エース編最終回です!
「おおおおおおおおっ!!」
バシンッ!と相手を畳に叩きつけるように投げる。技は内股、綺麗に弧を描いて相手は畳に沈む。
「一本!それまで!」
審判のその宣言と共に俺の道場の応援席からは歓声が上がる。その歓声を全身に浴びて喜びを噛みしめる。顔と態度にはそれを出さないようにしながら礼をして会場を後にする。今の試合は今日の大会の決勝戦。小学中学年の部に置いて優勝を決めた所だった。先生から反省点と労いの言葉を頂いてから応援席のみんなの元に。
今日は前回、神童に敗れたあの大会ぶりの出場だ。小規模ながらも参加人数の多い大会で中々にやりごたえのあった試合ばかりだった。もっともこの大会までの期間でサボっていた分をようやく元に戻せたというくらいだから俺としてはまだ努力が足りないと思っている。それに、今回の大会はあの神童は出場していない。
遅れた分を取り戻すのはよほど頑張らなければいけない。まぁ、後悔はないが。
「お疲れ様慎司君!優勝おめでとう!」
真っ先にタオルと飲み物を差し出しながらそう興奮気味に駆け寄ってきたのはなのはちゃん。相変わらず柔道の観戦が大好きだからかいつもこの調子だ。
「まあ、慎司なら当然よね」
「そう言ってアリサちゃん必死に応援してたね」
「す、すずかぁ!」
「あはは、3人ともサンキューな」
いつも応援来てくれる3人には感謝しかない。取り戻した日常を俺は噛みしめる。あの雪の日から2ヶ月が経った。最初の数週間は色々慌ただしかったが今は平穏な日常を歩めている。
アリサちゃんとすずかちゃんにはあの時魔法を見られてしまっていた事で全てをなのはちゃん達が打ち明けた。2人は驚きながらも理解を示してくれ、いつも通りに接してくれている。これでなのはちゃん達も隠し事がなくなって心も軽くなった事だろう。
高町家も全員参戦しているから全員お礼を言い回る、一応俺の両親にも。ひと段落した所でちょんちょんと俺の肩を誰かが叩く。
「ん?お、フェイトちゃん、応援ありがとな」
「うん、慎司もお疲れ様。初めて慎司が柔道をしている姿を見たけど、すごいカッコ良かったよ、惚れ惚れしちゃった」
と、いつもより若干テンション高めでそう言ってくれるフェイトちゃん。そんな風に言ってもらえるなら俺も頑張った甲斐があった。ともかく、また目先の目標に向けて頑張らないとな、せっかく応援に来てくれてるんだ……カッコいい姿を見て欲しいからな。
「あ、慎司…はやて達が来たよ」
フェイトちゃんの言葉で振り返るとこちらにゆっくりと向かってくるはやてちゃん達の姿が。未だ車椅子でシャマルに押してもらっているが暴走プログラムの影響は消えたため朝の麻痺も徐々に良くなり既に歩けるようになるためのリハビリを頑張っている。
続ければまた立って歩けるようになるのはほぼ間違いないと医者のお墨付きだ。
「お疲れ様慎司君、優勝おめでとう……見ていて楽しかったで」
「おう、はやてちゃんの応援の声バッチリ聞こえてきたぜ。相手選手に向かって「死に晒せーー!」って言い出した時はびっくりしたけど」
「あっはっは……捏造すんなやあほ」
軽く小突かれる。けど、はやてちゃんは楽しそうに笑っていた。
「見事だったぞ、慎司。私も感服した」
「まぁ………カッコよかったんじゃねーの?多分」
「そうね、カッコよかったわ。とっても」
「ワン……」
シグナム、ヴィータちゃん、シャマル、ザフィーラも各々優勝を讃えてくれる。ごめんザフィーラ、獣形態でも会場じゃ目立つから。しかも人がいるから喋れないからって鳴くフリやめろ。笑っちゃうから。てか、よく入れたなおい。
「………ああ……とてもいい試合だったと思う」
そして、最後に。長い白髪を靡かせながら遠慮がちに……リインフォースもそう言ってくれた。
「へへ、どうだったよ?初めて見た柔道は」
