転生しても楽しむ心は忘れずに   作:オカケン

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 当作者、学生時代柔道を中心だった故、オリンピック柔道全試合をテレビにて観戦。

 流石世界はレベルが違う。感服仕る。……いや皆んな強すぎワロタ。


それは唐突に

 それは唐突に起こった。高校生最後のインハイ予選、男子73kg級決勝。試合は一進一退の攻防でギャラリーも大盛り上がりを見せていた。試合時間残り30秒を切り、お互いに決勝まで上り詰めるのに何度も試合をしてスタミナを削られてる中での決勝。

 

 夏の暑さも相まって意識が朦朧としていた。それでもこの試合は夢のインターハイへの最後のチャンスなんだ。負けれない、負けたくない、勝ちたい。俺の努力をここで負けて終わらせたくない、結果だ。求めていたのは勝ちという結果だった。

 延長戦なんか体が持つわけがない、何が何でもこの30秒で投げなければ勝機はない。互いにガッツリと組み合って牽制しつつ機を伺う。

 

 残り20秒を切った、焦って下手に仕掛ければ返されて逆に終わる。そんな相手だ、全神経を集中させて相手の隙を窺いつつ崩し回る。それは相手も同じ。時間なんかもう気にしてられないくらい気を抜けば何もなくても倒れそうなほどだった。

 互いに動き回りいつしか試合上の場外間際、そんな事も今の俺は気付かない。場外はどちらかの体が完全に外にはみ出ないと待てはかからない。残り────

 

 

 時間切れのブザーが鳴り響く。本来ならここで一度試合が止まって延長戦に入る。しかしそうはならなかった。

 

 

 

 ブザーの音と同時に繰り出される俺の得意技であり、決め技であり、相棒とも呼べる一本背負いを仕掛けた。ルール上、ブザーが鳴ってもその直前に技が仕掛けていれば技が潰れるか中断されるまでは試合は続行になるがタイミング的には微妙なところだった。

 しかし、そもそも俺はブザーが鳴り響いた事すら朦朧とする意識の中では気づいていなかった。チャンスだと思った、今なら決めれると確信して技を仕掛けた、それが相手選手の時間終了間際による気の緩みだったかブザーが鳴った事で力が抜けてのかは今となっては分からない。相手は浮いた、完全に一本背負いが入り込み綺麗に相手は浮いた。

 仕掛けた俺がする事はただ一つ、そのまま相手を畳に叩きつける事。

 

 しかし相手が叩きつけられたのは畳ではなかった。ガシャんと響く投げた時には決して発生しない音。不幸が重なった。試合終了間際、場外近くにいた事。その場所がたまたまタイマー係や審判補佐、記録係などのスタッフが長机を利用して鎮座する場所に近かった事。

 世界大会でもない、国内のインハイ予選ともなれば特に珍しい光景ではない。決勝戦だから多少離れた所に鎮座していたが技の勢いと投げるまで技を止めなかった結果相手選手は頭からその長机に叩きつけられてしまった。

 

 そして何より………仕掛けた本人がそこが危険な場所だと()()()()()()()()

 

「………えっ」

 

 角にぶつけて頭部が切れたのか血が滴る。そして投げた俺だけが気づいている事実。長机にぶつかった時にガシャンとは違う音。骨が折れたような……そんな音が耳に残っていた。

 

「……え……え……」

 

 状況が理解できず、いや理解を拒み俺は間抜けな反応をするだけ。だが観客や審判団はそうはいかず徐々に状況を理解して騒がしくなる。誰かが悲鳴を上げていた、誰かは俺に向かって怒鳴っていた、誰かが慌てた様子で電話で救急車を呼んでいた。

 俺は立ち上がる事も、大会ドクターに応急処置をされている選手から目を離す事も出来なかった。………俺が、俺がやったのか?

