人が沢山いるんだから。

 

「さあてと!」

 

 手のひらに拳を打ち付ける。気合十分、やる気十分、根性十分!びびって震える体を無視して俺はとうに動いて行動を開始しようとしている闇の書を見つめる。

 

「待ってろよ、度肝を抜かしてやるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 中々話が進まないがもう少しだ。もう少しで終わるはずなんだ!!ちくせう!!

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