転生しても楽しむ心は忘れずに   作:オカケン

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 お酒沢山飲みたい今日この頃、作者はビール党ですので焼き鳥が食べたいどす


約束を果たしに

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおっ!死ぬううううううう!!」

 

 荒瀬慎司、9歳(29)。全力で走ってます。迫るのは魔法の暴力、魔力弾やら砲撃やらから全力で逃げ惑う。いや、ちょっと待ってこれは予定外。

 

「何であの野郎俺が取り込まれる前より殺意MAXなんだよおおお!?」

 

 そうなのである、いざ作戦を結構すべく各々役割を果たそうとするが再び動き出した闇の書はさっきと打って変わって俺を魔法で狙い撃ちしてくる。

 

「え、おこなの?せっかく取り込んだの逃げ出したからおこなの?ねぇ今どんな気持ち?」

 

 頬に魔力弾が掠れる。

 

「ごめんなさいいい!」

「ふざけてないで早く逃げてよ!」

 

 辛うじて俺が無事なのは、なのはちゃん達が横から闇の書を攻撃して邪魔をしてくれているからである。とにかく足を止めずに俺は走り続けるしかない、俺がやろうとしている事はとりあえずあの闇の書の女性に近づく必要がある。今はチャンスを窺うしかない。

 

「鬼さんこちら!手のなる方へ!フォーリンラーブ!」

「……………」

「あ、無言で迫ってくるのは怖いからやめてね!!」

 

 つーかあの野郎やっぱり強いんだな。なのはちゃん達がいくら攻撃しても平気な顔して防ぐし、俺には魔力を感じたりする事は出来ないけど何となく雰囲気で別格と言うのは理解できる。

 

「もう、眠れ……大人しく眠ってくれ……」

「ざっけんな、現実から目を背けて寝てられるほど大物じゃねぇよ!」

 

 静かに俺をそう誘う闇の書の言葉を跳ね除けて俺はとにかく走る。また捕まったら今度はどうなるか分かったもんじゃない。とにかく逃げろ、今の俺に出来ることはそれなんだ。

 結界内に取り残された建物を挟んでうまく逃げる。しかし、ただ走るだけな俺と空を飛んで追いかけてくる闇の書じゃすぐに追いつかれてしまう。

 

「くそっ……」

 

 再び迫る闇の書、しかし

 

「このぉ!!」

 

 闇の書の死角から拳を握りしめたアルフが殴りかかる。衝撃と激音が響くが闇の書はまるで動じずに障壁を張って防ぐ、しかしその足は止まった。

 

「すまねぇアルフ!」

 

 そう言い残し再び走る。アルフは闇の書の動きを止めるためさらに拳を重ねてそれを塞がせる。しかし、すぐに闇の書は構成した魔力をアルフにぶつけてアルフは苦悶の声を上げて吹き飛ばされる。そして再び俺に追いすがる。

 

「荒瀬慎司……お前は……お前にだけは世界の終焉を見させるわけにいかない……それが我が主人の望み。暴走する前の私が果たせる唯一の願い……」

 

 その闇の書の言葉に俺は頭に血が上る。走る動きはやめず俺は顔だけ向けて叫んだ。

 

「余計なお世話だ!お前にそこまで世話されるいわれはねぇよ!!」

 

 頼むぞ皆、信じてるからな。皆んなを信じて息がどれだけ上がろうと走り続けてやる!!

 

 

 

 

 

 

………………………………。

 

 

 

 

 

 暗い、暗い、暗い深淵。辺りには暗く何もなく、ただ孤独な深淵の中。車椅子に乗った少女は眠そうに目を少しだけ開ける。

 

「ここは……どこ?」

 

 記憶が曖昧だった。何かを考えようとしても強烈な睡魔のようなものが襲いかかりそれに身を委ねそうになる。

 

「ウチ……なにしてたんやっけ……」

 

 ノイズが走る思考、それよりも眠い……眠くて仕方ない。このまままた眠ってしまおう。そうだ、きっと心地いい……。

 

「そうです……そのままゆっくりと眠ってください。辛い現実よりも幸せな夢を見ていてください。貴方の望みは私が叶えます」

 

 いつの間にか見覚えのない白髪の女性が目の前に立ちそう言葉を発してくる。辛い現実……辛いのは…嫌だと少女は思った。望み……私の望みは……何なんだろう?と。

 

