転生しても楽しむ心は忘れずに   作:オカケン

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 ウマ娘ちょびちょびやってます。スズカとスパとテイオーが当たらなくて発狂中


最後じゃない

 禍々しい魔力の奔流にゴクリと生唾を飲み込む。エイミィさんが通信で言うにはまだ闇の書の魔力反応は消えていないと言っていた。つまり、まだ終わってはいないという事。

 

『皆、あの黒い淀みが暴走の始まる場所になる。クロノ君が着くまで無闇に近づいたらダメだよ!』

 

 クロノが向かってくれているのか。しかし、世界を飲み込む暴走が始まると言うのなら戦力はいくらあっていい。俺は確信していた。きっと大丈夫だと……なぜなら

 

「こいよ、はやてちゃん」

 

 彼女は彼女の意思で現実へと目覚めて戻ってくるのだから。魔導師として覚醒した彼女がきっと頼もしい援軍として現れると。

 

 瞬間、黒い淀みとは別に白く輝きを放つ魔力が閃光として炸裂する。衝撃と光に瞬間的に目を覆う。そして視界を取り戻した時には

 

「シグナム!」

「ヴィータちゃん?」

 

 フェイトちゃんとなのはちゃんが驚きながら口にする。炸裂し、円の形を維持している白い魔力を守るようにそれを取り囲む4人の人影。みすみす見殺しにしてしまった大切な友。ヴィータちゃん、シグナム、シャマル、ザフィーラの姿が。

 

「あいつら……」

 

 そうか、守護騎士は魔導書によって構成されたプログラム。つまり主が望めばその修復も可能なんだ。そして円状の白い魔力が砕け散り中から出てきたのは杖を持ち近くに闇の書と呼ばれた魔導書を浮かせた魔導師姿のはやてちゃん。魔導師らしく宙に浮き凛々しい姿で舞い戻ってきた。変わった点は髪の色、茶髪からあのさっきまで相手していた白髪の女性と同じ白の色に。まるで彼女と一つになったかのように。

 はやてちゃんと守護騎士4人の登場に俺は目頭が熱くなる。彼女らも感動の再会を………してはいなかった。

 

「痛った〜〜〜〜っ!現実に戻ってきたら痛覚も戻ってきたのか頭が痛った〜〜〜」

 

 えぇ………、頭抱えてその反応かよ。もっとお前ら再会を喜び合えよ。俺関西弁じゃないのになんでやねんって言いそうになるわ。あ、ようやく八神家で再会を喜び合ってる。なんか積もる話も済み終わった後にとりあえず俺達もはやてちゃんの元に合流する。

 

「なんでやねん!」

「なにがやねん!」

「「いえーい!」」

 

 もはや合言葉である。てか結局言っちゃったのと相変わらずノリがいいなはやてちゃん。またこうやってふざけれて嬉しいぞよ。

 

「…………慎司君」

「おう」

「ありがとうな?慎司君のおかげで戻ってこれたよ……」

「ああ……」

「あとな?」

「うん?」

 

 ニッコリするはやてちゃん。そのニッコリ笑顔のまま

 

「もうちょっと加減してやっ!普通に痛ったいわ!」

 

 と分厚い魔導書で俺の頭をはたく。なのはちゃん達もまさかのはやてちゃんの行動にあんぐりとしていた。頭がぐわんぐわんとする。いや、だから非常事態だったんだから許してくれよ。

 けどまぁ……いててと頭をさすりながら俺はそれでも

 

「けど、一瞬で眠気なんて吹き飛んだろ?」

 

 と、笑みを浮かべてそう言って見せる。それにはやてちゃんも笑顔で

 

「まぁ……せやけどね。……約束、守ってくれてありがとう」

「はやてちゃんもな、お互い様さ」

 

 2人して笑い合う。そうだ、笑ってくれ。君に似合う最高の表情はその笑顔だ。

 そんな感じではやてちゃんと再会を喜びあい次はその後ろで気まずそうにしている4人だ。

 

「おいグッさん」

「………まさか私の事か?」

 

 そうだ貴様の事だシグナム。

 

「気まずそうに距離作ってんじゃないよ、今後もグッさんって呼ぶぞ」

「それは……困るな」

 

 ああ、俺もそんな呼び方は嫌だ。だからよ、

 

「シグナム、ヴィータちゃん、シャマル……ザフィーラ…だよな?」

 

