謝りに行ったんだと思う。あの時俺は、自分が起こしてしまった事に現実感が湧かずどこかふわふわとしたような感覚に陥りながらもとにかく居ても立っても居られず、その選手が入院してる病院まで制服に着替えて菓子折りを持って謝りに行った記憶がある。
少し曖昧なのはその時ショックな事があったからだ。その事はハッキリと覚えている。その時の俺はまだ試合中の事故だ、わざとじゃないと、俺は悪くないと自信がないながらも内心そう言い聞かせて何とか事故のあった試合から数日なんとか普通に過ごせてたと思う。
しかし、同じ柔道部の仲間が俺に気を使って俺がいないところで会話していた事をたまたま聞いてしまったんだ。
「聞いたか?あの太郎の相手の怪我」
「ああ………手術が必要なんだろ?今後柔道に復帰できるかどうか厳しいんだってな?」
「うん、出来たとしても復帰までかなり時間がかかるし前みたいに柔道出来るかもそいつの努力次第だからなんとも言えないらしいよ」
ガシャんと俺の心中で何かが砕けた音がした。そんな……俺はなんてことを……。
……行かなきゃ。俺が行く事は間違ってるだろうけどそれでも行かなきゃ……。
そんな経緯があって俺は病院まで足を運んだ。受付を済ませて場所を聞いてから誰にも見つからないように縮こまりながら歩いていた。その選手の知り合いが仲間が家族がもしかしたらお見舞いに訪れているかも知れない。俺を見たら何を言われるか分からない。
それが怖くて、情けないながらも怯えながら病室まで移動する。扉の前で何度か深呼吸をした。………今俺は会って何を言えばいいんだ。俺を憎んでいるかもしれない人に会いに行ってどうするんだ。相手を不快にさせるだけじゃないか。けど……ここまで来たらこのまま戻る気は起きなくて。
そう、分かっていた。俺がここに来たのはその選手に申し訳ない気持ちがあったからのもある、けど1番の理由はもっとクズな理由。
許しが欲しくて、安心が欲しくて俺は厚顔無恥にもここに足を運んでいたんだ。ノックをする、室内からどうぞと入室を促す声が。しかし、それは女性の声だった。………本人以外に誰かいるのか。俺は再び深呼吸をしてから失礼しますと一声かけてから扉をゆっくりと開けた。
「あなた………は……」
「………」
俺を見て驚愕の表情を浮かべるのはベッドの横で座る女性の姿。ベッドの主は点滴に繋がれ、頭に包帯を巻かれ、首を保護する医療器具を身につけたまま安らかに寝息を立てていた。
「………何をしに来たんですか?」
その声はどこか刺々しい。その女性には見覚えがあった。俺と決勝で当たり今はベッドで眠る選手は県内どころか全国的に有名な選手だ。そしてその有名な選手の試合で必ず熱心に応援をしているその選手の少し歳の離れた姉がいる。
応援があまりに熱心で激しい事とその選手が有名な事も相まって県内で試合をしている高校生柔道家なら大体の人が知ってるほどだ。誰かに聞いたか、その姉も元柔道家で既に現役を退いた身だったらしいがそこそこ有名な選手だったらしい。
その姉が、今俺を鋭い目つきで見つめてきている女性なのだ。
「その………謝罪に…伺いました」
その目つきに気圧され、言葉が途切れ途切れになりながらも何とかそう伝える。しかし、女性の目つきはさらに鋭さを増した。
「……弟は、手術が終わったばかりでまだ麻酔の効能が続くそうです。しばらくは目覚めないと」
「そう……ですか」
それは……すこし出鼻を挫かれた気分だった。
「あの……、自分……その……」
落ち着けと自分で念じながら何とか言葉を絞り出す。
「大変……申し訳ございませんでした。自分のせいで、このような事になってしまって……」
家族であるその女性にも謝るべきだと思い頭を下げた。
「………けないで…」
「……は、はい?」
「ふざけないでっ!!」
怒号が俺の体を貫く。突然のことで思考がまとまらず「えっ?え?」と声を漏らす事しか出来ない。
「謝りにきた?申し訳ございません?よくもそんな事が言えるわねこの恥知らず!!」