 

 違う……だって、俺分かんなくて……わざとじゃなくて………。

 

 相手選手は、到着した救急車に病院まで運ばれていった。結局、俺は流されるままに相手の試合続行不可能により不戦勝となる。望まぬ形でインターハイの切符を手に入れたのだ。…………その後、表彰式が終わってよそよそしい態度の柔道部の仲間たちと共に帰る最中でも、帰って寝床についても、体の震えとあの時の出来事が映像として頭から離れる事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄いじゃない!おめでとう慎司!」

 

 学校にて、昨日相島先生に伝えられた全国大会出場の権利を得た事を4人に報告した。珍しくアリサちゃんが興奮気味にそして素直に称賛してくれる。畑が違うとはいえ音楽やら何やら色々と習い事をしているアリサちゃんは全国という重みと凄さをよく知っているからだろう。

 それに俺の影響でかいつも学校で一緒にいるこの4人は強化選手とかそう言う制度の事も理解している。

 

「よかったね、ずっと頑張ってきた慎司君だから得られたチャンスだよ」

「うん、慎司がそんな風に周りに評価されてたのは友達として私も鼻が高い……かな」

 

 すずかちゃんとフェイトちゃんもいつもより分かりづらいが少々興奮気味に祝福してくれる。俺も昨日は興奮して中々寝付けなかったほど嬉しかった。それくらい名誉な事なんだ。そんな風に3人がわいわいと祝いの言葉を送ってくれる中なのはちゃんはプルプルと体を震わして下を向いていた。

 

「なのはちゃん?」

「なのは?」

 

 俺とアリサちゃんがどうしたのかと声をかけるが反応はない。

 

「す………す……」

 

 あ、ようやくなんか喋った。

 

「すっっっっごいよ慎司君!!!」

 

 かと思えば溜めに溜めてクラス全員がこちらを振り向くほど大声で興奮した様子で身を乗り出しながらそう口にする。

 

「………おっ、おう?」

 

 俺もびっくりしてそんな反応になってしまう。

 

「全国強化選手大会ってあれだよ!?ホントに今まで沢山結果を出してきた柔道家しか選ばれない強化選手か柔道協会に実力を特別に認められたすっごい選手しか出場出来ない小学生柔道で一番大きな大会なんだよ!それに出られるだけで今後ずっと柔道協会が目を掛けてくれるし今世界で活躍してる選手も沢山の人がその大会を足がかりに活躍してるくらい名誉な大会なんだよ!?しかも強化選手としてじゃなくて慎司君みたいな特別推薦枠は必ず選ばなきゃいけないわけじゃないからその年によっては0人の場合もあるから選ばれた慎司君は本当に実力を認められてて注目されてるって事なんだよ!すごいよ!!すごすぎるよ!!流石慎司君だね!皆んなーー!聞いてーー!慎司君がねー!慎司君がねー!」

 

 えっ?ちょっ、え?何この暴走機関車。興奮どころか目が血走ってるように見えるくらいテンションが天元突破してんだけど。

 

「ちょおま!やめろぉ!!恥ずかしからやめろぉ!!」

「海鳴町の誇りだよー!未来のスター選手だよー!」

「やめろってんだろボケナスなのはちゃん!」

「あはは!照れちゃってもー!可愛いんだからー!」

「え、まじで何そのテンション!?」

 

 いつからそんな近所の気のいいお姉さんみたいなキャラ掴んだの?

 

 

 

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

「で?何か言う事は?」

「いたく反省しております」

 

 俺仁王立ち。なのはちゃん正座の珍しい構図。いや貴方本当に柔道に関すると性格変わる病気なの?二重人格なの?太郎さんもう何が何だか分からないよっ。

 クラスの皆んなは俺となのはちゃんのいつものやり取りの延長線上かと思ってからかってくる始末だしフェイトちゃんはちょっと微笑ましそうにしてるしアリサちゃんは何が面白かったのか爆笑してるしすずかちゃんも釣られてお腹を抑えながら笑ってる。

 