 一応人間状態のザフィーラと対面するのは初めてなので確認する。苦笑しながら頷くザフィーラを確認してから俺は全員を巻き込むように抱きつく。

 

「慎司?」

 

 ヴィータちゃんが困惑気味に俺を呼ぶ。しかし俺はそれに答えない。ただぎゅっと腕により力を込める。ああ、4人がここにいる。助けれなかったと思った4人がここにいる。二度と会えないと思った、もう笑い合えないかと思った。けど……ここにいる。

 

「生きていてくれて、また会えて……よかった…」

 

 絞り出すような霞んだ声で俺はそう零す。無惨にも俺の前で消えていった守護騎士達。すれ違い、一度袂を別つような事になったけど。それでもここにいま存在してくれている事に感謝できた。

 

「……ああ、私達もまたお前と会えて……嬉しく思う」

「……ありがとう慎司君、私達を助けてくれて」

 

 シグナムとシャマルの言葉に涙が滲みそうになる。それでも、俺は堪えた。まだ……おわってはいないのだから。

 

「……もう、皆んなと会うのを控えろなんて言わないだろ?」

「ああ、勿論だ」

 

 その返事を聞いて4人を解放する。腕に残る4人分の温もりを噛み締めて、再会の喜びで浮かれている気持ちを息を吐いて落ち着ける。さて、どうしたものか。

 

「君はやっぱりとんでもない大馬鹿者だ、慎司」

 

 そう悪態をつきながら上空からこちらに合流してきたのはクロノだった。結界も解けてようやくクロノもこちらに来れたのだろう。

 

「そう言うなって、何とかなったろ?」

「頭突きでどうにかなると思ってた君の思考回路が怖いよ僕は」

 

 俺はチラッとはやてちゃんに視線を逸らしつつ

 

「……約束、だったからさ」

 

 そう穏やかに答えてみせた。

 

「………まあ、君らしいと言えば君らしいか。……無事でよかった」

「ああ、心配かけて悪かったよ。ありがとな、色々と」

 

 俺の言葉に頷くクロノ。そして切り替えるように表情をキリッとさせて俺達全員を見つめて言葉を紡ぐ。

 

「さて、時間がないので今の状況を簡潔に説明する」

 

 クロノから語られる説明を俺達は固唾を飲んで聞く。

 

「あそこの黒い澱み…闇の書の防衛プログラムが後数分で暴走を開始する、僕らはそれを何らかの方法で止めないといけない。停止のプランは2つだ」

 

 数分か、本当に時間がない。そしてそのプランの一つがクロノがカードのような物を取り出してそれを使っての極めて強力な氷結魔法で闇の書を停止させる方法。

 そしてもう一つが軌道上に待機してるアースラの超強力魔導砲、アルカンシェルで消滅させる方法、この二つだと語る。

 

「これ以外に他にいい手はないか?闇の書の主とその守護騎士に聞きたい」

 

 クロノ問いかけにまずシャマルが控えめに片手を軽く上げて発言する。シャマルが言うには氷結魔法の方法は難しいと言う。主のない防衛プログラムは魔力の塊みたいな物だからと言う、さらに凍結させてもコアがある限り再生機能は止まらない。主と繋がっている状態で主ごと凍結させれば停止出来たのかと俺は心の中で思いつつ、もしそうなったらと背中がヒヤリとした。

 

 さらにヴィータちゃんがアルカンシェルでの消滅方法も難を示した。仮に消滅する事は出来ても少なくても街への被害は海鳴市だけでは収まらないという。成程、アルカンシェルというやつはそこまでやばい威力なのか。

 

「そ、そんなにすごいの?」

「発動地点を中心に百数十キロの範囲の空間を歪曲させながら反応消滅起こさせる魔導砲……て言えば分かりやすいかな?」

 

 なのはちゃんの疑問にユーノがこれまた分かりやすく説明する。いや、待て待て。それはシャレにならんて。核爆弾じゃねぇんだぞ。

 

「まるで寝起きで機嫌が良くない時のなのはちゃんだな」

「ちょっとどう言う意味!?あと私寝起き悪くないもん!」

 

 久しぶりのなのはちゃんからのポカポカを笑いながら受け流す。まぁこうやって、頬を膨らませてポカポカしてくるなのはちゃんはアルカンシェル級に可愛らしいかもしれない。……言い過ぎかな?

