転生しても楽しむ心は忘れずに   作:オカケン

4 / 75

 第一話にて重大な誤字を発見。パパンセリフで

「旦那さんが退院するまでの一時的とはいえずっと1人にしておくのも……勿論桃子さんが悪いと言っているのですが」

 これじゃめちゃくちゃ桃子さん攻めてる感じに。正しくは

「旦那さんが退院するまでの一時的とはいえずっと1人にしておくのも……勿論桃子さんが悪いと言っているわけではないのですが」

 うん、全然違うね。印象全然違うよこれじゃ。以降気をつけます。メッセでで誤字指摘してくれた方ありがとうございます。第一話の方でも修正しておきます


前世ではなく今世として

 

 

 

 

 

 

 アリサちゃん、すずかちゃんと友達になってから半年ほど経ち、俺たちはすっかり仲良しになったと思う。なのはちゃんと遊ぶ日常にまんますずかちゃんとアリサちゃんが参加したような感じだった。

 そこからの日常は俺に再び彩を与えた。楽しい日々を送った。

 

「つーわけで!オレ、参上!!」

 

 休み時間になのはちゃん達がいる教室に茶化しにいくのは日常茶飯事となっていた。3人とも同じクラスなので俺的には全クラス回らなくて済むのでありがたい。

 

「うるさいわね、もっと静かにきなさいよ」

「オレ!!参上!!!」

「だああ!ボリュームあげるなー!」

 

 とかいうアリサちゃんの声のボリュームも大きくなる。これぞ孔明の罠なり。

 

「慎司君、おはよう」

「すずかちゃん、おはおは」

 

 ちなみにすずかちゃんは早くも俺のうざ絡みをスルーするという高等テクを身につけていい感じに捌いてる。それはそれでいいと思う俺ちゃんは気にしない。無視できない時に突っ込んでくれるしね。

 

「あんたねぇ、休み時間毎回毎回うちのクラスに来てるけど暇なの?クラスに友達いないの?」

「…………………」

「ちょっ、黙らないでよ」

「…………………………」

「…………ご、ごめん……でも!わ、私達がいるし……」

 

 ガラガラと教室の扉が開く音が響く。

 

「おーい慎司、次移動教室に変更だと」

「おう、わざわざありがとなー」

「気にすんなって友達だろ〜」

 

 そのまま自分の教室に戻る我がクラスメイトのみつるくん。

 

「…………で?何だっけ?ごめんよく聞いてなかったわ〜」

「殺す!」

 

 わあわあとするアリサちゃんを落ち着いてと止めるなのはちゃんとすずかちゃん。実は2人と友達になったのがきっかけで俺も変に斜に構える事を止める事が出来た。今まで実年齢という俺の秘密に申し訳なさがあって一歩引いてクラスメイトに接してきたがいつの間にかあまり気にしなくなっていた。

 我ながら調子のいい話だけどお陰でクラスの子も友達と呼べる子は増えた。普段絡んでる事が多いのはこの3人なのだがそれでも前より全然良好な関係だ。

 

「はっはっは、落ち着けよバーニング」

「バニングスだって言ってるでしょ!」

「慎司君!火に油を注がないで!」

「アリサちゃんも落ち着いてー!」

 

 朝からカオスですな。さてま、アリサちゃんはなのはほど許容範囲は広くないのでこの辺りで揶揄うのはやめておこう。本気で怒らせるのは本意じゃない。

 

「そそ、聞きたい事あったんだよ。今日の放課後アリサちゃんとすずかちゃん時間ある?」

「え?別に平気だけど」

「私も、今日は習い事もないから大丈夫」

 

 よしよし、なら好都合だ。

 

「慎司君、私には聞いてくれないの?」

「なのはちゃんはどうせ暇だろー」

「ひどい!?」

「だから強制な」

「うぅ、別に平気だけどさ……」

 

 これで全員大丈夫だな。なら、憂いはない。

 

「なれば、3人が良かったら今日うちに来ねえか?」

 

 本日は我が家にご招待であります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………。

 

 

 

 

 

 放課後、アリサちゃんとすずかちゃんは正式にお家の了承をもらって学校から直接我が家へ向かう。

 

「いやー、悪いね。うちの両親が2人の話したら会わせろ会わせろうるさくてなー」

 