「そうだな、まだいまいちルールなどは理解できていないが……慎司の試合をこれからの未来で見れるのなら少し勉強しておくとするよ」
そう微笑んで告げるリインフォースに俺は満足げな顔をして「そうかい」と短く返事をする。そうだよ、そうやって未来の事を考えて……したい事をして、皆んなと一緒に生きていく。………それをリインフォースは歩める。こんなに嬉しい事はない。
「……そういえば昨日は定期検診だったよな?問題なかったか?」
「ああ、お前が私の為に使ってくれたカケラは私の中で今も私を助けてくれている」
胸を押さえながらそう言うリインフォース。俺のコアのカケラを使って暴走プログラムの作成を永遠に破壊し再生を繰り返させる事で実質暴走を無効化したこの方法。だが、成功させたはいいが今後も滞りなく安定してカケラ作動してくれるかどうかはやはり分からないことも多く俺の母さんがリインフォースを定期的に検査している。
といっても母さん曰く心配はいらないと胸張っていた。あの様子だと俺を安心させる為の嘘でも無さそう。定期検診そのものも管理局にリインフォースの不安定さ故の心配を解消する為の理由の方が大きいと言う。
確かに、正常にカケラが作動しなければ再びリインフォースは暴走し今度こそ取り返しがつかないだろう。管理局の心配はもっともだが流石技術開発の天才の母さん。データやら自身の知識を使って安全面とリインフォースが存在する事で管理局のメリットをプレゼンし父さんが水面下で上層部とも話をつけてくれたそう。その時にグレアムさんの力もあったとか無かったとか。3人にはちゃんと礼は済ませてあるが感謝は尽きない。
「慎司、貴方のおかげで今の私が在る。貴方が自分の魔法を捨てて私を助けてくれたおかげで主はやてと……大事な家族と共に未来へ進める今が在る。貴方の勇気と努力に敬意と感謝を……私はこの大恩を忘れない。ありがとう……慎司。かけがえのない友よ」
リインフォースの真っ直ぐな謝意に照れ臭くなりつつも俺はゲンナリとした。だってよ……
「そんな感じの言葉はもう何度も聞いたよ。十分伝わったからいいって、俺がそうしたかったからそう行動しただけなんだ、あんまりそうやって言われるのも照れるよ。それに言ったろ?もし申し訳なさを感じるってんならそれ以上に俺を助けてくれればそれでいいって」
「ああ、勿論だ。私は必ずいつかこの大恩を返してみせる、貴方の望みを叶えてみせる………私にして欲しいことは、何かないのか?」
「うーん……」
急にそう言われてもな……
「………とりあえずおっぱい触らせて?」
言った瞬間に冗談にはならない失言と気付く。やべ
「??別にそれくらい慎司なら構わないが」
「おいマジかよ……やめろ。胸を突き出すな、冗談だから。ごめん、ごめんて……はやてちゃんも引くなって冗談だから。ホントに。リインフォースもおい胸を近づけるな、まずは常識を学べバカタレ」
「そうだね、リインフォースさんもだけど慎司君も常識を学んだ方がいいね」
「急に後ろから現れないでなのはちゃん、冗談だからそんな顔すんなって。フェイトちゃんも、そんな胸を抑えながら距離取らなくていいから。やらないから、ジョークだから。太郎さんジョーク」
「……触らないのか?慎司」
「おいお前黙れ、もっとややこしくなるからぁ!」
皆の視線が痛かったでござる。まぁ俺の失言だし反省反省。………リインフォースの中で前世の夢でも見たからか親友同士のいつもの冗談が自然と出てしまっていた。皆んなも親友だけど年齢が……ねぇ。
せっかく優勝したけど皆んなからネチネチ変態と言われ続けたのはきっといつかいい思い出として語り続けるだろう。……………いや無理だわごめんなさい。
…………………………………。
「来てくれてたんですね、グレアムさん」
「君は……慎司君」
会場の人気のない誰も通らない場所で黄昏ていたグレアムさんとその足元で心配そうに見つめる猫二匹。アリアとロッテか。まあ、人気が少ない場所とはいえ流石に猫耳に尻尾がついてる人形態になるわけにもいかないもんな。