 

「……出来れば僕も艦長も使いたくはない」

 

 そりゃそうだろが方法が他にないのが現状か。皆んな頭を捻って考える。守護騎士達もこんな事例は始めてだからいい案があるわけでもなさそうだ。アルフが頭を掻きむしってイライラするように

 

「皆んなで魔法を撃ってズバんと解決ってわけにはいかないのかい?」

 

 そんなアルフにユーノが苦笑いでそんな単純な話じゃないと語るが。さてさて、問題点を整理しよう。有効打はアルカンシェルという砲撃、しかしここで撃っては地球に甚大な被害が及ぶ。例え海に誘導しても海ですら影響は及ぶ。つまり地球では撃てない。それなら………地球で撃たなければいい。

 

「なぁ、魔法に全然詳しくない俺が言うのも何だけどよ。その暴走プログラムをどうにか軌道上……撃っても問題ないであろう宇宙で待機してるアースラの射線上に転移させる事とか出来ないのか?」

 

 俺の言葉にクロノがうーんと難しい顔をする。あんな巨大な物を転移させるには準備と防衛プログラムを守るバリアを破らなければならないと言う。

 

「それならそこで例の氷結魔法の出番だろ?さらに言うなら転移を成功させる確率を高める為に皆んなが魔法でバンバン攻撃して防衛プログラムの魔力の塊とやらを削る……そして転移させてアルカンシェルで蒸発させる……あれ、意外といい案?」

 

 なーんて、素人の俺が口出す話じゃないよなごめんと告げるが各々ハッとしたような顔をしていた。え、マジ?

 

「艦長っ!」

 

 クロノが通信を繋げる。

 

『何ともまぁ……流石2人の息子と言うか、流石慎司君というか……』

『あははは、リンディさんったらそう誉めないでよ』

 

 いや、若干皮肉の色もあったぞ多分。母さん喜んでんじゃないよ。

 

『ですが、計算上ではまた実現可能って言うのが怖いですね』

 

 エイミィさんまで何言ってるのよ。

 

「ほんなら……方針は慎司君の案で決まりかな?」

 

 はやてちゃんの言葉に俺以外全員頷く。おい、マジかよ。割と適当な意見だぞ。

 

「個人の力頼みでギャンブル性の高いプランだが……やる価値はあると判断した。アースラもその案に賛成だ」

 

 魔法でゴリ押しに削ってゴリ押しに転移させて、最大火力で蒸発させる……

 

「なら、発案者権限で作戦名を命名する。名付けて、『ゴリゴリ蒸発作戦』だ!」

「「「壊滅的なネーミングだ!」」」

 

 なのはちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃんから総ツッコミを受ける。ふむ、不服かね。ならば

 

「別名、『ゴリゴリなのはちゃん!!』」

「ホントにいい加減にしてね!?そろそろ本気で怒るよ!」

 

 ごめんごめん。とりあえず方針が決まったんなら俺のすべき事はただ一つ。

 

「んじゃ、今回は本当に役立たずの邪魔になっちまうから俺はアースラに避難するよ」

 

 俺の言葉に皆んな少し表情を落とす。皆が言いづらそうにしていたのは何となく感じていたから、ちゃんと俺が言わないといけない。今必要なのは優秀な魔法を使える魔導師達。そもそも本当は俺はお呼びじゃない状況で俺のわがままでずっと皆んなに心配をかけた。俺がいますべき最善は皆に心配をかけないように安全な所にいる事だ。

 

「エールは十分に送ったつもりだ。まあ、最初から俺は皆が失敗するなんて思ってないからさ……さっさと終わらせて帰ってきてくれよ。皆、俺にとって大事な友達だからさ……」

 

 背を向けて照れ臭さを隠すようにそう告げる。皆がどんな反応をしているかは分からないけど俺のその言葉を真剣に受け止めて各々頷いてくれていたと思う。

 

『慎司君、アースラで受け入れの準備は出来たよ。すぐに転移装置を起動するからね』

 

 通信越しで俺の言葉を聞いていたエイミィさんがすぐに準備をしてくれた。ありがとうございますと告げてからもう一度皆んなの方に向き直り俺は努めて笑顔を浮かべて

 

「んじゃ、後は任せた。暗くなる前に帰ってこいよー」

 

 そう言い残して俺は転移特有の独特の浮遊感に身を任せた。

 