「………ま、まぁ…喜んでくれたのは嬉しかったけどよ。もうちょっと落ち着きなさいよチミィ……」

「あはは、面目ないです」

 

 全く………いやいんだけどさ。そうやって我が事のように喜んでくれるのは本当に悪い気はしないし。頑張ってきた甲斐があったってもんだ。

 

「えへへ、なんか変な感じになっちゃったけど……本当におめでとう慎司君。全国大会……一杯応援するからね!」

「……ああ」

 

 最初からそうやって普通に言ってくれればいいものを……全く。照れ臭いじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

「ほへー、ウチは柔道そんか詳しくないけどすごい事だってのは理解したわぁ……おめでとな慎司君。もっと早く言ってくれればもっと豪勢なもん作ったのに」

「はは、ありがとなはやてちゃん。豪勢な料理は俺が全国で勝ち抜いた時に頼むわ」

 

 その日の夜、はやてちゃん達に報告も兼ねてお邪魔している。両親には既に昨日報告していたのだが管理局にいるため電話越しだった。電話越しでも喜んでくれてたのは伝わっていたのでそれで十分だったが。

 それもあってはやてちゃんの家で夕食を共にしに来たのだが、夕食よりも俺の報告で八神家は盛り上がってくれていた。

 

「よく分かんねぇけど、慎司はとりあえず強い奴が集まる大会に選ばれたって事だよな?」

「端的にいえばそうだな」

 

 ヴィータちゃんの疑問にそう答える。

 

「………んじゃ、すげーじゃん。頑張れよ」

「そうだな、慎司の努力が身を結んだのなら我々も鼻が高い」

 

 ヴィータちゃん、続いてシグナムの賞賛に頬を掻いてありがとうと伝える。シャマルとザフィーラも祝辞の言葉を述べてくれる。

 大会の結果でもいつもこんな風に言ってくれたりする友人達に感謝の気持ちを抱きつついい加減ツッコもうと思い俺は口を開いた。

 

「んでおめーは何してんだ」

「む?」

 

 八神家の天然担当であるリィンフォース大先生である。彼女はいま頭にうさぎのカチューシャをつけてサングラスをかけ、フラフープを片手に佇んでいた。お前はサイコパスか。

 

「………今回はどういう意図かね?」

「慎司が柔道ですごい事を成し遂げたのだろう?急で何も用意できなかったからな、近くにあるものでお祝いの気持ちを表現しようと思ったんだ」

「1ミリも伝わってこねぇよバカヤロー」

 

 俺の言葉にショックを受けたのかリィンフォースは「そうか……ダメか…」と呟きながら両手両膝をつきショックを受ける。おいそんな本気で凹むなよ、俺が悪いみたいじゃないか。

 

「ほんなら、その全国大会に向けて数日後の試合は出場は見直すん?」

「いや、俺も悩んだんだけど次の大会くらいは出ようかなって。実戦が1番の練習だからな」

 

 まあ、全国大会の選手に選ばれたからじゃないが怪我だけには注意せねばなるまいて。

 あ、リィンフォースが今度は三角座りをして床に人差し指で何事かなぞって書いてる。そんなリィンフォースを狼形態のザフィーラが前脚で慰めるように頭を撫でていた。君ホント面白いね、太郎さんそう言うの好きよ。そのままの君でいてね。

 

「そか、じゃあ全国大会前にまた慎司君のかっこいい所観れるんやね。楽しみやわ〜」

「俺はいっつもカッコいいだろ?」

「耳障りやわ〜」

「普通に悪口はワロタ」

 

 はやてちゃんは俺に対してだけ容赦ねぇ気がするぜ。泣けてくるんだぜ。そしてリィンフォースはまだ三角座りをしていた。ていうかチラッ、チラッと俺の方を見てくる。え?俺待ち?俺に何かして欲しいと?よし、太郎さんに任せなさい。

 

「そんなショック受けるなって、ほらこれでも飲めよ」

「し、慎司……すまない」

 