「父さんと母さんが3人の事を話してるのをたまたま聞いちゃったもんで、もしかしたらって思って」
「ははは、君は中々鋭いな」
コホンと咳払いをしてからグレアムさんは俺に向き合う。
「信治郎に誘われてね、君の試合を見に来たんだ。優勝おめでとう慎司君、私は柔道の事は良くは知らないが見事な試合だったよ」
「あ、ありがとうございます」
「………そんな事を聞きに来たんじゃない、そんな顔をしているね」
「い、いえそんな……」
まぁ、確かにその通りだけど。この人とリーゼ姉妹がした事は既に俺も聞いている。はやてちゃん達も既に耳に入れて和解をした筈だ。本人の胸の内は分からないが少なくともはやてちゃんは既に許している。そしてグレアムさんは最近、責任として管理局を自主退職と言う形で辞めた事も。
「………これから、どうするんですか?」
「故郷のイギリスでゆっくり余生を過ごすつもりだよ。はやて君の援助も彼女達がしっかりと自立するまでは続けるつもりだ。なんの罪滅しにもならんがね」
そう自虐的に笑うグレアムさんを悲しそうな目で見つめるリーゼ姉妹。
「しかし、慎司君は私達に怒っているかもしれないが……私は君に感謝している」
「俺に……感謝を?」
「ああ、私は非常な手段でしか大事な部下の仇を……闇の書を止めようとする事しか出来なかった。それは仕方ないと思った、割り切って考えていた。アリアとロッテにも辛い役目を負わせてしまった」
その言葉に2人はそんな事ないと首を振るがグレアムさんは構わずに続けた。
「だが君は違った。君は全てを救おうとしていた、それが不可能に近い手段と理解していても、それが自分にどれだけの負担を与えると分かっていても……君は諦めずに努力し続けてそしてやり遂げた。君のおかげで私は取り返しのつかない事をせずに済んだ、君のおかげで私は………救われたよ」
その言葉に余計俺は理解できなくなる。俺は別にグレアムさんに何かしたわけではないはずだ。ただ必死にはやてちゃんやリインフォースを救おうとしただけで。
「君は言ったね……」
『苦しみのない人生なんてない、生きている限りどんな選択をしても苦しみは付き纏う』
『けどそれは不幸じゃない、苦しみの先に幸福が待っているからだ』
と。
「その言葉を聞いて私はようやく理解したんだ。私は苦しみから逃げ続けていたと、クライドという大事な部下を失った悲しみとそれをみすみす見殺した己自身の無力さに」
だからどんな手を使っても闇の書を封印する。そう思っていたとグレアムさんは語った。
「だが君のおかげで私は苦しみと向き合う勇気を貰った。その先に幸福が待ってなくても私はクライドの事も……自分自身とも向き合うよ。君や君の両親のようにね」
そう笑うグレアムさんに俺は何だか切ない気持ちになる。前を向いてくれたのは嬉しい、しかし彼は恐らく自身を罰するという意味でも田舎に引っ込んで俺達と関わる事を極力しないつもりなのだろう。なるほど、父さんと母さんが心配そうに話していたのはその為か。なら、俺はいつも通り正直な気持ちをぶつける。
「……一つ、訂正して欲しいことがあります」
「む、何かな?」
「俺……怒ってないですよ、貴方が抱いた悔しさや怒りは貴方だけのものだ。その感情は否定できない。やり方は間違っていた、それは反省するべきだ。けど成し遂げようとしていた事は間違っていない」
闇の書の封印そのものはそもそも間違いじゃない。犠牲があるのがダメなだけで、それはこれ以上の悲しみを広げないためのグレアムさんなりの正義だったと俺は信じている。だから、今は怒りなどない。
「そうか……君は強いだけではなくて優しい心も持っているんだね。なのは君やフェイト君が君を信頼している理由がよく分かった気がするよ。慎司君と話していると少し不思議な気分なる。まるで、成熟した大人と話しているようだ」
