転生しても楽しむ心は忘れずに   作:オカケン

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 空白期編スタートです!


空白期編
日常と過去と


 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、夢を見ているなとすぐに分かった。次々と頭に浮かび上がる映像。それは過去の記憶、荒瀬慎司……としてではなく山宮太郎としての記憶。柔道着姿の高校生時代の俺が必死に練習をこなす日々。

 

 名門と呼ばれる学校ではなく、あくまで公立高校の柔道部に所属していた俺は並み居る強敵達に勝つ為に必死に努力をした。勝つ為に、負けない為に。部活を終えても強くなる為の努力と勝つ為の努力を続けた。1年、2年はその努力に報われず結果は乏しいままだったが最後の3年の代。俺は快進撃を始めた。

 

 春先の練習試合や小規模な試合も連戦全勝、今まで勝てなかった相手にも苦戦する事なく圧倒し結果を残し始めた。今の俺なら勝てる!夢であるインターハイも現実味を帯びていた。

 そして夏のインターハイ予選に臨んだ俺はそこでも快進撃を続けた。俺の県のインターハイ予選は全国屈指のレベル、そこで優勝出来ればインターハイの優勝も確実視されるほどだ。だから、どうしても勝ちたかった。高校最後の俺の柔道人生を賭けた試合、いつもよりも気合は入っていたし緊張もしていた。

 

 そして決勝まで勝ち上がり、相手は名門の中の名門のエースと呼ばれていた有名な選手。過去に一度だけ対戦したことがあるが手も足も出なかった。しかし今は違う、恐怖を振り払い俺は果敢に挑んだ。

 

 試合は互角、攻めて攻められ。ポイントを取り取られの繰り返し。暑さで意識が朦朧としても気力と意地が俺を動かし続けた。そして、試合は互角のまま本戦が終わる目前。誰もが延長戦かと思った時、俺は一本背負いを………

 

 

 

 

 試合終了のブザー共に響くガシャン!!という柔道には似つかわしくない音。ざわつく観客とチーム。目の前には………血を流した相手選手。

 

 

 

 違う、違う!わざとじゃない!

 

『この卑怯者!!』

 

 そんなつもりじゃなかった!!俺は正々堂々とした気持ちで!

 

『お前のせいだ!』

 

 だって、だって……こんな事になるなんてっ

 

『お前に柔道をやる資格はない』

 

 

 あ……………

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………くそがっ」

 

 久しぶりに、最悪の目覚めだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 平和な時間が長いとそのありがたみが薄れていくというが未だ何事も心配がない穏やかに日々を噛み締めている俺。闇の書時間から既に年月も経ち俺達は小学5年生となり季節は夏の終わり頃、数日で夏休みも終わり学校が再開されるのだが今俺は柔道の練習の帰り道。居残り練習をしすぎたせいか既に夜道だから急足で帰っていた。

 

 夏休みの間になのはちゃん達とも沢山の思い出を作ったと同時に沢山柔道の練習に励んだ。成長を感じてる自分を誇らしく思いつつも今頃管理局の仕事を頑張っているであろう3人の事を考えていた。

 

 去年の小学4年生に上がる頃と同時期になのはちゃんとはやてちゃんとフェイトちゃんは管理局に正式に入局した。はやてちゃんもリハビリを頑張り、今や何も問題なく歩く事も走る事も出来るまで回復したのだ。そんな3人は毎日の学校の忙しい合間を縫って既に管理局で必要な勉強や訓練を行いながら魔導師としての仕事をこなしている。

 

 ちゃんと働いた分のお給料までもらっており、小学生ながら社会人デビューを果たしたのである。だがその影響で一緒にいられる時間は少なくなってしまった、正直寂しい気持ちもあるが3人がそれぞれ自分のやりたい事に頑張っているのなら俺が柔道を応援してもらってるのと同じで俺も応援すべきだ。そんなこんなで色々と3人にとっては目まぐるしい変化であったろう。

 

「あり?なのはちゃん?」

 

 家の近くの景色が見え始めた頃にふと足を止める。うろうろしてるなのはちゃんを見つけたのだ。確か今日は管理局の方のお仕事で夜も向こうにいると聞いていたが……こんな所でどうしたのだろうか?

