なのはちゃんが目覚めた翌日。俺はそう親から伝え聞いただけでまだなのはちゃんに会いに行ってはいない。理由は2つ、目覚めた事で色々体の事をまた詳しく検査する為、病院に行ってもしばらくは会えないから。
もう一つは俺も一応絶対安静の身であるからだ。両親に頼めばバレないように転移で病院を抜け出せる。前回管理局の病院に行った方法もそれだ。そして、俺が眠ってるはずの病院には俺がゆっくりと眠ってるように見える簡易的な幻術魔法を母さんが組んでくれたのだ。
まぁ、そんな要因で未だなのはちゃんとは話せてないのだ。ソワソワする気持ちはあるがまぁ仕方ない。明日には面会できるそうなので両親に頼んで転移で向かう予定だ。そんな事を考えながらボーッとしていると扉からノックが。おや、先程来てくれた両親はもう帰ったが。とりあえずどうぞと入室を促す。
「お、何だみんな。全員で来てくれたのか」
入ってきたのは八神家の面々だった。病院内で獣形態は流石にまずいだろうからザフィーラも珍しく人形態である。
「……ごめんなぁ、お見舞い遅くなって」
そう口を開いたはやてちゃんの言葉はやはり元気がなかった。なのはちゃんが目覚める前に多分皆んなも一度なのはちゃんの顔を見に行ったのだろう。そして、どう言う状況かは聞いてる筈だ。
元気よく俺に声掛ける余裕がないほどショックな事だ。
「そんな事気にする必要ないよ、来てくれただけで凄い嬉しいからさ」
だから、とりあえずは普通にそう応対する事にした。わざわざ話題にする事もあるまい。
「フェイトちゃんから聞いたで………大会には間に合わへんって……」
「はははっ、そんな顔すんなって。確かに出れないのは残念だけどまだ来年にチャンスはあるし、もうそれは受け入れて切り替えてこれからどう早く復帰するか考えてるくらいだよ」
なのはちゃんの事で、大会の事を考えるのなんか二の次だからってのもあると思うけどな。
「それに、怪我をしたのは自業自得だしな。仕方ないさ」
「仕方ないなんて……そんな事ない。慎司君は事故から1人の命を救ったんよ?自業自得なんてウチは思わん」
「はは、まぁそれで俺が怪我しちゃ世話ないけどな……。でも、ありがとよ。そう言ってくれて」
はやてちゃんはなんて事ないと首振る。目元に泣いたような跡が見えた。……多分、なのはちゃんだけじゃなくて俺についても相当心配させたのだろう。皆んなからしてみればなのはちゃんの任務中の重症と俺が事故に巻き込まれたっていうショックな出来事が立て続けに起きたんだ。心労を重ねさせてしまったのは言うまでもない。
「果物買ってきたんよ、いっぱい食べる慎司君には病院のご飯だけじゃ物足りないやろうって思うて」
「マジか、それは助かるよ。ありがとう」
「これくらいええよ、今切り分けるからちょっと待っててな」
そう言ってわざわざ持ってきてくれたのか簡易まな板と果物ナイフを取り出してリンゴを切り分け始めるはやてちゃん。マジお母さんやん、バブバブしてしまう。
おっと思考がバグった冷静になれ俺。
「フェイトちゃんから聞いたわ、慎司君魔法の治療も受けられないって………」
シャマルの言葉に少しドキりとするも平静を装う。フェイトちゃんには理由は口止めをお願いしておいたが魔法の治療が受けられないのまでは隠せないからな、仕方ない。
「ああ、俺も専門じゃねぇからよくわかんねぇけど体質?の問題らしいぜ。でも、一時的らしいからたまたまそれが今回の怪我と重なっちまったってだけさ」
とりあえず尤もらしい事を適当に並べて誤魔化す。それを聞いて皆んな残念がる、やっぱり俺が大会に出られなくなった事を気にしてるみたいだ。本人の俺より残念がってる気がする。
「はい慎司君、リンゴ剥けたから食べてな」
「おおサンキュー、美味そうだな」
「近所の八百屋さんが持たせてくれたんよ、治ったら一緒にお礼しにいこか?」
「ああ、是非頼むよ」
リンゴ咀嚼しつつ俺は皆んなとなのはちゃんの話題を避けて談笑する。なるべく楽しい話題を話していた。そんな中、ずっと皆んなの後ろであんまり会話に参加してこないヴィータちゃんが気になっていた。