「……………」

 

 目を閉じる。再び意識が遠のく。大切な事を忘れている気がしたがそれよりも今はこうやってゆっくりと穏やかに眠っていたかった。白髪の女性はそれを表情を変える事なく見守っていた。しかし、何故だろうかその目に映る瞳はなんだか悲しい色をしているようにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……くそがっ」

 

 どれくらい走り続けただろうか、滝のように吹き出る汗を拭いながら呼吸を整えるように意識する。足は鉛のように重く膝をついてしまう始末。一歩を踏み出すのさえ一苦労だ。しかし、そうなるまで走り続けてもなお

 

「………………………」

 

 数メートル先には闇の書の女性が佇んで俺に立ちはだかる。なのはちゃんとアルフが俺を守る為にずっと闘ってくれていたが途中から走る事に夢中だった俺は今皆んながどうなっているのかは分からない。

 やられてはいないにしても痛手を受けて動かないのかもしれない。とにかく、ここまでなんとか逃げてきたが……そろそろ詰みだ。

 

「暴走までもう猶予はない……その前に荒瀬慎司、貴方だけでも再び安らかに私の中で主人と共に眠れ……」

 

 そう言って闇の書をかざす女性、再び俺は光に包まれ意識が遠のいていく…………ふざけるな。

 

「………なぁ……あんた」

「っ?」

 

 俺の言葉が気になったのかかざしていた闇の書を下ろして魔法を止める女性。

 

「あんた言ったよな?はやてちゃんはお前の中で眠ってるって」

「そうだ、そして貴方もそうなる」

「世界が滅びるから、その惨状が起こる前にせめて安らかに……てか?勝手に決めてんじゃねぇよボケナス」

「っ!」

 

 疲れた体に鞭打ちながら立ち上がる。ふざけんじゃねぇよ、世界が終わるとか何とか……勝手ばっかり言いやがる。

 

「滅ぼされてたまるかよ、この世界も……この世界に住む俺の大切な人達も……お前の暴走なんかで滅ぼされてたまるか」

「貴方がいくら吠えようとも結末は変わらない、闇の書の暴走でこの世界は滅びる。私が顕現した以上その運命は変えられない」

「勝手に諦めて勝手な事を言ってんなよ、俺は……俺達は諦めねぇよ。この世界もはやてちゃんを取り戻す事も諦めやしない」

「………今の貴方には……どうにも出来やしない」

「出来るさ、諦めないことは出来る。そんで何とかしてみせる……約束もまだ果たしてない」

「約束?」

 

 首を傾げる女性に向かって俺は息を吸って吠える。

 

「約束さ!それを守る為に俺は今ここにいる!お前みたいに何もかも諦観して諦めるほど物わかりはよくなくてなお前と違って!」

「何を……貴方に何が分かる…」

「分かるさ、あんたが諦めて無責任に世界をはやてちゃんを見捨てようとしているのは分かるさ」

「っ!」

 

 初めて、大きく女性の表情が変わる。

 

「私は……見捨てるなど……」

「同じことだよ、諦めて何もしない事は見捨てるのと同じだ」

「………どうしようもないんだ。私にはどうしようも……」

「どうしようもなくても諦めない奴らを俺はいっぱい知ってるぜ」

 

 前世でも、今世でもな。

 

「だから俺も諦めない。自分が無力って分かってても役立たずでも諦める事はしたくない」

「貴方に……私の苦しみは理解できない……」

「なら……俺に助けさせろよ」

 

 今度は俺が手を伸ばす。差し出した手に俺のありったけの思いを込めて。

 

「自分でどうにか出来ないなら誰かに助けを求めるんだよ。それも立派な諦めてない奴の行動だって俺は思う。だから俺に、はやてちゃんも貴方のことも丸ごと助けさせろ!」

「っ!好き勝手な事をっ!」

 

 返答は俺の手を取る事なく闇の書自ら俺との距離を取って空へ飛ぶ事だった。俺を捕らえるのが目的のはずの闇の書の矛盾した行動を見て、俺の言葉は効いていると確信する。

 

「私は主人の願いを叶える。それが暴走する前の私が出来る唯一の希望………お前こそ、その邪魔をするな!」

「ぐっ!うわあああああ!!」

 

