時は遡る。まだ病院ではやてちゃん達と再会をする前。俺が偶然の重なりでシグナム達の秘密を知り勝手に一人で抱え込んで自暴自棄になっていた頃。家族に助けられ立ち上がった翌日。
「これは?」
俺が望む結末を迎えるための方法について提案があると父さんと母さんと対面する形で話をする。目の前には厳重に機械でロックされて中身が分からない円柱状の何か。それを急に見せられても理解は出来なかった。
「慎司、これの中身を見せる前にお前に話さなければいけないことがある」
「……どういうこと?」
話が全く見えてこない。俺は、はやてちゃんとシグナム達を助ける方法を話すのかと思ったがどうやら今は違うらしい。この目の前の円柱状の代物が重要なのは分かるが。
「以前、お前は生まれた時からリンカーコアがなくて魔法の才能に恵まれなかったと話をしたな?」
頷く。それがなんだというのか、今更魔法を使えないことをに対して2人を責める気持ちなんて最初からないしそれは仕方のない事だ。口惜しい時もないと言えば嘘になるが俺はその事実をとっくに受け入れている。
「すまない、実はそれは嘘なんだ」
「嘘?……」
「そうだ、お前は生まれた時……ちゃんとリンカーコアを持って生まれたんだ」
「なっ!?」
まさかの事実に開いた口が塞がらなかった。どういう事だ?俺はリンカーコアを持って生まれた?魔力という物を持って生まれた?そんな、バカな
「そんな馬鹿な、なら何で俺は魔法が使えない?今この体内にリンカーコアは存在しないんだ?」
以前にもアースラで検査を受けた時にリンカーコアの持たない一般人って判別されてた筈だ。という事は、生まれた時にはあったはずのリンカーコアは今の俺の体にはないって事なのか?
「何なんだ?ちゃんと説明してくれよ」
「そうカリカリしない、ちゃんと説明するから」
強くなりかけた口調を母さんに収められつつ2人はゆっくりと話始める。俺が、荒瀬慎司が生まれる約9年前……ミッドチルダの病院で母子ともに良好に生まれた俺には先程2人が言った通り2人の血を受け継ぐように立派なリンカーコアを持って生まれたそうだ。
2人が俺の生誕を喜ぶのも束の間、数日後の検査で俺の体に異常が発見されたそうだ。異常とは様々、生まれたばかりの赤ん坊ではありえない数値の血圧やら脈の動き。とにかく何もかもが正常じゃない状態に追い込まれ死の淵を彷徨ったそうだ。
原因はすぐに分かったと言う。リンカーコアだ。
「これが一般的なリンカーコアだ」
そう言って父さんはなのはちゃんが闇の書によってリンカーコアを体から露出させられ魔力を奪われた時の映像を見せられる。そのリンカーコアはビー玉よりももっと小さく、淡い光を放っていた。
「そしてこれが慎司のリンカーコアよ」
母さんが大事そうに包装していた円柱状の小さなポッドを俺に見せる。その中には何かの液体と共に野球ボールほどの大きさの球体が浮かんでいる。この球体が俺のリンカーコア?しばらく観察するとその球体は強い光を放ちながら輝き始める。そしてまたしばらくすると落ち着いたように輝きをなくし元に戻る。
「デカくない?俺のリンカーコア、あとなんかめっちゃ光ったし」
「だから貴方の体から摘出したのよ」
「お前の命を助ける為にな」
成程、話が読めて来たぞ。
2人曰く、俺のリンカーコアはかなり特殊なものだったそうでそのサイズだけではなく吸収する魔力とその濃密度と量が異常だったと言う。本来リンカーコアとは大気に混ざる魔力を少しずつ吸収しそれを体にとどめ行使すると言う。例外も色々とあるらしいがとにかくそう言う事らしい。
しかし、俺のリンカーコアはその吸収と言う行為が俺の体を蝕んだと言う。吸収する魔力の量、速度が余りにも常軌を逸した。それだけならまだ問題はなかったそうだがそれを問題たらしめたのは更に俺のリンカーコアだけが持つ特製だ。
本来リンカーコアは吸収し留めておける魔力の量はリンカーコアによって決まっておりそれらは個々のリンカーコアによって異なるらしい。そのリンカーコアの器に収まる魔力が体内にある分には問題ないのだが
「慎司のリンカーコアはね、魔力を無限に吸収し続けるのよ」
「無限に?」
無限って……そんなのありえるのか?