「どしたヴィータちゃん、元気ないじゃんか。一緒に話そうぜ」
「………お、おう」
そうぶきっちょに返事はしてくれるがやはりヴィータちゃんの会話は弾まない。そういえば……なのはちゃんが重症を負った時の任務にはヴィータちゃんも一緒だったんだっけか。
車に轢かれる前にフェイトちゃんからそう聞いたのを思い出した。そうか……当事者なんだよな…。ヴィータちゃんも別の意味で今、心に傷を負っているのか。
「そういや、親がおやつにってアイス置いておいてくれたんだよ。ヴィータちゃん食うか?」
「……いらない」
「えぇ、遠慮しないで食えよ。アイス食わないと夜しか眠れないって言ってたじゃんか」
「そんな事一言も言ってねぇし正常じゃねぇか」
たくっ……と軽く息を吐いてからヴィータちゃんはベッドから離れて扉の方へ歩き出す。
「うん?どしたんヴィータ?」
「ちょっと……トイレ」
そう言ってトイレとは逆方向に歩いて出て行ったヴィータちゃん。ちょっとお節介が過ぎたか……。今はそっとしておこう。皆んなも何も言わなかったが同じように考えていたと思う。
「じゃあ、ウチらはもう行くな。慎司君もちゃんと安静にしてないといかんよ?」
「ああ、分かってるよ。来てくれてありがとな皆んな」
あれから少しばかり談笑してヴィータちゃんも顔は優れないままだったものの戻ってきた。それからまた少し談笑してからはやてちゃんは名残惜しそうにそう言って立ち上がる。皆んなからお別れの言葉を貰って見送る。はやてちゃんが出て行く直前
「………余計なお節介やと思うけど、慎司君も今は自分の事を優先してな……」
それはどういった意味で言ってきたのかはわざわざ聞くまでもない。俺は、何も言わず軽く会釈をするだけだった。
「リィンフォース?」
皆んなが続々と出て行くなかリィンフォースだけここから動こうとしない。……何か話でもあるのだろうか。
「ごめんな慎司君、ウチらは先に帰ってるけどリィンフォースの相手してあげてくれへん?リィンフォースも慎司君にあんまり迷惑かけんようにね?」
「……はい、我が主」
はやてちゃん達はその言葉を最後に病室を後にした。残されたのは患者の俺とリィンフォースだけだった。
「どうしたんだ?まだなんか話し足りないのか?」
一応さっきまで普通に談笑に加わっていたようには見えたんだが。感情をあんまり顔に出すタイプじゃないからな。何か思うところがある事を見抜けなかったのかも。
まぁ、思う事があるのはきっと皆んな同じか。
「…………慎司は、きっと私に気を遣って隠したのだと思う。すまない、その気遣いを無碍にしてしまう」
的を得ないその言い方だけでリィンフォースが言わんとしている事が分かった。
「慎司が魔法の治療を受けれないのは……私や主人の為に体を酷使したからなのだろう?」
「………誰かから聞いたのか?」
「少し考えればわかる事だ。それに私は一度……慎司を私に取り込んだ。その時に慎司がどれだけ私達の為に頑張ってくれていたか、記憶を読み取ってしまったから……それを知っていたからすぐにその原因に結びついた」
俺に幸せな夢を見せる為に俺の記憶からあの前世の夢の世界を作ったのだ。俺の記憶という名の過去の出来事を知っているのは道理か。
「………すまない、私は慎司から大切な夢を奪ってしまった。慎司の前世からの夢である大切な想いを……そのチャンスを逃させてしまった」
「そんな風に謝って欲しくて俺はお前を救う為に頑張ったんじゃねぇんだぞ」
「分かっている、私が今している行いは慎司の行動を否定している事だ。それは私にも理解できる、頭を下げるのは私達を助ける為に覚悟を決めてくれた慎司に失礼だと、だから謝るべきではないと………しかし、言わずにはいられなかった。私は……貴方の過去を知っているから……どうしても言わずにはいられなかった」