 四方八方から俺に向けて放たれる魔力弾。それはどれも俺に直接命中する事は無かったが足元に魔力弾を叩きつけられその衝撃で俺は吹っ飛ばされ地面を転げ回る。

 

「ぐっ……くうう」

「もう楽になれ、既に足にもガタがきている事は分かっている。もう立てないだろう?苦しみから解放してやる、安らかに眠れ」

 

 足はプルプルと震えてうまく動かせない、体中に痛みが走り俺の動き一つ一つを軋ませる。どれだけ頑張っても、どれだけ必死になっても出来ない事は沢山ある。俺はそれをよく知っている。だからこそ今ここで足掻くのは無駄な苦労なのか?無駄な努力なのか?……………拳を思いっきり地面に打ち付ける。

 

「うるせぇ!!」

「っ!」

 

 吠える。血反吐を吐くように、自分を鼓舞するように………前を見据えて吠える。誰かに、俺の思いを伝えるように。誰かじゃない……皆んなに

 

「余計なお世話だってんだよ……苦しみから解放してやるだの安らかに眠れだのしつこい奴だ。いいか、人生っていうのは苦労の連続だよ」

 

 立て、膝をつくな。寝ている場合か?立て、立て。

 

「苦しみのない人生なんて存在しない、生きている限りどんな選択をしても苦しみは付き纏うからだ」

 

 足が震えてもいい、フラフラでもいい。

 

「だから苦しみのない現実から目を背けたって待ってるのは苦しみもなければ幸せもない幻想だ。夢は夢でしかない、幸福をただ見せられてる夢に意味なんてない」

 

 上を向いて立ち上がり続け、そして

 

「苦しみしかなくても俺達は現実を生き続けれるんだ……けどそれは不幸な事じゃない」

 

 前を向いて、進み続けろ。

 

「苦しみの先に本当の幸せが待ってるからだ!だからそんな夢見てないで戻ってこい!はやてちゃん!!」

 

 そうじゃなきゃ、人生なんて言えない!

 

「……何故そうも立ち上がる。辛い思いをしてまで」

 

 微かに震え声でそう告げる闇の書に向かってさらに吠える。

 

「その先の俺にとっての幸せを掴む為だ!そして、約束と誓いを果たす為だ!!」

 

 走れ。

 

「っ!来るな……」

 

 走る、闇の書に向かって真っ直ぐに。動揺した闇の書は俺の足を止める為に魔力弾を放つ。頬をかすめた、後ろに炸裂して衝撃で足がもたれるが耐える。足の感覚はない、疲労なんてとっくに限界を超えてる。ずっと柔道の練習を休み続けたツケはきている。

 

 だが走れ、約束を果たす為に走れ!

 

「おおおおおおおおおおっ!!」

 

 それは咆哮。荒瀬慎司が放つ死力の咆哮。それに押されるように闇の書は僅かに表情を歪めて

 

「来るなぁ!」

 

 始めて大きく感情を発露させた。そして放たれる魔力弾は俺に真っ直ぐに向けられた。当たれば魔力のない俺にはひとたまりもない、しかし足を止めず、避ける事もせず全力で走る。

 魔力弾が俺へと直撃するほんの一瞬前

 

「ユーノおおおお!!」

「君は本当に無茶ばっかりだよ!」

 

 一瞬で霧散し消える俺、魔力弾は対象を失いそのまま地面に当たり消え失せる。ユーノが仕掛けた転移だった。ユーノは俺が逃げ回っている間この場所にすぐにでも転移を行えるように仕掛けと魔力を練って準備をしてくれていた。なのはちゃんとアルフの協力でこちらに闇の書を誘導出来る様に協力をしてもらいながら俺は走っていたのだ。遠回りしてさらにユーノに準備の時間を与える為に。

 俺の演説も本心であり時間稼ぎの面もあったんだ。

 

「くはっ!」

 

 地面から一瞬で闇の書から十数メートルほど離れた頭上の空に投げ出される。

 

「っ!?」

 

 闇の書は驚愕の表情を浮かべようやく俺が転移した事を理解した。そうだ、これだ。この状況だ。俺が望んだのは闇の書のあの女性に接近する事。しかしただ接近するだけではダメだった。俺が再び捕らえれるのがオチだからだ。不意を突いて彼女に近づく必要があった。一ノ矢は放った、次は二の矢。

 