 

「へーい!そこのイカしたツインテール!略してカールさーん!」

「ふぇ?って慎司君?私カールじゃないよ!」

「そんな君にコーラをやろう」

「え?あ、ありがとう」

「中身は空だがな」

「ゴミだけ渡さないでくれる!?」

 

 とっ、たまたま近くにあったゴミ箱にポイっとしながらツッコむなのはちゃん。文句言いつつも育ちの良さを見せつけてくるのは流石ですな。

 

「んで?なのはちゃんはこんな所で1人で何してんだ?ちなみに俺は練習帰りだが」

「お疲れ様、私は管理局の仕事が早く終わったからちょっとお散歩してたんだ」

 

 夜に1人でか?危ないよなのはちゃん、魔導師っていてもまだ5年生のガキンチョなんだから。

 

「おうコラチビなの、一緒に家まで帰ろうぜ。荷物持たしてこき使ってやる」

「夜道は1人じゃ危ないから送ってくれるの?ありがとう慎司君」

「お主心強いな」

「慎司君のせいでね」

 

 そりゃごめんなさいね。あ、ちゃんと荷物は自分で持ちますよ勿論。とりあえず、もうそんな長い距離じゃないがなのはちゃんの家まで一緒に歩く。こういう時割と家同士が近いから助かりますね。道中他愛のない話をしながら帰路につく。

 

「知ってるか?ここら辺幽霊出るんだぜ?」

「え、そうなの?」

「ひじきジジイって言ってな」

「まさかひじきを投げてくるとか言わないよね?」

「いや、ワカメを投げてくる」

「それワカメおじいさんじゃなくて?」

「作り話なんだからそんなマジにツッコむなよ」

「知ってるよ、慎司君の口から出る話3割は冗談だもん」

「おいおい誤解を招くようなこと言うなよ、なのはちゃんに対してだけだろ」

「なおタチ悪いよ!」

 

 だって君が1番揶揄い甲斐があるから……なのはちゃんがいけないんだぜ?そんないじられレベルが高いのが。何て言ったら怒りそうなので口に出さないでいるとなのはちゃんの携帯がなる。なのはちゃんがポッケから取り出して確認するとすぐにしまって目つきが変わる。

 

「ごめん慎司君、私行かないと」

「え?どこに?まさか今から管理局の仕事か?」

「ちょっと緊急みたいなの!ここまで送ってくれてありがとね!」

 

 そう言ってすぐにセットアップすると空を舞ってどこかへ飛んでいってしまった。

 

「マジかよ管理局……」

 

 そういえば夏休み中はチャンスだからって普段よりお仕事頑張るつもりだってなのはちゃん言ってたっけ?けどまだ小学生の女の子にそんなに仕事させるか?……いや、地球とはきっと価値観が違うんだろうな。なのはちゃんくらいの子の年齢が魔導師として活動してるのは珍しいとリンディさんは言ってたけどあくまで珍しい止まりなんだろう。

 

 ちゃんと学ぶべき事を学びながら無理のないように管理局はしてくれるから心配いらないと以前俺がクロノに忠言したした時に言われた。と言ってもなのはちゃんが望んで、率先して頑張りたくて引き受けてるんだろうなぁ………。頑張るのはいい事だけど無理や無茶やスポーツも仕事も逆効果だぜなのはちゃん。………まあ、なのはちゃんならちゃんとそれくらいの線引きは出来るか。

 気にしすぎるのもなのはちゃんに失礼だな。

 

「………さっさと帰るか」

 

 1人取り残された形になった俺はなんだか寂しく感じて足早に歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日経って夏休みも終わり新学期が始まった聖小、始業式を終えて訳1ヶ月ぶりに見慣れた5年生の教室でいつものメンバーで談笑して先生を待つ。

 

「あれ?慎司君ちょっと肌が焼けちゃってるね?」

 

 と、俺の腕を見て気づいたように声を上げるすずかちゃん。ああ、確かに結構焼けちゃってるなこれ。柔道は室内スポーツだから太陽に晒される事はないんだけど夏という体力強化が図れるこの期間を利用して海辺の砂浜ダッシュとか外でも頻繁にトレーニングしてたからなぁ………それをそのまま伝えるのもなんだか嫌だったのでボケることにした。

 

「これか?ちょっと海で知り合ったイカしたちゃんねぇとザギンでシースー食いに行ったらお金なくてイカ二貫しか食えなくてよぉ、イカしたちゃんねぇだけになぁ!!」

「なのはちゃん、お願い」

「お外でいっぱい柔道のトレーニングしてたんだって」

「そうなんだ、流石慎司君だね。えらい」

「おい、流れるようにボケを潰すな」

 

 そんな調子で来られたら俺の存在意義がなくなるだろうが。ボケ1つ考えるのだって大変なんだぞ。俺は君達を涙目になるまで抱腹絶倒させてやるのが密かなる目標なんだぞ!