女性の怒号は止まらない。
「事故で起きた事だけど罪悪感があるから謝りにきたってとこかしら?よくもぬけぬけとっ」
俺の醜い感情の部分を見抜かれて動揺する。
「それに……あなたまさかあれを事故だって思ってるのかしら?自分は悪くないと思ってるのかしら?」
「ち、違っ、そ、そう言うわけでは……」
「違わないわよ、病院まで1人で来て謝りに来たことがそう思ってる証拠じゃない」
…………それは。
「貴方の周りではどう言われてるか知らないけどね、私はあれは事故だなんて思ってないわ。貴方が原因で起こった人災よ」
それは、言葉が過ぎると思った。けど、勢いに呑まれて言い返す事が出来ない。
「私、柔道経験者だから分かるわ。勝ちたかったのよね?弟に、優勝したかったのよね?あの場外側の最後の貴方の一本背負い、確かにルール上場外に出る前に技を仕掛ければその時の技をかけたまま場外に出ても試合は継続される」
その通りだ、だから俺は意識が朦朧としたままだったけど技を放ったのだ。
「けど、私から見れば技はブザーが鳴ってすぐ後に掛けられてたわ。その時点で時間終了で投げてもポイントはない。けどあの時弟も貴方も必死だったからね、集中し過ぎてブザーに気づかなかったかもしれない。けど貴方ほどの柔道家なら分かってたはずよ………」
冷や汗がだらりと吹き出てくる。なんだ?どうした俺は?何でこんなに焦ってるんだ?
「……何に、でしょうか?」
「とぼけないで、技をかけたあの一瞬に違和感を覚えたはずよ。………不自然に弟の懐に簡単に入れた事と力が抜けてた事に」
「っ!」
それは、確かに思ったさ。今思えば相手はブザーの音に気付いて一度脱力して力を抜いた。つまり隙だらけになった。そしてブザーの音に気づかなかった俺はタイミングよくその瞬間に技をかけた。
「貴方もその時一瞬で分かったはずよ。おかしいって、妙だって……『時間切れかも』って疑問に思ったはずよ」
…………思わなかったとは言えなかった。
「そして同時にこう思ったんじゃないかしら?投げてもポイントはないかも、でも
「なっ………それは本当に違っ………」
本当に違うのか?俺は本当に全く1ミリもそう思わなかったのか?………絶対に違うと自信を持って言えなかった。それほど俺はあの時に勝利に執着していた。
「そして投げ抜いた結果がコレよ。ブザーの音にも気づかなかったものね、周りが見えてなくてそこが危険な場所だって気付いてなかったんでしょう。けど、貴方が欲を出さずに勝ちに拘らないでスポーツマンシップに則ってればこんな事にならかった。弟がこんな重症を負うことも無かった!!」
違う、確かに欲は出したかもしれない。勝ちに拘っていたのも事実だ。けど怪我をさせるつもりなんてなかった。必死だったんだ。気絶しそうになるくらい頑張ってたんだ。ただ俺は……俺の夢を実現したくてっ
「お前に柔道をやる資格はない!!」
ガラスが割れたような音が体の中に響き渡った事は覚えている。
「んっ…………」
目が覚める。またあの一連の出来事を思い出していた。全く、いつまでも引きずっている自分が嫌になる。もう何年経ってると思っているんだ。
………まあいい、とりあえず起きないと。
「っ!」
体を動かそうとすると左足と右肩に激痛が走った。声なく悶える。そしてその痛みで全部思い出す。そうだった……俺、また交通事故に…。そうか、救急車で運ばれていた途中で痛みに耐えかねて失神したのか。そしてここは病院のベッドの上か。情けない、けど生きててよかった。咄嗟の出来事だったとはいえ無謀にもあの少年を助けようと動いた自分に少し反省する。
突き飛ばすのではなく後ろに引き込めば俺も巻き込まれずに済んだかもしれない。もっと冷静に対処すれば上手くやれたかもしれない。しかしまぁ、起きてしまった事を悔いても仕方ない。今はとにかくこの第二の人生がまたこんな形で終わらなかった事に感謝だ。
あれ?誰かいる………ロッテとアリア?