 

 

 

 

「もう、夜だよ慎司……」

 

 と、フェイトはクスクスと可笑しそうに笑みを浮かべる。それに釣られてその場に残った荒瀬慎司の友人達も笑う。既に彼ら彼女らの心に荒瀬慎司のからのエールは刻まれた。言葉だけでなく荒瀬慎司が起こした行動によっても。

 誰かはその献身に胸を打たれた、誰かはその勇気に励まされた、誰かはその不屈の心を受け取った。

 

 眼下の黒い淀みを見下ろす。すぐにでも決戦が始まる。各々、拳を握りしめ自らの得物をしっかりと持つ。

 

「ほんなら……行こか」

 

 全ては自分達と荒瀬慎司の世界を守る為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイムショッカー!!」

「戻ってきて早々やかましいわよ」

 

 転移でアースラへと飛んだ俺を出迎えてくれたママンに軽く小突かれる。隣の父さんからはよくやったなと優しく頭を叩かれる。

 場所はブリッジ、以前にもいたアースラのクルーたちにエイミィさんとリンディさんの姿も。俺は一応会釈だけしておく。積もる話は後だ、これからアースラも作戦成功の為に行動を開始するだろうから。

 辺りを見渡すと何故か船内にグレアムさんとリーゼ姉妹の姿が、姉妹と目が合うと2人は気不味そうに目を背ける。………何か、あったんだろう。今はとりあえず声をかけるのはやめておいた。

 

「父さん、母さん、アースラの船内にトレーニング場があったよね?今すぐそこに一緒に来てくれないかな?」

 

 俺の言葉に父さんと母さんは少し驚きながら

 

「構わないが……見届けなくていいのか?」

 

 なのはちゃん達の事を言っているのはすぐに分かった。

 

「必要ないよ、失敗するだなんて思ってないし心配もしてない、皆んななら世界の一つや2つサクって守ってくれるさ」

 

 そうは言っているが全く心配してないなんて嘘だった。だけど信じている事も本当だ。皆んなにらきっとうまくやってくれる。だからこそ

 

「俺は皆んながたどり着かせてくれるであろう明るい未来を一片の曇りのないものにしたいんだ」

「お前……まさか」

「ああ、何となくだけど予想はつくよ……このままじゃ完全無欠のハッピーエンドにはならない。また、約束しちゃったからさ……」

 

 2人を救うって。はやてちゃんだけじゃない。あの人の事も俺は……救いたいんだ。

 

「相変わらず分の悪い賭けになるけど元々やろうとしていた事とは殆ど変わらない。そして、時間も待ってくれない。………父さんと母さんには申し訳ないけどやっぱり俺は……魔法を捨てるよ」

 

 皆んなが笑顔で明るい未来を歩んでいく為に。そして何より、俺がそうしたいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

 

 決着はついた。荒瀬慎司が信じた通り高町なのは達は見事に防御プログラムの破壊に成功、地球の破壊を防いだのだ。

 作戦の成功を喜ぶ束の間、直後に八神はやては疲労からか倒れてしまい全員すぐにアースラへと帰還。八神はやてはすぐに医務室に運ばれ守護騎士とはやてとのユニゾンを解き自由に動けるようになったリインフォースはそれに付き添った。

 

「あれ、慎司は?」

 

 はやてが運ばれるのを見送ってから船内を見渡すフェイトがそう声を上げる。本来なら真っ先にでも出迎えてくれそうだと思っていただけにその場にいなかったことはすぐに分かった。

 

「艦長、慎司は?」

「それが……慎司君は両親と一緒にいつの間にかどこかに行ってしまったのよ。クロノ達が転移で戻ってきた時とちょうど入れ替わりにどこかに転移してしまったわ」

 

 リンディのその言葉にクロノが難しい顔をする。何故だ、既に慎司の望みは叶った。この場から人知れずどこかへ行く理由が分からなかった。

 

「後で私が連絡してみるね、心配だし」

「頼むよ」

 

 なのはのその提案で一度その話題は区切りを付ける。

 

 

 

 翌日、はやての安否に問題は無いことが分かり各々がホッとした矢先。なのは達の耳に悲しい情報が入る。クロノは夜天の書の完成プログラム……リインフォースの進言があったとなのは達に語る。

 