「アルフ、やれ!」

「アンタは本当に……」

 

 転移先に待っていたのは先回りして闇の書にバレないように待機していたアルフ、俺を両手で抱えて振りかぶり

 

「無茶苦茶だよ!」

 

 闇の書に向かって投げ飛ばす。落下のスピードも合わさりかなりの速度で闇の書へと空から接近する。気づいた闇の書に対応されないための二の矢だ。

 

「っ!!うわぁ!」

 

 しかし、その努力も虚しく闇の書は僅かに数メートルくらいの所で何なく地面から生やした触手で俺を空中で捕らえる。一切身動きが取れなくなった。

 

「無駄な足掻きだ……諦めろ」

「くっ!」

 

 その言葉に俺は苦悶の表情を浮かべる………が、その後すぐに笑みを浮かべて見せた。

 

「……?何を……」

「さぁ、三の矢だ」

 

「やああああ!!」

 

 衝撃が走る。闇の書の背後からなのはちゃんが接近して魔力を込めたレイジングハートを叩きつけたのだ。闇の書は障壁を一瞬で構成して対抗するもの不意打ちの一撃は完全には防げずダメージを受ける。すると同時に俺を捕らえていた触手もその影響か消える。

 俺が切り札を見せたと見せかけた所で闇の書は俺を捕らえるだろう、それを確信して本当の隠し球のなのはちゃんを最後まで待機させてたのだ。

 

「行け!慎司君!」

 

 ああ、任せろ!!

 

 

 

 触手が消えてそのまま空中に投げ出され落下を再開する、真っ直ぐ闇の書へと。なのはちゃんからの攻撃で闇の書の動きは一瞬よりも多い時間動きを止めた。十分だ。

 

「約束を果たしにきたぞ……はやてちゃん!」

「くっ!?」

 

 闇の書の彼女は語った。はやてちゃんは今、自分の中で眠っていると。それがはやてちゃんの意思なのかそれとも俺みたいに夢を見せされているのかは分からない。どっちでもいいんだ。俺はただはやてちゃんをこの現実に引き摺り出す。それは俺の役目で無ければならないんだ。だって……

 

 

『もしかして、わたしはもうすぐ死ぬのかなって。だから神様が最後くらいこうやって幸せにしてくれてるかなって』

 

 

 だって……

 

 

『だから、わたしがこのまま眠ったらもう目覚める事のないまま……ってそんな突拍子もない事考えてまう』

 

 

 

 だって……約束したんだ。

 

 

『もしもはやてちゃんが目覚めなくて、全然起きてくれなくなったらさ……俺が意地でも叩き起こしてやるよ』

 

 

 誓ったんだ。あんな風に寂しい顔をもうさせたくないって。意地でも俺が笑わせてやるんだって。その為に俺は……戻ってきたんだ!!

 

 

『俺ははやてちゃんがもし目覚めなくなったら頭突きする、どんな状況でも容赦なく。はやてちゃんは、俺に頭突きされたらちゃんと起きる。これ約束な』

 

 

 

 

 だから!!

 

 

 

「さっさと起きろぉ!このねぼすけ女あああああああああああ!!!」

 

 

 ゴンッ!

 

 

 と頭と頭を打ち付けるには大き過ぎる鈍い音が響き渡った。

 

 

 

 

 

…………………………。

 

 

 

 

「……………」

 

 微睡の中、再び八神はやては目を開ける。その目はまだ眠そうに虚な輝きだが意識をしっかりと繋げた。

 

「………眠ってください。そうすれば夢の中で貴方が望んだ幸せの世界にいられます」

 

 再び現れる白髪の綺麗な女性。この何もない空間で唯一八神はやてが認識できる存在。

 

「望んだ……幸せ?」

 

 八神はやてはぼーっとする頭で考える。自分が望んだ幸せとは何だったんだろうか。

 

「健康の体、愛するもの達とのずっと続いていく暮らし……その幸福を夢の中で永遠に味わえます」

 

 その言葉に誘われるように八神はやての瞼はまた重くなる。眠い……眠い……。でも、このまま眠ってはいけない。そんな気がする。けど、どうしても頭が回らない。その誘惑に逆らう事が出来ない。眠りたくないのに……眠い、夢に逃げたくないのに……逃げたい。矛盾した感情が押し寄せる。

 

「私は………」

 