「っ!慎ちゃん!」
目があったからか俺が起きた事に気づいたロッテがそう声を上げる。それに釣られアリアも俺が起きた事を確認するとホッと胸を撫で下ろすように息を吐く。
「私は信治郎とユリカを呼んでくる。ロッテは慎司を見てあげてて」
「うん、分かった」
アリアはそう言うと急足で病室から退室する。俺はまだ少しだけボッーとする頭を何とかクリアにしようと息を吐く。
「……慎ちゃん、何があったか覚えてる?」
「………うん、覚えてる。車に轢かれたんだよな?俺は」
ロッテが伏し目がちに頷く。右肩は辛うじて動かせるが痛い、左足は完全に駄目だ。少しでも動かそうとすると激痛が走るし多分動かせない。……こりゃ折れてるな……。
「………ロッテとアリア、わざわざイギリスから来てくれたんだな。ありがとう」
「何言ってるのさ、私達は慎ちゃんのお姉ちゃん何だから当然じゃない」
2人は今、故郷のイギリスで隠居生活を送っているグレアムさんと一緒の筈だ。俺の事故の連絡を受けて転移で飛んで駆けつけてくれたんだろう。そんな風に考えていると程なくして俺の両親とグレアムさん、ついでの白衣を着たお医者さんが訪れる。
「慎司っ!」
俺の意識が戻った事を確認するや否や母さんは優しく俺を抱きしめてくれた。
「ほんっとに……心配ばっかりかけてっ」
「ごめん母さん、ごめん………」
もう1人の母親の涙に俺は謝る事しか出来ない。父さんも目を赤くしながらポンポンと俺の頭を撫でる。父さんも心配だったのだろう。こういう風に心配かけるのは本意じゃなかった。グレアムさんも安心したかのようにその光景を微笑を浮かべて見ている。
「……巻き込まれそうになってた男の子は?無事なのか?」
「ああ、擦り傷程度で済んだらしい」
「……そっか」
よかった……。これでその子まで何か重大な怪我なんてしてたら居た堪れない。
「………改めて、ごめんなさい。咄嗟の事とはいえ自分の命を危険に晒すような真似をして。心配かけてごめんなさい」
それから俺は頭を下げる。あの小さな男の子を助けようとした行動だった。しかしだからといって自分の命を軽々しく危険に晒していいかと問われればそれは間違っている。どんな理由であれ、俺の行動は間違っていたのだ。見捨てる事が正解だったと言っているのではない。
しかし、一度命を失って多くの人を悲しませた俺が……その罪深さを知ってる俺がまた取り残しそうになった事がいけないのだ。だから誠心誠意謝る。
「いや、いいんだお前が無事なら……無事ならそれでっ」
「っ?」
父の言葉に少し違和感を覚えた。言ってることはおかしくないんだけど何だろうか?俺の命が助かった事を喜んでくれている言葉なのにその声音や表情は酷く重いものだった。まるで、まだ別の不安事があるかのように。
とりあえずは俺の謝罪を全員驚きながらもそれを受け入れ、命が助かった事を喜んでくれた。そうだ、俺はこんな形では死ねない。もう、死ねないんだ。天寿を全うして死ぬ事が俺の罪滅ぼしなのだから。
…………………………。
その後、覚醒した俺はお医者さんに連れられ精密検査を受けた。俺が失神してる間に検査はしたらしいが念のためだと。結果的には脳に異常なし、その他内臓機関に特に問題は無かった。