「無限っていうのは少し語弊があるけれどそう言っても過言じゃないのよ」
母さんが言うには俺のリンカーコアは吸収した魔力を増殖させ圧縮し留めてしまうと言う。その増殖と圧縮が問題で魔力というある意味実体の持たないエネルギーを無限に圧縮し続けるせいで体にどんどん魔力が溜まっていくという。そして圧縮した魔力はもちろん消える訳ではなく超高密度な魔力エネルギーとして体内存在し続ける。
その結果が体に異常を起こさせた事。薬も過剰摂取をすれば毒になるのと同じで常軌を逸した高密度な魔力無限に体に溜められては体にガタが来るのも当然だ。
「外部から魔力を放出させても魔力を増殖する速度が速すぎてとても追いつけない事が分かった俺達は仕方なくお前の体からリンカーコアを摘出したのさ」
摘出手術は成功し俺は健康体に戻りそこからすくすくと育ったという。後は俺の知ってる通りか……。前に地球に引っ越したのは魔力を持たない俺の為と言っていたが魔力を持てなかったことにもそんな理由があるなんて驚きだ。
「私はずっとそれから貴方にどうリンカーコアを戻せるか研究してきたのよ……本音を言えばね慎司、貴方に魔導師としての道も考えさせてあげたかったのよ」
「何でまた?」
「貴方のリンカーコアは特別過ぎるのよ。体に悪影響を及ぼす問題さえ解決すれば貴方は魔導師として大成する道が約束されたも同然の特別な力を持つ事が出来たから」
魔法の事は相変わらず専門外だが確かにそうだなと思った。無限の魔力の貯蔵に尽きる事など考えられない速度での魔力増殖。魔力切れの心配もなければその高密度な特別な魔力を使えばきっと誰にも出来ない凄い魔法も使えたかもしれない。
俺も自分の子供がそんな力に恵まれたのならそれに進ませるチャンスを与えたいと思うだろう。
「母さんはずっと……俺の為に頑張ってくれてたんだな」
「いいのよそれは、私が勝手にした事なんだから……」
多分、母さんが管理局の特別技術開発の局長を辞めたのも管理局の仕事とは関係ない俺のリンカーコアの研究に専念する為だったんだろう。今ならすぐに理由も察せられた。
「俺のリンカーコアについては分かったよ、それでその話とはやてちゃんを救う方法とどう繋がるんだ?」
「お前に分かりやすく説明するなら……そうだな。まず最大の問題点をまとめようか」
と一度闇の書についての厄介な部分に触れる。一つはその再生能力だろう、破壊しても破壊しても再生し続ける。そして暴走をして役目を終えても復活を果たす転生機能。この場合肝となるのはやはり再生能力か、暴走した後に起こる転生能力は暴走を防ぐ為に行動するからには転生機能の事は一度置いておいていいだろう。
「そうだ、再生能力。それをどうにかしなくちゃいけない」
闇の書が生み出す世界の滅亡の原因は暴走プログラムと呼ばれる代物だ、それが闇の書を狂わせ破壊の歴史を繰り返してきた。ならばその暴走プログラムを破壊しなければならない。再生をして蘇る暴走プログラムをだ。
「仮に、暴走プログラムをコアごと完全に破壊出来たとしてもユリカの予測だと闇の書は再び一から暴走プログラムそのものを作り出してしまうという結果が出たんだ」
「えっ?」
何だよそれ、八方塞がりじゃん。ていうか流石母さん、そんな事まで分かるんだ。母さんは実際の所はただの予測だけど自身が調べたデータと思考の結果そう結論づけたと言う。なら、尚更どうすればいいのか。
「そこでお前のリンカーコアを使うのさ」
「俺のリンカーコアを?」
「ああ、だがちゃんと説明する前に言っておくがこの方法を成功させてものさせなくても試したら最後………お前は本当に魔導師としての道は失われる」
その言葉に俺は息を呑んだ。それは……試すかどうかは俺の一存で決めていい事じゃないと思ったからだ。母さんは、管理局の自分の立場を捨ててまで俺に魔導師としての道を示す為にずっとずっと俺のリンカーコアを研究してくれていた。きっと寝る間を惜しんだ日も少なくなかっただろう、俺が想像しているよりもずっと頑張ってきてくれたんだろう。
すぐに、それでもいいと俺は言えずつい母さんを見る。
「……いいのよ、あなたがしたい事をしなさい。それが私の1番の望みなんだから」
「母さん……」
俺の望みは決まっている。