 

「そういえば、慎司はもう少しで試合なんだっけ?」

 

 俺達の会話を聞いてフェイトちゃんがそう切り出す。

 

「そうだよ、今週末にあるんだ。中規模くらいの大会だけどね」

「それならまた私達が応援にいってあげるから絶対勝ちなさいよね」

「ははは、いつもありがとなアリサちゃん」

 

 素直に礼を言うとふんっとしながらも笑顔を浮かべるアリサちゃん。本当にこの子からツンを取ったら学校中の男子からモテにモテまくるよなぁ……気も使えるし友達思いだし、少々暴力的なのが全て台無しにしてるけど。

 

「バーニングアリサちゃんの応援があれば百人力だぜ」

「ふんっ!!」

「掌底っ!?」

 

 いい所に入ってしまったので机に突っ伏して悶える。そう言う所だよホントに。

 

「慎司君、そう言う所だよ?」

 

 なのはちゃんにそうたしなめられてしまった。解せぬ。

 

「そんな軽口叩けるなら当日は余裕そうね」

 

 プンスカするアリサちゃんを苦笑しながらなだめるのはフェイトちゃんだった。

 

「まあまあアリサ、慎司大丈夫?保健室行く?」

「………慰めてほしい」

「うん、おいで」

「ぬうおおおおおお!!フェイトちゃああああああん!!」

「あ、そんな感じで来られるのはちょっとごめん無理」

 

 かわされたっ!?なら……

 

「すずかちゃああん!」

「…………」

「……には、その笑顔の圧が怖いからやめとくね」

 

 ちょっとふざけて飛びかかろうとしただけやないか。ぴえん。もうこうなったら最後の手段だ、

 

「なのはちゃん……」

「え、私?嫌だよ」

「…………」

「そんな悲しそうな顔されても嫌なものは……」

「…………………」

「嫌……だか…ら……」

「……………………………」

「…………………………おいで慎司君」

 

 ガバッと横からなのはちゃんの肩に顔を埋めておーいおいおいと泣いてみる。なのはちゃんはなんだかんだ母性溢れる表情をしながらよしよしと頭を撫でてくれる。

 

「………元気出た?」

「ちぇ、やっぱりフェイトちゃんより包容力が足りないなぁ」

「いい加減叩くよっ!?」

 

 ポカポカ、ポカポカ。相変わらず痛くない、そしてそんな様子にホカホカしつつなのはちゃんにいつものほっぺびろーん。お、今日はいつもよりなんかモチモチしてる。相変わらずすべすべだなぁ、すべすべだからもっとびろーんと伸ばしてやれ。

 

「いひゃいっ、いひゃいよひんじふんっ!」

「筋肉?……プロテインを所望かな?」

「ふぃらないよ!!」

 

 あーだこーだとやってる俺達を尻目にアリサちゃんは優しいため息をつきながら

 

「あの2人、大人になってもあんな感じの事してそうね」

「してるんじゃないかな〜、なのはちゃんと慎司君は」

「………私ももっと伸びるかな…」

 

 と、自身のほっぺを軽く引っ張って遊んでいる所を俺に見られたフェイトちゃんも餌食になるのだった。

 ちなみになんだかんだいつもの事だからほっぺを引っ張られてる時の2人はなんだか楽しそうだった。やはりドMか。

 

 

 

 

 

 

 

…………………………。

 

 

 

 

「そらなのはちゃんも怒るわ、慎司君はなのはちゃんには厳しいなぁ」

「厳しいってか弄りやすいんだよなのはちゃん、ちゃんと反応も基本的にはしてくれるから」

 

 メイドの話になると目が死んでるけどね。仕方ないね。

 

 所変わって放課後、柔道の練習の帰りにそのまま八神家に直行してお邪魔して夕飯を頂いている。いい加減食費をについて相談したが。もう定期的に八神家にご馳走になってしまっているが最早今更な気がする。いつも楽しませてもらってるからそのお礼だとのことと、グレアムさんからの援助も過剰なくらいだから気にするなとまた言われてしまった。