 未だなのはちゃん以外に家に友達を招待した事なかった現状。今日はパパンもお仕事休みで家にいるのでいい機会だからと誘ってみてはどうかと思ったで候。今日はうちで夕食を一緒にする予定である。

 

「なのはちゃんは幼稚園の頃から慎司君と一緒だったんだっけ?」

「そうだよー、だから慎司君のご両親とも顔見知りなんだ」

「慎司の両親ってどんな人なんだろ……想像つかない……」

 

 そのアリサの言葉になのはちゃんがご両親はとっても良い人たちだよーとアリサの疑問に答えていた。失礼な、俺がまるで変みたいな言い草だ。

 

「あんたはどう考えても変人の類じゃない」

「変身!?カメンライド!ディケイド!」

「そういうとこよ」

 

 そういうとこか。なら仕方ない、俺は変人なのだろう。まぁ確かに割と素だしなこの性格。何て話してる内に我が家へ到着。

 

「ちーす!三河屋でーす」

「帰れ」

「学校から帰ってきた息子に言う一言それってひどくないママン」

 

 ていうか帰ってんだよもう。

 

「あら〜、なのはちゃん久しぶりね」

「ご無沙汰してます!」

 

 そういえばなのはちゃん連れてくるのも数ヶ月前の高町家とのホームパーティ以来か。ここの所、外でアリサちゃんとすずかちゃん巻き込んで遊んでばっかだったしな。俺も今度翠屋に顔出そう。

 

「で、貴方達がアリサちゃんとすずかちゃん?」

「は、はじめまして……すずかです」

「アリサです……ご招待いただきありがとうございます」

 

 お上品に挨拶しちゃって、そういえば2人ともお金持ちのお嬢様だったか。すっかり忘れてた。

 

「馬鹿息子からいつも話は聞いてるわよ、いつも遊んでくれてありがとうね」

 

 いえいえと恐縮する2人。ママン恥ずかしいからもうやめて。もう部屋に案内させろよ。

 

「それじゃ上がって頂戴。狭い家だけど遠慮しないで寛いでね」

 

 いやいや立派な一軒家よママン。パパンよく頑張ってくれてるよ。

 などとパパンに想いを馳せつつ3人のお邪魔しますを合図に部屋に案内する。途中パパンに遭遇して同じようなやり取りをしてようやく部屋に到着。

 

「夕飯まで時間あるしなんかしようぜ」

「………い、意外に部屋は綺麗なのね」

「そりゃ自分の部屋くらいちゃんと掃除するさね」

「慎司君って結構意外な一面多いよね」

 

 アリサちゃんとすずかちゃんが割と失礼なのはいいとして慣れ親んでるなのはちゃんはゴソゴソと俺のゲーム箱を漁りだす。エロ本はまだ買ってないからいくら漁られようが構わないが。

 

「じゃあこれ!久しぶりにこれやろう!」

 

 と言って取り出したのは人生ゲーム。スマブラと言い出すかと思いきやそこらへんはアリサちゃんやすずかちゃんに気を使ったらしい。

 

「人生……ゲーム?」

「初めて見た」

 

 2人して首を傾げる。まぁ人生ゲームを知らないっていうのも別におかしな話ではないだろう。

 

「一般的なボードゲームだよ。運の要素が強いゲームだから初心者でも対等に出来るしこれにするか」

 

 2人も興味あるらしく頷いてる。なれば準備して始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………。

 

 

 

 

 

「ルーレットを回して……5!えっと………うへぇ」

 

 マスを確認するとなのはちゃんはため息をついた。どれどれと確認すると。

 

「『しつこい借金取りを殴って怪我をさせてしまい借金取りを怒らせた。120万慰謝料として支払う』って何してんだよなのはちゃん……」

「わ、私がしたわけじゃないし……」

「でもアリサちゃんとのファーストコンタクトは肉体言語だったでしょ?」

「それとこれとは話が違う!」

 

 とやかく言いつつも手元のお金、勿論人生ゲーム用のお金120万を支払うなのはちゃん。ちなみに今のトップはアリサちゃん次にすずかちゃん。なのはちゃんは最下位で俺は3位だ。そろそろここで逆転したい所だ。

 

「んじゃ俺の番だ。………6マス進んで……よしっ、結婚マス!」

 