しかし、内臓になくても包帯の巻かれている左足と右肩は大怪我を負っていた。特に左足はギブスで強く固定されている。やはり、骨折だった。医者によれば複雑骨折とまではいかなくても綺麗にポッキリと折れてしまっているという。しかし、その方が後遺症が残りにくくむしろ運がいいとまで言われた。
右肩は骨にヒビが入ってしまっており、しばらくは絶対安静だという。右肩は全治1ヶ月半、左足は全治3ヶ月と宣告された。…………つまり、全国大会には間に合わないという事だった。
「はぁ………」
病院のベッドの上でついため息を吐く。精密検査から戻ってきた時には既に病室には誰もいなかった。時計を見ると昼時だ、ご飯でも食べに行ったのだろうか?………事故にあったのが夕方だから、俺は日付を跨いで失神して眠ったままだったのか。証拠に両親が病室に置いておいてくれた携帯を見れば翌日の日付になっている。
「………仕方ないよな、クヨクヨしてもしゃあねぇ」
と、落ち込んだ気持ちを吐き出すように強く深呼吸をする。全国大会……無茶すれば出場自体は出来るだろうけど勝つどころか怪我を悪化させるだけで終わるだろう。スポーツ選手が1日休んでから元の状態に戻すのに3日かかると言われている、大会までまともに練習できずに出場すれば結果は目に見えている。
自業自得だし、諦めるのが賢明だ。それに、俺はまだ5年生。1年後までに再出発して実績を上げて再び大会のメンバーに選出されればまだチャンスはあるのだ。
その為にも今は早く怪我を治して、柔道に復帰できるよう努めるのが俺のすべき事だ。そう、何度も考えて俺は自分を律しる。そうだ、効率だ。俺が柔道を復帰してすぐ実力を取り戻す為に必要な事を効率的にするのだ。それが大会を諦める事だ、今後の事を考えたら今は我慢して復活をしてさらに腕を上げるよう努力する事がどうしたって正解なんだ。
そう考えれば俺は今回のこの全国大会を諦めるという選択肢を本心で受け入れる事が出来た。
退院したら、相島先生に謝らないとな………。
…………………………。
その日は結局病室で1人一夜を過ごした。今日は何も連絡なかったけど明日には多分友人達が俺の現状を聞いて連絡ひとつくれるかもしれない。いや、優しいアイツらの事だからきっとくれるし何なら病室まで突撃してくるだろうな。
ちゃんと切り替えて前を見ている事を伝えてあげないと。心配かけたくないしな…………。
翌日、正午を過ぎた頃だった。再び両親が病室に訪れてきてくれる。しかし、その両親の表情に違和感を覚えた。表情は優れない、昨日の父にもそんな雰囲気を感じ取ったが今日は更に増して感じた。
「………どうしたの?何かあったの?」
「……………」
父は何か言葉を口にしようとするが躊躇って結局閉ざしたままだった。俺は母親に向き直る。母親も躊躇いがちではあったがゆっくりと……俺にある事実を告げた。
「……………は?」
それを聞いた俺はそう間抜けに声を発する事しか出来なかった。
転移で家族と共にその病院の入り口まで辿り着く。俺は歩けないし松葉杖も使えないので車椅子を父に押してもらって病院内を移動する。バクバクと心臓が忙しなく脈打つのが意識をしなくても感じ取られるほど焦燥感に俺は苛まられている。
『なのはちゃんが……管理局の任務中に重症を負ったの…』