 隣に寄り添って優しく語りかけながら俺はマヨネーズを渡した。ちなみにカロリーオフのマヨネーズである。リィンフォースは躊躇なくそれを口に加えて飲み物のように飲む。

 

「慎司……」

「どした?」

「おかわり」

「うっそだろお前」

「冗談だ。……喉が痛い慎司」

「俺のツバでも飲んどけよ」

「いいのか?」

「何で乗り気なんだよ」

 

 この変態め。

 

 

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

 

 

 

 八神宅からウチへ帰る途中、遠回りになってしまうが何となく翠屋に顔を出しに行った。店の手伝いをしてた恭弥さんに出迎えられて俺がいつも一人で来た時に必ず座るカウンター席へと案内される。あり、桃子さんはいないのかな?士郎さんは奥の厨房で食器洗いしてるけど。

 いつも顔を出すと何かご馳走されそうになるのであらかじめ既にご飯を済ませてお腹いっぱいだという事を伝えて、コーヒーをオーダーする。コーヒーくらいなら今の自分でも払えるからな。

 

「慎司君、なのはから聞いたぞ?全国大会の出場選手に選ばれたんだってな。おめでとう」

「へへ、ありがとうございます」

 

 ここでも祝福の言葉を貰う。まいったな、そんなつもりで来たわけじゃなかったんだけど。気持ちは嬉しいので俺は笑顔を浮かべた。

 

「恭弥さんがいつも基礎トレーニングを視てくれてたおかげです」

  

 実際柔道を始めて間もない時は体そのものを鍛えるトレーニングに付き合ってもらって基礎体力をついたのもこれまでの勝利の要因だ。恭弥さんには頭が上がらないのだ。

 

「よしてくれ、慎司君の努力の成果なんだから」

 

 そう言いつつも笑顔を浮かべてくれる恭弥さん。この人本当に身体能力高いからな、あと士郎さんも。そして美由希さんも道場で恭弥さんに剣術の稽古をしてもらってたのを見た事あるけどあの人も大概だった。なのはちゃんはどうしてああなってしまったのか不思議でしょうがない。

 

「やあ慎司君、いらっしゃい」

 

 なんて事を考えていると皿洗いを終えた士郎さんがカウンター前まで足を運びに来てくれた。今はもう夕食時も終わりお客さんも俺以外殆どいないからな。今は俺と話しに来てくれるくらいは余裕なのだろう。改めて士郎さんにもおめでとうと言ってもらう。そして歳の差はあるが男3人で雑談をする、この2人との会話は割と楽しかったりするのだ。他愛もない話ばかりだがそういうのがいいのだ。

 こういう時は自身の精神年齢に感謝する。

 

「そういえば、最近なのはちゃんの様子はどうですか?」

「様子かい?」

 

 ついそう聞いてしまった。その俺の問いの意図が分からず士郎さんは少し困ったような顔を浮かべる。

 

「えっと……魔法の事で大変そうにしてるとか疲れてないかとか……」

 

 既に高町家は皆なのはの秘密を知って、その道に進む事を容認しているのだ。一緒に過ごす時間が多い家族に、学校では時折……いや、最近は頻繁に疲労の色を見せるなのはちゃんが家ではどういう様子なのか気になったのだ。

 

「なるほど……。慎司君はいつもなのはの事を心配してくれてるんだな、ありがとう」

 

 まず出てきた言葉はお礼だった。そして俺の問い自体には士郎さんは難しい顔を浮かべながら答える。

 

「正直に言うと、家でも疲れたような顔をしているのは多いよ。家族である私達も心配しているんだ」

「そうですか……」

 

 学校でもあんな感じなら家でもそうだよな……。なのはちゃんの頑張りの邪魔はしたくないけど……度が過ぎるようなら何か取り返しのつかない事になる前になのはちゃんと話でもしたいのだが。

 