 なら俺がお返しできるのは八神家に笑顔を届ける事だ、という訳で

 

「なあザフィーラ、モフモフさせてくれ」

 

 無言で俺のほうへとことこ近づいて立ち止まるザフィーラ。軽く撫でる、おお……相変わらずいい毛並みだ。顔を埋めたいくらいだけど中身いかつい筋肉お兄さんだから絵面的にちょっと嫌なのでそれは我慢。

 

「いつも触らせてくれてありがとな〜、そんなザフィーラにお礼があるんだ」

 

 そう言ってカバンから取り出したのは一冊の本。中身は知能ある人間みたいなもんだし狼形態のままでも読めんだろ。タイトルは

 

『番犬の心得』

 

 それを見たザフィーラ以外の守護騎士はとても微妙な顔をしていた。俺もふざけ90%のつもりで渡した。しかし、ザフィーラは怒る事なくそれを器用に口に咥えて部屋の隅に移動して腰を落ち着かせながら前足で器用に本をめくって読み始める。ちなみに尻尾を左右に楽しそうに揺れていた。

 それでいいのか夜天の書の守護騎士さんよ。

 

 と、ここでもボケを潰されるのかとげんなりしていると自然と目がはやてちゃんの首にかけられているものに目がいく。

 

「それ、まだ特に反応はないのか?」

「うん……まぁ気長に待つよ」

 

 そうはやてちゃんが優しい笑顔を向けるそれはリィンフォースが残そうとしていた自身のカケラ。リィンフォースはあの雪の日に覚悟を持って自身の消滅を望み、残していくはやてちゃんを今後支えてくれる者として自身のカケラを用意していたのだ。

 

『ゆっくり時間をかけて周囲の魔力を貯めて、いずれは私のように自我を持った存在として生まれるんだ………私の代わりと思って用意したんだが慎司のお陰で私は今ここにいる。しかし、せっかく新たに生まれるもう1人の私だ……よければ生まれさせてあげたい』

 

 そう語っていたリィンフォースの言葉に応える形で今そのカケラは首飾りにしてはやてちゃんが持っている。まあ、気長に新しい八神家の仲間を待つとしよう。

 

「ほんならそろそろ片付けよか」

 

 そう言って食卓から食器やらを持ちながらはやてちゃんは淀みなく、不安定さもなく両足でスッと立ち上がる。

 

「……どしたん慎司君?そんなジロジロ見て」

「いや、すっかり歩けるようになったなって思ってさ」

「……そやね、今でも信じられへんよ。ずっとこのままやと思っとったから」

 

 そう笑顔で語るはやてちゃん。足は完全に元に戻り外で全力疾走しても問題ないくらいにまで回復した。普通に暮らしていけば落ちた足の体力も元に戻っていくだろうと医者の太鼓判つきだ。

 

「初めて慎司君の前で松葉杖無しで歩いて見せた時は大変やったね」

「そ、そうだっけか?」

「とぼけたらあかんよ?」

 

 苦笑を浮かべながらも楽しそうにはやてちゃんは思い出す。

 

 

『あ、歩いた!はやてちゃんが歩いたぞおぉ!!』

『うん、うん!慎司君のお陰や、ありがとうな』

『うおおおおおおお!!よかったなぁ!よかったなぁ!こうなりゃ祭だ!あ、そこお方聞いてください!この関西腐れ外道さんが歩けるように』

『ちょお、恥ずかしいからやめてぇな!ていうか関西腐れ外道ってなんやねん!!』

 

 

 

 

「て感じで騒いでたくせにー」

 

 ジト目でそう告げてくるはやてちゃんに俺はアハハと弱々しく笑うしかなかった。あれからはやてちゃんを無理矢理背負いながらご近所さんに走り回りながら報告してなんなら街の放送局ジャックして海鳴市全体に報告したからね。うん、ごめんね。テンションあがっちゃってね、その後守護騎士達にやりすぎだと笑顔で説教で食らってたんだけどね。皆んなも嬉しかったくせに。

 

「お前は本当に行動がメチャクチャなやつだな」

「そんな俺にフォーリンラブなんだろシグナム」

「気持ちが悪いな」

「普通に酷えな」

 