「………俺は、俺の力ではやてちゃんを救う。魔導師として歩む未来より皆んなと歩む未来を俺は望むよ。だから父さん、母さん、教えてくれ……どうすればいいのか」
とうに覚悟など出来ているのだから。父さんと母さんは満足そうに頷いた。
………………………。
「慎司君の……リンカーコア?それが?」
「そうさ、そしてこいつを使えばリインフォースを消滅させずに済ます事ができる」
雪色の景色に包まれながら俺は驚くなのはちゃんにそう返す。皆んなの前で取り出して見せた野球ボールくらいのリンカーコア。既にこれがどんなものかの説明は済ませた。俺がリンカーコアを持っていたという事実に皆んな一様に驚いていた。
「いったい、どうするつもりなんだ?」
シグナムの疑問に俺は簡単に説明する。
「こいつの特性はさっき言った通りだ」
俺は元々これで闇の書の暴走を起こさないようにしてはやてちゃんを助けるつもりだった。けど、事情が変わった。闇の書としての暴走プログラムは皆んなのおかげでコアごと破壊された、がそのプログラム自体を破綻した闇の書が再び作成してしまう。それを防ぐ為にリインフォースが消滅の道を選ぶ羽目になってしまった。ならば、
「このリンカーコアを破壊してその破片を夜天の書の……リインフォースの中に埋め込む。暴走プログラムを破壊し続ける術式を組んでな」
これはリインフォースの為に使う。そしてそれがその方法。再生し続けるのなら破壊し続ける。暴走プログラムが強大な取り返しのつかないほどに組み上げられる前の段階で破壊と再生を繰り返し続けるのだ。本来その術式を組んだところですぐに魔力切れを起こすのが関の山だが俺のリンカーコアならそれが可能だ。
しかし俺のリンカーコアを他人に埋め込むのは拒否反応を起こす可能性ご高いのとそもそもそれを埋め込んだら俺が赤ん坊の頃に味わった体へのダメージを起こしてしまう。
その為にリンカーコアを破壊しその一欠片……リンカーコアとしての機能を殆どなくしただ魔力をものすごい速度で供給し続ける物体と化させそれ自体に暴走プログラムにのみ反応する破壊魔法の術式を組ませる。無茶苦茶なやり方だがこれが1番の可能性が高い方法だ。
無茶苦茶なやり方な分不確定要素も多くそれを実行するにしても難易度が高すぎる。緻密な魔力コントロールが必要だからだ。さらに俺のリンカーコアだからそれに介入できるのは俺のみ。つまり全て俺がやらなければならない。更に一度壊して術式を組む為に俺は一度このリンカーコアを再び体内に戻さなくてはならない。といってもその為に血反吐を吐いて俺はずっと努力してきたんだ。
「そ、そんな事……させられない。荒瀬慎司、考え直すんだっ」
俺のその方法を即座に否定したのはリインフォースだった。俺の肩を掴んで、落ち着いた印象のイメージを崩すように少しばかり声を荒げて。
「貴方は……悔いていたではないか、魔法を使えない自分を……救えなかった命をっ。私は貴方の心を見たから分かる、貴方はずっと心の奥底で求めていたじゃないか!魔法の力を…特別な力を……それを犠牲にするなど…」
その言葉に即座に思い起こされたのはプレシア・テスタロッサの顔だった。フェイトちゃんも理解していたのか俺の方を見て少し悲しそうに表情を落とす。彼女の命を救えず悲しい結末を迎えたジュエルシードを巡ったあの闘いをきっと俺は時折思い出しては胸を締め付けられるような気持ちを味わうのだろう。
後悔は沢山した、悲嘆もした。励まされ、前を向いて歩き始めた今でもやはり後悔の念は消えない。願った、あの出来事から何度も願った。俺も魔法の力が欲しい、いらないと思っていた魔法の力が……誰かを助ける事の出来る魔法の力が欲しいと。
「あんたの言う通り俺は欲してるさ、魔法の力を求めてる」
「なら何故、今は貴方に体に害をなすものでもそう遠くない年月できっとそれは管理局の技術者が解決出来るはず。貴方はきっとその特別な力で多くの人を救える、貴方が願う後悔のない人生を歩める。それを捨てて私の為に使うなんて……」
「リインフォース、勘違いしてんじゃねぇよ」
リインフォースの言葉を遮るようにそう告げる。確かに俺は喉から手が出るほど欲しい。そのリンカーコアでなのはちゃんやフェイトちゃんのように誰かを助けたい。その想いに嘘はない。けど、けど……っ!