 夜天の書の破壊をすべきとの。何故か、防御プログラムは破壊し問題は解決した筈だとなのはは口にするがリインフォースが言うに防御プログラムは破壊し今は穏やかな夜天の書も歪みそのものが治ったわけではなくすぐに新たに防御プログラムを作成し始めると述べたのだ。

 

 夜天の書の歪みは既に元の形の記録さえ消えて治す手段がなく、このまま放っておけば今度こそはやてが死ぬ。そうなる前に、防御プログラムが消えた今なら夜天の書を破壊するのは容易い。

 

 リインフォースは自身を破壊すべきだと申し出たという。本来ならその行為で守護騎士プログラムであるシグナム達も消滅してしまう筈だが、リィンフォースは事態を予見し防御プログラム破壊と同時に守護騎士プログラムを本体から解放し今は自律しているため消滅には巻き込まれないのが不幸中の幸いだった。

 

 そして、リインフォースは自らの破壊をなのはとフェイトにお願いしたいと。そして荒瀬慎司に見届けてほしいと。この3人に深く感謝しているリィンフォース故の指名だった。そして更に翌日、雪の日。地球の海鳴が見渡せる景色のいい丘の上。そこで、リィンフォースを空に返す日がやってくる。

 

 しかし、その日になっても八神はやては目覚める事はなく荒瀬慎司は消息不明のままだった。しかし、時間に猶予はない。防御プログラムの再生の前にケリをつけねばならず予定通り実行されようとしていた。辺りは雪で覆われ美しい白色で覆われるなか、悲しそうに杖を構える2人とそれを見届ける守護騎士の4人。礼と謝罪を述べてリインフォースは笑顔で………

 

「リインフォース!!皆んな!あかん!やめてぇ!!」

 

 涙ながらに必死に車椅子でそれを止めようと八神はやては息を切らしながら現れる。

 

「大丈夫や!ウチが抑えるから……こんなもん全然平気やから…そんな事せんでええ!」

「主はやて……よいのですよ」

 

 そんなはやての必死の訴えにリインフォースは穏やかに笑いながら首を振る。良いことなんかないと涙声で叫ぶはやてちゃんに対してリインフォースはあくまで穏やかに満ち足りた表情で

 

「随分と長い時を生きてきましたが、最後の最後で私は貴方に綺麗な名前と心を頂きました。………騎士達も貴方の側にいます、何も心配はありません」

「心配とかっそんなの!」

 

 2人の話は平行線だった。リインフォースははやてを守る最善を選ばせてくれと、はやては自分が絶対に何とかするから止めろと。しかしはやての言葉は現実問題それは危険な選択だ。今度こそはやては死に地球も滅んでしまう。リインフォースもなのはもフェイトも守護騎士達もそしてはやても理解はしていた。こうするしかないのだと。

 

「ずっと不幸でようやくこれから幸せに……幸せに生きられるのにこんなのってないやんか……」

「いいえ、私はもう世界で一番幸福な魔導書ですから……」

「後悔は…残るやろ?」

「後悔など………いえ、一つだけ後悔というよりはお願いが」

 

 リインフォースは笑みを浮かべて目を閉じる。思い出すような語る。

 

「最後に荒瀬慎司に伝えてください、私は貴方の勇気と行動のおかげで救われたと……笑って逝けると。彼とはもっと言葉を交わしたかったですが……それでも彼と主はやてが私に言ってくれた言葉で私の胸は満ち足りています。だから、荒瀬慎司には私の分まで幸せに前を向いて生きて欲しいと」

 

 それはリインフォースなりの荒瀬慎司への謝意とエールだった。ただ1人、慎司の心を覗き慎司の秘密を知っているリインフォースだからこそ出た言葉だった。

 

 術式が発動する。もう間も無くリインフォースは消滅を始めるだろう。

 

「(いいのかな?このままで)」

 

 なのはは思案する。本当にいいのかと。リインフォースの決意は固い。彼女のこの高潔な想いと決意を邪魔するのは侮辱となってしまう。けど、自分は荒瀬慎司と誓ったのだ。完全無欠のハッピーエンド、それを目指して生きていくと。リインフォースの消滅は完全無欠のハッピーエンドと言えるだろうか?