 思考の海と共に瞼が完全に閉じられる手前だった。頭にとんでもない衝撃ご襲ってきた。

 

「ふぇ!?」

 

 素っ頓狂な声を上げるはやてに何が起こったのか分からず困惑する白髪の女性。頭の衝撃に意味が分からず困惑する八神はやてをさらに混乱させる現象が起こる。

 

『さっさと起きろぉ!このねぼすけ女あああああああああああ!!!』

 

「うひゃあ!!」

 

 今度は脳裏に響くとんでもない大声。頭への衝撃と大声量の叫びで眠気など一瞬で吹っ飛んでしまった。未だ困惑する八神はやては少しだけ息を吐いて心を落ち着かせる。そして先程の声の主を、聞いた事のあるその声の主の名前を呟く。

 

「慎司………君」

 

 ああ、そうか。君か、君なら本当にやりかねないと思ったけど。まさか自分を安心させるためについたあの突拍子もない約束を果たしてくれたのか。はやてはすぐに理解した、そして今現実では何が起きてるのかをしっかり認識する。眠りながらでも聞こえていた慎司君の声を思い出す。

 

「………ほんなら……ウチも約束守らんとな」

 

 頭突きをされたら起きなければ。そういう約束だったのだから。八神はやては首を振って意識をしっかり覚醒させて先程の女性の言葉について答える。

 

「せやけど……それはただの夢や」

 

 八神はやては既に答えを得ている。幸せな夢よりも可能性の現実を選び取る強さを持っている。

 

「私、こんなん望んでない……貴女も同じはずや」

 

 はやてのその言葉に女性は淡々と答える。

 

「私の心は騎士達の感情と深くリンクしています、だから騎士達と同じように私も彼を……荒瀬慎司に深い友情を感じ貴女を愛おしく感じます」

 

 だからこそ、はやてを殺してしまい慎司の世界を壊す自身の力の暴走を止めれない。そう深く悲しそうに語る女性にはやてもまた語る。自分が闇の書の覚醒の時に今までの事が分かったという。悲しみの連鎖の過去を。

 望むように生きられない悲しさ、そして自分もそれは分かるしそれはシグナム達も一緒だ。ずっと悲しい思い、寂しい思いをしてきた。

 

「せやけど忘れたらあかん」

 

 強く優しい目ではやてはその女性に温もりを与えるように頬に手を当てる。女性は目を見開き驚く。

 

「貴女のマスターは今は私や、マスターの言う事はちゃんと聞かなあかん」

 

 足元に照らされる白い魔法陣。それは女性が発現させたものか八神はやてによるものか。おそらく後者だろう。

 

「名前をあげる……」

 

 もう闇の書とか、呪いの魔導書とか等言わせない。私が言わせないと八神はやては強い口調で言葉にする。女性に目に浮かぶのは……今初めてこぼしたような温かな涙。

 

「私は管理者や、私にはそれができる」

「無理です……自動防御プログラムが止まりません……管理局の魔導師が闘っていますが……それも」

「止まって……」

 

 目を閉じそう呟くはやて。そして…………

 

 

 

 

 

 

 

「痛ってえええええええええ!!あの野郎結構石頭だ!」

「自分で頭突きかましといて自分が痛がるなんて世話ないねぇ」

 

 現実では荒瀬慎司は頭突きをかました直後、地面に落下する前に回収して地面に降ろしてくれたアルフの呆れた声にげんなりしつつ先程から頭突きを受けてから変わらず冷たい目でこちらを見つめてくる白髪の女性を見据える。

 

「くそっ、やっぱりそう上手くいかないのか?」

 

 やっつけ感満載で実行した命懸けの頭突きだったがやはり無意味な行動だったのだろうか、そう思いかけた時だった。女性の様子がおかしい事に気づく。動きが鈍くなっていた。まるで壊れかけのカラクリのようにギギギっと軋むような、一つ一つの動作がそうな風になっていた。

 

「っ!はやてちゃん?」

「えっ?」

 

 突然そうぼやくなのはちゃん。俺がどういう事だと声を上げるがなのはちゃんからの反応はない。まるで心中で会話してるかのように無言で表情を変えたり頷いたりしている。それはアルフとユーノにも見てとれた。念話か!くそ、俺には聞こえねぇよ!しばらくもやもやしている気分になるが念話を終えたなのはちゃんは俺の方に向き直って簡単に説明してくれる。