「ははは、そうだとしても俺はただの小学生ですよ」
そう、俺こと荒瀬慎司は小学3年生のひよっこだ。山宮太郎じゃない。たとえ記憶にあっても、たとえどれだけ大切な前世でも、ここにいる俺は荒瀬慎司なんだ。それを俺はあの夢の中で再確認したんだ。
「……ですんで、たまにはあいさつにでも来させてくださいよ。そこの猫姉妹ともこれでお別れなんて寂しいですから」
俺の言葉に驚くように俺を見上げる猫2匹。ああもう煩わしい
「ここなら人は来ないだろうからさっさと人の姿になれよ、アリア……ロッテ」
そう言うと2匹の猫は目を閉じると薄らと光りながら人形態に変化する。俺の知ってるリーゼアリアとリードロッテの姿があった。2人は潮らしい態度で下を向く。元気な性格のロッテすらも。罪悪感を感じているのは一目瞭然だった。
「………慎司、お前は私達を許すのか?お前を裏切った私達を………」
「慎ちゃんに辛い思いをさせた私達に許される権利なんてないよ……」
2人はあの仮面の男に化けて暴走を促進させた。そしてその時、俺の目の前で友人であるシグナム達を消滅させて俺の心に傷を負わせた事を気にしているのだろう。現に俺は感情に任せてぶっ殺してやるなどと怒声をあげてしまった。それも相まって尚更罪悪感が募っている。
「………俺に辛い思いをさせたのは、仮面の男だよ、2人じゃない」
「そんなのは詭弁だよ慎ちゃん……」
「詭弁でもいいじゃないか、だって俺はこのまま2人と疎遠なんて嫌なんだ。このまま仲直りしないままなのは嫌なんだ」
「私たちは慎司にひどいことをした、なのにどうして私たちを切り捨てないんだ……」
そんなの……決まってんだろうが。
「確かに2人のした事は酷いことだったかもしれない。いや、酷いことだ。だけど俺は2人が酷い奴じゃないことを知ってる」
そう言いながら俺は懐から一枚の写真を取り出す。そこに映し出されてるのは泣いてる赤ん坊を愛おしそうにしながらも少し慌てた顔で抱くアリアとその赤ん坊をあやそうとあたふたしているロッテの姿。
「2人は昔生まれたばかりの俺を事情があって面倒見てた時期があったって言ってたよな?俺のリンカーコアのせいで父さんも母さんも俺に構える時間がなかった時だって何となく想像は出来た。だからもしかしたら写真の1枚くらいはって思って母さんに聞いたらさ一枚だけあったよ。2人が俺を大事にしてくれてる写真がさ」
その写真を見て2人は静かに涙を零す。その涙は悔恨の情か別の感情か。
「俺と再開した時ももう10年近く前だってのにすぐに俺だって気付いてくれたな。何となくだけど2人が俺を想ってくれてたのは伝わってたよ」
写真の2人を改めて見る。この2人が赤ん坊の俺の面倒を見てくれた。ただ知り合いの息子という俺を。短期間とはいえきっと大変だったろう、手はかからなかったとは言っていたがまだ俺が転生を自覚して意識を手に入れる前の事だ。相応の大変さはあったろう。
「……そんな2人だから俺は憎いだなんてホントに思ってもないし、ずっと繋がりを絶やさないでいて欲しいって思ってる。………あの時怒ったのだって2人って分かってなかったからだよ。元々2人に対しては怒ってない……。だからさ、そんな自分に厳しくしないで素直に俺の気持ちを受け取って欲しいんだ」
俺の言葉に2人は従順しつつもやはり首を振る。よほど、今回の事は俺に対しては申し訳なく思ってるんだろう。だから俺は、まだ伝わってない俺の気持ちを強くぶつけるために両手で2人を抱きしめる。身長差のせいでまるで姉に甘える弟のような情けない見た目だが……ある意味は正しいかもしれない。
「慎司…」
「慎ちゃん…」
『変な話だけどさ……弟が出来たみたいで楽しかったんだよね、慎ちゃんのお世話するの』
『だから構いたくなるのさ、慎司に迷惑だろうけど私達にとっては弟みたいなものだからね』