「俺が今一番欲してるのは魔導師として生きる俺の未来じゃない!お前と皆んなと一緒に生きていける未来なんだ!」
「どうして……どうして私にそこまで……私と貴方はまだ僅かな時間でしか言葉を交わした事がない……そのような関係の私にどうして」
「だからこそだろうが、まだ俺とリインフォースの間には何も始まってない。だからこそこれから始める為に一緒に生きて欲しいんだろうが。リインフォースは俺をどう思ってるか知らないけどさ……俺はリインフォースと友達になりたいと思ってる、シグナム達と一緒にさ漫画読んだりゲームしたり一緒にご飯を食べたりふざけあったりしたいって思うんだよ。だから……俺にお前を助けさせろ」
『私も……貴方と…』。あの時そう切なそうな顔で呟いていた彼女の顔を思い出す。あの言葉の真意は分からない……分からないけど俺に何かを求めての言葉だったのなら、俺はそれに応えたい。
俺の言葉に彼女の瞳から一筋の涙が溢れる。俺は続けた
「リインフォース、お前はどうしたい?もし何も憂うことなく貴方がはやてちゃんと守護騎士達と……皆んなと一緒に未来を歩める方法があるなら……そんな都合のいい事が出来るならリインフォースはどうしたい?」
優しい口調でそう問いかける。聞かなくても答えは分かる、周りのことなんて考えないでただ自分の本心はどうしたいのか?そう問われたのなら誰だって、自分にとって大切と思える人がいる人なら……そう思える心がある人なら
「……私も……未来を歩みたい…主はやてと荒瀬慎司と……皆んなと一緒に………」
「ああ、なら俺に任せろ。俺が……全部まるっと解決してやるよ」
はやてちゃんを見る。彼女は涙を拭い俺を真っ直ぐに見つめて……
「お願い……慎司君…リインフォースを、ウチの家族を……」
「ああ、安心しろよ。俺はやる時はやる男なんだぜ?」
「うん……よう知っとるよ」
守護騎士達を見る、彼女らは何も言わずに頷く。任せたと、そう言われてると感じた。フェイトちゃんを見る、彼女はエールを送るように笑顔を俺に向けた。なのはちゃんを見る
「……いいんだね?」
「ああ、俺ならそう決めるってなのはちゃんも分かってるだろ?」
「ふふ、まあね………がんばれ、慎司君」
「おうともさ」
ユーノもクロノも俺をみて各々反応してくれる。グレアムさんとリーゼ姉妹も頷いてくれる。父さんと気合を入れるように拳を打ちつけ合い母さんには
「ごめん、母さん。でも……今まで俺のリンカーコアをありがとう」
きっと母さんが頑張って解析してくれたから俺のリンカーコアの特性も理解できた今回の方法を取れる。だから、ありがとう。母さんは少し涙を浮かべて頷いた。さあ、覚悟は決まった。腹も括った。あとは……実行に移すのみ。
「………くっ!」
俺のリンカーコアを自身の胸に押し当てる。するとコアは眩い光を放ちながら徐々に俺の胸の中に入り込むように沈んでいく。実際に体内に押し込んで取り込んでいるのだ。
「ぐっ、ああああ!!」
コアを完全に体内に取り込むと同時に襲いかかる体への不快な感覚。まるで血管全てに異物を押し込まれるかのような激痛に脳が沸騰するかのように熱くなる。視界はぼやけ吐き気を催す。
「ぐっ!ううううっ!」
耐え切れず膝をつきそうになるが踏ん張ってそれに耐える。俺の様子が急変した事になのはちゃん達は驚きながら心配の声を上げる。しかし俺はそれを何とか笑顔を浮かべて心配いらないと呟く。
これでも最初に比べたらマシなもんだ。なんたって初めてじゃない、学校を休んでまで時間割いたのはこのリンカーコアが俺に与える体へのダメージに慣れる為だ。最初はすぐ意識を失った、次は10秒も持たず泡を拭いて倒れた。その次は記憶が朧げだが俺の悲惨な悲鳴で両親が慌てて止めた。
数えきれないほど何度もリンカーコアを体内に入れては取り出すを繰り返した。
克服できない事は最初から分かっていた。だから力業で慣れるしか無かった。まずはリンカーコアを体内に入れて俺は魔法を使わないといけないんだから。何度も何度も血反吐を吐いてようやくここまで耐えれるようになった。肉体がボロボロになって一度痩せこけたのはそれが原因だった。
「アリア……ロッテ……頼む」