そう悲痛に言葉を並べるリィンフォースは泣きそうな顔を浮かべていた。彼女はこの世界において唯一俺の前世の事を知っている。山宮太郎の人生を知っている、山宮太郎の散り際を知っている、山宮太郎の叶わなかった夢を知っている、山宮太郎の消えない後悔を知っている。
だから彼女は俺の事になると色々と過剰に反応する所がある。言葉にしなくても分かっていた。全国大会の出場を報告した時も彼女はうきうきしていた。いつもそんな感じでふざけた事をしている時はあるけどあの日はリィンフォースも本当に嬉しそうだった。
俺が叶えられなかった夢を知っていたから、柔道を辞めて叶うことのなかった全国で勝つという夢。インターハイではなく小学生の大会だけど、それでも全国大会に代わりはない。だからリィンフォースは今とても苦しんでいるんだ、自分のせいで魔法の治療を受けれず大会を諦める選択肢を取らせてしまったと。
「リィンフォース、お前は優しいから何言っても自分を責めると思う。だから嘘は言わないでおくよ、正直に言えば今回大会に出られなくなったのは凄く悔しいし残念だと思ってる」
「…………」
「けど後悔はない、俺は皆んなを助ける為に無理をして今、魔法の治療を受けれない状態になってしまった事、子供を庇ってそもそも怪我しちまった事も後悔はない。…………結果的に救えたからだ」
単純な話だ、行動を起こさず一生後悔するよりは全然マシなのだ。確かに残念だ、もっと上手く出来なかったのかと思う所はある。しかしそれだけだ、後悔なんかしてない。
「それに俺は諦めちゃいねぇよ。まだ来年もある、さっさと復帰して体を戻してもっともっと実力をつける。中学や高校だって柔道は出来る、夢を掴むチャンスはまだあるんだ」
「…………慎司は強いな」
「そんな事ないよ、能天気なだけさ」
そう左肩だけをすくめて言って見せた。
「それに今は俺の事なんか気にしてる場合じゃないだろ?……なのはちゃんの事もある」
あえて、ずっと避けていた話題を今引っ張り出す。なのはの名前を聞いた瞬間リィンフォースは悲しそうに目を伏せた。
「……マジな話、今は俺よりなのはちゃんだよ。俺が完治した頃もなのはちゃんはまだ病院のベッドの上……それくらいヤバい怪我なのは素人でも分かる。だからリィンフォースもなのはちゃんを俺達と一緒に支えてやってくれよ、俺もさっさと治してなのはちゃんを元気付ける為に今度は頑張りたいからさ」
俺の言葉にリィンフォースは思う事があるような表情をしつつも頷いてくれる。気を紛らわすように少しばかり談笑してからリィンフォースは帰っていった…………。
「くそがっ」
1人、満足に動かせる左腕でベッドに拳を振り下ろす。俺は強くなんかないよリィンフォース、いつまで経っても過去の事を引き摺ってる臆病者。口ではああ言っても1人になれば悔しさが込み上げてきて悪態をつく。
そんな自分が心底情けなく思えた。
………………………。
翌日、病院の味気ない朝食を済ませて痛み止めを飲み終わりゆっくり横にならながら今日の事を考える。午後、昼食を済ませてから母さんに連れられてなのはちゃんのお見舞いに行く予定だ。ようやく許可が降りたので会いに行ける。なのはちゃんにはびっくりさせて傷に触らないように既になのはちゃんのお母さんである桃子さんに俺の事故の事をそれとなく伝えてもらってるはずだ。
治ってから会いに行く事も考えはしたがやはり居ても立っても居られない。なのはちゃんが今回自分の身に起きた事をどう受け止めてるのか分からない以上、今なのはちゃんに掛ける言葉を考えたところで意味はないがどうしても考え込んでしまう。
そわそわしているせいか妙に時間が経つのが遅く感じる。テレビでも気を紛らわすか……とリモコンに手を伸ばそうとした時、扉がノックされる。誰だろうか?昼まで看護師さんは来ないし母さんもなのはちゃんの元へ向かうまでは来れないと言っていたが。とりあえず入室を促す。
「失礼しまーす」
「お邪魔するわよ」