2人は前にそう言ってた。だから……そうだな。
「……一度しか言わないからな?よーく聞けよ」
抱きしめたまま静かに口を開く。照れくさいけど、やはり素直に正直に気持ちを打ち明ける。それが……2人をきっと安心させる、
「………俺、2人のこと大好きだからさ。こんなお別れはやなんだよ。だから……俺を置いて行かないでくれよ『アリア姉』、『ロッテ姉』」
俺の言葉に目を見開く2人、そして決壊したかのように静かに流していた涙が滝のように溢れ出てくる。俺を強く抱きしめ返す2人に俺も応える。そうやってしばらく抱き合ってから離れると2人は涙声で言った。
「本当に……立派になったね、慎ちゃん……」
「体も…心も……強くなった……慎司」
「へへ、2人のお陰でもあるよ」
そんな俺の声もまた軽く涙声だった。そしてずっと黙って見守っていたグレアムさんは満足そうに頷いてから2人を連れて会場を後にする。………きっとこの先も俺達の心は繋がったままだ。
今ならそう断言できた。
…………………………………。
その後、もはや恒例の高町家での俺の為のお疲れ様会。いつもと違うのは八神家の皆んなも総動員で参加している事だ。大人数だが翠屋を貸切で使わしてくれてるので問題ないみたい。
既にパパンと士郎さんは肩を抱き合いながら酒をラッパ飲みし、ママンと桃子さんは優雅にグラスを傾けながらも顔は赤かった。早いよペースが、暴れないでねホントに。
「ほら慎司君、遠慮しないで食べな」
「私も手伝ったんだからね〜、味には自信あるよ」
「うっす、いただきます。恭弥さん、美由希さん」
よそって貰ったご馳走を食らい尽くす。いや、ホントにうまいな。高町家の料理もホントにうまいしはやてちゃんの料理も負けずに美味かったなぁそういえば。俺の周り料理上手が多いのかも。ちなみにママンの料理も最高よ、だから怪しむように後ろからジッーと見ないでママン。
「…………慎司君にはまた感謝しないといけないな」
「ん?何のことでしょう?」
首を傾げる俺に笑顔を浮かべながら恭弥さんは続けた。
「もう慎司君も知ってるだろうけどこの間のクリスマスになのはの秘密……魔法の事を聞いたんだ。なのはが魔法で頑張って来れたのも慎司君がずっと助けてくれてた事もな」
そうなのである、あの騒動からすぐのクリスマスになのはちゃんはご家族に自分の魔法という秘密をリンディさんも交えて打ち明けたのだ。魔法の存在は高町家の知る所となり、これから魔法の道を本気で歩みたいと望むなのはちゃんの考えを聞かされた高町家の面々は驚きつつもなのはちゃんの望みなら頑張りなさいと背中を押してくれた事をなのはちゃんは嬉しそうに俺に語っていた。
「そうだね、慎司君と出会ってからなのはよく笑うようになってたし……いつも口を開けば慎司君が慎司君が〜ばっかりだしね」
美由希さんからの言葉に少々照れ臭くなる。懐かれるのは嬉しいが何ともまぁ……。ていうかそれ絶対俺に言っちゃ駄目でしょ。まぁ面白いからいいや。
「まぁ、恭弥さんと美由希さんがそう言うなら素直にお礼は受け取っておきますね。けど………」
少し離れた所でフェイトちゃん達を巻き込んで今日の試合の映像をいつものように楽しそうに見るなのはちゃんを見ながら俺はぼやく。
「きっと……俺がいなくたってなのはちゃんは頑張って成し遂げられる子ですよ……高町家の1人何ですから」
しっかり者の兄と姉と父と母の血を受け継いでるんだから。きっとそうに違いないさ。
「きゃー!ほら見てフェイトちゃんっ!今のが慎司君がよく使う内股って技なんだよ!すごいよねっ!すごいよねっ!相手の人ぐるんって回ってたよね!!」
「う、うん………なのは、それもう4回目だよ?」
フェイトちゃんのたじたじな様子にアリサちゃんはため息をすずかちゃんは苦笑いを浮かべていた。また始まった…と言わんばかりの表情である。
「…………くそがっ」