 お前この間ヒロ○カの続き待ちきれずにコンビニでジャ○プを買うか葛藤してたの知ってんだぞ。結局本誌は進みすぎだから泣く泣く我慢してたのも含めてぶち撒けるぞこら。

 

「慎司、そういえば近く柔道の試合があると言っていなかったか?」

 

 今までずっと隅っこ本を読んでたリィンフォースが思い出したかのように本を閉じてそう問うてくる。あいつ何読んでたんだ?…………ボボ○ーボボーボボ?……マジかあいつあの作品を部屋の隅っこで表情ひとつ変えず読んでんのかよ。怖いわ。あ、でも表情出ないだけで心は大爆笑なのかも。あいつはもうクールの皮を被ったただの天然だからな。

 

 とと、んな事考えてる場合じゃない。リィンフォースの問いに答える。

 

「おうよ、今週末に試合あるからそれに向けて頑張ってるところだぜい」

「そうか、よかった。ちょうど全部揃えられたんだ」

「揃えた?何をだよ?」

「これだ」

 

 そう言ってリィンフォースは色々かちゃかちゃとと自分の体に身につけ始めた。まず鉢巻、白い鉢巻になのだが真ん中にでかい文字で『一撃必殺』と書かれている。両手にはライブ会場とかでよく見るサイリウム(赤色)。背中には戦国時代の武将が掲げてそうな旗。旗には『弱肉強食』と血文字のようなデザインで。胴には襷、そこにもデカデカと文字が………『慎司LOVE』。

 

「お前……まさかその格好で会場内で応援するつもりか?」

「そうだが?」

 

 首をこてんとさせて何か問題が?みたいな顔をするリィンフォース。問題しかねぇよ色々間違ってるし混ざってるよ投げ飛ばすぞこのヤロウ。

 

「お前天然もいい加減にしろよ胸揉みしだくぞコラ」

「構わないが……触るか?」

「あ、ごめんなさい。俺の負けです」

 

 お前ほんっと……ほんっとにそう言うとこだぞ!

 

「ほんならウチの胸でも揉んどくか〜?」

 

 ふざけたようにそう告げてくるはやてちゃん。ちょっとムカッとしたので

 

「うるさい貧乳」

 

 いつか間にか病院のベッドに運ばれてそこで目覚めたのは数時間後の話である。ちなみにちゃんと謝って和解したよ?うん……うん。何で俺は偶にボケで胸に走っちゃうんだろうか?………男だからか。

 

 なんか、真理を得た気分になったとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………。

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ!」

「よし、今日はここまでだ慎司。明日から試合までの3日間は調整練習に抑えて備えておくんだ」

「はぁ……は、はい!」

 

 呼吸を何とか整えながら返事をする。試合4日前、普段の道場での練習が終わった後いつものように相島先生とワンツーマンでの居残り練習で体に追い込みを重ねる。相島先生がこれに付き合ってなかったら俺はいつも大会で勝つ事は出来なかったであろう。感謝してもしきれない。

 

「………ここまで妥協せずに努力したんだ、今回の大会は油断しなければ優勝できるだろう」

 

 既に大会当日のトーナメント表が各参加道場に配られている。それを見て先生はそう言ってのけた。

 

「はあ……ふぅ。………しかし、俺の本当に勝ちたい相手は今回の大会にはいません」

「神童君の事か」

 

 頷く。彼とは最後に負けてから一度も試合をする機会が無かった。俺が闇の書事件解決の為に動いている時、仕方がなかったとは言え柔道を疎かにしてしまっていた間に神童は小学生の全日本強化選手に選出されてワンステージ上で活躍している。あまり俺が出るような中規模な大会に出なくなってしまったのだ。今回の大会も、ある程度大きな大会ではあるのだが……

 

「恐らく、3ヶ月後に控えてる全国小学生強化選手権大会に備えてるんだろう」

 

 相島先生の言葉に内心そうだろうなと同意する。いわゆる小学生の全国大会は学年別で振り分けられる。6年生なら6年生だけの部で、1年生なら一年生だけの部で。しかし、強化選手大会となると話は変わる……まず大会に出場できるのは全日本柔道協会に選ばれた強化選手と大会運営に指名された数十人の選手のみ。全国から本当の強者だけが集まり学年問わずの小学生による本当の全国大会なのだ。この大会に勝つ事が小学生の柔道家で1番の栄誉と言っても過言ではない。