入ってきたのはすずかちゃんとアリサちゃん。あれ?学校は……って今日は祝日か。学校休みなんだな、わざわざ来てくれたのか。やっぱり、クラスの皆んなにはもう俺が事故に巻き込まれた事は知られてるよな。学校には両親が報告してるだろうし。
「よっ、わざわざ来てくれたんだな」
俺の言葉に2人は揃って当然だと答える。
「学校で慎司君が車に轢かれたって先生に聞いた時はびっくりしたよ」
「でも、思ったより元気そうでよかったわ。……試合に出れなくなっちゃったのは残念だけど……」
とりあえず2人を座らせて事の経緯を話す。事故の事と怪我の具合と試合には間に合わない事。2人からは俺がいない間の学校の事を聞く。といっても俺がいない学校はいつもより静かだとアリサちゃんからお決まりの言葉を貰ったのだが。
「あ、これ預かってたんだ。クラスの皆んなから」
すずかちゃんに手渡されたのはクラスの皆んなからの寄せ書き。男子連中の熱苦しいメッセージと女子達のデコレーションされた文字に彩られたそれは見ていてつい笑みをこぼす。
全く、ありがちな贈り物だけどなんでぇ、嬉しいもんだ。
「ありがとう2人とも、クラスの皆んなにもお礼言っといてくれ」
俺の言葉に2人は満足そうにする。アリサちゃんからは俺が休んでる間の授業のノートを俺用に別に取っといてくれた物を貰う。なんだかんだ面倒見の良いアリサちゃんに感謝しつつ空いてる時間にノートくらい写しておくかと心中に思う。せっかくアリサちゃんが用意してくれたのだ、ちゃんと使わせてもらう。
「慎司、ちょっと聞きたい事があるんだけど……」
「ん?」
談笑しつつ2人に見舞品で貰ったゼリーを頂いてると少し聞き辛そうにアリサちゃんがそう口にする。そんなアリサちゃんを見かねてかすずかちゃんが続きの言葉を紡ぐ。
「……慎司君は、なのはちゃんの事は詳しく知ってる?」
何のことと惚けるのは憚れる。俺と同じくなのはちゃんも学校を休んでいるのだ。既に学校にも魔法の事は隠して伝わっているだろう。
「学校で先生は、事故で大怪我を負って海外の病院で入院してるって言ってたわ」
「………魔導師としての任務中の事って言うのは2人は知ってるのか?」
逆に俺が問う。2人は既にフェイトちゃんから任務中の出来事だと言う事は聞いているみたいだった。魔法の事を俺とフェイトちゃん以外でクラスメイトで魔法の存在を知っているのはこの2人だけだ。だからフェイトちゃんもその事は伝えたのだろう。
「けど、どれくらい酷い怪我なのかとか……そう言うのはフェイトちゃんも詳しくは分からないって……」
嘘だ、フェイトちゃんは知っている。しかし言えなかったんだろう。あまりにもショックが強い。それくらいの重症だ。だからフェイトちゃんはそう誤魔化したのだろうとすぐに分かる。
「………俺も詳しくは分からないけど、俺より酷い怪我って事は間違いないよ」
俺の言葉に2人はショックを隠しきれない。
2人は俺と同じ地球出身の一般人だ。また、俺みたいに両親が魔法の関係者だとかそう言う繋がりはないから俺のようにスムーズに管理局の病院には連れて行って貰えないだろうが遠くないうちにおそらくリンディさんあたりが許可を出してお見舞いに連れて行ってくれるだろう。けど怪我の具合の事はその情報だけで留めておいた。
今隠してもすぐに分かってしまう事だから隠したって仕方ない。けど俺の口からじゃとてもこの2人には伝えられない。もしかしたら以前のように魔導師として跳べるどころか歩く事すら困難になる可能性もあると言われてるなんて。
「だから、お見舞いにいけるようになったら励ましてあげてくれ。きっと喜んでくれる」
そう告げることしか俺には出来なかったんだ。
……………………………。
すずかちゃん、アリサちゃんと別れた後時間までゆっくりしてから俺は母さんに転移で連れられ管理局の病院に訪れる。ちゃんと母さんが幻影魔法で俺が病室で寝ているように見せるのも忘れない。
相変わらず車椅子での移動でなのはちゃんの病室まで母さんに押してもらう。目的の病室の階のベンチで見知った顔を見つけた。