俺のぼやきに当の本人の兄と姉はただただ困ったように笑うだけだった。
1人みんなと少し離れた所でゆっくりしていると人影が。
「や、慎司君楽しんどる?」
「おう、飯も美味いしゲーム大会も白熱したし最高だぜ」
なのはちゃんをほっぺぐるんぐるんの刑で憂さ晴らしをした後、八神家と聖小メンツでゲーム大会に興じた。くじ引きの結果スマ○ラ大会となったのだがある1人を除いて皆んな熟練者だったので随分白熱していた。
そしてその1人はリインフォースで初戦で勝負事には厳しいなのはちゃんと当たりボコボコにされて涙目になっていたのはご愛嬌。ちなみにリインフォースが使っていたのはガオ○エンで理由を聞くと
『慎司に……似ているから』
と恥ずかしそうに言っていた。どう言う意味だコラ。
そして今は皆んな疲れてしまって各々ゆっくり飲み物でも飲みながら雑談中だ。
「何黄昏てるん?」
「んにゃ、そんなつもりはねえけどよ」
皆んなを眺めていたところを見られたのかはやてちゃんはそんな事を言ってきた。
「………慎司君が守り抜いたものなんやね、今の景色は」
「俺だけじゃないさ、皆んなが守り抜いたものだよ」
「けど、慎司君がいなかったらきっとうちら八神家はこの景色に無かったと思う」
シグナムもヴィータもシャマルもザフィーラもと次々と名前を挙げるはやてちゃん。
「リインフォースも……ウチも、皆んな慎司君に感謝してる。もう聞き飽きてしもたと思うけど皆んなありがとうの気持ちでいっぱいなんよ」
「それをわざわざ言いに?」
「いやぁ、ついでかな?ちょっと聞きたい事があるんよ」
ん?何だよ?と少し気怠げに俺は返事をする。
「……どうして、そんな無茶や苦しい思いをしてまで諦めないで頑張ってくれたん?」
はやてちゃんは勘違いしないでほしいと慌てて付け加えた。助けてくれた事には感謝してるし嬉しく思っていると。
「友達だから助けるのは当然……とかそう言う事じゃないんだよな?」
頷くはやてちゃん。振り返る、俺の原動力。そこまで頑張ったきっかけ。諦めてたまるかと思え続けた理由。
「……はやてちゃんがこのままだと死んじゃうって分かった時さ……俺みっともなく1人で泣いてたんだ」
1人で資料を翻訳してその事実が分かった時、何も出来ずにはやてちゃんを死なせてしまったその先を想像した時、俺は泣き叫んだ。そんなのは嫌だと……そんな未来は見たくないと。俺は前世で大切な人を失った悲しみを味わった事はなかった。大事な友人や両親との死別も離別もなかった。俺が誰よりも早く死んだから。
そして俺がどれだけ罪深い事をしたのかも理解してしまった。
「大事な友達を失いたくなかった。そんな気持ち味わいたくなかったんだ、それともう一つ……」
そうだ、失う気持ちを味わうなんてまっぴらごめんだ。けどそれ以上に
「はやてちゃんに、誰かを悲しませる後悔を抱かせたくなかったんだ」
「……どう言う事なん?」
上手く言葉に出来ないながらも俺は言葉を紡ぐ。前世の事は言えないけど、うまく伝えようと努力する。
「………そんなつもりじゃなくても自分のせいで自分の大切な人達が悲しんだり不幸になったりしたらさ……その人達だけじゃなくて自分自身もすごく苦しい事なんだよ。それは例え自分が死んだ後も苦しみとして残り続ける……と思うんだ。そんな永遠の苦しみと後悔をはやてちゃんにさせたくなかったんだ」
はやてちゃんにとっては突拍子もない意味不明な理由だろう。けど俺が知っている、その苦しみも後悔もこの第二の生で一生背負い込まなければならない事だ。自分が死んでも誰にも影響を及ばさない人なんて存在しない。
だからせめて人生をしっかりと全うしてから人は死ぬべき何だと俺は思っている。……諦めることも、見捨てる事もしちゃいけないって思ったんだ。
「……まるで自分がそれを味わってるみたいな言い方やね」
「……………………」