母のその言葉に俺はグラリと視界がボヤけた程にショックを受けた。聞けば俺が事故にあった日と同じ日になのはちゃんも重症を負ったらしい。しかし、重症と言っても俺が負った重症とは比べ物にならない程の怪我だった。
いや、怪我なんて表現は生優しい。俺が失神してる間は意識不明の重体……一歩間違えれば死んでいたという。
俺が想像してた最悪の事が起きてしまったのだ。
コンコンと父がノックしてから返答を合図に扉を開ける。車椅子を押されてその病室に踏み入るとまず目に入ったのは病室のベッドで眠っているなのはちゃんの姿。身体中のあちこちに血が染まった包帯が巻かれているて、幾つか点滴のようなものまで繋がれられている。………よっぽどの重症だった事は素人の俺でも分かった。
「慎司……っ」
ベッドの横にはフェイトちゃんの姿が、その目の下には薄く隈が出来ている。心配で眠れなかったのだろう。
「………よう」
俺は小さくそう答えてから車椅子をなのはちゃんの近くまで押してもらう。弱々しいが呼吸は正常にしているようだ。しかしあちこち巻かれた包帯が痛々しい。眠っている顔は穏やかなようで死んでいるみたいに一切変わらない。フェイトちゃんと言葉を交わすことなく俺はただなのはちゃんを静かに見つめる事しか出来なかった。
その後、既に何度も来ている高町家のご家族と俺の両親だけを残して俺とフェイトちゃん2人は病室を一度退出して俺は車椅子でそのままに近くのベンチにフェイトちゃんを腰掛けさせて息を吐く。
病室内で人数が多すぎるのも良くないだろうし大人達で真面目な話もあるだろう。邪魔にならないよう2人して一旦出て行ったのだ。
「…………慎司は、具合はどうなの?」
重苦しい空気の中、先に静寂を破ったのはフェイトちゃんだった。俺は正直に足の骨折の事と右肩の骨のヒビが入ってる事を告げて明日出場予定だった大会はおろか2ヶ月先の全国大会も出ることは叶わない事を告げる。
「そう……なんだ。残念だな……慎司が活躍する姿、なのはも見たかったと思うし……」
そう涙声で語るフェイトちゃん。俺の心配をしてくれたのはありがたいが正直フェイトちゃんはそれどころじゃない。なのはちゃんの怪我は本当にシャレにならないレベルの重症なのだ。
部屋を出る前になのはちゃんの怪我の詳しい事を高町家から聞かされた。詳しい怪我の内容は省くが、とりあえず命は助かったもののこの先魔導師として跳ぶ事はおろか普通に歩く事すら難しくなるくらいの後遺症が残る可能性があると。辛いリハビリが必要で、どれだけ頑張っても元のように生活が出来るかどうかは分からないと医者に言われるくらいだったという。
「……ぐすっ」
「フェイトちゃん……」
俺もショックで今すぐ泣きたい。しかし、そうした所で状況は変わらない。今はなのはちゃんが起きるのを待って、これから辛い思いを沢山するであろうなのはちゃんを支えなくてはならない。そして、なのはちゃんの事で悲しんでる目の前の親友も支えてあげなくては。俺の怪我など、試合に出られない事も今はどうでもいい。………それどころじゃ……ないんだ。
車椅子から身を乗り出して俺は問題なく動かせる左手で泣いてるフェイトちゃんの頭に乗せて優しく撫でる。
「ごめん……慎司も大変な目にあって辛いのに……私…」