「っ!慎司……」
「よう、クロノ」
クロノにユーノ。エイミィさんにリンディさんだ。そうか、4人もなのはちゃんの見舞いに来てたのか。様子を見るのに見舞いを終えて病院から去るつもりだったのだろう。
「これからお前の所に向かうつもりだったのだが……入れ違いにならなくてよかった」
「ははっ、心配させちまったみたいだな。ありがとよ」
笑顔を浮かべて見せる。後は他の皆んなと同じようなやり取りをする。怪我の具合と柔道の事。もう、気持ちを切り替えてる事も。クロノ達もやはり心配の言葉と安堵の言葉を投げかけてくれるが俺は礼を言いつつもそんな事よりとなのはちゃんの事を聞く。
「なのはちゃん……様子はどうだった?」
「やっぱり……ショックだったみたいで……」
「…………そうか」
ユーノの短い言葉で大体察する。そうだよな……元気なわけない。傷も痛むだろうし既に自分がこれからどうなるか分からない事も告げられてるはずだ……心の強いなのはちゃんでも彼女はまだ小学生なんだ…普通でいられるのは無理だ。
「今の慎司だって本当は励まされる側だけど……なのはの事……頼むよ」
「ああ、任せろ」
そう短く答えて皆んなと別れ病室に。ユーノのあの縋るような顔……きっと自分の無力さを感じたのだろう。医者じゃない限り誰だって病人の前じゃ皆無力だ。それは俺もユーノも変わらない、けどあんな顔をするって事はやっぱり………。なのはちゃんの容体について考える事はよそう……俺までどうにかなりそうだった。
病室の前まで行くと母さんは「ゆっくり話しなさい」と言い残してどこかへ歩いて行った。ここまでくれば片腕でも車椅子の移動は問題ない。ノックをする。返事はなのはちゃんの声では無くフェイトちゃんの声、成程…アリサちゃん達と一緒じゃないのかと思ったら朝からなのはちゃんの所にいたのかもしれない。
一度深呼吸してから扉を開けて車椅子を押して部屋に入る。状況は……数日前に来た時と変わってない。ベッドの周りには色々な医療器具がなのはちゃんの体に繋がれている。なのはちゃんはベッドに横になったまま、寝ているのだろうか?
「……しん……じ君?」
酷く弱々しい声だった。なのはちゃんの声だ。だけど本当になのはちゃんの声なのかと疑ってしまうほどそれは掠れていて弱々しく痛々しい。
「お、おう………なのはちゃんの大好きな慎司だ」
「…………」
冗談に反応する余裕もないみたいだ。フェイトちゃんが俺の側まで寄りなのはちゃんの顔が見えるようにベッドの真横に車椅子をつけてくれる。やっぱり体に巻かれた大量の包帯はそのままで顔に全く巻かれてなくちゃんと表情をみれるのが違和感を感じるくらいだ。
「……えへへ、慎司君…来てくれて……ありがとう」
いつもよりゆっくりとした口調でそう笑みを浮かべてなのはちゃんは言う。そんな姿に俺はきっと上手く笑って返せなかった。
「……具合は、どうなんだ?体は痛んだりしてないか?」
「うん……大丈夫だよ、痛み止めのお薬飲んでるから………平気」
逆に言えば痛み止めを飲まなきゃ体が痛むほど酷い状態なんだ。言いたい事、聞きたい事が沢山あった。けどいつものように自然と言葉は出ない。俺が話しかけるだけで容体が悪化してしまうんじゃないかって、そんな風に思ってしまう。
こんなに弱々しいなのはちゃんは初めてで俺もどうすればいいのか分からない。
「………」
「なのはちゃん?」
ふと、ゆっくりと……ゆっくりと、なのはちゃんが滑らせるように右腕を動かす。それは自分が寝てるベッドを離れ、車椅子に乗せられギブスが巻かれた俺の左足を優しく撫でるように動かす。数秒ほど俺の左足の上に手を乗せたままなのはちゃんは口を開いた。
「…………よかった」
「え?」
「事故に巻き込まれたって……聞いたから、心配してたんだ……。慎司君が試合に出られなくなっちゃったのは……すごく残念だけど……けど、生きててくれてよかった……よ」
「っ!……こんな時までっ」
そんなになってまで俺の心配してんじゃねぇよ!!