 人生ゲーム定番の結婚マス。ルーレットを回してその数字に応じて参加プレイヤー全員から金を摂取できるマスだ。ただし、この人生ゲームは少し普通のと違うところがある。2〜9の数字を出せばその10000倍の金額を徴収できる。しかし、1を出した場合は少し特殊な徴収の仕方となるのだ。ちなみにアリサちゃんとすずかちゃんは既にこの結婚マスを通過して対応した数字の金額を徴収している。

 

「行くぜ!運命のダイスロール!」

「それルーレットだよ」

 

 すずかちゃんのツッコミが響きつつ固唾を飲んでルーレット見守る4人。徐々に動きを止め指し示した数字は………。

 

「げっ」

 

 俺の引きつった笑みと共に言葉が漏れる。ルーレットが示した数字は1。他の数値とは違う特殊な徴収方法。

 

「ふっふっふ、確か1は……『各プレイヤーが自由な金額を渡す』だったわよねぇ」

 

 ここぞとばかりにニヤリとほくそ笑むアリサちゃん。そう、アリサちゃんの言う通り1を出してしまうと現実の結婚式のご祝儀と同じでお気持ちの金額になってしまうのだ。これが本当の結婚なら感激してお祝いを多く包んでくれる何て人も中にはいるだろう。

 しかし、これは人生ゲームという勝つか負けるかの世界。わざわざ敵に塩を送るなんて事はしない。

 

「ほら、結婚おめでとう」

 

 と言いながらこのゲーム最低金額の千円を手渡してくるアリサちゃん。クソがっ、覚えておけよ。

 

「はい、私からはこれくらい」

 

 とすずかちゃんからは1万円。情けだろう、せめて本来のルーレットの数値分はとの事だ。嬉しいような情けないような気分になる。それでも楽しそうに微笑むんだから何も言えない。

 

「ふふん、慎司君!私からこれくらいね!」

 

 と言って千円を手渡そうとするなのはちゃん。すごい満面な笑顔である。日頃のお返しと言わんばかりだ。屈辱だ。最大級屈辱、いやただでは転ばん。

 

「まってなのはちゃん。取引しようぜ」

「取引?」

 

 ちょっとリスキーだがなのはちゃんを乗らせるのは得意だ。

 

「ここで……そうだな、10万!10万くれたら…」

「だ、ダメだよ!もうその手には乗らないもん!なのはからは千円だけです!」

「まぁ聞けって……もしここで10万くれたら……なのはちゃんが結婚マス通過した時にルーレットで1を出したら……その時の俺の所持金全部やる」

 

 ピクッとなのはちゃんが反応する。

 

「ほ、ホント?また騙そうとしてない?」

「ホントホント、ちゃんと結婚マスでルーレットの1を出したらそん時の俺の人生ゲームの所持金全部やるから。嘘つかないのは知ってるだろ?」

 

 うーんと唸るなのはちゃん。ここまでハッキリと言ったら俺自身も逃げ場はない。実はなのはちゃん、最下位は最下位でもダントツの最下位なのである。所持金も俺とアリサちゃんにすずかちゃんと比べたら雀の涙。優勝レース何て論外だしここから巻き返すのは割と厳しい。

 少しリスキーな取引だけどうまくハマれば一発で優勝レースに参加できるのだ。なのはちゃんは割と勝利に貪欲な性格。つまり

 

「分かった!約束だからね!」

 

 と笑顔で10万円を手渡してきた。計画通り!ニヤリと影で笑う俺。やれやれと首を振るアリサちゃんにすずかちゃん。確かに今回は俺もなのはちゃんが1を出せばちゃんと約束通り全額を出す腹づもりだ。しかし、1が出る確率は単純に9分の1。俺に有利な賭けだ。

 なのはちゃんが9を出したとしても俺は1万得と言う事になる。俺に分がある取引だが逆転の芽をチラつかせれば面白いくらいに乗ってくれた。甘い、甘いぜなのはちゃん!