「いいんだよ……気持ちは分かる。けど、今沢山泣いて悲しんだ後はさ……俺とフェイトちゃん……皆んなでなのはちゃんを励ましてやろうぜ。怪我なんて目じゃないってくらい元気付けてやろうぜ」
そう告げるとフェイトちゃんは静かに涙を流した後優しく俺の左手を手に取って俺の膝の上まで戻す。ありがとうと俺に小さく告げてから。
「うん……なのはと……慎司も励ますから」
「はは、俺はいいってのに」
俺に励ましはいらないよ。
……………………………………………。
「ここよ」
あの後フェイトちゃんとも一旦別れて、病室から戻ってきた母さんに車椅子を押されて病院内を練り歩く。この管理局の病院に母さんが技術者として管理局で働いてる時からの知り合いお医者さんがいるらしい。
その先生に特別に俺の怪我の治療をしてもらうという。本来なら魔法の関わりがない地球出身の俺に治療は規則で受けられないらしいのだがそこは母さんのコネを使ったようだ。まぁ、これくらいは目をつぶってもらおう。
「地球じゃ時間のかかる怪我でも魔法の治療を受ければすぐとは言わなくても治癒力が高まって普通より早く治るわよ。………大会にも十分間に合うくらいにわね」
そう母さんに告げられた時に本当は病室で絶対安静の俺を連れ出したのはそういう理由があったのかと納得する。以前にも魔法の治療……プレシアに単身突撃した後に受けた事があるが擦り傷や軽い火傷なら跡が残らないくらい綺麗に治った事があった事を思い出した。
その時治療を受けた後もクロノなんかは包帯を巻いてたりしてたから万能ではないにしても地球での治療だけで終わるよりは遥かにマシなのは分かる。………その魔法の治療を受けてもなのはちゃんがあんな状態である事にゾッとしてしまう。
「やぁ、ユリカ。待ってたわ、その子ね?」
「ええ、忙しい所申し訳ないけどお願い」
「お安い御用よ」
目的の部屋に入ると待ち構えていたの母さんと近い歳の女性の医師だった。そう軽いやり取りで2人は会話を済ませて、医師は車椅子の俺に近づいてそのまま何か魔力を込めて薄く光る自身の手を俺の怪我の部位に触れていく。
「うん………?」
そう声を漏らす女性、何だか表情が固くなったような。最後に俺の額に熱を測るように手を添えつつ何かを思案するように目を閉じながら。しばらくそうしてると目をぱちっと開いてから額から手を離して軽く一息。
そしてさらに難しい顔をした。なんだ?何か問題でもあるのだろうか?
「…………ユリカ、それに息子さんの慎司君……だっけ?ごめんなさい、貴方…魔法の治療を受けられない状態だわ」
「……?どういう……ことですか?」
それはおかしい、俺は一度過去に魔法での治療を受けている。聞いた話によればリンカーコアの有無も関係なく魔法の治療自体は受けれる事も聞いていた。そんな事あるのかと問うように母に視線を向けるが母さんも驚きの表情を浮かべている。
「……理由は分かるの?」
「推測だけど……」
母親の静かな問いに医者は頭を整理するように自身の額に指をトントンと叩きながら話す。
「慎司君、2年前に一度体から摘出していたリンカーコアを体内に再移植したのよね?そして例の闇の書事件の時の解決策に利用する為にそれを犠牲にした事は事前にユリカ……貴方のお母さんに聞いているわ。間違いない?」
「はい…」
頷く、しかしそれがどうしたというのだろうか?