無茶苦茶な俺の理由にもはやてちゃんは真剣な目と声でそう言ってきた。その指摘に俺は何も言えない。
「ま、ええわ。聞きたい事は聞けたし……ごめんな慎司君、でもどうしても慎司君がどう言うつもりでそこまでしてくれたんか知っておくべきと思ったんよ私は」
「……どうしてだよ?」
「………慎司君がそう言う気持ちでウチらを助けてくれたんやったら私達も今度は同じ気持ちで慎司君を助けたいんよ。……私は、八神はやては荒瀬慎司君に後悔をさせない為に……いつか私達が慎司君を助けるよ」
そう笑顔を浮かべるはやてちゃんは何だか輝いて見える。彼女はずっと孤独だった、足も動かず、家族もいない家で1人で過ごす日々。だがとある日彼女は家族と呼べる存在と出会えた。幸せな日々は続き彼女は笑顔を浮かべて幸せな未来を想像して止まなかった。
友人も出来た、他にはもう何もいらないと本気で思っていた。しかし未来に待っていたの悲劇の予兆と悲しみの連鎖。体は徐々におかしくなり死ぬ事を何度も想像した。しかし、悲劇はみんなの力で祓われ待っていたのは可能性のある未来。それから幸せの未来を掴むのかどうかはこれからの彼女次第だ。
そんな運命に振り回されながらも彼女の笑顔は輝いていたままだった。なんて事はない、彼女は元々強い子だった。俺なんかいなくてもきっとこの事件はこの子の頑張りで解決していただろう。
「……ああ、期待してるよ」
けど俺はそう答えた。卑屈になるのはとはまた違う。俺の行動にそうやって感謝してくれているのなら素直にその気持ちは受け取っておきたかった。車椅子の上の彼女の足を見る。こんなに笑っていてもきっと今も辛いリハビリを頑張ってる事だろう彼女に俺は
「足治ったらさ……俺が教えてやるよ、外を思いっきり走り回る楽しさを」
「ホンマ?ほな楽しみにしとるわ……慎司君は言った事を全部守ってくれる頑張り屋さんやから」
そう照れたように言う彼女に俺は任せとけと胸を叩いて告げるのであった。
………………………………。
パーティーも終わり、皆んなそれぞれ楽しさの余韻を残しながら帰っていった。俺の両親も既に帰路についたが何となく余韻が冷めなくて俺は近くの公園で星を眺めてたそがれていた。
「頑張ったよな……俺」
そう呟く。皆んなを振り回しちゃっただけな気もするけど結果的にリインフォースを救う事が出来た。その事実は俺の胸を熱くさせ誇らしさが包む。無駄じゃなかった。俺の頑張りは無駄じゃなかった、そう思える事が幸せに感じていた。
「すごく頑張ったよ、慎司君は」
ふと後ろから聞き覚えしかない声。振り向けば、ニッコリと笑顔を浮かべているなのはちゃん。「隣、座るね?」と返事を待たずに隣に腰掛ける。
「もう夜だぜ?こんな時間に抜け出してきて大丈夫なの?」
「にゃはは、バレたら怒られちゃうから内緒だよ?」
んなら何でわざわざここに?と、問うてみるとなのはちゃんは俺と一緒に星を見ながら
「何となく……慎司君が居そうだなって思って」
なるほど、エスパーか。将来はユリゲラーを名乗るといい、高町・ユリゲラー・なのは。悪くない。
「慎司君こそ、こんな時間にこんな所でどうしたの?」
「ユリゲラーなのはを待ってたのさ」
「ユリゲラーなのはっ!?」
意味わかんないよ〜っと困った顔をするなのはちゃんに俺は、何となくそんな気分だったからだよと答える。理由なんてない、こんな風にボッーとしたくなるのも人間だろうて。
「………慎司君は、ちゃんと有言実行したんだね」
「何の事だ?」
「『完全無欠のハッピーエンド』……私と一緒に頑張ろうって宣言したの覚えてるでしょ?」
「……まぁな、その為に頑張ったんだ」
プレシアを助ける事が出来なかったあの時立てた誓い。遠回りな事をした気もしたけど果たす事が出来てよかった。そしてこれからも俺はそれを目指し続ける。皆んなが笑って未来を進める明日を築いてその日々を全力で俺が皆んなを楽しませるのだ。そしてそれを俺も楽しむ。そんな日常を送りたいのである。