 だがそういう時こそ確率の低い事が起こる物で

 

「やった!1だ!」

「うそーん」

 

 なのはちゃん結婚マスでピシャリと1を出す。これには3人もびっくり。アリサちゃんとすずかちゃんから千円ずつもらい、俺にニンマリとした笑顔で言う。

 

「はい慎司君、全額ちょーだい」

「クソがっ」

「口悪いよっ!?」

 

 あぁ、全部なのはちゃんに持ってかれてしまった。あんな取引しなきゃよかったと大後悔。見事にすっからかん。

 

「アリサちゃんやすずかちゃんや……お金恵んで下さい………」

「やなこった」

「それはルール違反だし……」

 

 でしょうねー。無論それから大逆転なんて展開はなく最下位………とはならずまさかの3位。なのはちゃんが見事に自爆していき借金を積み重ね俺を下回ると言う大暴落っぷりを見せた。

 

「ねぇねぇ?今どんな気持ち?全額奪った相手からも負けるってどんな気もちぃ?」

「ぐやじぃぃいいい!」

 

 今回は危なかったけど、いやぁ……ある意味流石なのはちゃんとも言えるだろう。ちなみに順当にアリサちゃんが1番に、すずかちゃんは2番となった。

 

「すずかちゃんとアリサちゃんほとんどマイナスイベント起きなかったよね。どんな運してんだよ。俺にも分けろよ」

「慎司君よりなのはちゃんに分けてあげた方がいいと思う」

「確かに、ほとんど借金イベントだったわね」

 

 すずかちゃんの言にアリサちゃんも同意する。ある意味それがなのはちゃんとも言えなくない。

 

「一体何人の借金取りを殴ったんだか………」

「だからそれは私じゃないってば〜」

 

 今回はいつもより凹んでるなのはちゃんであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 夕飯後の後片付けを手伝い終わりお家でまったりタイム。既になのはちゃん達はアリサちゃんのお迎えの車で帰宅した。一緒でのお夕飯は大変楽しゅうございました。

 

「ママンありがとう。今日は楽しかったのである」

「はいはい、またいつでも呼んであげなさいな」

「うむ、苦しゅうない」

「何であんたが上からなのよ」

 

 ちなみにママンもママンで楽しんでたのは口を閉ざしておこう。お片付けも終えたしやる事は……ねぇな。パパンとテレビでも見ようかね。

 

「パパン、お茶いる?」

「いるー」

「うぃーす」

 

 2人分のお茶を用意してリビングまで持っていく。パパンに手渡して2人でお茶をすすりながらテレビを見入る。

 

「まさか慎司になのはちゃん以外に友達が出来るとはなぁ」

「そんな変ですかい?」

「変ていうか………意外だったかな」

 

 お前あんまり他人に心を開かないしと1人でごちるパパン。流石私の父親、お見通しのようで。

 

「まぁ、でも最近は楽しそうに学校の事話してくれるし……充実してるみたいで良かったよ」

「そうですな…確かに充実はしてまっせ」

 

 アリサちゃんとすずかちゃんという親友が出来た。クラスにも親しい仲はたくさん出来た。だから毎日は楽しい、環境が変わればこうも学校という印象は変わるものだ。前世の学生時代はそんな事考えなかったけどそれなりに楽しい学校生活を送れてた俺は幸運だったんだろう。

 

「パパンの学生時代はどうだったん?」

「お前と同じさ、楽しい学生生活だったよ。ママとも出会ったのも学生の時でな」

「ああそこからはいいよ。2人の馴れ初めは耳にタコが出来るくらい聞いたから」

 

 イチャイチャ夫婦め。高町家にも負けてないよホント。こっちが恥ずかしくなるくらいだ。俺に気にせず子作りでもしてて下さい。

 何て雑談に耽っていると一仕事終えたママンもお茶を持ってリビングに参戦。3人でまったりテレビを見る。何かのバラエティ番組なのか科学が重要視されてる現代において、魔法というモノを題材にしていた。

 

「魔法ねぇ………」

 

 ついついぼやく。テレビでは占いだの未来予知などを魔法だ何だと騒いで盛り上がっている。下らないと一蹴する気はないがそういうのは全く信じてないからか退屈に感じた。

 ぼやいた俺に対して両親がピクッと反応したがあまり気にしなかった。

 

「慎司は魔法の存在を信じてるか?」

 

 父の突然の問答に少し驚きつつも俺はすぐに答えた。

 

「んにゃ、信じてないよ。あったら面白そうだとは思うけど魔法なんてこの地球上には存在しないさ」

 

 流石に実年齢20を超えてる俺にはそんな妄想じみたことを信じるのは無理だ。

 