「俺の事は……いいんだよなのはちゃん。なのはちゃんこそ………いきていてくれて……よかった……っ!」
涙が、流れる。よかった何て事はなかった。生きててくれても、これからなのはちゃんが待ち受けるのは辛い現実。体は元に戻るのか、日常生活を問題なく歩めるようになるのか、そんな懸念がある重症。後遺症の心配もない怪我を負った俺なんか心配してる場合じゃないんだ。
ずっと心配で、これからなのはちゃんに元のような笑顔をさせなきゃってそんな風に考えてて。最悪の考えが夜に何度も浮かんで、それでも俺が泣いても仕方ないと堪えてきた涙が溢れてきた。
「くそっ……なんで……なんで、なのはちゃんなんだよっ。ちくしょうっ、くそっ……あんまりだろ……」
ただ頑張ってただけなのに。必死に頑張ってただけだったのに!それが間違ってたって言うのかよ。そんなの……ねぇよ。おかしいだろ……
「……泣かないで……慎司君……」
俺の怪我した足に上に乗せられた腕を持ち上げて俺の涙を拭おうとするなのはちゃん。そんな風に動かすのも多分体に良くないはずだ。
俺は涙を流しながらも優しくなのはちゃん手を両手で優しく包み込む。力を込めたら今にも壊れてしまいそうな、そんななのはちゃん腕を。
「大丈夫だ………俺は大丈夫……」
自分に言い聞かせるようにそう呟く。俺が……しっかりしなきゃだろうが。
「…………俺も大丈夫だし……なのはちゃんもきっと大丈夫だ」
無責任にそう言うことしか出来ない。それでも、マイナスな事を告げるよりは遥かに良いはずだ。とにかく今は白々しくても励ます言葉を送る、それがすべき事だと思ったんだ。
「………うんっ」
なのはちゃんは、柔らかく笑みを浮かべて頷いてくれた。
その後、なのはちゃんは眠ってしまった。しばらく眠っている様子をフェイトちゃんと2人で見守ってはいたが当分起きないだろうと思い一度フェイトちゃんに車椅子を押してもらいながら病院内の休憩スペースで一息つく。
「フェイトちゃん……」
「うん?」
「…………なのはちゃんは、何であんな事になっちまったんだ?」
任務中の怪我というは知っている。俺は魔導師ではないが魔導師という人達は時には命懸けで仕事をこなす事は分かっている。しかし、まだ管理局に入隊して2年目のなのはちゃんにそんな結果及ぶような任務をさせた管理局に怒りを覚えてしまう。その怒りは、きっと間違っていると分かっていても。
「………任務自体は危険が少ない偵察任務だったんだ。けど、偵察中に……不測の事態が起きた……」
フェイトちゃんは語る、任務自体はヴィータちゃんとなのはちゃん2人でも十分問題ない物と判断されていたらしいし実際にそうだった。しかし、その途中に襲撃を受けてしまったらしい。
「いつものなのはなら問題なく対処出来たんだと思う……けど」
「けど……なんだ?」
フェイトちゃんは少しだけ躊躇うように言い淀む。しかし、隠しても仕方ないと思ったのか意を決して言葉を紡ぐ。
「………なのはは、今までの無茶と疲労が祟って……その反動で動きが鈍って……それでっ」
それはなのはちゃんの主治医と一緒に診てくれたシャマルさんの原因としての診断結果でもあったという。魔法に出会うまでごく普通に友達と遊んで過ごしてきた女の子が突然魔法と出会い大きな闘いばかり繰り広げてきた。