 そして神童はその強化選手に選ばれているので出場は決まっている。そこに専念するのは当然の事だ。

 

「しかし、誰が出ようと全力でやって来い。今のお前はそうする事が強くなる1番の道だ」

「はいっ!」

 

 それは勿論だ。神童が出ようが出ないが全力を尽くして試合に臨むまでだ。今はもっと強くなって勝ち続ける事が神童と闘える近道なのだから。

 

「慎司……」

「はい?」

 

 そう心の内で決意を新たにしてるところに相島先生は厳しい顔つきで口にした。

 

「やはり……一本背負いは使わないのか?」

「っ!」

 

 心臓がどきりとする。先日に嫌な夢を見たばっかりだったからなおさら過剰に反応してしまう。動揺を悟られないよう平静を保ちつつ俺は「はい」声を出して頷いた。

 

「そうか……いや、お前が使いたくないならそれでいいんだが勿体無いと思ってな」

「………自覚はあるつもりです」

 

 荒瀬慎司として一本背負いを使ったのはあの時のフェイトちゃんと闘うなのはちゃんを優勝して勇気づけようと必死になっていたあの時の大会の神童との決勝戦が最初で最後だ。その後は試合はおろか練習でも使った事はない。以前にも相島先生には一本背負いについて指摘されたがそれから改めて言われたのは今日が初めてだ。

 しかし、ハッキリと言える事がある。今、荒瀬慎司として持ち得る努力し続けて試合で使えるように、熟練度を上げるようにと磨き続けた数々の技より前世から魂にまで刻まれた一本背負いの方が強い武器になる事だ。

 

 それは例え、今世に置いて一本背負いの練習をしてなくても俺はハッキリと言える。一本背負いが俺の得意技であり決め技である。それでも使わない。いや、使えない。

 

「まぁ、いい。お前も何か思う所があるようだしな、変な事を聞いてすまない、しっかりストレッチをしてから帰るんだぞ」

 

 そう言って相島先生は奥の部屋に行ってしまった。一礼してから俺はしっかり体をストレッチで温めてから着替えて帰路に着く。道中ぼんやりと一本背負いについて考えてしまう。

 

「俺だって使いたいさ」

 

 これが本心だ。正直に言えば使いたい。しかし……しかし。一本背負いだけはダメなんだ。下らない理由かもしれない、俺がみみっちいだけなのかもしれない。それでも……俺とっては胸が痛くなるくらい、苦しいくらいの理由なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

『何でだよ!逃げんなよ!お前がそうやって逃げる事の方があの選手にも失礼な事だろうが!!』

『うるせぇんだよ!お前に分かるかよ!殺しかけたんだぞ!?俺の……俺の技で……一本背負いで!』

『っ!だからって、それは試合中の不慮な事故じゃないか!代表の辞退どころか柔道を辞めることはないだろ!』

『俺だって嫌だよ!嫌に決まってんだろ!!何のために血反吐吐いて俺はっ。人を傷付ける為に頑張ったんじゃないのに……何でこうなるんだよ!くそがっ!』

『し、慎司もっ、優也も落ち着いてよ!ね?2人で言い争ってたってしょうがないじゃん!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんな2人とも……俺はまだ、2人に顔向けできる人生は歩めてないみたいだよ」

 

 

 そんな呟きは、夜風に流れて消える。9月で未だ夏の暑さが残ってる筈なのに。練習後だからまだ体温は高くて暑い筈なのに……何だか背中が寒くて震えるようだった。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 前にも書きましたが空白期編はマテリアルズ編の話ではなく全く別物です。新章開幕と思うと書き手の私もいつもわくわくします。

 皆さんにとっては些事ですが作者にとっては嬉しい出来事があったので1つ報告を。既に消えてしまってますが、7月1日に短い間でしたが日間ランキング19位にランクインしてました。過去に80位くらいに入ってた時には目ん玉飛び出るくらいびっくりしましたが今回19位は周りにすごい作者さん達とは比べるのも烏滸がましいほど格に差がある当作品で一瞬でも入れたのは作者にとってはとても嬉しかったのでご報告させて頂きます。

 こんな嬉しい気持ちが味わえたのも皆さま読者様のおかげです、本当にありがとうございます。累計ではなく日間ランキングですし入ったのも1日、2日だけなので大した事ではないのかもしれませんが重ね重ねお礼を述べさせて頂きます。
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