「慎司君がなのはの心配をしてくれてるのはありがたいが、今は慎司君もこれから大事な時期だろう?全国大会も2ヶ月後に控えてるし、週末にも大会だ。今は自分の事に集中したほうがいいだろう?」

「そう……ですね」

 

 恭弥さんのその言葉に俺は頷くしか無かった。実際全国大会に向けて直近の大会の後に本格的にそれに向けた練習に勤しむのだ。ただ練習を頑張るだけじゃない、相手選手のデータを調べてその対策を練り、実際にその動きをする為の研究練習。勝つ為には何でもしないと、それくらいしなきゃ今の俺が全国大会で優勝するのは困難だ。

 

「なのははもう少しだけ様子を見て酷くなるようだったら私達で家族会議でも開いてお話しするさ。なのはも慎司君に負けられないからって頑張ってるみたいだからあんまりめくじら立てるのは可哀想だと思ってね」

 

 士郎さんも俺と同じような考えだったか。なのはちゃん、本当に俺の事を見てそうやって言ってくれてたんだな。俺を手本のように言ってくれてるなのはちゃんからそれは頑張りすぎじゃないかって、無理してるだろって簡単には言えない。

 

「だから慎司君は自分の事に集中する事だ。慎司君が結果を出したらなのはもきっと元気になる」

「あはは、そうですね。それなら頑張らないとですね」

 

 あの柔道オタクならそれで本当に疲れなど吹き飛びかねない。そうだよな、そもそも俺がなのはちゃんにお節介焼いて無理しないように見守ってあげようなんて烏滸がましかった。

 俺の悪い癖だ。俺となのはちゃんは友達だ。荒瀬慎司と高町なのはは同い年で対等な友人なのだ、山宮太郎が大人ぶって上から目線で物を言う事はおかしいんだ。今の俺がするべき事は自分の努力、それがなのはちゃんを元気付ける事になるならそれで十分じゃないか。闇の書事件でちょっと上手く立ち回れたからって調子に乗っちゃいけない。

 

 そう、深く思った。

 

「あれれ?慎司君?」

 

 と、内心で色々考え込んでいたら桃子さんと美由希さんに連れられたなのはちゃんの姿が。3人それぞれ買い物袋を両手から下げている。なるほど、3人で買い出しに行ってて帰ってきたところなのか。

 

「やほー、慎司君」

「うふふ、いらっしゃい慎司君」

 

 美由希さんと桃子さんに挨拶を返して俺は席を立つ事にした。

 

「もう行っちゃうの?」

「ああ、もういい時間だしな。帰ってきた所で悪いな」

「ううん、練習帰りだったんでしょ?お疲れ様、ゆっくり休んでね」

「おう、また明日な。コーヒーご馳走様です」

 

 と代金を士郎さんに渡して翠屋を後にする。少し店から離れてから一度振り返って中の様子を伺う。楽しげな雰囲気で家族とお喋りしているなのはちゃんの姿が見えた。

 

「やっぱり、いらないお節介だったかな」

 

 そう呟いて俺は今度こそ帰路についたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の得意技、『一本背負い』。前世のケジメとして俺はそれを使わないと決めて柔道に取り組んでいる。しかし、あの時の試合……なのはちゃんとフェイトちゃんがぶつかり合っていたあの日の試合で俺は試合終了間際に一本背負いを披露してあの神童に勝利した。

 

 あの時は記憶が朧げなほど集中していて事細やかな展開は思い出せない。覚えているのはこの勝利がなのはちゃんの励ましになればと、その為にも絶対に負けられないと心で叫び続けていた事。それのせいなのかそれとも魂レベルにまで習慣づけられて一本背負いをかけてしまったのかそれは定かではない。とにかくその時に俺は自分の意思に反して一本背負いを使った。

 

 次に一本背負いが頭に浮かんだのは神童に負けた時の試合。はやてちゃん達と出会ったばかりで初めて応援に駆けつけてきてくれた時の試合。神童との決勝でまたしても試合終了間近に俺は一本背負いをかけようとした。その時は一本背負いのチャンスで確実に獲れると理解した故に反射的にかけようとしたが途中で体が動きを止めて不発に終わり、結果的に俺は判定負けを期した。