俺の言葉に2人は頷いてから俺を心配するような面持ちのまま、各々俺の肩に手を置く。するとどうだろう、しづらかった呼吸が元に戻り少しだが痛みもやわらぐ。相変わらず頭はぐわんぐわんと揺れているような感覚が残っているがそれでもさっきより集中しやすくなった。
2人を連れてきたのはこれからリンカーコアに編み込む為の術式作るのに集中しやすくする事だ。コアが俺の体内蓄積されて体が壊されるのが原因ならば2人が俺の体から直接魔力を外へ放出させてくれてるのだ。魔力コントロールの上手さを買っての父さんの起用だった。
吸収する速度が早すぎる為それでも雀の涙程度の効果だがありがたい。
「荒瀬……慎司」
「待ってろよリインフォース、今お前を救ってみせる」
リインフォースに下手くそな笑顔を向けて俺は集中を開始する。今の俺には体内に魔力がある。一時的に魔導師となってるんだ、破壊魔法の術式自体は既に母さんが作ってくれた。あとは俺がそれをリンカーコアに編み込んでからはコアを破壊して効能を細分化させる。
それはリンカーコアの持ち主である俺にしかできない。それもリンカーコアに慣れる特訓と共にやって来た。しかし、成功は一度もしていない。そもそも本番でしか壊さない。万が一ちゃんと術式を編み込まずコアを破壊でもしてしまったらやり直しは聞かないだ。何とか俺自体の魔力コントロールの能力を高める事だけが本番までの準備だった。
「………はぁー」
息を吐き、目を閉じて集中高めて術式を体内コアに精密に編み込む。少しでもズレがあればコアを壊した後の破片に計算された必要な効能が残らない。それを込での母さんの計算だから1ミリのズレも何も許されない。
皆が固唾を飲んで見守る中俺は振り返る。コアを体内に入れた状態で長時間魔力コントロールの訓練を行った。胃の中ものをぶちまけ血を吐き、涙を流さなくながら何度も何度も。何日も、何日も。そういえば、前世で柔道を一番頑張っていた時もこんぐらい必死だった。
だから知っている、俺自身が知っている。自分の努力を、逃げずにやり続けた執念を。俺だけが知っている。だからこそ思う、失敗なんか……してやらないと。
「出来た………」
俺の呟きに両親が息を吐く。成功だ、あとは………リンカーコアを再び体内から取り出して、手に収める。それをあとは粉々に壊すだけだ。リーゼ姉妹はそれを見届けると俺から離れる。
そうだ壊すだけだ、それをリインフォースの体内に埋め込めば助けられる。けど今更になって手が震える。成功はしてる筈だ、心配いらない。けどもし俺の気づかないミスがあればもう助けられない。
「慎司君………」
いつの間にかなのはちゃんが俺の隣に立っていた。
「なのはちゃん………」
「大丈夫、慎司君だもん。きっと大丈夫だよ」
ああ、君はいつも……俺に勇気をくれる。掌に収めたリンカーコアを見る。そして告げる。
「ごめんな、ちゃんと使ってやれなくて……けど、ありがとな」
そうコアに告げて、破壊の術式の魔力を込める。瞬間光と共に砕け散る野球ボールほどの俺のリンカーコア。この破壊魔法はリインフォースの体内の暴走プログラムを破壊する為だけじゃなくリンカーコアそのものを砕くための術式でもあったのだ。砕け散ったコアの破片はそのまま地面に落ちる事なく母さんが魔力でそれらを大きく包んで回収する。その中から本来のリンカーコアよりもずっと小さいかけらを一つだけ摘んで俺に渡してくれる。
「大丈夫、この破片が最適の効能を残してるわ。プログラムを破壊し続ける術式に使う魔力とこのサイズで魔力を吸収する速度なら相殺できる。……成功よ慎司………それとこれ」
もう一つ、今度は前者よりももっともっと小さい破片とも呼び難い塵とも表現したくなるほどのコアの残骸を俺に渡す。
「完全に機能してないただの破片部分。魔力の吸収も出来なくなるほどの壊れた部分よ」
「ありがとう」
ここに来る前に俺が頼んだのだ。そのような残骸があるなら渡してほしいと。それを俺はさっきのように胸に沈める。元々体にあったものだからか機能を無くしても俺の体にはすぐに取り込まれた。
取り込んだ後も体の不調はない、ただコアの残骸を体に入れただけなんだから当たり前だ。せめてと俺は自分の体にリンカーコアの残骸でもいいからと体内に残したかったんだ。