「そ、そうか………じゃあ仮に魔法が存在するとしたらいわゆる………魔法使いになりたいとか思うか?」

「おっ……お父さん!」

 

 パパンの妄想じみた質問にさらに面くらった俺を差し置いてママンが過剰にその質問に反応した。どうしたんだろう?ママンはチラッと俺見てから平静を装って咳払いを一つ。

 

「ごめん…なんでもないから」

「あっそう……」

 

 少し気になったがまぁ気にしないでおこう。あんまり困らせるそうな事はしたくないのでな。それではパパンの質問に答えるとしよう。

 

 

「うーん、どうだろうね……。多分、ならないんじゃないかな……」

「それはまたどうして?」

 

 意外そうな顔をするパパン。確かになれるものならなってみたいと思う人の方が多いと思う。けど俺の場合は違う。

 

「魔法とか仮に使えたとしても、俺は普通に人生を歩みたいんだ。魔法使いになってすごい事を成すより、等身大な幸せを掴みたい。いい学校目指して、自分のやりたい事を見つけて……それを目指して……出来る事なら将来は良い奥さんを見つけて……みたいなそんな幸せが欲しいんだ」

 

 だってこれは……今の俺の人生は荒瀬慎司の人生というより『山宮太郎』の新しい人生という感覚の方が強い。荒瀬慎司を産んでくれた2人にはとても言えないけど……本心ではそう思ってしまっている。

 前世で歩めなかった……それを目指してる最中で死んだ俺は……前の人生では出来なかったその等身大を掴みたいんだ。それでようやく、『山宮太郎』は浮かばれる気がするんだ。前世で遺して来てしまった俺の大切な人達に顔向け出来る気がするんだ。前世での俺の両親や……大切な友人達に……。

 

「まだそこまで人生設計決めるのは早いだろ。まだ小学1年生のクセにな〜」

 

 俺の答えを聞いて笑ってそういうパパン。まあ確かに小学生が考える事じゃないな。それっぽい事言うのも考えたけどこの両親の前では本当の自分を見せると決めている。それが前世という枷がある俺からのせめての誠意のつもりだ。

 

「それじゃ、何か今やりたい事とかないのか?勉強も大事だけど色々経験するのも大切な事だぞ?」

「うーん……そうですなぁ……」

 

 やりたい事ねぇ、パッとは浮かばなかった。何かないかと情報を求めテレビを見やる。いつの間にか魔法云々番組は終わっていて別の番組が映し出されていた。そこに写っていたものを見て俺は魂が揺さぶられるような感覚に陥った。

 

「…………………」

 

 前世で後悔したことを、今世でしたくない。山宮太郎から荒瀬慎司に向けて再三自分に言い聞かせた言葉だ。なら、これも俺はやるべきだろう。いや、やりたいんだ。

 

「……………父さん…」

 

 俺はテレビを指差して口を開く。

 

「これ、始めたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………。

 

 

 

 

「それで柔道始めたんだー」

「まあなー」

 

 我が家でポチポチとなのはちゃん2人でカービィのエアライドをプレイ中。今日はアリサちゃんもすずかちゃんも習い事があって来れなかった。

 

「おっ、ハイドラのパーツ揃った」

「あ、いいなー」

「俺使わないから乗っていいよ」

「やった!」

 

 ルンルンとハイドラに向かうなのはちゃん。俺が近くでプラズマ最大チャージで待ち伏せているのも気付いてなかった。あ、来た来た。

 

「はいどーん!」

「あー!!」

 

 ひどいひどいとコントローラーを離さず俺の肩に頭突きしてくるなのはちゃん。いや気付けよ、分割画面なんだから。とはいえってもハイドラは無事で結局それには乗るなのはちゃんである。しかも意外と使いこなす。本当にゲーム上手くなったなぁ。

 

「慎司君が柔道かぁ……何でか分からないけど似合ってる感じがするんだよねー」

「何でまた?」

「うーん、分かんない!何となく」

 

 なんじゃそりゃ。

 

「でもでも、柔道着姿の慎司君すごいカッコいいよ」

「そりゃどうも」

 

 実は今も柔道着姿だ。この後練習だから先に着替えている。時間まではなのはちゃんと遊ぶのは最近の新しい日課になりつつある。

 