 

 その時に俺は違和感を覚えていた。一本背負いの不発、最初は使わないと決めていた俺の理性が体の動きを止めたのかと思っていた。試合に負けた悔しさでそこまで深く考えれなかった。

 しかし、心身ともに落ち着いてきた頃に俺は違和感を覚えた。その時の試合が終わって数日後の時の事、試しに1人で自主練習をしている時に一人打ち込みで一本背負いの動きをしようと試みた。

 

「っ……」

 

 結果、最初の一歩目で体がコンクリートで固められたように動かなくなり不発となる。もう一度、もう一度と何度も試して見るが全て最初と同じ結果だった。

 

 特定の技術や動きでのみ起こる運動障害……いわゆるイップスだったのだ。

 

 

 

 前世で柔道を辞めてから転生して神童に勝った時まで一度も一本背負いを使ってこなかった事でこれまでずっと気がつかなかった。イップスは精神的な事が原因で起こる症状だ、それなら前世でのあの出来事で間違いないのだから俺は転生する前から既にイップスであった事に間違いはないだろう。

 しかし、それならばなぜあの神童に勝った試合の時一本背負いを披露できたのかぎ分からなかった。無我夢中だっからか?そんな事でイップスは克服できたりしないし実際に克服出来ていない。疑問は残るが俺は正直ショックではあったものの俺はすぐに受け入れて切り替える事は出来た。

 

 どうせ封印したいと思っていた代物だ、イップスなら丁度いい。症状が出るのは一本背負いを掛けようとした時だけだからそれ以外の動きには支障はない。変わらず柔道は出来ると思ったからだ。

 けど、自分にはどうにもならない喪失感というものがあった。大切な体の一部が、心が欠けたようなそんな感覚。都合のいい奴だと自分を嗤う。………本当に、どうしようも無い奴だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、明後日には全国大会が決まる前から出場予定だった大会ご開かれる。おそらく全国大会前に出場する大会はそれが最後になるだろう。一層気を引き締める。

 

「慎司君、聞いてる?」

「ああ聞いてるよ、なのはちゃんが知らない人を川に突き落とした話だろ?」

「違うよ!?私そんな事しないもん!」

 

 昼休みはいつも通りの面子で弁当を囲う。なのはちゃんは……元気そうには見えた。とりあえずよかった、やっぱり気にしすぎたんだな。なのはちゃんがギャーギャーいつもみたいに抗議してそれを見てフェイトちゃん達も笑ってる。こういう光景はやはり胸に染み入る、明後日の大会も全国大会も勝ち抜いてもっと皆んなを笑顔にしてやろう。

 そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?なのはちゃん急ぎか?」

「うん、ごめんね。管理局で……ね?」

 

 学校が終わり、急いだ様子で帰り支度をしていたなのはちゃんにそう問うと、小声で耳打ちしてくるなのはちゃん。そっか……。俺達は頑張れと急足で帰るなのはちゃんを見送ってからそれぞれゆっくり帰っていった。アリサちゃん、すずかちゃんと途中で別れ、フェイトちゃんと2人になった所でちょっと聞いてみた。

 

「フェイトちゃんは今日は管理局で任務はないのか?」

「うん、私は任務も訓練も今日はないよ。なのはやはやてとは訓練はともかく任務が一緒になる事の方が少ないからね」

 

 そりゃそうか。当然だろうな、一応まだ新人扱いだろうしその人達同士で組ませる事はあんまりないか。

 

「あ、でも今日はヴィータと一緒の任務だって言ってたかな。なのはもヴィータも凄い頼りになるから心配しなくても大丈夫だよ慎司」

「いや、まぁ……心配してるわけじゃないけどさ……」

「そう?慎司は優しいから管理局でお仕事してる私達の事ずっと心配してたから不安なのかなって思ってた」

「いやまぁ、全く無いわけじゃないけど……」

「ふふっ……ほら、やっぱり優しい」

 