 

 そして、慎司がいない。リインフォースは慎司に看取って欲しいと願ったが肝心の慎司とは連絡がつかない。彼の携帯の残骸が決戦場となった街で発見されたのだ。あの街で走り回ってる時かそれより前かは分からない。しかし、現実問題連絡が取れていない。彼に同行した両親も連絡はつくが今は邪魔しないでくれの一点張りである。探そうと思えば探せたのだろうが時間がなかったのだ。

 せめて、慎司がいてくれればと内心思う。

 

「(慎司君……このままじゃ慎司君も後悔しか残らないよ。後悔しない為に頑張るって言ってたよね?だからきっと慎司君は……)」

 

 絶対に来る。

 

 

 

 

 

 瞬間、リインフォースを消滅させるため発動しようとしていた術式が弾ける。同時にそれに上書きされるように別の術式が近くで発現する。

 

「転移?」

 

 自身も使い手であるシャマルは即座にそれがなんの術式か把握した。全員予想外の事態に目を見開く。

 最初に現れたのはクロノ、神妙な面持ち現れる彼の眼は何だか疲れていた。次に現れたのはユーノとアルフ。2人もクロノと似たような様子だった。本来この3人はリインフォースの最後を見届けるのにあまり大人数では遠慮していたのだ。静かに穏やかに見送るための配慮だった。しかし、その3人現れた事になのは達は驚く。そして次に現れたのは人物達にも驚いた。

 

「貴方は……っ」

 

 そう声をあげたのはシグナム。転移の光に晒されながら現れたのはグレアムとその使い魔のリーゼ姉妹。守護騎士達とリインフォース、はやてとは浅からぬ因縁の相手の登場に更に動揺が走る。しかし、それらはどこからか聞こえた声によって更に驚愕に塗り替えられた。

 

「勝手な事言ってんじゃねぇよ、リインフォース」

 

 守護騎士達は目を見開き、フェイトはホッとしたように息を吐く。リインフォースはその声が聞くことができた事に胸を撫で下ろしはやては堪えられなくなっていた涙を流しながら縋るようにその声の主を探す。そして、高町なのはは

 

「……やっぱり……来た」

 

 期待を裏切らない親友に胸を熱くする。荒瀬信治郎と荒瀬ユリカ、そして2人に見守られるように一緒に姿を現したのは

 

「………俺だけじゃねぇよ。お前もこれから俺達と一緒に前を向いて生きてくんだ」

 

 最後に言葉を交わしたのほんの2日前。しかし彼の形相は変わっていた。いつぞやのように疲れた顔をしていた、薄く目の下に隈を作っている。しかし、何故だろうか、皆んな感じていた。彼の眼は今まで見てきた荒瀬慎司の中で一番強く頼り甲斐のあるの眼をしていた。

 

「荒瀬……慎司」

 

 リインフォースは今すぐにでも慎司と言葉を交わし、触れ合いたい。その衝動に駆られるように手を伸ばす。彼と交わした言葉は少ない、彼にとって自分はどういう風に思われるてるかなんて分かるわけもない。しかし、守護騎士達と同じ友情を荒瀬慎司に感じているリインフォースは最期の時に彼に会えた事に強く喜びを感じる。慎司は黙ったままリインフォースに近づきその手を取る。

 

「よかった……最後に貴方ともう一度会いたかった。もう、会うことは出来ないから……」

 

 そう語るリインフォースの言葉を否定するように握った手に少し力を込めて首を振る。

 

「最後じゃない……」

「荒瀬慎司?」

「最後じゃないよ、リインフォース。俺は言っただろ?はやてちゃんとお前を……リインフォースを2人まとめて助けさせろって」

 

 荒瀬慎司は認めない。言い方は悪いがあえて悪く言うのならば犠牲の先にある未来を。どんなのに不可能と思えるものでも彼は救いたいと助けたいと思ったらあらんかぎりの最善を尽くすと。

 

 彼はどこからか円柱状の片手でぎりぎり持てるくらいの大きさのポッドを取り出す。中には液体と共に浮かんでいる球体、それを彼はそのポッドから取り出す。野球ボールくらいの大きさのそれを。

 

「ようやくだ、ようやく俺はハッキリと言えるよ」

 

 本当ははやてちゃんに言おうとしていた言葉だった。しかし、対象が変わっただけでやるべき事は彼にとって変わらない。

 

 

 

 

 

 

 

「リインフォース、俺が俺の力で……あなたを助けにきた」

 

 

 荒瀬慎司はやって来た。友を助ける為、その友情に報いる為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 恐らく次回でエース編は最終回です!

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