両親が産んでくれたこの体……両親がくれたものを少しでもちゃんと残して置きたかったから。
「さ、ここからは私がやるわ。貴方はリインフォースさんにコアを」
母さんの言葉に頷く。このリンカーコアとも呼べなくなった代物なら俺じゃなくても扱いは可能だ。大きめの破片ならただ周囲の魔力を吸収無限に留め続けるだけの代物。そこから本来のように誰かがその魔力で魔法を使う事は出来ないが砕く前に編み込んだ破壊魔法なら魔力がある限り行使し続けると言った寸法だ。リインフォースの体に適応させるようにコントロールするのは母さんの役目だ。
リインフォースの前に立ち俺はその破片を彼女の胸元の前に持っていく。
「生きよう、これからも皆んなと一緒に」
「荒瀬慎司……」
「慎司でいいよ。長ったらしいだろ、その呼び方は」
笑みを浮かべてそう告げる。彼女は少し驚いたような顔をしつつも
「………慎司」
そう遠慮がちに呼んでくれる。
「私は……生きていていいのか?また、慎司に迷惑を……」
ちょっとムカついた俺は彼女に結構強めのデコピンを喰らわす。無反応気味におでこを抑えるだけのリアクションを取るリインフォースを真っ直ぐに見つめて俺は言った。
「ならこれから生きて迷惑かける以上に俺達を助けてくれよ。それなら俺達もまたリインフォースを助けるさ」
友達ってそう言うもんだぜ?と加えて告げる。
「………始めるぞ」
そう言って俺は彼女の手を握りながらコアのカケラを体内に取り込ませた。スゥーと抵抗なく体に入っていくカケラ。よし、流石にここまで粉々にすれば拒否反応も起きない。そもそもリンカーコアですら無くなった代物だから当然か。
などと考えるていると俺の頭に何かが流れ込んでくる。
これは……声?かどうかも分からないほど弱々しい何かぎ頭に響く。元気のいい声だった気もするし、なんだか尊大な声のような気もしたし、儚げな大人しい声だったような気もした、後……もう一つ大人しそうな優しい声も。リインフォース……夜天の書から俺に流れてきてるのか?
そんなよく分からない感覚が襲う、そして頭に浮かぶ四つの光。水色、赤、紫、赤紫。その光が助けを求めるように訴えかけてきてるようなそんな気がした。
分からない、感覚的なもので何が何だか分からなかったけど。俺は念じた。
行き場がないならとりあえず俺の中にでもいろよ。
そう念じるとその不思議な間隔は消えた。いったい何だったんだろうか。
「成功よ、慎司。いまリインフォースさんの体の中で破壊魔法が発動しているわ。ちょうど暴走プログラムを構成していた最中みたいでね、永遠にこれで破壊と再生を繰り返し続けているわ」
母さんの言葉で思考の海に浸る前に現実に戻る。そしてそう告げた母さんを皮切りに歓声が上がる。はやてちゃんとリインフォースは泣きながら抱き合う。それに加わる守護騎士達。満足げにため息をつくクロノにユーノにアルフ。憑き物が落ちたように微笑むグレアムさんにリーゼ姉妹。
フェイトちゃんとなのはちゃんは俺の近くまで寄って俺の頑張りを讃えてくれる。
「慎司?」
返事のない俺に様子がおかしいと思ったのかフェイトちゃんが声を上げる。それは俺の耳に届く事なくゆっくりと俺は近くにいた母さんに体を預ける形で崩れ落ちる。
「慎司君っ」
駆け寄る2人、しかしそれを母さんが手で制して口元に人差し指を当てて
「大丈夫、安心して寝ちゃっただけだから。この子ずっと休まずに頑張ってきたから。不安で眠れない日もあったみたいだし………今はゆっくり休ませてあげてくれる?」
母さんの言葉に静かに頷く2人。父さんは俺を背負って満足げによくやったなと小さく告げる。そして背負われた俺に向かって2人も呟いた。
「お疲れ様、慎司」
「カッコよかったよ、慎司君」
深い眠りについた俺にそれらの言葉も届く事はなかったが、それで十分報わられたと荒瀬慎司は思うだろう。
これこそが完全無欠のハッピーエンドなのだ
次回で確実にエース編の最後になります。彼の頑張りで迎えた先の世界をお見せできればと思います。そして、いつも誤字報告や閲覧、感想ありがとうございます。