 

 今はやてちゃんの声が聞えてきた事、目の前にいる白髪の女性とは魔導書と本体とのコントロールを切り離したが今のままでは管理者権限が使えないからその子を止めて欲しいと。今目の前にいるのは自動行動の防衛プログラムだけとのこと。急に動きがロボットみたいになったのはそういう事か。

 

 だが、俺の胸は高鳴った。はやてちゃんがまだちゃんと生きてる事と闇の書が完成してからも主であるはやてちゃんの意識があるという事。それは俺が調べた限りの記録には無い新たな局面。俺の頭突きは役に立ったかは分からんがこれは悲劇の結末を覆す前兆に感じた。

 

「それと慎司君に伝言……戻ったら頭突きの事覚悟しぃや……だって」

「えー……」

 

 困ったようにそう言うなのはちゃん俺は再びげんなりとする。いや確かに女の子に頭突きとかかなり非道だけど今回はしょうがないだろ。

 なのはちゃん達がやる事は決まったらしい、とりあえずあの防衛プログラムとやらを魔法で全力で叩きのめすという事だ。

 

「んじゃ、俺のすべき事は一つだな……」

「え?何かな?」

「応援だよ、フレー!フレー!なのはちゃんー!がんばれー!がんばれー!なのはちゃーん!」

「ちょっ、慎司君すごくやり辛いよぉ」

「がんばれがんばれやれば出来るあきらめんなよお前自分を信じれば不可能はないネバーギブアップだちんちくりん!」

「うるさいよ!?あとどさくさに紛れてちんちくりんって言ったね!?」

「はよ行ってこいって」

「もう〜〜〜、応援するならちゃんと応援してよぉ……」

 

 だよねぇ、んま最近なのはちゃんいじれなくて寂しかったからついね。なのはちゃんの背中を優しくポンっと押すように叩いて

 

「ちょっくら俺の分までかましてこいよ。がんばれなのはちゃん!」

「……うんっ!今度は私の番だもんね!任せて!」

 

 機嫌良く飛んでいったなのはちゃん見送る。ユーノとアルフもそれに続いた。さて、言うまでもなく動きが緩慢になった防衛プログラムではなのはちゃん達にに太刀打ち出来るわけなく。

 全力全開のなのはちゃんの砲撃を浴びる羽目となった。

 

「うわー、容赦ねぇー」

 

 遠巻きに見守る俺もついそうぼやいてしまうくらいだった。砲撃の爆破と衝撃で、周りは光に包まれる。いや、砲撃の影響によるものじゃない。防衛プログラムとやらがいた場所は暖かな光に包まれ収束していく。

 そんな景色に見惚れるてる中ふと視線をずらすと

 

「っ!フェイトちゃん!」

 

 フェイトちゃんが何事もなかったかのように空に佇んでいた。俺の視線に気づいたのかフェイトちゃんはこちらに軽く手を振り問題ないと俺を安心させるように笑みを浮かべていた。………また、強い目になったな。闇の書の中で何があったか知らないが彼女が成長する何かがあったんだろう。

 フェイトちゃんの無事を確認したところで辺りに地響きが起こる。

 

「な、なんだ!?」

 

 地面の上にいる俺はとてもじゃないが立ってられないほどだった。異変が起こってすぐにフェイトちゃんが俺の元まできて抱き抱えて一緒に空へと運んでくれる。

 

「わーお、フェイトちゃんも軽々俺を腕だけで持ち上げるねぇ………ゴリラかよ」

「っ?………ドラミング…する?」

 

 …………ちょっと見てみたいかも。

 

「冗談はともかく……無事でよかったよ」

「うん、慎司が外で大活躍してたの……何となくだけど私にも伝わってきたから」

 

 そりゃまた恥ずかしい。なんて会話をしつつなのはちゃん達とも合流、互いに無事なのを喜びつつも地響きは収まらず今度は禍々しい黒くて巨大な円状の魔力が出現する。なんだありゃぁ……

 

『皆んな気をつけて!闇の書の反応はまだ消えてないよ!』

 

 通信越しからエイミィさんの声とさらに大きな地鳴りが耳をつんざく。さて……どうしたものかな。

 

 

 

 

 

 

 決着の時は近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 さぁ!終わりが見えてきましたぞ!

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