「私も慎司君に負けないくらい頑張る。……尊敬する慎司君に負けないくらい……ね?」
「俺なんか尊敬してたら碌な事にならねぇぞ?」
「たとえば?」
「ピーマンが食べれなくなる」
「それ慎司君じゃん」
「ジャガイモにするぞこの野郎!」
「沸点が訳わかんないよ!」
そう言い合って2人で笑う。そういえばいつも何かあったらなのはちゃんと2人で笑い合ってる気がする。
「……頑張るのはいいけどほどほどにしておけよ?」
「ううん、いっぱいいっぱい頑張るって決めたもん」
「……そうかい」
ま、頑張り屋さんのなのはちゃんらしくていいか。ちょっと心配だけど。
「そういえば慎司君」
「ん?」
思い出したかのようにハッとするなのはちゃん。
「少し気になってたんだけど、慎司君がリインフォースさんに捕まった時どんな夢見てたの?フェイトちゃんのお話は聞いたんだけど慎司君からは聞いてなかったなぁって思って」
戻ってきた時の慎司君、すごく顔つきが変わって元気になってたから気になって……と付け加えるなのはちゃんに俺は遠く見ながら笑みを浮かべ答える。
「………別に、遠い親友達に背中を押されただけだよ」
そう満足げに答える俺になのはちゃんは首を傾げではてなマークを頭に浮かべるだけだった。
…………俺は元気にやってるよ、優也……葉月。願わくばそんな俺の想いが2人に届きますように。
…………………………。
「あれ?優也?」
とある地球、とある場所のお墓の前で知っている顔を見つけた1人の女性はその名前をつい呼ぶ。優也と呼ばれた男性は
「葉月……」
と驚くような表情を浮かべる。女性も男性の前にあるお墓の前まで行き2人で手を合わせて祈る。そんな2人の左手の薬指には同じ指輪が着けられていた。
「……急に出かけるなんて言ってどこいったのかと思ったらここにきてたんだね」
「葉月も来るとは思わなかったけどな……」
2人は毎年、この墓の主の命日にここを訪れる。しかし、この日はその命日でもなければ何かの節目でもなかった。だからお互いにこの場所にいる事に驚いた。
「何かさ……夢の中で太郎に会った気がしてさ」
「優也も?実は私も何だ」
2人して驚いた。全くの偶然だろうが何かに惹かれたように2人はこの場所に来た事になる。
「あんまし覚えてないんだけどね?夢の中で俺は元気にやってるって言ってたような気がした」
「俺も同じだよ、死んでるくせに元気ってなんだって思ったけどな」
男性の言葉に2人で笑い合う。そして墓を見る、ほかの墓石と比べて目立った汚れがないのはきっと彼の両親が足げに通ってる証だろう。
「………太郎、私達が結婚したって聞いたら驚いたんだろうね」
「……かもな。んで、すごく全力で祝ってくれてたと思う」
2人でつい瞳に涙を浮かべた。親友を失った心の傷は深い。今もたまに感傷的に思い出し涙をこぼす事もある。しかし、涙を浮かべつつも今の2人には笑顔があった。
「全く、死んでも夢の中でも人騒がせな奴だな」
「ホントだよね……ふふ」
なぜか2人は笑えていた。夢の中で何を見たか聞いたか、殆どは覚えてないはずだったけど。それでも、2人は笑みを浮かべて山宮太郎の顔を思い出す。
そんな自分達を笑ってみてくれているような気がした。そう思えたのだった。
高山優也、最中葉月、そして……
というわけでエース編もこれで終わりです。いや、時間かかってしまいました。ここまで根気よく読み続けてくれた読者さん、誤字を丁寧にしてしてくれた方々、感想、評価をしてくれた方々皆さんに感謝を。
さて、次回から幕間を挟んでからの空白期編となります。マテリアルズの話ではないのであしからず。ここまで付き合ってくれた皆様に改めて感謝を。
よろしければエース編の感想をお聞かせてかれればと思います。本当にありがとうございました!