「なんて言ってるとほら油断した」

「あっ!私のハイドラが!?」

 

 パーツ集めたのは俺だけどまぁいいか。隙だらけだったから地道に大砲やらコピー能力やらで的確に攻撃を当てて見事に破壊。その瞬間シティトライアルは終了。何も乗り物になってない状態でトライアルを終えた場合、次の本番で乗り物はどうなるか言わずもがなだろう。

 続くゲームも散々な終わり方したなのはちゃんは頬を膨らませてポカポカしてくる。

 

「今回は別に俺悪くなくね?」

「でもなのはばっかり狙って来たじゃん!」

「そういうゲームだろうに」

「それでも〜!」

 

 まさに理不尽である。ゲームにおいてタイマンで俺に勝つのはいったいどれくらいかかる事やら。

 

「慎司君、まだ時間平気?」

「おう、まだ平気よ」

「じゃあもう一回!今度こそ負けないもん!」

「次はパーツ揃えてもやらんからな〜」

 

 とか言いつつ時間ギリギリまでいつも通り、なのはちゃんとの時間を楽しんだのである。こういう日常を大切に感じるのはやっぱり俺が一度死んだ経験をしてるからなのだろう。それならばこの後の柔道の練習もしっかりやろう。軽い気持ちで始めたわけじゃない。真剣な気持ちで俺は柔道を始めたのだから。

 一年半後に魔法少女となるなのはちゃんより一足先に俺は柔道家としての一歩を歩んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………。

 

 

 

 

「どういうつもりなのよ、全くヒヤヒヤしたわ」

 

 時は少し遡る。慎司が柔道を始めたいと言ったその日の深夜。慎司は既に睡眠中なのは確認した。

 

「悪かったよ、でもどうしても聴きたくなっちゃったんだ」

 

 というのも魔法云々の質問をした事だろう。ミッドチルダの魔導師だと言う事を隠している2人だが旦那の軽率な発言に妻は少し嘆息する。妙に鋭い所もある息子なのだから気をつけて欲しいと付け加えた。

 

「そりゃあ………私だって気にはなってたけど。いずれ話す事だから聞かなきゃいけない事だけどさ」

「だから安心したでしょ?慎司がああ言ってたんだから」

「考えが変わらない事を祈るわ」

 

 慎司は魔法使いにはならず普通の地球で言う人生を歩みたいと言った。小学1年生とは思えぬ発言だがうちの息子に至っては今更だろうと考える夫婦である。

 

「そうだね、慎司は………どうしても魔導師にはなれないからね」

「そうね……リンカーコアがないからどうしようもない」

 

 リンカーコアを持ち、管理局魔導師としてそれなりの地位を得ている2人から生まれた荒瀬慎司だったが何の因果かその才が慎司に遺伝する事は無かった。だからと言って2人が息子にがっかりしたとかそんな事は断じて無かったがそれでも息子がそれを聞いてショックを受けないか心配でもあった。しかし、今思えば慎司は気にしなさそうと言う気持ちもあるが話すのはまだ先の予定だ。

 

「まぁ、あんまり深刻に考える必要も無いみたいだから……この話はやめよう。万が一慎司に聞かれるのはまずい」

「………えぇ、分かったわ。私達ももう寝ましょう」

 

 そう言って寝室に入る2人。妻は寝床に着きながらも息子の事を考える。

 

「柔道を始めたいか………」

 

 すごい真剣な目付きで言ってきたのが印象的だった。しかしまぁ、息子がやりたいのだと言うのなら応援するのが親というものだ。

 

「頑張れ……慎司」

 

 最後にそう呟いて妻は目を閉じて意識を暗闇に投げ入れた。最愛の息子が柔道で活躍する姿を夢見ながら。寝顔は、何となく微笑んでるように見えた。

 

 

 

 

 

 

 





 これにて無印前……プロローグは終了であります。次回から時間が少し飛んで無印編に。柔道を始めた主人公ですがあくまで中心なのはリリカルなのはでありますので。柔道の描写は少なめになるかと。ちゃんと本編にも絡む日がくる(はず)のでそれまではおまけ程度と考えていただければ。

 感想、評価ありがとうございます。手に取ってくれた皆様もありがとうございます。暇つぶしにでもなれたら嬉しいです。次回もよろしくです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。