 そう言って嬉しそうに笑顔を浮かべるフェイトちゃんに何も言えなくなり、照れ隠しのように俺は頭を掻くだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、フェイトちゃんとも別れ帰宅。今日と明日は調整練習だから大して疲れる事はない……明後日だしな、練習まで時間あるし軽くジョギングでもいくか。試合前だし、体力が落ちないようにする程度で軽く。すぐに準備をして外に出る。

 

 しばらくスローペースで走っていると車通りの多い場所に入る。いつものランニングコースなのだが景色の良い場所に行くために一度ここを通らないといけないのだ。

 交差点の横断歩道で青信号になるのを待つ、車通りも多ければ人通りも多い、俺以外にも何人かそこにいる。すると一緒に信号を待っていた小学生低学年か幼稚園児くらいの子供だろうか。その男の子が持っていたサッカーボールがするりと手から離れてそのまま道路に跳ねながら転がる。

 

「あっ」

 

 男の子は慌てた様子でそのボールを拾おうと横断歩道に飛び出した。………そこに一台の車が迫っている事も気づかず。

 

「っ!!!」

 

 一瞬、俺が轢かれて死んだ時の事が走馬灯のようによぎった、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辺りは白い雪景色。地球での現在の季節では決して見られないがここは地球とは違う次元世界。魔導師としては珍しいものでは無かった。その雪景色に2人の少女の姿がある。

 

 1人は赤いバリアジャケットを身に纏い、必死の形相で何かを叫ぶ。もう1人は白いバリアジャケットを身に纏った女の子。その子は今はその雪に倒れ伏しその体を中心として白雪を赤色の染めていく。それは滴り、止まる事を知らないように赤色を広げていく。

 

「なのは!しっかりしろなのはぁ!くそっ!くそぉ!!」

 

 赤色のバリアジャケット……鉄槌の騎士ヴィータは涙ながらに叫ぶ。必死に血を止めようと、自分の知識を総動員させ応急処置を行う。

 

「救護班!早くしてくれ!!」

 

 そう通信で叫ぶ。白色のバリアジャケット……高町なのはの瞳は閉じられたままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああっ!!!」

 

 体が勝手に動いていた。バイクの接近に気づかないままボールを拾おうとしてる少年に向かって走り出し、俺も道路を飛び出す。そしてそのまま少年を思いっきり前へと突き飛ばした。

  車はすぐ目の前にいた。

 

 

 

 

 くそっ!くそっ!!またこんな形で……死んでたまるか!!

 

 

 少しでも衝突を避けるために体を動かす、足が一本動いた。それが生死を分けた。

 

 

 

「くっ!!?」

 

 衝突。しかし、死んだ時ほどの衝撃はなく左足に激痛を感じたのみだった。衝突したのは左足のみ、車が小型車だったのが幸いだった。しかし、スピードを落としても無かった車に左足だけでもぶつかればその衝撃で俺はそのまま吹き飛ばされて中を舞う、そして左足の激痛で受け身を取る事が出来ず俺は右肩から全体重を乗せて地面に叩きつけられた。

 

「があああ!!」

 

 その際にも激痛が走った。車は俺を轢いてからようやく止まり、俺の安否を確認してから急いで救急車を呼んでいた。激痛で顔を歪めながらも俺は辺りを見回す。俺に突き飛ばされた少年は何が起きたか分からずわんわんと泣く。彼が追いかけたボールはコロコロと転がり、ようやく路肩でその動きを止めたていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 現役時代、作者は柔道競技で骨折した事があるのですがあれは痛いですね。右肩が骨折したのにあまりに痛くて関係ないのに立てませんでした。

 ちなみに原因は作者が技をかけた時にそのまま畳に右肩から突っ込んでしまうという恥ずかい自爆だったり。
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