「そして貴方はその事件までずっとリンカーコアとは無縁の生活を送っていて再移植した際に魔力の扱いを初めて行った……それも間違いないかしら?」
これも頷く。何だなんださっきから、勿体ぶらないで確信についてさっさと述べてくれ。
「……正直に答えてね?貴方、体内にリンカーコアを移植した時に失敗しないように初めて魔力を扱うのにいきなり無茶や頑張りすぎたりしなかった?」
その言葉に少しドキりとする。あれは……自分で言うのも何だがかなり無茶をしたと思う。そもそも俺のリンカーコアは特別で体内に取り込むだけでも毒になる代物。だからそれを扱う練習のためにリンカーコアを移植して時間がないため血反吐を吐きながら魔力コントロールの特訓。終われば摘出、特訓のために再移植……これを幾度となく繰り返した。
俺はその内容を正直に話す。それを聞いた医者は少し驚いたような表情を浮かべて首を振る。
「………何て無茶を……流石2人の息子だわ」
そうため息をつきながら。
「………恐らく理由はその無茶と無謀とも取れる体に負担をかけすぎた魔力慣れする為のトレーニングのせいね。今は貴方の体は魔力そのものに拒否反応を起こしてるわ」
「拒否反応?」
曰く、9歳になるまで体内魔力を一度も取り込んでなかった体にいきなり大量の魔力コントロールを行う特訓にあろうことか魔力を扱うリンカーコアの摘出と移植の短時間での繰り返し。魔力を知らなかった体がいきなりそんな負荷をかけられてびっくりしないわけなく体が魔力そのものを害あるものと定めて拒否反応を起こしていると言う。
魔力を体内に込めたら体が壊死するとかそんな症状が出るわけではないが治療の為の魔法も体が受け付けてくれず本来の効能を発揮しないと言う。
「それじゃあ……慎司は生涯魔法による治療は受けられないの?」
母さんの心配する声に医師は首を振る。
「それは大丈夫よ。慎司君が微量な……本当に微量なリンカーコアの欠片を体内残したままだったおかげでね」
なんだ、そんな事まで母さんから聞いてるのか。確かに、元々体内にあって両親から授けてもらったリンカーコアだから。体に害がない、機能が殆ど失った一欠片を体内に取り込んではいるけど。
「カケラといってもリンカーコアはそもそも魔力の結晶みたいなもの、それを体内にあるおかげで少しずつだけど体が魔力そのものに徐々に慣れていってるわ。といっても私の見立てだと完全に体が魔力を受け入れられるようになるまで数年はかかるわね」
「そう……ですか」
まぁ、一生魔力に拒否反応を起こす体と言われるよりは全然マシだろう。折角だからこの事故による怪我の治療は受けておきたかったのは本音だが。目が覚めたなのはちゃんに俺のために余計な心労を増やしたくなかったし、大会出て結果を出せば勇気づけられるかもって思っていたから。
仕方ない、あの時無茶した事に後悔はない。そのおかげでリィンフォースは今ここにいるのだから。だから、後悔はない。仕方ないんだ。
医師に礼を言って退出して再びなのはちゃんの病室に戻る。道中、母さんに「期待させたのにごめんね」と謝られたが俺は仕方ないよと答えるだけだった。
…………………………………。
その後フェイトちゃんともう一度合流して、事の経緯を話す。フェイトちゃんは残念がっていたがこればかりは仕方ない。一応治療を受けれない理由は八神家の皆んなに伏せて欲しいことを伝えて了承を得る。
気にする必要はないのに彼女らは優しいからきっと理由を知ったら罪悪感を覚えるだろうから。
そして、再びフェイトちゃんと共に病室に入室して眠るなのはちゃんの顔をずっと眺めてから俺は自分の病院に戻った。
……………なのはちゃんが目覚めたのは、それから3日後の事だった。
冒頭の相手のお姉さんの言い分ですが、柔道経験者目線だと時間切れの際にすぐに脱力した相手選手も良くなかったという意見があります。時間切れと同時に油断してポイントはなくても相手を投げてしまう事例は多々ある事なので本来そこでも気を抜いてはいけないと言う教えを基本的に受けると思います。
勿論、太郎君が全く悪くないと言うわけではありませんが競技中に起こった故意ではない事故ですから本来どちらも良い悪いはないと思うんです。
しかし、経験者のはずのお姉さんも大切な弟の重症で取り乱して冷静な判断が少し欠けてしまってる事と怪我をさせてしまった太郎君が客観的にそういう風に捉えられず間に受けてしまうことは双方理由があると作者は解釈してます。
疑問に思われる方もいると思ったので後書きにて少し作者の考えを書かせていただきました。要らぬ世話だとは思いますが、お目汚し失礼しました。
他に疑問点や質問が有れば是非感想欄にて、答えれる範囲でお答えします。閲覧ありがとうございました。、