ジュエルシード事件で体に負荷が掛かり自身の力不足を補う為トレーニングに勤しむなのはちゃん。それはジュエルシード事件が終わってからも変わらなかった。
闇の書事件はリンカーコアから直接魔力を蒐集されながらも完治後すぐに復帰。それだけじゃなく更に強くなる為、体に更に負担が掛かるデバイスに改良したのだと言う。それは魔法についてはからっきしの俺にはよく分からない物だったがとにかくそれで更に負担と疲労が増えた。
そして管理局に入局、魔導師として更に邁進しようとなのはちゃんはずっと……ずっと、頑張ってきた。
『私すごく頑張る、慎司君に負けないように』
そう言って笑うなのはちゃんの顔を思い出す。ああ、ああ…………
「そんなの………残酷すぎるだろ……くそがっ」
頑張り続けた結果がこれか?誰かを助ける為に必死になってやった結果が?そんなのふざけてる。ふざけてると思う……けど、現実だ。自分の体を顧みないで頑張り続けた残酷な現実なんだ。
柔道だってそうだ、魔法と変わらない。オーバーワークは強くなるどころか逆効果だ。子供でもわかる事だ。だから……なのはちゃんは間違えてしまったんだ。迷惑なんか考えず体を休めるべきだった。自分自身体に違和感は感じ続けていた筈だ。そして、なのはちゃんの意思を尊重しようなんて止める事を止めた俺も間違っていた………。本当に……残酷だ。
「……今はなのはが前を向いて上げれるように私達も頑張ろう?慎司も、早く怪我を治してなのはを支えてあげてよ。なのははきっと慎司がそうしてくれることが1番嬉しいと思うから……」
誰にも向けられない、怒りとも違う説明し難い感情を溜め込んだ俺にフェイトちゃんはそう言った。フェイトちゃんの顔は、曇ったままだった。
……………………………………。
フェイトちゃんはやはり朝からこの病院にいたみたいでこのまま今日は帰ると言う。なのはちゃんが怪我を負ってますフェイトちゃんの任務が無くなるわけじゃない。気をつけてくれと告げてフェイトちゃんを見送った。
母さんと一度合流しなきゃいけないなと思い特に集合場所を決めてた訳じゃなかったから一度なのはちゃんの病室に戻る。
一応ノックしてみたが返事はない。まだ寝てるのだろう、俺が出てからさほど時間は経っていない。扉を開けてベッドの側まで車椅子を移動させるとやはりなのはちゃんはまだ死んだように眠っている。
俺は先程と同じようにベッドの横についてなのはちゃんを見守る。
「うぅ………うぅ…」
ふと、なのはちゃんが少し苦しそうに呻きだした。……少し動揺してしまう、医者を呼んだ方がいいか?それとも寝苦しいだけなのか……
「………嫌……だよ」
「………っ」
寝言……か、何か悪い夢でも見ているのだろうか。励ましになればと左手でなのはちゃんの手を優しかったぎゅっと握る。けど、なのはちゃんは苦しそうにする顔に変化はない。
「……私…まだ……飛びたいよ……」
「…っ!……なのはちゃんっ」
くそっ……くそっ。どこかでなのはちゃんならきっと前を向いてくれると思っていた。強いなのはちゃんならと……けど、それは俺が勝手に抱いたことで……なのはちゃんは今不安で不安で一杯なんだって思い知らされる。
「………ちくっ……しょうっ」
何もできない、してやれない自分自身に心底腹がたった。
サマーポケッツやってます。流石Key作品、涙が止まらねぇ。まだクリアしてないので執筆は少々遅れるかもです